ネコとトマト(後編)
ご主人様の口も服にもあちこち赤く染まっていて、倒れていた。
「ピチャン。ピチャン」
と赤いものが落ちてきて、テーブルの上にもご主人様の血があるのかも?
という状況。
しかも、肉まんが呼びかけても起きてはくれない。
これはご主人様に何かあったに違いないと思いましたが、
あることに気づきます。
「血にしては赤すぎないかにゃ? そもそもこの赤いシミは本当に血? しかも、テーブルの上から血が落ちてくるっておかしい気がする。ジロジロとご主人様を見たけれど、テーブルにぶつかったとしたら、ケガをしているはずなのに、ケガなんてしていないにゃん」
ぼくはにおいをかいでみた。
「ん~?」
この赤いシミが何なのか分かった。
「これは血ではなく、トマトにゃん!」
ぼくはホッとした。
「なーんだー」
きっとご主人様は、お腹がいっぱいになって、眠くなっていたのだと思う。
トマトジュースを飲んでいるときが眠気のピークだったみたい。
トマトジュースを飲んでいて、グラスをテーブルの上に置こうとしたら、手元が狂って、トマトジュースをこぼしたっぽい。
で、そのままスピピ。
「ピョーン」
とテーブルの上に乗ったら、グラスが横になっていて、トマトジュースがこぼれていた。これがテーブルから落ちてくる正体だったみたい。カーペットが赤く染まっているのもそう。
と言うことは、ご主人様の口についていたのもトマトジュース。
ご主人様の服にあちこち赤く染まっているのは、食べているときにトマトソースを飛ばしたときのものっぽい。
きっとご主人様は、拭く気力よりも、眠気には勝てなかったみたい。
「ピンポーン」
また玄関チャイムの音が鳴った。
音で目が覚めたご主人様はよろよろと起きて、玄関に向かって行った。
それにしても、ご主人様には何もなくてよかった。
ご主人様のあの姿で人に会ったらビックリするかも。あんなにしつこく玄関チャイムを鳴らすなんて訪問販売の人だろうから別にいいや。ぼくに関係ないしね。
「それよりも……」
ぼくはトマトジュースがこぼれているテーブルの上を見た。
「トマトジュースを飲んでみたいにゃ~」
「シュル」
ぼくは、こぼれたトマトジュースを舐めた。
「おいしいにゃん」
おいしくてしばらく舐めていたら、ご主人様の足音が聞こえてきた。こっちへ戻ってくるっぽい。
断るのがニガテなご主人様は毎回、訪問販売の人に捕まっている。
長話を聞かなきゃいけなくなるのだけど、今日のご主人様の姿を見たら、
あわててドアを閉めたのかもしれない。
主人様が戻ってくるからぼくは舐めるのをやめた。舐めていたら怒られそうだし。
リビングに戻ってきたご主人様はぼくと目があった。ぼくは何ごともなかったような顔をしていた。それなのに、ご主人様は、
「トマトジュース舐めたでしょー!」
と言ってきた。
「え! どうして分かったのかにゃ?」
ぼくは不思議に思った。
もしかして、玄関に行くフリをしてぼくのことをこっそり見ていたの?
それとも、ぼくは何ごともなかった様な顔をしていたのに、実は「舐めました」と顔に出ていたのかも?
いやいや。自分がいないときにトマトジュースを舐めていそうだと思ったからそう言ったのかも?
すると、ご主人様は、ティッシュでぼくの口元を拭いた。ティッシュにはトマトジュースがついていた。
どうやら、口の周りにトマトジュースがついていたからトマトジュースを舐めたことがバレていたみたい。
もしかして、これまでに何度もつまみ食いをしてバレていたのはこのせい?
こっそりやったつもりなのに、なぜだか分らないけどバレていた。
「これからは、つまみ食いや食べ物を舐めたときには口の周りを気にするにゃん」
とぼくは心に誓った。
《終わり》




