ネコとウサギ3(前編)
「スピピ~。スピピ~」
いつものように、ぼくが気持ちよく眠っていると、
「んにゃ~」
くすぐったい。ぼくの脇腹を細長い棒みたいものでくすぐっているような違和感がしていた。
最初は、ぼくの勘違いだと思っていたけど、さっきから思い出したかのように、
少し時間を置いて、何回もくすぐったかった。
これだけくすぐったいと感じるなら、ぼくの勘違いじゃないはず。
もしかして、誰かにくすぐられているのかな?
「パチっ」
ぼくは目を開けて隣を見ると、ウサギのみうがいた。
「みう!」
ぼくはビックリして名前を呼んだ。
みうは、たまに遊びに来るご主人様のいとこ、
あいちゃんが飼っているウサギ。
あいちゃんは、『美しい卯』だからと名前をつけたらしい。
その名前のせいか、みうは、自分のことをかわいいと思っている。
ぼくの目から見ても、そのこと自体は間違いではないけど堂々とみんなの前で、
「私、かわいいでしょ?」
と言っちゃうくらいの自信の持ち主。
「やっと目が覚めたのね」
みうは、「待っていました!」と言いたそうな顔をしていた。
「もしかして、ぼくの脇腹をくすぐっていたのはみう?」
「そうよ。何回くすぐったら起きるのか、やってみたの」
みうは、ニコニコしながら言った。
どうやら、みうの自慢の長い耳で、ぼくの脇腹をくすぐっていたらしい。
「それだったら、声をかけてぼくを起こしてくれればよかったのに~」
それが普通だと思うけど、みうにとっては違うのかもしれない。
「私の耳でくすぐったら、もっと早く起きると思ったのだけど、意外と起きなくてビックリしたわ~」
なかなか起きないことに気づいた時点で、声をかけるべきだよ。そうしたら、ぼくだっ
て、もっと早く起きたはず。そんなことをやり続ける所がみうっぽい。
「で、どれくらいやっていたのかにゃ?」
気になったので、聞いてみた。
「十二回くらいかしら」
「えっ!」
ぼくはそんなにもくすぐられているとは知らなかった。
「そんなにもくすぐっていたの?」
これだけくすぐられて起きなかったぼくって、鈍感すぎたのかなぁ。
「五分おきくらいにくすぐっていたから、起こすのに一時間もかかったわ!」
「そんなことして疲れないかにゃ?」
もし、ぼくがウサギだったらやらないと思う。
「だから休み休みやっていたのよ」
「そんなの効率が悪すぎるにゃん」
もしかしてみうって、おバカなのかもしれない。
「みうは、耳は大事じゃないの?」
「大事よ! だって、耳はみうのチャームポイントだもん」
みうは、自慢の耳をフリフリさせた。だったら、もっと大切にするべきだよ。
「そんなに大事なら、ぼくの脇腹をくすぐるために使っちゃだめにゃん」
「だって一度、やってみたかったんだもん!」
みうは声を大きくして言った。
「そうなんだ……」
さすがにこれ以上、ぼくはみうに何も言えなかった。
ぼくには理解できないけど、ウサギってそう思うことがあるのかなぁ。
いや、みうだけだよね。とにかく、この件はについて考えることはやめることにした。
「肉まんはいいわよね~」
みうは突然、そう言った。
「何でかにゃ?」
ぼくには何でそんなことを言われるのか分らなかった。
「だってわたしは普段、ケージに入っているからせまくて自由に遊べないのよ。だから、肉まんのおうちに行くのがいつも楽しみだの。のびのびできるしね。普段できないこともできるし~」
みうはキッパリ言った。
その結果がコレなんだ……。他にもあると思うんだけど……。
「肉まんはいいわね。放し飼いされていて」
みうはうらやましそうに言った。
「ウサギとネコは違うからね。あと、ご主人様の飼育方針によっても違うにゃん」
みうの場合は、ケージに入っていた方がいい。そうじゃないと、どこかへちょろちょろ出かけそう。
そのときに、うっかりお外に出てしまったら危険だよ。お外は車だって走っているし、子どもにつかまえられちゃうかもしれない。
「あれ? あいちゃんはいないのかにゃ?」
パッと見た所、あいちゃんの姿はなかった。みうは、あいちゃんといっしょじゃないとぼくのおうちに来ることができないから、あいちゃんも近くにいるはず。
「それがね、今日のお昼はあいちゃんと肉まんのご主人様といっしょにお昼ごはんを食べようという話しになっていたらしいの。あいちゃんがお弁当を買ってくることになっていたのに、お弁当を買い忘れちゃって、お買い物に行ったのよ」
「そうだったんだ~」
あいちゃんならありそう。あいちゃんはマイペースのせいか、なかなかのくせもの。
ぼくを抱っこしたら手を滑らせて高い所から落っことしたり、ぼくをなでていたら、あいちゃんの長い爪がぼくの毛に引っけかり、思いっきり毛が抜けてしまったことがあった。
この前は、『ネコじゃらし』でぼくと遊ぼうとしていたのだけど、うまく使いこなせなくて、『ネコじゃらし』のフリフリした先端が勢いよく顔に当たって、痛い思いをした。悪気はないとは思うけど、ぼくは何回も痛い目にあわされていた。
「ピンポーン」
ブザーが鳴った。
「んにゃ~。誰か来たっぽいにゃ~」
台所であと片づけをしていたご主人様が玄関に向かって歩いて行った。玄関には、『やすけ』のおじさんが立っている。『やすけ』はお寿司屋さんで、お店に足を運ぶこともあればお客さんが来るときは出前を頼むことも多い。
「あれ? あいちゃんは、お昼ごはんを買いに行ったんじゃないの?」
確か、みうはそう言っていたよね。だったら、出前を頼む必要はないはず。
「きっとあいちゃんは、お昼ごはんのお弁当を買わず、お菓子を買って来るだろうから、肉まんのご主人様が出前を頼んだみたいなのよ」
みうはそう言った。
「どうして? お弁当を買い忘れたのなら、お弁当を買いに行くはずでしょ??」
「それがね……」
みうはため息をついた。
《続く》




