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よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~  作者: Mr.ティン
四章 古墳時代 ~巨大古墳と大王の時代 大和政権の成立~

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とある学校の日本史授業風景 6コマ目 古墳時代②

傾いた日差しが教室の窓から斜めに差し込み、机の上のノートに淡い筋を描いていた。

日本史の授業は今日も穏やかに始まろうとしてた。

教師の三上は黒板の前に立ち、チョークを指先で転がしながら生徒たちを見渡す。


「今日は古墳時代の続きだ。前回は古墳の成立とその意味をやったな? 今日はその延長で、古墳時代の末から飛鳥へ移る過程、特に倭の五王や半島情勢、蘇我と物部の対立、それに絡む内紛を見ていく」


教室の空気が少し引き締まる。前列の男子が小さく手を挙げる。


「倭の五王って、具体的にはどんな人たちなんですか?」


三上は資料をめくり、黒板に簡潔な年表と地図を描き始める。


「中国の史書『宋書倭国伝』には、倭の王たちが朝貢した記録が残っている。そこに登場するのが倭の五王だ。史書の表記では讃・珍・済・興・武といった名が見える。重要なのは、彼らが中国側の冊封体制に接触し、外交的に自らの地位を示そうとした点だ」


後列の女子が眉を寄せる。


「朝貢って、ただ贈り物を送るだけじゃないんですよね?」


「そうだ。朝貢は単なる贈答ではなく、国際秩序の中での承認を得る行為だ。冊封を受けることで、対外的な正当性や交易の道が開ける。倭の王たちが中国に使節を送ったことは、当時の倭が外部と積極的に関わっていた証拠だ」


三上は地図上に中国と朝鮮半島、そして日本列島を結ぶ矢印を描き、交易と人の往来の流れを示した。


「朝鮮半島では、高句麗・百済・新羅が勢力を争っていた。日本列島側は、南部の半島沿岸にある地域、いわゆる任那みまなを通じて半島と接触していたとされる。任那は倭の拠点として、交易や軍事的な足がかりになった」


体育系の男子が前のめりに訊く。


「任那って、倭が直接支配してたんですか?」


「学説は分かれる。直接支配説、同盟的支配説、あるいは現地豪族との連携説などがある。ただ、直接支配説には疑問が残る。大陸側の資料にそういった記述がないからだ」


同時に教師は、知っての通り、と前置きして、日本人の魔力欠乏時の衰弱について触れる。


「また、日本人は魔力の薄い環境に弱い。まだ日本に近い任那では程度はマシであったと考えられるが、常駐は避けたがったと考えられている」

「今はその辺りどうにでもなるけど、当時は便利な物は無かったって事ですか?」

「そのとおりだ。日本人が海外に出るようになるのは、もっと時代が下ってからだな」


教師は半島からの矢印に、渡来した技術などを書き込んでいく。


「重要なのは、任那を通じて大陸の技術や文化が流入したことだ。鉄器や土木技術、さらには漢字の知識が半島経由で入ってきた」


黒板には半島の勢力図と、任那の位置に赤い丸が描かれている。生徒たちのノートにも同じ丸が増えていった。


「何より重要なのは、仏教の伝来だ。伝来の時期は、幾つかの説がある。早い場合は530年代、遅い場合でも550年代となる。いずれも、大陸の半島から伝来した」


そう告げた教師は、黒板に蘇我氏と記載した。


「ここで国内の有力豪族の話に移る。蘇我氏は、渡来人や半島・大陸の技術を積極的に取り入れ、製鉄・土木・漢字・行政技術を導入して勢力を拡大した。仏教の受容を推進したのも蘇我氏の側だ」


前列の真面目な女子が手を挙げる。


「蘇我氏が技術を取り入れたって、具体的にはどんな効果があったんですか?」


教師は資料の図を指して説明する。


「鉄器の普及は農具や武器の改良をもたらし、生産力と軍事力を高めた。漢字と記録の導入は行政の整備につながる。これらは単なる道具の移入ではなく、権力の組織化を可能にしたんだ。他にも、養蚕に機織り、発展した陶器なども含まれる」


それだけではない、と教師は続ける。


「重要なのは、その伝来した知識の中に仏教や易経が含まれていた事だ。知っての通り、これらは魔力により強い力を発揮する。後に発展した修験道や陰陽術などは、これらが基盤になっている、というのは知っての通りだろう」

「ダンジョン実習で先生が使っていた式神も陰陽術ですか?」

「その通りだ。式神は陰陽術の産物、易経の系譜だな」


教師は背広の内ポケットから一枚の呪符を取り出す。

その呪符は一瞬で手のひらほどの小鳥になると、再び呪符へと戻る。


「こうした新たな技術に対し、一方で伝統的な神術を基盤とする勢力があった。それが物部氏だ」


教師は蘇我氏に対比するように、物部氏と黒板に記した。


「物部氏は伝統的な軍事・祭祀を基盤にした豪族で、蘇我氏の政策、特に仏教受容には強く反対した。物部は武器の管理や軍事的実力を背景に、古来の祭祀と国家的秩序を守ろうとしたのだ」


その2者の間に、教師は一つの出来事──丁未の乱と書き記した。


「こうした対立はやがて武力衝突へと発展する。丁未の乱ていびのらん、すなわち580年代に起きたこの争いは、蘇我氏側と物部氏側の決定的な衝突だった。天皇崩御からその後継者争いに端を発するこの戦いは、結果的に蘇我氏の勝利が確定し、物部氏の勢力は大きく後退する」


教室の空気が一瞬静まる。

歴史の転換点を示す言葉に、生徒たちのペン先が止まる。


「この勝利は単に一族の勝敗ではない。大陸由来の技術と制度を受け入れるか、伝統を守るかという選択の勝敗でもあった」


三上は黒板に二つの列を並べ、蘇我氏の導入した技術と物部氏の守った伝統を対比して書き込む。


「その後も権力闘争は続く。590年代、崇峻天皇が暗殺される事件が起きる。崇峻天皇は丁未の乱で蘇我氏が擁立していた人物だが、その後蘇我氏と意見を違え、反目するようになっていた。史料は断片的だが、蘇我氏の影響力が強まる中での出来事であり、後継を巡る政治的な駆け引きが背景にあったと考えられている」


教室の一角で、歴史好きの男子が小声で呟く。


「暗殺って、教科書に書いてあるよりずっと生々しいですね」


「歴史は往々にして生々しい。時代の変化に血が伴うのは常だ。だがここで区切りとなるのが、同年の推古天皇の即位だ。推古天皇の時代は、蘇我氏の影響下で大陸文化の受容が本格化し、国家的な制度整備が進む端緒となる。推古天皇の即位こそ、古墳時代の終わりであり、飛鳥時代の始まりとなる」


三上は黒板に大きく「推古天皇即位」と書き、そこに線を引いて時代の区切りを示した。


三上は黒板を一瞥し、今日の要点を三つにまとめる。


- 倭の五王は対外的な承認を求め、中国との交流を通じて地位を示した。

- 半島を介した技術流入が国内の権力構造を変え、蘇我氏はそれを取り込んで勢力を拡大した。

- 物部氏との対立と丁未の乱、崇峻暗殺を経て、推古即位で新たな時代へ移行した。


教室のチャイムが鳴る直前、前列の女子が小さな声で訊ねる。


「先生、結局どっちが正しかったんですか? 伝統を守るのと、新しいものを取り入れるのと」


教師は一瞬、黒板の文字を見つめてから答える。


「歴史は勝者の視点で語られがちだ。だが重要なのは、どちらの価値も社会を支える要素だったということだ。技術と制度は共同体を強くする一方で、祭祀や伝統は共同体の結束を保つ。両者の折り合いが、次の時代の形を作ったんだ」


とはいえ、と教師は続ける。


「飛鳥時代に制定される律令制などは、大陸の制度を採り入れ国家として成長する為には必要だっただろう。結果論になるが、こういった変革の積み重ねが、後々の時代に大きく影響する。他国の存在を無視できない以上、取り残されなかったという事実だけは覚えておくべきだろうな」


チョークの粉が淡く舞い、黒板の文字が消されていく。

古墳時代の輪郭は、各自のノートと頭の中に残り、次回の授業へと続いていく気配が教室に満ちていた。

古墳時代終わり 次回より飛鳥時代

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