ネコの爪とぎ(後編)
「これはもしかして……」
何となくだけど見覚えのある形だった。
ぼくはご主人様を見た。
なになに。
「きみのために爪とぎを買って来ました。きみが眠っているときに爪を切るのはいけないことだし、痛い思いまでさせてしまって反省をしています。ですが、以前、きみのために爪とぎを買ってあげたこと忘れていませんか?」
「あっ……」
ぼくは思い出した。ぼくが色々な所で爪をとぐから、ご主人様が爪とぎを買ってきてくれたんだった。
でも、テーブルの脚でとぐのが気に入っていたから使わなくなっちゃったんだよね。
今では、ぼくのおもちゃ置き場にある。
なになに。
「前に、爪とぎを買ったときは何回も、きみの手をとって、『ここで、こうするんだよ』と、手を動かしてあげながらいっしょに練習しましたよね?」
と言った。
うん。覚えている。いっしょに練習をしたから、それが爪とぎという道具で、どうやって爪をとぐのかも習った。
「だけど、テーブルの脚の方で爪をとぐのが好きなんだもん! だって~。買ってもらった爪とぎはきらいではないけれど、テーブルの脚の方に比べたらね……」
そのくらいぼくは、テーブルの脚で爪をとぐことが気に入っていた。
ご主人様は強い口調でこう言った。
「見なさい。のテーブルの脚を! ボロボロでしょ。そのせいで、テーブルが倒れたらどうするの。これ以上、ここで爪はとがせません!!」
ご主人様はものすごく怒っている。確かに、テーブルの脚はぼくが爪をといだあとがいっぱいで、ボロボロだった。
「え~。やだ~」
ぼくは鳴いて猛反対した!
続けてご主人様はこう言った。
「きみはいやがると思ったから、このテーブルの脚と似たような素材を選んできました」
ぼくは新しい爪とぎを見た。テーブルの脚と同じで、木で作られているような感じだった。前の爪とぎは、ダンボールみたいなやつだったから素材が違うみたい。
「バリバリバリバリ~」
ぼくは試しに爪をといでみた。
「おぉ~。これはいいにゃん。ありがとう。ご主人様~」
ぼくは気に入った。
なになに。
「これでもう、テーブルの脚で爪とぎはしないでね」
ご主人様はぼくにそう言った。
「うん。分ったにゃん」
ぼくはご主人様の前でかわいらしく鳴いた。
その日の夜。
「スピピ~。スピピ~」
と寝ていたけれど、ぼくはムクっと起きた。
やっぱり、テーブルの脚で爪とぎがしたい。
「これで最後にするにゃん」
と心に決めてリビングに行こうとした。
ご主人様に見つからないようにこっそりやらないと……。
ぼくはご主人様をチラっと見た。
「ス~。ス~」
と寝息を立ててぐっすりと眠っていた。
「よーし。今がチャンスにゃん」
ぼくは、ご主人様のお部屋をこっそり抜け出して、リビングに行った。お部屋はまっ暗だけど、ぼくはネコだから見える。目的のテーブルの脚の近くにたどりつき、爪をとごうとした。
その瞬間!
「カチっ」
「ピカっ!」
急にまぶしくなった。
「えっ。何が起こったの? まぶしいにゃ!」
ぼくはビックリして倒れたしまった。
最初は目がくらんでしまったけど、だんだんと目が慣れてきた。
そのころには、ぼくの目の前にご主人様がいた。
「ご主人様がいるにゃん!」
ぼくはあわてた。
なになに。
「きみが爪をとぎに来ることは分かっていました。あのときちゃんと言ったよね?
『これでもう、テーブルの脚で爪とぎはしないでね』って」
ご主人様は怒っていた。
「ごめんなさい。でも、最後に一回だけ。ね。いいでしょ?」
とおねだりするためにご主人様の顔を見た。
けど、とても怖い顔をしていた。とても、ぼくのおねだりが通用するとは思えない。
「絶対に無理にゃん」
ぼくはあきらめることにした。
次の日。
「ぐ~」
お腹が空いたぼくがリビングに行くと、
「えっ!」
ぼくはいつもと違う様子に気がついた。
なんと、テーブルの脚四本すべてにアルミ箔が巻かれていた。
ご主人様はぼくに気づき、こう言った。
「これでもテーブルの脚に爪をとぎしたい?」
ご主人様の顔はニコニコしているけれど、声はどこか怖かった。
ぼくはよっぽどご主人様を怒らせてしまったらしい。
ぼくはあわてて首を
「ブルブルブルブル」
と振り、
「も、もう、テーブルの脚に爪とぎしないにゃん」
しばらくご主人様の顔を見ることができなかった。
それからと言うもの、ぼくは新しい爪とぎで爪をとぐことになった。
最初は気が進まなかったけど、一か月間くらいたつと慣れたせいか、新しい爪とぎがすっかり気にいっていた。
ご主人様もその様子を見て安心したのか、テーブルの脚に巻かれているアルミ箔を全部はがした。
それを見たときは、
「テーブルの脚で爪とぎをしたいにゃ!」
と言う気持ちはあったけど、テーブル脚を見るたびにご主人様の怖い顔を思い出し、結局できなかった。
そもそも、ぼくが爪とぎでといでいたら、ぼくの爪を切ろうとなんてしなかったはず。
今回のことで、
「ご主人様を怒らせると怖いにゃ!」
ということがよーく分かった。
ぼくにとって、痛くて怖い教訓になったことは間違いないなかった。
《終わり》




