ネコとストーブ
ウッツラ。ウッツラ。
「きみー。ストーブの前で寝ていたらヒゲがこげちゃうよ!」
ご主人様は言った。
大丈夫だよ。ぼくはそんなドジじゃないにゃん。
今まで、一度だってこげたことはないし、そもそもここはぼくの定位置だし。
「スピピ~。スピピ~」
ぼくはまた眠った。
しばらくすると、
「えっ。なになに?」
ぼくは突然、強い力で押し出された。
目を覚ますと、子どもが近くにいた。
「肉まんはもうあたたまったでしょ? 別の場所に行ってよ」
「ピト」
「ピト」
「ピト」
子どもたちの手がぼくの身体を触った。
「冷たいにゃん!」
思わず声を上げた。子どもたちの手、冷たすぎ!
「もしかして……」
外を見ると、大雪だった。
そのせいか、子どもたちの顔は真っ赤だった。
仕方ない。特別にゆずるにゃん。
ぼくは、隣の部屋に行って、ご主人様のひざかけであたたまることにした。
しばらくすると、
「うぅ~。寒い」
この部屋自体が寒いから、ご主人様のひざかけだけでは寒かった。
リビングに戻ると、子どもたちはあたたまったらしく、積み木遊びをしている。
もう、ストーブの前にはいない。
それなら今がチャンス!
ぼくはストーブの前に行き、
「スピピ~。スピピ~」
ぼくはストーブの前で眠った。
しばらくたったころ、気配を感じ、目が覚めると、目の前には子どもたちがいた。
「肉まん、大丈夫?」
「熱くないの?」
「ストーブから離れた方がいいよ。危ないから」
えっ。子どもたちがぼくを心配している。
ぼくに何かあったの?
身体にブツブツができちゃったとか?
いやいや、そう言って油断させて、ぼくにイタズラする気では?
だって、いつもそれでやられっぱなしだもん。
けど、そうではなく、またストーブに当たりたいから、ぼくにこの場所を
ゆずって欲しいと言いたいのかにゃ?
ぼくが分からないでいると、
子どもの一人が鏡を持ってきてくれた。
それを見ると……。
「なにコレ!」
ぼくのヒゲがくるんくるんになっていて、先っぽがまるまっていた。
ご主人様がやってきてこう言った。
「ヒゲがこげちゃったんだね。それに気づかず寝ているなんて……。
このまま眠っていたら、シッポとかお腹とか他の所もこがしちゃった
かもしれないよ。子どもたちがいてくれてよかったね」
確かにそうかもしれない。このときばかりは、子どもに感謝した。
けど、これってどうなるの? もしかして、ずっとくるんくるんのまんま?
ぼくはあせって、ご主人様の顔を見た。
すると、
「大丈夫。しばらくすると元通りになるよ」
ホッ。ぼくは安心した。
「ストーブの前を占領するとこうなるんだよ。分かった?」
ご主人様に釘を刺されてしまった。
しばらくすると、子どもたちがぼくの前に集まってきて。
「ねえ、肉まん。きみのヒゲを直してあげるよ」
そう言うと、ぼくのヒゲを引っ張った。
「痛いにゃん!」
ひっぱったら直ると思ったらしく、子どもたちはそれぞれ、
ぼくのヒゲを引っ張った。
「やめてにゃ~。ヒゲが伸びるどころか、これ以上ひっぱったら、抜けちゃうにゃ~」
ぼくは鳴いた。
すると、ご主人様がやってきて、子どもたちにやめるように言った。
まったく、油断もすきもないにゃん。
数時間後、子どもたちは帰り、ぼくは定位置であるストーブの前に座った。
「今度は気をつければ大丈夫にゃ~」
そう思い、ぼくは、
「スピピ~。スピピ~」
ストーブの前で眠った。
しばらくすると、
「熱いにゃん!」
ぼくは目を覚ました。
もしかして……。
おそるおそるカーペットに子どもたちが置いて行った鏡で自分の顔を見ると、
「さっきよりも、くるんくるんが大きくなっているにゃん!」
ぼくの声に気づいたご主人様がやってきてぼくを見た。
怒られるかも……。と思いきや、
「ふふふっ」
ご主人様に笑われた。
ぼくって、そんなにおかしい顔になっちゃった? 確かに、鏡で自分の顔を
見たときは、ヒゲのくるんくるんは気になったけど、そこまで変な顔じゃないにゃん。
「きょうから、きみの名前はくるんくるんだね。かわいいじゃないその名前。くるんくるん♪」
「やだ~。その名前~。今度からストーブの前にいるときは
眠らないから、その名前はやめてにゃ~。女の子みたいだし、言いづらい名前でしょ? ぼくの名前、ちゃんと呼んでもらえないかもしれないにゃ~」
ストーブの前にいることはやめたくないけど、その名前はやめて欲しい。
きっと、これはご主人様なりの忠告にゃん。
「だから言ったでしょ。ストーブの前にいたら眠くなっちゃって、ヒゲをこがすにきまっているじゃない」
って。
「あ~。早く直らないかなぁ~。ぼくのヒゲ~」
鏡には、くるんくるんのヒゲのぼくの姿が映っている。
これこそ、自業自得だにゃん。
早く元に戻らないかにゃ~。
「は~」
ぼくは深いため息をついた。
≪終わり≫




