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76 暇潰し

 さてドックも出来たし、人員も居るから私の研究スペースを作ろうと思ったんだ。そうアンブレラのような地下の凄い奴。でも皆が休めって私を拘束するんだよ。アリシアさんも外に出ようとする私を羽交い絞めにして部屋から出そうとしないし…まあ自室から地下の直通通路を作り終えてる私に敗北は無い。今日はエンジンを作るんだ。


「抜け出して大丈夫なのか?」


「幻影置いてきた…触っても大丈夫だと思う」


 研究区画と呼ぶには狭い部屋。取りあえずここを暫定研究所と呼んでいる。本来ならここを広げたりしたかったのだが、それより先に航空機が欲しくなった。

 こら!子供みたいに色々と方向転換し過ぎとか言うな。どっちも必要だけど、私の研究スペースは今すぐ必要と言う訳でも無いのだ。どうせ足りなかったら宝物庫に籠ればスペースは有り余ってる。所詮は趣味なのだ。


 よし、研究所の話は終わりにする異論は認めない。今日作るのは飛空船用の大型エンジンでは無く航空機用のエンジンだ。作るのはプロペラ機だね。ジェット機作っても整備も量産も出来ないし。

 まず言っておくのが私の作るエンジンは空冷式を採用してる。最も外から空気を取り込むのではなくエンジン内で空気を発生させる魔道具を組み込んだ事で熱に対する問題は解決してる。わざわざ強度や整備性に問題のある液冷式を採用する必要性が無い。この世界では空冷式でも十分な性能を発揮出来る。

 問題は各種希少金属だね。それとゴム。希少金属は無い物も多いからこの世界に存在する金属の性質を調べる事から始めてるし、ゴムは魔物の皮の代用だ。一応石油は探してくれてるらしいが、掘らないと出ないんだよな…何処かで泉の如く湧いて…うん炎上するだけだね。


「確かに航空機だっけ?あれば便利だが本気で必要なのか?飛空船でも十分だと思うが」


「飛空船はそこまで小回りが利かないし目立つ。それに飛空船自体は既に他国も持ってる。帝国が物量で押してくる可能性もあるからね」


「あの計画で十分だろ。数でどうにかなる物じゃないだろうが」


「趣味ですが何か?私は今は休暇。好きにして良いと言ったのはお父様とお兄様」


 どうせ趣味品だよ。私の馬車代わりに使う予定&秘密だから仕方ない。さて、目標は安定して4000馬力を出す4列28気筒強制空冷エンジン異世界モデルの製造だ。まあ生まれた頃にはプロペラ機からジェット機に変わる時代だったから有名にはなれなかったが十分な化け物エンジンだろう。これを積んだ飛行機が欲しくなった。パイロットも意外とカッコいいかも知れない。

 まあ私の知識には膨大な兵器の設計図が何故か入ってるから作ると言うより再現だ。普通なら時代遅れでも機密な筈だけど何で覚えてるんだろう。


数日後?


「余裕の音だ馬力が違うね‼」


「ウルセ――‼」


 轟音の中私とグランツさんが飛ばされないように機材にしがみ付きながら叫ぶように話す。そうエンジンはあっさり完成した。しかし凄い轟音だ。風で私も飛ばされそう。と言うかしがみ付きながら浮いてる。

 暫くプロペラを回して、起こった不具合を直す。やはり気難しいエンジンだったけど、熱関係は問題ないね。これなら十分実用品だ。さて、次は飛行機本体の制作だ。なんだかんだ言ってグランツさんも興味深々だから文句を言いつつも手伝ってくれる。しかし何か忘れてるような?

 まあ良いや。そう言って設計図を描いて機体を作った。え飛空船はどうしたって?あれは本体だけなら工兵だけでどうにでもなるし、根幹の動力部分なら何個も作り置きしてあるから私が居なくても問題ない。グランツさんは既に引退してるから居なくても問題ない。つまり何も問題ない。


「ぬおおおおお‼父上、やっと破壊できました」


「よくやった‼アリスティア何をやっとるんだ‼」


「う?」


「あん?」


 突如研究所とドッグを繋ぐ通路のドアが吹き飛んだ。おかしい。あれは私製の合金製で2mの分厚い装甲板で作られてる物だ。あれだけで重さは数トンはあるのに壁に激突するほどの勢いで吹き飛ばす人外は…お父様か‼ってお兄様が蹴ったような構えを‼


「私は休めと言ったはずだ。なのに地下に籠って怪しい研究を始めるとは何事だ‼」


「地下から轟音が聞こえるって工兵から聞いてみればこんな所に居たのか‼何日籠るつもりだ。アリシアが狂乱して探してたぞ」


 何やら趣味で籠ってたら外が凄い事になってた模様。私は何日経ったっけ?とグランツさんに聞くと「さあ?」と首を傾げられた。結構な時間が過ぎ去った様子だ。そう言えばお風呂は宝物庫にあるし、食事も一応宝物庫に食料がある。クート君ようだが、お肉が一杯なのだ。それをグランツさんが調理して一緒に食べてたから一切外に出て無かった。クート君はお母様の護衛を命じてるし、私がここに居るのを知ってるから何も問題無かったしね。


「まあまあどうせ数日程度でしょ?まだイケる」


「俺達は忙しいんだ部外者は出てけ‼」


 グランツさんは職人気質を発揮してスパナを2人に投げつけた。ここは職人の聖域。部外者の立ち入る余地は無いのだ。私達は飛行機の制作に熱中してるのだ。

 しかしお兄様は持ってた刀でスパナを真っ二つにし、私を担ぎ上げる。お父様はグランツさんとつかみ合いをしていた。互いの筋肉が膨張して凄い暑苦しい。


「良いから外に出なさい。地下に籠って一ヶ月近く経ってるのだぞ」


「テメエもいい加減にしろ」


「ウルセー俺達は今、世界初に挑戦してるんだ。何も分からねえ奴は引っ込んでろ」


 もがく私をお兄様は抱えて。暴れるグランツさんをお父様が引き摺って外に連れ出さた。日差しが眩しい。ぬおおおと眩しさで目が眩む私達。外には般若のアリシアさんとお母様が居た。何故に?

 取りあえず全員にお説教された。休めと言われたから趣味に没頭してただけ。と言う私の言い分は誰も聞いてくれない。グランツさんに至っては煙草を吸いながら聞き流してる。何そのスルースキル私も欲しい‼


「ちゃんと休んで趣味に没頭してただけだもん‼仕事してないもん」


「お黙りなさい‼」


「ぴい‼」


 やはりお母様の一喝は怖い。何が駄目なのかよく分からない。仕事はしてないのに。


「ゆっくり休めたのならその目元は何かしら?凄い隈が出来てるわよ」


「姫様…今回ばかりは絶対に許しません」


 その後のお説教で休みの最中は地下禁止が言い渡された。それと部屋の隠し通路は埋められた。

 本来の休みの使い方は本を読んだり、散歩したりと疲れを癒すのが目的なのだとか。確かに肉体的には疲れたが、私達は気力が溢れすぎて漲ってるんだけど…うん駄目なんだよね分かった。


「う~~あれも駄目これも駄目で嫌になる」


「少しは普通に休んでください」


「じゃあオストランドに遊びに行く」


 まあそれくらいは良いか。と言う事になった。取りあえず行き成り行くのは問題だとかで向こうに連絡を取るとの話題になったが。


「ああ大丈夫。私からアノンちゃんに連絡してアノンちゃんのお父さんから話し通すから」


 懐から携帯を取り出してアノンちゃんに掛ける。暫くすると慌てる様な物音と共にアノンちゃんが出た。


『これだ~‼ってアリス?久しぶり。何かあったの?』


「今度そっちに行きたいんだけど、王様に許可貰えないかな?休めって言われて趣味に勤しんでたら怒られたからそっちに遊びに行くことにしたの」


『…どうせ、その趣味でやらかしたんだろ?まあ馬鹿親父に言っておくけど、アリスって基本的に無審査で通行許可下りてるから大丈夫だと思うよ?一応英雄様だからね。国境で名前出せば普通に通してくれると思うよ。多分通行税も取らないんじゃにかな』


 ふむ、フリーパスをくれるなら事前に教えて欲しいね。それと横からお兄様が一緒に行く…と言うか公務で向かうから2か月後にしろって言われたのでそんな感じで日程を伝える。護衛は先に転移で送るがお兄様は飛空船に乗って行くらしい。どうやら輸出第一号がオストランドらしい。私は別に公務じゃ無いから自由でも良いんだって。

 今すぐにでも遊びに行きたいけど、あっちも予定を作るとかで結構時間が掛かるから行き成り押し掛けるのは少し問題があるのだ。まあ私達は割と連絡取ってるから問題ないんだけどね。あるのは国の方だと言うだけ。


「じゃあまた今度ね。お土産に良い物見せてあげる…と言うか乗る?」


『飛空船‼私乗った事無いんだよね。と言うかそんな凄い物を作るなんてやっぱ凄いよ』


「まあ飛空船も乗りたいのなら乗せるし、もっと凄いの乗せてあげる。私の最高傑作だよ。暫くしたら最高傑作が変わるだろうけど」


『楽しみにしとくよ‼皆にも伝えとくね』


 取りあえず伝える事は伝えたので通話を切って懐に仕舞う。そう言えば何かアクセサリーを携帯に付けたいな。向こうに行ったら皆と買い物に行こうっと。


「そう言えばあれの追及を忘れてたな…」


「…そうですね。持ってても不思議じゃないんですよね…と言うか驚きの連続ですっかり忘れてました…って向こうも持ってるのでは!」


「っは‼アリスティアそれは何だ?通信機か?」



 ん?これの事?っと私と弄り回す。しかしそれは私専用だから私以外には起動しないよ。と言うと返してくれた。流石に家族でも携帯の中を探るのは良くないからね。まあ5人しか登録してないし、ネットも今の所繋がって無いから見られて困るのはアリシアさんの面白画像集とクート君の変顔集位だ。


「えっと向こうの3人とアリシアさんとグランツさんは持ってるけど」


「ええ。私も姫様に貰いました。でも国も持ってるのでは?」


「……普通はここまで小さく無い…これだ」


 お父様が出したのは…初期の携帯電話より一回り大きい箱だった。重そうだね。こっち使う?とまだ誰にもあげて無いのを何個か出す。別に皆にあげるのを忘れてただけだから30個くらいあるし。


「ああ…うんそうだな。貰おうか…使い方が分からん」


「これが普通なんですよね。私が間違ってるのだろうか…」


 何かボーっとするように各々で好きな色とか形を選んでいく。お母様も少し複雑そうな顔で受け取った。私は説明書も取り出して皆に渡す。何かしたっけ?


「……量産してるのか?」


「簡単な仕様だから普通に出来るよ?大臣分も用意しようか?と言うか今ある分で足りるかな?」


 残りも出すと、ノロノロとした動きで受け取った。


「そうだな…買い取りと言う事にするか。便利だな…大陸の果てまで届くのか…普通は国内に通じれば良い方なんだがな」


 どうやらこの世界でも魔導携帯を作れる人は少なからず居るらしい。しかし、国内で使えれば御の字と言う残念性能なのだとか。私が残念性能って言ったら「それ魔法王国で言うなよ。連中ブチ切れるからな」とお父様に言われた。

 どうやら魔法王国は魔法使いが特権階級に居るある意味魔法使い至上主義の国で、自分達が馬鹿にされる事が許せない国らしい。私の飛行船も遠からずいちゃもん付けてくるとの事。


「そうだ。オストランドの王様にもあげよう。お父様と文通してるって言ってたから手紙より簡単に連絡出来るよ?それに国中に広める予定だし」


 そうだよね一杯あると便利だよね。そこまで作るのは難しく無いから量産も出来る。しかし、こっちもやると私もオーバーワークになるね。そうだ‼久しぶりに図書館に行こう。禁書棚を見せて貰えば何か都合の良い魔法とかありそうだね。

 それと新しい家族用に高解像度のカメラも作らないとね。やっぱり大忙しだ。休んでる暇なんか無い‼私は早速地下に戻り、色々と作る為に駆け出すも、ダークサイドに堕ちたアリシアさんに捕まった。それはもう物のように脇に抱えられた。


「さて、姫様は湯浴みして寝ましょうね?」


「アリシア、今日からアリスちゃんと一緒に寝なさい……もし勝手に動こうとしたら好きに罰して良いわよ」


「分かりました♪」


 ぬおおおおお。そんな事になったら私の活動が制限される…仕方ないまた幻影を使うか。


「次は無いからね。本当に無いからね?そうね、次にこういう事したら練兵場で寝そべってる魔獣は全てギルドに素材として売り渡しましょう」


 それは私のペットを殺処分すると言う事か‼何と残酷な事を…あの子達は今じゃ人間にとって害じゃないもん。良い子達だもん。騎士の人の訓練相手で頑張ってるのに…大人しくしておこう。

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