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よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~  作者: Mr.ティン
壱章 旧石器時代 ~人類の流入~

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とある学校の日本史授業風景 2コマ目 旧石器時代

春風が校舎の窓を叩く午前、教室には教師が黒板に書き込む音だけが響いていた。

今日から日本史の授業が本格的に始まろうとしていた。


「さて、今日は日本史の中でも最も古い時代――旧石器時代について話そう」


教師の三上がテキストに沿って幾つかのキーワードを書き込むと、生徒に振りかえった。


「日本史の始まりは、この日本列島に人類が流入した時から始まる。それが、旧石器時代だ」

「縄文時代の前っすね」

「その通り。縄文時代が始まるのは約1万6千年前。旧石器時代はそれよりもずっと前、約3万8千年前から始まるとされている。もっとも、最近の発掘ではそれ以前の痕跡も見つかっているな」


そして、教師は黒板に大まかな日本地図を描く。


「この流入のルートも幾つか学説があるが、大まかには三つだ。北か、南か、西か。北は樺太から北海道を経由するルート、南は台湾沖縄を経由、そして西は朝鮮半島から津島海峡を経由するルートだ」


教師は、三つの矢印をさらに書き込む。


「この時代、日本列島にはどんな人々がいたと思う?」

「えっと…狩りをしていた人たち?」


生徒から声が上がる。


「そうだ。彼らはまだ農耕を知らず、自然の恵みに頼って生きていた。狩猟、採集、そして石器を使って生活していた。火打石を削って作った打製石器が主な道具だった」


教師は教材として、黒く光る石を取り出した。

生徒たちは順番に石器を手に取り、指先でその鋭利な縁をなぞった。


「石器の材料は、このような黒曜石が有名だ。叩いて割ると、この様に端が鋭利な刃になる。同様に、サヌカイトと呼ばれる石も、鋭利なガラス質の割れ口になるため利用されていた」


教師は、日本地図に幾つかの丸を書きこんでいく。


「こうした石器の基となる石は、産地がはっきりと判っている。残された石器が、どの産地の石を加工したのか、成分などで判別可能だからだ。これにより、面白い事が判っている」


地図にかかれた丸から、教師は幾つかの矢印を追加していく。


「交易だ。例えば北海道の十勝地方で産出される石が、遥か離れた本州で発掘されることがある。これは古代の人々の活動範囲を示していると言っていいだろう」


そして、と教師はさらにつづけ、新たな石器を取り出した。

先に出された黒曜石製の穂先に比べ、何処か奇妙な気配があった。


「同時に、この時期からダンジョンが存在していた事も解っている。これがその証拠、『魔石』で出来た石器だ」

「魔石で!?」


生徒達が驚きの声を上げる。

彼等もダンジョンの知識があるが、魔石と言えばモンスターの体内にあるか、マジックアイテム等の魔力供給源として組み込まれているものが殆どだ。

魔石そのものを加工して武器にすると言うのは、その常識から外れていた。

だが確かに、魔石があるならその当時からダンジョンが日本に存在していた証明になる。


「ただ、流石に魔石製の石器の発掘量は多くない。硬度などの影響で、加工が難しかったのだろうと考えられて居るな。それでも黒曜石などを上回る貫通力等で、優秀な戦士にのみ与えられたのだろうと言うのが有力な説だ」


生徒達に回される魔石製の石器。生徒達も希少な物だと知らされ、珍しそうにそれを眺めていた。


「これで動物を狩ったんですか?」

「そう。ナウマンゾウやオオツノジカなど、今では絶滅した大型動物が当時の獲物だった」


黒板にかかれる獲物の名前。その中には、生徒の想像外のものもあった。


「ドウクツグマ……? クマ肉を食べたんですか?」

「ドウクツグマは、獲物というより脅威となる動物の排除の意味合いが強かったとされている。当時は人も洞穴などを棲み処にしていた為、同じ洞穴を巣穴とするドウクツグマとの生息域の競合が発生していたと言う説だ」


もっとも、頻繁に狩る獲物でも無かっただろうが、と教師は付け足した。


「獲物としてやはり有名なのはナウマンゾウだろう。肉だけでなく骨や毛皮や長い牙も利用した」

「ナウマンゾウって、ゾウなんですか?」

「そうだ。今のアジアゾウに似ているが、やや小型で、寒冷地に適応していた。長野県の野尻湖では、ナウマンゾウの化石とともに石器が見つかっている。つまり、旧石器人が狩りをしていた証拠だ」


教室の空気が少しざわめいた。遠い昔の話が、急に現実味を帯びてきたのだ。


「先生、旧石器時代の人たちはどこに住んでたんですか?」

「先に少し触れたように、洞窟や岩陰が多かった。住居というより、雨風をしのぐ場所だな。火を使って暖を取り、獣から身を守った。火の使用はこの時代の大きな進歩だ」

「火って、どうやって起こしたんですか?」


教師は再び机から道具を取り出した。火打石と鉄片、そして乾いた麻の繊維。


「実演してみよう」


カチン――火花が散った。何度か繰り返すと、麻に火が移り、ほのかに煙が立ち上った。


「うわっ…すごい…」

「これが旧石器人の知恵だ。火は命を守り、食を豊かにし、闇を照らした。彼らは火を使うことで、獣を追い払い、肉を焼き、仲間と語らう時間を持った」

「語らうって…言葉があったんですか?」

「言語の起源は不明だが、少なくとも意思疎通の手段はあったはずだ。狩りの協力には合図や簡単な言葉が必要だし、道具の使い方を教えるにも説明がいる」


教師は黒板に「集団生活」「狩猟」「火の使用」「打製石器」と書き、丸で囲んだ。


「これが旧石器時代のキーワードだ。日本列島はまだ大陸と陸続きで、マンモスやゾウが渡ってきた。人々もまた、先に述べた複数のルートから、シベリアや中国から移動してきたと考えられている」

「じゃあ、日本人の祖先って……外国から来たんですか?」

「その可能性が高い。旧石器時代の人々は、現代の日本人とは直接のつながりがあるかは不明だが、少なくとも列島に最初に住み着いた人々だ。彼らの足跡が、今の私たちにつながる道を作った」


教室の窓から差し込む光が、黒板の文字を照らす。


「先生、旧石器時代って、なんだかロマンがありますね」


教師は微笑んだ。


「そうだな。何もない時代に、火を起こし、石を削り、命をつないだ人々がいた。彼らの営みが、今の文明の礎になっている。歴史は、過去の記録ではなく、未来への道しるべだ」


ただ、と教師は表情を曇らせた。


「そんな人々の営みも、どうも断絶した時期があるのが判っている。特に、九州の付近だね」

「そうなんですか?」

「ああ、大規模な災害の跡が、地質調査などで判明している。推定されるのは、大規模な阿蘇山の噴火だな。今の阿蘇山の形になったのはこの時で、旧石器時代の人々に壊滅的な被害をもたらしたとされている」

「そんな事が……」


黒板に書かれた日本地図に、想定される被害の範囲が丸で囲まれる。

それは西日本のかなりの範囲を示していた。


「直接的被害はもちろん、膨大な火山灰の痕跡は東北にまで広がっているし、この噴火による気候の変動もあったとされている。こうした災害が、旧石器時代から縄文時代へと変わっていく契機になった可能性がある訳だ。まあ、あくまで仮説だがな」


過去の大災害に生徒達が言葉を失う中、チャイムが鳴った。

授業の終わりを告げる音。

生徒たちは立ち上がりながらも、どこか名残惜しそうだった。


「次回は縄文時代に入る。火を使い、土器を作り、定住を始めた人々の物語だ。楽しみにしていてくれ」


教師の言葉に、生徒たちは頷いた。

教室の扉が開き、春風が再び吹き込んだ。

その風は、遠い旧石器時代の記憶を運んでいるようだった。

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― 新着の感想 ―
こういうのが欲しかったんですよね。 過去に生じた存在によって現実世界にファンタジーが混ざる物語、大好物です。 これからの歴史楽しみにしてます!
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