55 オストランドの混乱②
私はコルト・パイソンを取り出すと一緒に入っていたホルダーを腰にまわしそこに差し込む。ポシェットの中身は弾頭です。これは魔法銃なのです。弾頭さえあれば発射出来ます。
何故私がリボルバーを作ったかと言うと、整備が楽だから…まあシングル・ダブル両用なので純粋なシングルアクションよりは面倒ですが、信頼性が高いのはリボルバーです。
この銃は特別性です。【サイレント】【剛力】【マリオネット】の3つが発動し、反動に耐えれる力と必要な動作を自動で行えます。それに発射光は兎も角音も無いです。この銃に技量は要らない。持つ者が使うに必要な動作を銃からアシストされます。
私は銃を確認すると竜杖と対物ライフルを×の格好で背中の専用の場所に差し込む。これも必要なら名状しがたいスライムのような者達が背中から手に送ってくれます。
そして身支度が終わると部屋から出る。当然警備モードは悪夢のままですけどね。
「何をする気だ?」
「家出」
「その格好でか?どう考えても自分ひとりで行くと言ってるような物だろ!」
珍しく激怒するお父様ですが、私の心には響かない。当然ビビると思ってたお父様も不機嫌そうだ。だけど私は友達を見捨てれない。これ以上の会話は無駄です。この件を無事乗り切っても処罰無しは無いでしょう。正直どうなるかは分からないが、成すべき事は友達を助ける。それだけです。なので私は魔法陣を展開し、転移に入る。
「取り押さえろ‼」
だけど誰も私を抑えれなかった。私の周りに居る名状しがたいスライムのような者達が周りの人間の関節に纏わりつき硬質化して動けなくしたのだ。予備動作も無く拘束を振り解くのはお父様でも出来ない。関節を止められれば何も出来ない。私は強く友達の顔をイメージする。魔法陣は本来出来ない場所の移動に悲鳴をあげる様にバチバチと放電するように魔力をまき散らしてる。だけど諦めない。絶対に飛べる筈だ。さらにイメージを強くし、魔力も過剰に注ぐ。ただ跳べと。
「姫様‼」
転移で視界が変わる瞬間にアリシアさんが見えた。何時もの泣きそうな顔に少し緊張が解けた。
「何で着いてくるかな…」
「私は姫様と共に在ります」
結局アリシアさんは私の転移魔法に乗り込んでついてきた。普通はあそこで別れるシーンでしょうに、凄い形相で反応出来るスピードを超えて魔法陣に突撃し、一緒に転移されてきたのだ。某赤い人も真っ青なスピードだった。特に私を拘束する訳でも無く普通に隣に立っている。
「正直、今の姫様を止めるのは私には不可能ですから。その腰の物で額を貫かれたくないです」
どうやら銃であるのは認識出来るらしい。
しかしほのぼの話は出来なかった。周りを見れば燃える家や、逃げ惑う人で町は大混乱だ。空には飛行型の魔物が飛んでる。一部王都内に降りたち市民を殺してる。
無意識に腰のリボルバーを抜いていた。躊躇いは無い。あれは害だ、排除するのに情は必要ない。撃鉄を引き起こし引き金を引く。それだけで翼を持った虎は額に穴を開けられ、血を噴き出しながら倒れた。そして二度と動くことは無かった。
「え?」
「邪魔をするなら容赦しない」
私は進む多分学園が立地的に避難所になってる筈だ。友達の安否を確認しなければ…
「姫様、学園はあっちです」
転移は限定的に失敗だった。学園から少々離れた場所に飛んだようです。急ぎ移動しようとしたら反対方向をアリシアさんが指さしていた。私はアリシアさんと一緒に【飛翔】を使い飛んでいく。途中に出くわした魔物はリボルバーと対物ライフルで狙撃して出来るだけ撃ち落とす。
学園はまさに惨状と言う有様だった。魔物は人を見ると襲う。使い魔にしたり、子供の時から人に接してる魔物や一部の大人しい魔物以外は人間を襲い食らうのだ。その魔物が人の集中する学園を見逃す事は無かった。何とか城壁を超えた魔物や飛行型の魔物が学園を攻め込んでいる。地には倒れた騎士や兵士や市民等数えきれない。それでも兵士達は諦めずに魔物と戦っていた。そしてそこにアノンちゃんが居た。私より少し大きいだけの子供が戦っていた。魔物と戦った事は全然だと言ってたのにショートソードと小さい盾を持って大人と一緒に狼のような魔物と戦っていた。
「術式解凍【マルチロック】降りしきれ轟雷【サンダー】」
視界内の魔物をロックオンすると私は雷を落とす。その威力に魔物は焼かれ倒れた。生き残りはリボルバーで倒す。魔物は多いのだ。魔力に限りがあるので銃も使う。
「アリス帰った筈じゃ」
「心配になって家出してきた。もう大丈夫。私が殲滅してみせる」
「にゃはは、出来ればそうして貰いたいな」
私達は抱き合う。良かったもう二度と会えないかと思った。
「髪と目の色が違うな…イメチェン?」
「元々こっちの色…驚かないの?」
私は移動に当たって変化をしてない。と言うか掛け忘れたと言うのが正解です。かなり焦ってたのだ。
「その目を見ればちょっと驚くけどな。罰はケーキなる物を大量に食べさせてもらおう。どうせ王女様なんだろ?」
「正確には副王家の当主様だ。崇めても良いよ?」
「終わったらな」
そい言い合いながら私は次々来る魔物に魔法をぶつける。一撃で致死級の攻撃に次々と魔物は倒され一時的に学園を攻撃する魔物は居なくなった。私は【飛翔】を使い、空に陣取る。
「降りしきれ轟雷の雨よ【サンダーレイン】」
晴れているのにオルトアに雷の雨が降り、飛んでいる魔物を的確に撃ち落とす。もし生き残ってもあれだけの威力なら暫く動けないだろうし地上の兵士でも対処出来るでしょう。可哀そうですが王都中の人間は救えない。私が最も重要としてるのは友達です。今は安否を確認しなければならないのです。邪魔をする飛行型を撃ち落としたに過ぎない。
「協力感謝する。城壁で魔物の駆除にまわれ」
「私は友達の安否を確認しに来ただけ。命令には従わない」
降りると騎士の人が近づき命令してきた。見た目子供でも戦力になる以上は徴発したいのでしょう。しかし従う道理は無い。私はこの国より友達の方が重要です。
「貴様‼」
「私はアーランドの王族。身の程を知れ」
「な‼」
付き合う暇は無い。直ぐに友達の安否を確認しないと。もし無事なら安全な場所に移動するか場合によっては手を貸すけどそれは今じゃない。助けたいと言う気持ちは強いが、それで3人が死んだら後悔してもしきれない。友達を選ぶか見知らぬ人を選ぶかなら私は躊躇ずに友達を選ぶ。
騎士の人を横切りアノンちゃんの方に走っていく。
「皆は‼」
「良いのかよ?」
「全ては他の2人の安否次第。今は他の2人を護るのが最重要」
「まあアリスはこの国を守る義務なんか無いしな。どうこう言われる義理も無いか。私もよく分からない。ケーナは多分講堂に居ると思う。多分シャロンも居ると思うけど今日は会って無いんだ。父と一緒に駆り出されたからな」
私はアノンちゃんと一緒に講堂に向けて走り出す。後ろから「勝手に持ち場を離れるな‼」と騎士が怒ってたが、私の「周りの魔物は駆逐したんだから、一人くらい貸せ」と言われ黙りこんだ。まああの戦力であれだけの魔物に対抗出来ないのだから貸しは返して貰います。直ぐにアノンちゃんと一緒に講堂に向かう。途中に視界に入った魔物はまたリボルバーで駆逐します。残すと被害を増やす上に、いざと言う時に邪魔になる可能性があります全て額を打ち抜き沈黙させる。魔物は人間と一緒で頭か体内の魔玉を破壊されると死にます。しかし魔玉は魔物毎に存在する場所も違うので脳を破壊して倒します。
「相変わらず変な道具を持ってるね。普通に魔法使った方が早いじゃん」
「魔力は有限。いざと言う時に魔力切れじゃ私は何も出来なくなる」
私の強みは魔法です。ガス欠を起こせば置物にも劣るゴミになり下がります。寧ろ呼吸するだけの環境破壊を起こす産物以下の代物です。なので魔力は使い過ぎると駄目なのです。まあ直ぐに回復するので、割と使いますけど、要所要所で省エネしてます。
「確かに今は【身体強化】を使ってるみたいだけど、無かったら全然だしね」
無駄に広い学園をアノンちゃんと一緒に駆け抜け、講堂を目指す。こう広いと移動が不便ですね。早く早くと急いでたらアノンちゃんに少し余裕を持てと窘められた。ちょっと焦り過ぎたのでしょうか?急がないといけないと言う気持ちが止まりません。
だけど何処までも思い通りにはいかない。講堂の前にはやはり魔物で溢れていた。騎士達が懸命に押し返そうとするも全面に立ってるのはオーガやトロール、サイクロプスなどの巨大種です。何故こうも王都内に魔物が溢れてるのか…考えるまでも無い。城壁が一部か殆ど壊されたのでしょう。市民の多くが講堂に避難してる。しかも城も落ちてるか壊滅してるだろう。遠目で燃えてるデカい建物は確か王城です。
「術式解凍【ウィンドカッター】×5合成【死神の大鎌】」
全ての巨大種の首を落とす。流石に頑丈なのでかなりの魔力を消耗しました。残り5割です。このままではかなり不味いですね。魔力消費が激し過ぎる上に体力も厳しい。
やはり私一人の力だけでは無謀なのでしょう。でもせめて友達は救いたい。正直友達を見捨てるくらいなら死んだほうが遥かにマシです。なので最後まで戦おう。
「アリス…無理すんな、顔色が凄い事になってるぞ。このままじゃ魔力より先にお前が倒れちゃう」
「…問…題ない。私は負けない…助けるんだ」
だけど、どれだけ決意を強くしても世界は残酷だ。私から全てを奪おうとする。講堂の前の魔物を殲滅して講堂に入ると多くの人が倒れてた。その中にシャロンちゃんも混ざっており、親と思われる夫婦風の男女にケーナちゃんが泣き崩れていた。
「まに…あわなかった」
「嘘だろ‼」
頭の中が真っ白になった。
??視点
そこは真っ白な空間だった。雲も無いのに世界は雨で満ちている。そこにポツンと平屋の日本家屋が立っている。そこの軒先には姿が朧な少女が足をプラプラさせながら座っていた。
不自然な世界に不自然な存在。テトでは無い。テトならば性別を判別出来ない。だが座ってるのは何とか少女と理解出来る輪郭がある。まあ殆ど消えかけてるけど。
「また奪うんだ。『あの子』には耐えれないんだろうな。私みたいに狂って全てを放り出してそれでも届かなくて全てを失うんだろうな」
「君がそれを言うのかい?」
少女の傍にテトが居た。
「私は既に終わった存在だよ?貴方に一矢報いる事も出来ずにこうして消えるのを待ってる身だよ?」
少女は悲しそうに笑う。世界を憎み一人で世界の理に挑んだ少女の末路は消滅だった。次の自分に全てを捧げ、何もせずに消えていく事が少女の最後の役目だった。
「だけど君はまだこうして存在してる。大した人だよ。普通ならこの世界で自我を維持出来る筈が無い。幸せな夢を見ながら世界に溶ける筈なのに君は残ってる。それだけの精神力が、それを支える絶望があるから僕は君をそのまま転生出来なかったんだよね」
少女はテトの敵だった。地球では叶う事の無い願いを掲げ、理を乱そうとした。死して尚テトに牙を向けた。テトは少女を好んでいた。恋愛感情では無い。自分と言う存在を正しく認識しても尚敵愾心を捨てなかった少女をテトは見捨てる事が出来なかったのだ。だから彼女が生まれた。出来るだけ幸福に生きれるように色々とサポートまでして世界に干渉した。テトなりの誠意なのだろう。基本的にテトは人の運命に干渉しないのだ。全ては世界の流れのままに。それがテトである。
「正直消えて良いのか判断が出来ないんだよね。ここで私が消えれば最悪『あの子』に全てを押し付ける気がするし、テトの思うままに流されるのも気に入らない」
ここに居る限り少女は幸せな夢を見れる。かつて失った者や時間。好きになったであろう少年との思い出。全てが揃っているのに彼女は消えれなかった。彼女から分かたれたifの自分…いや既に彼女は別人へと成長した。だけど少女の影響を多大に受けている。少女と同じ道を歩む危険を孕んでいる。
第一に少女はテトが大嫌いだった。観察するだけで何もしない神のような存在は反吐が出る程大嫌いだった。思い通りには動きたくない。自分の過去を否定してでも。
「じゃあこの状況はどうするの?彼女はきっと君と同じ選択をするよ?」
「私の時間は無駄じゃ無かった。まだ救えるよ。貴方のくれた世界は地球とは違う。魂さえ無事ならどうにでもなる」
少女は自分を構成する部分から情報を切り出すとポイっとゴミを捨てるように世界に投げた。淡い光の塊は世界に溶けて消えていく。そしてまた少女は薄くなった。自分を構成する重要な部分を彼女にあげたのだ。既に絞りカスの少女の存在も薄まってしまった。
「全く、君には驚かされてばかりだ。まさかそんな秘術とも奇跡とも呼べる代物をここで作ってたのかい?確かにここはあっちと繋がってるけどそう簡単に理を乱さないでよ。管理する僕の身にもなって欲しいね」
「私は貴方が嫌いなのよ。精々慌てなさい。どうせ理だって言ってもそれを容認するんでしょう?この世界では死を遠ざける何なんて簡単なのよ」
少女は笑う。世界に光が出てきた。彼女が希望を持ってくれた。彼女の中にあるこの世界の気候は彼女の心次第なのだ。そして少女は雨が大嫌いだった。
「本当に大切なら享受するだけじゃ無く守る力を持ちなさい。足りない事は『貴女』の周りの人を頼りなさい。私達は一人だけだと壊れるのだからね」
横のテトが消える。あれは勝手に入ってきたり勝手に出て行ったり少女にとってこの楽園に不法に入って来る侵入者なので出て行っても特に思う事は無かった。




