ネコとおばあちゃん3
「フカフカ~」
近頃、寒くなってきたから、
ぼくはご主人様のお布団の中にもぐってゴロゴロしていた。
お布団の中は快適だにゃん。あったかいしフカフカで気持ちいい。
ご主人様~。そろそろ暖房器具を出して欲しいにゃん。
コタツ、ホットカーペット、ぼくのネコ用湯たんぽ。
そろそろ出番だにゃん。
そんなことを考えていたら、
「ガバッ」
ぼくがお布団が突然、飛ばされてしまった。
「寒いにゃー!」
ぼくは悲鳴を上げた。
「きみー。またこんなところにいて~。
寒いのは分かるけど、人のお布団に入らないでよ。
毛だらけになっちゃうでしょー」
ご主人様は言った。布団を飛ばした犯人はご主人様だった。
「それなら暖房器具を出して欲しいにゃん!」
ぼくは目で訴えた。どうせ、めんどうくさいから出さない
だけでしょ。いつものことだにゃん。
「暖房器具を出してって顔をしているね。
それについてはいつか出してあげます」
「いつかっていつだにゃん。今だよ今。すぐに出してにゃ!」
ぼくは、ご主人様を熱いまなざしで見つめた。
「きみの気持ちはよーく分かりました。とりあえずそのことは後回しにして、
これから”暖かくて快適な所”にいっしょに行こう」
「んにゃ? 暖かくて快適な所??」
「だからきみを探していたんだよ」
どこのことを言っているのだろう。
そんな場所、たくさんあるじゃない。
どこかの公共の施設に行けば、大抵、ぼくのおうちよりも
暖かくて快適な所だにゃん。
ご主人様は寒さに強くて、よっぽど寒くならない限り、
暖房器具は出さない。
だから、当分は今のままだと思う。
とりえず、快適な所ならぼくも行きたいにゃん。
ぼくはついて行くことにした。
ぼくはご主人様の車に乗ってすぐに、
「スピピ~。スピピ~」
ぼくはいつものように眠っていた。
しばらくすると、
「きみー。ついたよ」
ご主人様の声で目を覚ますと、
「アレ? ココって……」
見慣れてたおうちがあった。
「ココ、おばあちゃんのおうちじゃない!」
けど、おばあちゃんのお家って暖かくて快適な所?
ずいぶん前に、寒い時期に行ったことがあったことを思い出した。
あの日は部屋が寒くて、暖かいものはストーブしかなかったから近づいて暖まろうとしたら、
ご主人様に「危ないっ」て言われた覚えがある。
あのストーブは電気ストーブだったから近づきすぎると危ないからね。
ストーブの大きさの割には部屋が大きくて、
かなり近づかないと暖かくなかったから、ご主人様から見たら、
危険を感じるのは無理もない。
おうちに入ると、
「いらっしゃい」
おばあちゃんが出迎えてくれた。
居間に入ると、なんだかいつもと違う快適さを感じた。
ぼくはご主人様を見た。
「きみも気づいた? エアコンを入れたんだって」
「エアコン?」
部屋を見わたすと、白いエアコンがついていた。
「本当だ~。だから快適な温度なんだね」
実は、おばあちゃんはエアコン嫌いだった。
以前、夏におばあちゃんのお家に行ったとき、
ご主人様がこんなことを言っていた。
「エアコンをつけようよ。家にいたって
熱中症になっちゃうことがあるんだよ。
この家は風通りが悪いし、扇風機だけだと心配だよ」
「今まで暑くてもなんともなかったんだから大丈夫だよ。
エアコンは身体に悪い。扇風機で十分。
それに夏は昔から暑いって決まっている!」
「エアコンは身体に悪いって、それは昔の話でしょ?
使い方さえ守れば大丈夫だよ」
と言って、結局はエアコンは買わなかった。
それがどうして買ったのかにゃ?
ぼくはご主人様を見た。
「きみのために買ったんだよ」
「ぼくのため?」
ぼくにはわけが分からなかった。エアコンが欲しいなんて言っていないし、
そもそもネコ語は分からないでしょ。
「おばあちゃんにこう言ったんだよ。
肉まんにもっと会いたいならエアコンを買ってって。
この子は暑いのもニガテだけど、寒いのはもっとニガテなの。
前に、寒くてストーブに近づきしぎちゃって危なかったことがあったでしょ。
それ以来、連れて行きたくなかったんだ。
だから、冬も会いたいならエアコン買って。そうしたら買ってくれたんだ」
へ~え~。そうゆうことだったんだね。
おばあちゃんのお家に行くのはいつも夏。
そうゆう理由で夏にしか行っていなかったんだね。
冬も会いたがってくれるのは嬉しい。
もしかしたら、おばあちゃんは一人で寂しいのかもしれないにゃ。
ご主人様とおばあちゃんは3~4日に1回くらいのペースで
短い時間ではあるけれど、電話で話をしている。
一人暮らしをしているおばあちゃんが心配ということもあって
ご主人様がおばあちゃに電話をかけているのだけど、
最近は、おばあちゃんからご主人様に電話をかけることが
増えていた。
ぼくはおばあちゃんのところに行って、
足元をスリスリした。
おばあちゃんはいつもの怖い声で
「この子ったら~」
と言ったけど、その声の感じは嬉しそうだった。
しばらくおばあちゃんと遊んだ。
エアコンはとても快適で、過ごしやすかった。
このおうちから出たくないくらい。
「きみー。そろそろ帰るよ」
ご主人様が言った。さすがに快適だからと言って、
いつまでもいたらおばあちゃんも疲れてしまうにゃ。
それに、駄々をこねたら
「もう、帰らなくて結構です。おばあちゃんのお家の子になりなさい!」
と言われてしまいそうだにゃん。
「また来るね。おばあちゃん。それからありがとう」
ぼくはおばあちゃんの足元をスリスリしてお家を出た。
おばあちゃんは嬉しそうな顔をしてぼくたちを見ていた。
【終わり】




