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よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~  作者: Mr.ティン
伍章 飛鳥時代 ~律令国家の萌芽と仏教の普及~

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厩戸皇子は、冠位十二階と十八条の憲法を制定した

書き溜めが尽きたのと、体調不良により万策が付き、遅刻しました。

気にはなっていたのだ。

魔力によって身体強化や魔法が再現されていく現象が、ある意味何処かで見たような物ばかりだという事に。

精霊や、カミが現れた辺りは、そういう物かと純粋に納得していた。

だが、徐福が極めた仙術や、仏像の後光に五行の術など、単純に現実化するとは思えない事ばかりなのだ。

特に易経の件だ。

あれは陰陽八卦を通じて世界の構造を解説する書だが、土塁を動かしたりするような術など書かれていない。

五行に関しても、むしろ自然科学的な解釈であった筈だ。

例えば、土や岩の中から鉱石が取れるように、土行から金行が生まれる。

金属の表面に水滴が付く様に、金行から水行が生まれる。

水気によって植物が育つように、水行から木行が生まれる。

木をすり合わせて火が付くように、木行から火行が。

そして火の後に灰が残るように、火行から土行が生まれる、そんな解釈だ。


決して、それぞれの五行を操る、なんて教えではない。

だというのに、厩戸皇子の配下である五行使い達は、丁未の乱で大規模な術の行使をして見せた。

これは明らかにおかしい。

更に自分が前世でのゲームや創作物のキャラクターのように手から気功弾を放てたことで、その僅かな違和感が明確に形になったのだ。


魔力は、信仰や意思を写し取り、再現する。今まではそう思っていた。

だが、それを言うなら一番長く魔力に触れていた意思とは何か、と言う事になる。

それは、俺の意思そのものだ。

更に言うなら、信仰──この場合は、むしろ知識や認識と言うべきか──の形も、俺の前世における日本人の漠然とした信仰として触れていた事にならないか?

ついでに言えば、気功弾を放てたという事は、様々な創作物の現象も、魔力によって既に再現可能になっていた、と言う事だろう。

流石に、只の現象ではなく八百万の神々や彼らが住まうという高天原と言ったものは、多くの人々の認識が固まらないと顕在化出来なかったようだが。


だが、この際そう言った超常的な現象は横に置こう。

俺が真に懸念しているのは、この魔力による再現が、歴史そのものにも及んでいないか、と言う事だ。


(そこが気になってな。相談したく皆には来てもらった)


昼間気功弾の再現で騒いだ人達を何とかなだめつつ何があったか誤魔化したオレは、建立用の拠点で一人で休みたいと人払いをしておいた。

そこに、何羽かの鳥がやってきて、俺の周囲で思い思いに過ごしている。

ハルカと三姉弟のアバターたちだ。


(アキト様の生前の歴史が、再現されている、ですか)

(ああ、そろそろ俺の生前で国内の記録が残されている時代になった。それは判るな?)

(ええ、アナタの知識には触れているもの。今は、飛鳥時代と言うのよね?)

(確か、私と同じ女が長として国を治めるに至った時代と。本当にその通りになりました)


ツクヨミたちが、俺の言葉に頷く。


(そう。だが俺の生前とは違い魔力が存在するこの世界で、何故そうも同じ歴史を辿ろうとしているのか、だ)


ありとあらゆる世界が、俺の生前の世界と同様の歴史を辿るとは、思い難い。

何しろ、仏毎に様々な世界を見守っていると言われるほど、世界と言うのは無数にある。

三千大世界、なんて言葉もある位だ。

もっと違いがあってもいいのではないか、と。


(恐らく、この世界は俺の生前とはほぼ同じながら、1点魔力とダンジョンコアと言う異物を混ぜられた実験世界の様なものだと思っていた。だから、海外の歴史はほぼ元の世界と同じなのだと)

(それが、誤りだと?)

(大きくは間違ってはいないと思う。問題は、魔力の影響の範囲だ)


魔力の影響は、余りに大きい。

少なくとも、日本人の身体能力は、海外の常人の3倍が最低値と考えていいだろう。

戦の場合の超人的な動きを見ていると、雑兵でも恐らく海外のトップクラスの将軍を軽く捻る事が可能なレベルにある。

そんな状態で、長らくの戦乱の末誕生する豪族が、生前と同じような顔ぶれになるだろうか?

ヤマト政権の成立はいずれなされただろうとは言え、物部氏や蘇我氏等がそのまま成立する可能性は本来低いのでは、と思うのだ。

だが、この流れそのものにも、魔力が影響していたと考えると辻褄は合う。


(つまり、魔力が俺の生前の歴史をなぞるように、大まかな流れを干渉しているのではないか? と言う事だ)

(言われてみると、全く同じ名前と言うのは不思議ねえ)

(今の写し身にしても、ちょっとした伝説を模したら、伝えられた通り秦氏に育てられることになった。余りにも出来過ぎている)


これらが、魔力によって再現される歴史の再現であるのなら、全ては説明が付く。


(有史以前に関しては、俺自身の記憶も元の歴史でもあやふやな部分も多かったから、判断がつかなかった。だが、こうも記録に沿い始めるとな……)

(確かに、疑うに十分な理由であるのは確かでしょう)

(でもよお? 違いはあるんだろう? その、あの弓の使い手とか)

(ああ、戦に関わる部分は、魔力の影響が大きすぎるのか、規模が大きくなっている気がするな)


たしか、丁未の乱では、俺の生前の記憶通りなら、物部氏は館や砦に立てこもって居たという話だったはずだ。

他にも、戦力の総数的にはもっと蘇我氏と物部氏とで兵数の差があった筈。


(仏の加護の影響も大きかったようだし、大きな争いでは魔力の存在による変化の度合いが大きいのかもしれないな)


それは、平時はともかく大きな歴史の転換点では、俺の生前の歴史を沿わなくなる可能性があるという事。

そしてこれらは、まだ到底断言できないレベルの話になる。


(……ただ、これもまだ仮説なんだけどな)

(ここまで状況証拠がそろっているのにか?)

(状況証拠しか揃っていないともいうんだ、コレは)


それでも、今の仮説は皆にも話しておきたかった。

特に、国内の様子を任せているアマテラス達には。



そんな会話をしたのが、しばらく前の事。

そして今、俺は自分が立てた仮説の正しさと、同時に魔力の浸食具合を目の当たりにしていた。


「十八条の憲法、ですか」

「うむ、草案がまとまったのだ」


宮中の厩戸皇子に呼ばれた俺は、新たに交付される法の草案を見せられていた。


(……こう来たか)


厩戸皇子──聖徳太子が実施したという幾つかの有名な政策がある。

冠位十二階と、十七条の憲法がそれだ。

この二つの公布は、当時のヤマト政権内の官僚が抱えた問題があった。

この頃の官僚は、直接政権が抱えるのではなく、豪族が抱えている配下が派遣されてくるという形式に近いのだ。

その為、官僚や役人の朝廷への忠誠心が低く、またその上下関係も帰属する豪族の力関係に左右されるという面がある。

そこを改革しようというのが、冠位十二階と十七条の憲法、この二つの政策だ。


冠位十二階は、政権に直接帰属し、その役割の高さを段階的に表す意味で制定された。

上から、徳仁礼信義智の順に大枠が有り、それぞれの中で大小に分けられた階位は、色と徳目で官位を12等級に分けた制度で、家柄ではなく能力や徳を重視する人材登用の仕組みだ。

易経の影響も大きいこの制度は、豪族の力関係に関わらない人材登用を可能にした。


一方で、十七条の憲法だ。

和を以て、貴しとなすから始まる十七の規範は、その採用した役人や官吏の護るべき規則だと言える。

これには、調和や仏教を尊ぶことや、公平な裁判、役人の生活等広く言及があった、筈だ。


正直、俺自身全部を正確に覚えているわけではないが、まあ生前で言えば企業のコンプライアンス項目みたいなものだと言えるだろう。

だが、それは17の項目であった筈で、18番目は存在しなかった筈だ。


(十八に曰く、それ事、術法に頼るべからず、か)


まあわかりやすく言えば、術法をみだりに使うなと言う事だ。

実際、神道や仏教等は、祈れば明確に力を発揮するし、易経の知識があれば陰陽五行説に基づいた様々な現象を引き起こせる。

現実的にこれらの力がある以上、ある程度の制限が必要になるのは道理だ。


「……よろしいのではないでしょうか?」

「河勝もそう思うか。ふむ……他の者にも意見をもらいたいが……」

「ご存分に。練り上げる事は良い事かと」


まだ煮詰めたり無い所があるのか、厩戸皇子は草案に再び視線を落とす。

一方で俺は、魔力の影響──超常の力と、歴史をなぞろうとする二つ──に、めまいすら覚えていた。


(少なくとも、術法の関連は今後制度に織り込まれ続ける事になりそうだ)


そんな未来を感じながら、俺は一層この先の予測が難しくなった事実に、途方に暮れるのだった。


書き溜め確保のため、来週頭までお休みをいただきます。

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― 新着の感想 ―
お大事に。再開お待ちしますのでゆっくり休んでください。
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