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ネコとエクササイズ

 ご主人様といっしょにお昼ご飯を食べ、お腹がふくれてウトウトしていると……。


「ピンポーン」


玄関チャイムが鳴った。


「んにゃ~、誰か来たっぽいにゃ~」


ご主人様もぼくと同じくウトウトしていたけど、

目が覚めたらしく、玄関に向かって歩いて行った。


どうやら、宅配便のお兄さんがきたらしく、

リビングに戻ってきたご主人様の右手には小包を持っていた。


ぼくは小包の中身が気になりご主人様のそばに駆け寄った。


「バリバリバリバリ」


とご主人様は小包を開けると中にはDVDらしきものが入っていた。


「何のDVDかにゃ?」


DVDのパッケージにはTシャツを着た細い女の人がお腹を出していた。まるで、スポーツジムの広告に載っているお姉さんみたいに。

ご主人様は、DVDをテーブルの上に置くと、部屋を出て行ってしまった。


最初はトイレに行ったのかと思ったけど、なかなか帰って来ないから

自分のお部屋に入ってしまったっぽい。


「あれ~。何しに行ったのだろう? 見ないのかにゃ??」


そんなことを思っていたら、五分後、

ご主人様はTシャツにスエットパンツを履いて戻ってきた。


さっき、テーブルの上に置いたDVDを手に取り、

DVDデッキにセットすると、テレビの前に立って腕を回し始めた。

「いったい何をする気なのかにゃ?」


DVDが始まると、女の人がニコニコしながら腰を振りだして踊り出した。

「あ、あの人、DVDのパッケージに映っていた人に似ているにゃん」


ぼくは、DVDのパッケージをチラリと見る。やっぱり同じ人だった。  

ご主人様も、同じように腰を動かし始めた。けど、ご主人様の動きはぎこちない。

身体が硬いのか、踊れていなくて、見ていてちょっとおかしい。


「ロボットみたいにゃん」


その姿を見ていると、おかしくて思わず笑ってしまう。

どうやら、このDVDを見ながらエクササイズをしているらしい。

しばらくご主人様はマネしながら身体を動かしている。

ご主人様の顔はドンドンと赤くなり汗をかきだした。

DVDのパッケージには「五日間でラクラクダイエット。 エクササイズDVD」と書いてある


そう言えば、ご主人様は年末年始食べ過ぎて


「太った、太った」

 

と騒いでいた。でも、食べ過ぎは今に始まったことではない。

この前なんか体重計に乗って、


「これは違う。体重計が壊れている!」


と体重計のせいにしていた。それ以来、体重計に乗っているのを見たことがない。体重計の数字を見るのが怖いのかも。現実を受け入れるのが……。

 

痩せたいけど、スポーツジムに通うことはめんどくさい。食いしん坊のご主人様は、食事を減らすこともしない。

 だから、ご主人様がどんどん太っていくのは当たり前。

 ぼくはご主人様をどうすることはできないけど、気にはなっていた。

それくらい、ぼくの目から見ても、明らかにご主人様は太った。

それも、

「”ちょっと”じゃなくて”結構”だにゃん」


と思っていた。太っているぼくが言える立場じゃないけどね。

 そこであのエクササイズDVDを買ったみたい。


そんなことを考えていたら、


「バタッ!」


と何かが倒れる音がした!


音がする方向を見るとご主人様が倒れている! ぼくは慌ててご主人様に駆け寄った!


「ご主人様~!」


ご主人様は激しく息切れをしている。

心配になりご主人様の顔を覗き込んでみると……。


「ゼーゼー」


ただ息切れをしているだけだった。


どうやら、日ごろの運動不足がたたってエクササイズDVDについていけず、

途中で息切れをして、その場に座り込んだだけだったらしい。


「もうご主人様ったら~」


 この日はたった七~八分くらいでエクササイズを断念した。


次の日。

ご主人様はDVDをセットし、再生ボタンを押した。

今日もがんばって踊るらしい。


「今日は、ぼくもいっしょにやるにゃん! スリムになってみんなをあっと言わせるにゃん」


ぼくはご主人様のようにマネして踊り始めると、


「にゃー。手と足がうまく動かせないにゃん!」


そして、


「ステン」


と倒れてしまった。


立ち上がってもう一度始めると、やっぱり手と足がうまく動かせなくて、


「にゃ~」


また倒れてしまった。


「ぼくには人間のマネをするのは不可能にゃん。こうなったら、ぎこちないロボットのような動きをしているご主人様を応援するにゃ~」


ぼくは寝っころがりながら、ご主人様を見ている。やっぱりおかしいにゃ。

ぎこちない動きが面白い。


「にゃにゃ。面白すぎるにゃ~!!」


と笑っていたら、


「にゃ?」


ご主人様の動きが急に止まり、ぼくの方へ倒れこんできた!


「にゃー!」


ご主人様は後ろにぼくがいることに気づかなかった。


「ズドン」


 ぼくはご主人様の下敷きになってしまった。


「痛いにゃ~!!」


ぼくの上に倒れてしまったことに気がついたご主人様は、

あわてて自分の身体を起こしたけど、すでに遅し。


「骨が折れると思ったくらい痛かったにゃ……」


ご主人様はぼくに謝りながら、必死に背中をなででくれた。

そのせいか、痛みはだいぶ治まった。

この悲劇は、ひょっとして、ぼくがご主人様を笑っていたからからだったりして。

神様がその様子を見ていて罰を与えたのかも……。

必死にがんばっている人を笑っちゃいけないよね。

そんな失礼なことをしたら、神様だって怒るかもしれない。


 ご主人様しばらく休んで、再びDVDの再生ボタンを押した。


「ご主人様ががんばっているのだから応援しなきゃ!」


と思いご主人様を見ると相変わらずのぎこちない動き。これを見て笑いをこらえるなんて無理にゃん。


「ぷぷぷっ……」


 ぼくはまた笑ってしまった。

すると、ぼくの視界が突然暗くなってきた。


「ん?」


 すると、ご主人様がぼくに倒れ掛かってきた。


「痛いにゃ~!!」


 再びご主人様の下敷きに。

もう笑わないから許してにゃ~。


あっ。思い出した。

ご主人様は、テレビで放送していた『にゃんにゃんダンス』を踊っていたときも、すごく下手だった。足がもつれてぼくにぶつかるし、何度踊ってもちっとも上手くならなくてやらなくなっていた。


そんなご主人様だから、エクササイズが上手なわけがない。運動はニガテみたい。


「これからは、エクササイズやダンスをしている最中は、ご主人様からは離れたところにいるにゃ~」


とぼくは心に誓った。



《終わり》


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