ネコと子イヌ6(前編)
「きみー。これからえりかが来るよ」
ご主人様は言った。
「ワンワンワンワン」
外から聞き覚えがあるイヌの鳴き声が聞こえた。
「んにゃ? もしかして……。」
ぼくは嫌ないやな予感がした。
「ピンポーン」
玄関チャイムが鳴り、 ご主人様が玄関に向かって行った。
「ガチャ」
玄関が開くと
「ワンワンワンワン」
この鳴き声は間違いない。えりかだ。もっと、早くに言って欲しかった。
なぜなら……。
「肉まん!」
ものの数秒でぼくがいるリビングにたどり着き、
「肉まん。ひさしぶりー」
勢いよくぼくにぶつかってきた。
「痛いにゃん!」
毎度毎度こうなる。そして、ぶつかると痛いのはいつもぼく。
えりかの方が軽いはずなのに、ちっとも痛そうじゃない。
もちろん。今回もそう。
えりかは、ご主人様のお友だちのつとむ君が飼っている小イヌ。
さびしがりやで、一人にすると鳴いちゃうし、
今みたいに、誰かに会うことが分かると興奮して鳴くこともある。とにかくよく鳴く。
大抵、えりかが来るときって、
えりか以外の人たちが困っていることが多い。
きっと今回も何かあったに違いないにゃん。
「えりかがしょぼくれているんだって」
ご主人様は言った。
「どうも夢を見るらしくて、それが悲しい夢で鳴くの」
「また?」
「今度は別な理由なのかな。心当たりある?」
「うん」
えりかは過去に、つとむ君のお姉さんがお嫁に行くとき、えりかを残して弟のさくたろうだけを連れていかれたことを思い出し、悪夢に悩まされていた。
詳しくは、
ネコと子イヌ4【前編】
https://book1.adouzi.eu.org/n2168cy/91/
ネコと子イヌ4【後編】
https://book1.adouzi.eu.org/n2168cy/92/
話によるとつとむ君の奥さん、ゆいちゃんはお産のため、
実家へ帰っている。それで、つとむ君はちょくちょくゆいちゃんの
様子を見に行っている。日帰りの日もあれば泊っている日もある。
それでえりかは捨てられたのではないかと不安に思うらしい。
で、自分が一人ぼっちになっちゃう夢を見ているのではないかと。
ぼくはえりかの元へ行った。
「えりか。きみのことを一人ぼっちにするわけないじゃない。ゆいちゃんは、
今だけ実家に帰っているんだよ。ちゃんと帰ってくるって」
「いつ帰ってくるのよ! 私は今、帰ってきて欲しいの。それにつとむ君もいない時が
あるのよ」
「今、いるじゃない」
「いない日もあるもん! 帰って来る時もあれば、帰ってこない日もあるのよ。不安になるに決まっているでしょ!! きっとそのうち私のことを置いてどこかに行っちゃうのよ。そうやって、みんないなくなるに決まっている」
「どうしてそうなるの? ちゃんと帰ってくるじゃない。さみしがりすぎだよ」
「さみしいに決まっているでしょ。私、さみしいと死んじゃうんだよ」
「それはウサギの話でしょ。きみはイヌでしょ。」
※ウサギがさみしいと感じると死んでしまうという話がありますが、
科学的根拠はありません。
「とにかく、えりかの元には必ず帰ってくるし、
待っていてよ。きみが騒いだり、元気がないと、つとむ君がこまっちゃうでしょ。
そもそも、こまらせてなんの得になるの。
騒げば帰ってくると思っているの? だとしたら、その考えは改めるべきだよ。
えりかだって疲れない? そんなことをして。
ゆいちゃんにもゆいちゃんの都合があるんだよ。相手のことも考えるべき。」
とぼくは言ったのだけど……。
「プイ」
えりかはそっぽを向いてしまった。
そんなときだった。
「リンリンリンリン」
つとむ君の携帯電話が鳴った。
「もしもし。うん。分かった。」
つとむ君は携帯電話を切った。
すると、つとむ君はご主人様に近寄り、ヒソヒソ話を始めた。
「きみー。ちょっとおいで」
ぼくはご主人様に呼ばれた。
「つとむ君、ゆいちゃんを迎えに行きたいのだけど、つとむ君が出ていくことがえりかにバレたら鳴きだすから、うまくえりかをごまかしてくれないかな」
ぼくはうなずき
「にゃーん」
わかったと返事をしてぼくはえりかの元へ行った。
「えりか、ネズミのおもちゃで遊ばない? えりか、ネズミのおもちゃ好きでしょ。
この前、かじっていたし」
「遊ばない。そんな気分じゃないのよ」
「じゃぁ、この音がするおもちゃは?」
ぼくがえりかの注意を引いている間、つとむ君はコッソリとリビングを出て行った。
そして、つとむ君がいないことにえりかが気づいたのは一時間後だった。
《続く》




