ネコとしかけ絵本
子どもたちがうちにやってきた。そのうちの二人の子どもは積み木で遊んでいるのに、一人は絵本を読んでいる。
この絵本はさっき、ご主人様がこの子にプレゼントしたものだった。
ページをめくりながら、笑ったり、引っ張ったり、動かしたりしている。
ん? 絵本って読むものだよね。笑うことはあっても、引っ張ったり動かしたりしないはず。そもそも、この子、文字が読めるのかにゃ。
最後までページをめくると、また繰り返して最初のページから開いている。その繰り返しをずっとしている。
もしかして、絵本に見えるだけで、絵本じゃないのかもしれない。
ぼくは気になって子どもに近づいた。
「肉まんも見たい? じゃぁ見せてあげるよ」
一時間前。
「おめでとうー!」
とご主人様は言って、この子に渡していた。すぐに袋から開けて出してみると、この絵本だった。
あのときは、「おめでとう」と言っていたから、お誕生日だったのかと思っていた。
けど、お誕生日だったら、ご主人様はケーキを作ってくれるはずだし、ほかの子どもたちだって、お祝いするはず。だけど、そんな感じはしなかった。もしかして、お祝いは済ませちゃったのかなぁ。
あのときはわからないままだったけど、見せてくれるみたいだから見ることにした。
「ここを引っ張ると、イスが動くんだよ」
子どもは、ページ下の紙のひもを引っ張った。
すると、イスがサササーッと動いた。
「おもしろいにゃ~」
イスが動き、見開いた右ページの人が左のページの人に、
「どうぞ」
とイスをゆずっているように見えた。
「ぼくは幼稚園に行くことになったの。それで、みんなと仲良くなれるようにって、このしかけ絵本をくれたんだよ」
へ~え~。そうゆうことだったんだ。幼稚園に行けるくらい大きくなったから、おめでとうだったんだにゃん。
積み木で遊んでいる子どもたちはすでに幼稚園に通っているけど、この子はまだだった。
ぼくは幼稚園に行ったことはないけれど、同じくらいの年の子たちと遊んだり、歌ったり、どこかにお出かけしたりする所らしい。
この絵本は他にもいろいろなしかけがあった。じょうろを引っ張るとお水が出て、お花に水がかかったり、帰りぎわ、手を引っ張ると、バイバイしているみたいに手が動いた。
「にゃ~。おもしろいにゃ~」
きっと、この子もかしこくなったにゃん。
ぼくはすっかり、この絵本が気に入ってしまった。
「実はね、もう一冊もらったんだよ。コレもしかけ絵本なのだけど、ちょっと違う絵本なんだ」
ページを開くと、顔が白くて、目と口が大きくてかわいいキャラクターがニコニコしている。
「肉まん、よく見ていてね」
ちょっと違う絵本ってなんだろう。絵が飛び出すのかなぁ。それとも絵が浮き上がったようになるのかな。それともひっぱるとピョーンと伸びるやつ?
子どもは、ページのはしっこから伸びている白いひもをひっぱった。すると……。
「おばけだよー」
そこにはさっきの顔が一転。大きな目はにらみつけた目になり、大きな口の周りに赤い血まみれになっている。いかにも、ぼくのことを食べちゃいますと言う顔をしている。
すごく怖い顔になった。
「にゃー」
ぼくは大声を出して部屋のすみに逃げ出した。
「これはおばけのしかけ絵本なの。怖かった?」
ほかの子どもたちはぼくを見て笑った。
白いひもを戻すとおばけは元のニコニコした顔に戻った。
「やっぱり、きみは驚いたね。そうなると思ったよ」
ご主人様はそう言った。
ご主人様までー。ひどい!! またぼくは子どもたちにしてやられた。
そういえば、お魚図鑑を見せられたときも似たようなことがあった。あのときも驚かされた。
こっちへおいで。またほかのページも見せてあげるよ。子どもたちはニヤニヤしている。
「ほら、見て。かわいい女の子だよ~」
子どもはページをめくり、ぼくに向けて見せた。確かに、女の子がいるページだった。もっと近くで見ようと近づいていくと、あることに気がついた。
ページのはしっこには、ひもがついている。怪しい! どうせ、また怖いおばけの顔になるんでしょ!! ぼくはプイっと顔をそむけた。
ぼくのご機嫌が悪そうなことに気づいた子どもたちは、
「大丈夫。かわいい女の子だよ。こっちへおいで」
と手招きしている。
「えー。やだー。また怖いおばけになっちゃうんでしょ?」
と心の中で思った。
「近くで見たくないの? かわいい女の子なのに。この白いひもをひっぱるともっとかわいくなるんだよ」
そう言われると、見たい。けど限りなくあやしいにゃん!!
「さっきは、さっき。次は次だよ」
にゃ~。そこまで言われると……。
ぼくは、気になってしまい、近づくと、子どもたちが白いひもをひっぱった。
すると、
「これは女の子じゃなくて、怖いおばけでした~」
女の子の顔は一転。目はキツネのように細くなり、口から舌をニョロニョロと出してきた。
「にゃ~」
ぼくは一目散に逃げ出した。
その姿を見ている子どもたちは笑っている。
もう。怖いしかけ絵本はこりごりにゃ~。
けど、しかけ絵本って色々あることがわかったにゃん。
だから今度は、別のしかけ絵本が見たいにゃん。
そのためには……。
「ご主人様~。ぼくにも、しかけ絵本、欲しい~。怖くないのを!」
ご主人様の元へかけより、足元をスリスリした。
《終わり》




