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ネコとひな人形

「う~。お外はまだ寒いにゃん」

 お日様が出ていたから外へ出たけど、とても寒かったから、おうちに入ろうとした。


 すると、

「肉まんっ」

 ぼくを呼ぶ声がする。


「んにゃ?」

  振り向くと、ミーコがいた。

ミーコは三軒隣に住んでいるネコ。

「私のおうちにひな人形が飾ってあるの。見に来ない?」


 と誘った。ミーコのおうちに来るように誘われることってあんまりないから少しビックリした。


「ひな人形って、きれいな着物を着ているお人形のことだよね?」

「そうよ」


 確か、ひな人形を飾って、はまぐりのお吸い物やお寿司などのお料理を楽しむお祭りだったはず。

女の子の健やかな成長を祈る行事でもあるらしい。

 ミーコのおうちではモモちゃんという女の子が生まれたから、飾っているのだと思う。ぼくのおうちは、女の子がいないし、片付けるのが面倒だから飾らないみたい。

おいしそうなひなあられとか、ひし形のお餅は気になるけど、ひな人形にはあまり興味がない。ステキなお人形っぽいみたいだけど、食べられるわけじゃないし……。

 けど、ミーコのお家はお金持ちだから、きっと立派なものが飾ってあるに違いない。だったら、一度くらいは見に行ってもいいかも。


「わかった。行くにゃん」

 

ぼくはミーコのおうちに向かった。

「おじゃましまーす」

 部屋に入ると、立派な七段飾りのひな人形が飾ってあった。


「うわ~。すごいにゃん」


一番上の段にある男のおひな様と女のおひな様が一番目立つけれど、

それ以外にも、お銚子を持っているおひな様や

長い帽子かぶって太鼓を持っているおひな様もステキだにゃん。


「私、一番上に飾ってある女の子の着物が着たいわ~」

 

ミーコは目をキラキラと輝かせて言った。


「え~。そう? 止めておきなよ。着るのは大変そうだし、重そうだよ」

 

ぼくなら着たくない。着物はステキだけど、重そう。

ただでさえ、太っていて身体が重いからいや。

 ミーコも一時期はお洋服を着ていたときがあった。

けど、しょっちゅうひっかけたり汚したりしていたから、ミーコのご主人様がお洋服を着せるのをやめたらしい。

 女の子ならキレイなものや豪華なものにあこがれるのだろうけど、

ミーコは落ち着きのないネコだから、着物なんかを着たらすぐに台無しにしそう。


「ふ~ん。そう言われたら重そうね~。じゃあ、あそこに座りたい!」

 

ミーコは一番てっぺんを見て言った。

「まさか、一番上の女のおひな様が飾ってある所のこと?」

「そう。見晴らしがよさそうだし、そこに座ったらお姫様気分が味わえそうだもん」


 ミーコはうっとりしながら言った。

「絶対にダメ! ミーコのご主人様に怒られちゃうよ! それに上まで登るのは大変だよ?」

「だから肉まんを呼んだのよ。手伝って!」

「そうゆうことだったの?」


ミーコが誘ってくるなんておかしいと思ったけど、やっぱり下心があったらしい。

「ぼくは手助けなんかしないよ。そもそもどうやって手助けなんてするの。

まさかぼくを踏み台にするつもり?」


ぼくは嫌な予感がした。

「段飾りの近くに寄って頭を下げて座っていてくれればいいわ」

「踏み台決定にゃ~。そんなの嫌にゃん。もし、登れたとしても、お人形を落としたら大変でしょ?」

 

段飾りには、ひな人形の他にも立派そうなタンスやお重箱、

ぼんぼりが飾ってあって、その隙間を通るのは難しそう。


「大丈夫よ。それに、私のじゃないし!」

「そうゆう問題じゃないにゃん。ダメなものはダメにゃ!」

 

ぼくは強い口調で言った。


「ケチね。分かったわ。私、一人で登るから!」


 ミーコは段飾りに近づいて行った。


「ダメだよ~」


 ぼくはミーコを必死で止めたけど、


「バシッ!」

「痛いにゃ~」

 

ぼくは思いっきり、叩かれてしまった。

ミーコは段飾りに登ろうと近づいている。


「どうしよう~。このままだとヤバイにゃ!」


オロオロしていたら、ふと、ぼくの後ろに気配を感じた。


「誰かいる?」


振り返って見ると、


「ミーコ!!」

 

振り向くと、すごい剣幕をしてミーコのご主人様が立っていた。


「騒ぎ声が聞こえたら何かと思ったら、何をしているの!!」

 

ミーコは声にビックリして足を止め、恐る恐る振り返った。


「あっ! ご主人様……」


 ミーコは急に固まってしまった。そして、さっとミーコを抱き上げると、


「まさか、肉まんちゃんまで巻き込もうとしていたの?」


ミーコをにらんでいる。

 いつもおっとりしているミーコのご主人様。

だけど、ミーコがワガママになったり、イタズラをするとものすごく怖い顔で怒る。

 そんなご主人様を見てミーコは、


「ごめんなさぃ~!!」

 

ミーコはにゃんにゃん鳴き出した。


「ミーコ、あっちの部屋に行くわよ!」


 ミーコを連れて別の部屋に行ってしまった。


「いやっ。降ろして!!」


ミーコの泣き声が聞こえてくる。

 ドアを閉める音が聞こえたけど、まだミーコの鳴き声は聞こえていた。


 きっと、閉じ込められているっぽい。

ダダをこねたらぼくのご主人様だって怖いから気をつけないと……。

あんな風には、なりたくない。


「お邪魔しましたぁ……」

 

ぼくはミーコのお家をそっと抜け出し、自分のおうちへ帰った。



《終わり》


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