第1話 悪魔参上
夜勤明けの早朝4時。
職場から家に帰るために、男は車を走らせていた。
見通しの良い長く伸びる一本道。
明け方のこの時間帯は、車の往来もなく、自分以外の車はまだ見ていない。
眠気覚ましにカーラジオをつけ、制限速度50キロを守りながら、走り慣れた道をいつも通り運転して行く。
暫くすると、少し先の対向車線に1台の車が見えた。
徐々に近付いてきたその車は2トントラックで、対向車線をはみ出し、そのまま真っ直ぐに男に向かって来た。
「嘘だろ……居眠りかっ!?」
近付いてくるトラックに向かいパッシングをして、派手にクラクションを鳴らし、相手に合図を送る。
だがトラックは速度を落とす事なく、そのまま真っ直ぐ自分に向かって来た。
ぶつかる!!
反射的に男はハンドルを左に切り、ギリギリ寸前でトラックを避ける。
ガードレールに男の車の左側面が接触し、ガガガ、と擦れる音が鳴る。
直後、すぐ後ろでトラックはガードレールに衝突、派手な音を立てて横転するのが、ルームミラーから見えた。
男は急ブレーキで車を止め降りると、トラックに駆け寄った。
運転席側を下にして横転しているトラックは、フロントガラスが粉々に砕け、事故の衝撃か、運転手の男性の顔は瞑れて辺りは血だらけ。
ピクリとも動かない。即死状態と一見して分かる。
視線を運転席からトラックに向けると、後部の路上に何かがあるのが見えた。
早足で後ろに行くと、事故の衝撃でトラックの荷台の扉が壊れて開き、中に積んでいたらしいそれが半分路上に出ていた。
約3メートル四方の鉄製の檻。
まるでライオンを入れるような頑丈な檻だ。
その中に、1人の人間がうつ伏せに横たわっていた。
なに一つ身に着けていない全裸。
左足首に頑丈な足輪をされ、鎖で檻と繋がれた先は溶接されていた。
決して絶対に誰にも外せないようにとばかりに。
「……なんなんだ、これは……」
気絶しているのか、全く動かないが、見る限り傷一つ見えない。
男は近付いてすぐ傍で声を掛けた。
「おい、大丈夫か? 生きてるか、おいっ?」
その声に反応を示し、ピクリ、と僅かに指が動いた。
うつ伏せていた顔がゆっくりと上がり、明けてきた柔らかな朝日が、その姿を映し出す。
男が息を呑む。
それは、とてもとても綺麗な美少年だった。




