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よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~  作者: Mr.ティン
四章 古墳時代 ~巨大古墳と大王の時代 大和政権の成立~

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新たな王は、その地を治める証として、橿原の地に宮を打ち建てた

写し身に意思を宿すというのは、無機物にもできる。

かつて、大陸へ奴国王が貢物を贈る際、その中の一つに俺も意思を宿すことが出来た。

だから、当然剣にも宿らせることができる。

スサノオが行ったのは、それだ。

熊野の地にまで飛来し、イワレヒコの前に突き立ったのは、戦の王子に縁のある宝剣だった。


(こんなところに俺の剣があったから、驚いたぜ!)


スサノオの威勢の良い意志が届く。

三姉弟が身体を魔力に還した後に、この地のクニへと宝剣を貸与でもしたのだろうか?

この地の民の元にあった宝剣に意思を宿したスサノオは、剣のまま空を飛びイワレヒコの元に突き立ったのだ。


そのようにしてイワレヒコに与えたのは、大元は、戦の王子へと嫁いできたイズモの姫が、戦の王子の為と先祖より伝えられてきた剣。

さらに元をたどると、倭国統一の王の子がイズモへ持ち込んだモノらしい。


そこで、俺はピンときた。

今はイザナギの名を背負ったあの統一王は、妃の黄泉帰りの儀式の際に幾つかの剣を佩いていた。

その剣は儀式の際に帯びられていたせいで、膨大な魔力が宿ってしまったのだろう。

そして、クニが分裂した際に、イズモへと拠点を求めた王子が、その剣を持ち込み、更に巡り巡って戦の王子の手に渡ったわけだ。


その内に秘めた魔力は膨大で、振るえば魔力がこもった突風さえ巻き起こせるほど。

そんな剣だからこそ、魔力を噴出して空を飛べたのだ。


(魔力を吸うなら、それ以上の魔力を溢れさせたらいいんだろう?)


スサノオが言うように、その力はあの異形にとって特効と言っていいものだった。

幾ら胞子が魔力を引き寄せようと、それ以上の魔力が湧いているなら、衰弱は抑えられる。

そうなれば、魔力で強靭化されたこの地の生き物は、麻痺などものともしないだろう。

その結果が、イワレヒコの復帰と異形の撃退だった。


(この地にあの剣があったのは、幸運と言うべきなのでしょうか)

(そうだな! いざとなったら国元から飛ばさなければいけなかったところだった)

(それは、流石に手遅れとなっていただろう)


その光景に、アマテラスが感慨深そうにし、スサノオが得意げな意思を漂わせる。

そこへ、ツクヨミが呆れたような意思を投げかけた。


(……とはいえ、今の持ち主に無断で持ち出したのだ。夢でも良い、告げを知らせるべきであろうな)

(うっ、それもそうだ……悪い事をしたな。って、夢での告げってどうしたら良いんだ!?)

(……コアからの知識にあった筈だが……忘れたようだな?)

(ううっ)


図星を刺され、うめいたスサノオに、俺は魔力を通じ相手の夢に出られる方法を教える事になる。

そして俺達は、イワレヒコの旅路を見守り続ける事にした。




【イワレヒコ】


我らの軍は、この後も幾たびもの困難に直面した。


ある時は、深い山と森に行く手を見失い、山中を当てもなくさまよった。

獣道すら見当たらぬ中、途方に暮れた我らを導いたのは、日輪の巫女神と山々さえも下に見る、あの巨木──高木の神であった。


(夢枕に立たれた二柱の神の何と荘厳であった事か……)


導きの者を送る。そう告げられた翌日、我らの前に姿を見せたのは、あの三本足の烏であった。

先導するように上空を飛び、導く様に鳴き声を届ける様は、その異形さを差し置いても信仰を捧げるに相応しく、兵達はその姿にお祈りを捧げるようになった程だ。

かくして、我らは山地を抜け、山中の広大な平野へとたどり着いたのだ。


西国の我が故郷と比べても、余りに広大な平野。周囲を取り囲む山地も獣に溢れ、豊かな様を示していた。


「なるほど……この地こそ、父祖の御霊が示した約束の地か」


これまでの苦難を忘れかねぬほど、理想の地の様に我が目には映る。


だが、ようやくたどり着いたこの地にも、困難が溢れていた。


ウダと呼ばれる地では、その地を治めるエウカシとオトウカシという兄弟がいた。

我らを拒む兄と、我らに帰順する弟。

兄は三本足の烏に矢を射かけた上で我らを罠に掛けようとし、弟はその罠から我らを助け出した。

これにより我らは、オトウカシを軍に加え、敵対したエウカシを討ったのだ。


忍坂と言う地では、土雲と呼ばれる、地に穴を掘り其処に住まう異形の者達が待ち構えていた。

要所である地に陣を構え、坂に兵を置き我らを迎え撃ったのだ。

此処の強さもさることながら、余りの数の多さに我らが苦戦するも、知恵深き神より授けられし策にて、コレを打ち破った。


何れも、神々の助けなければままならぬ困難であった。

だが、全て乗り越えられた。

これこそ、日輪を背に戦った加護であろうか?


そして今、我らは再びかの者と対峙していた。

ナガスネヒコ。我が長兄を矢で射抜き、その命を奪った者。

幾度となく、我らの前に立ちふさがった、強者。


「西からきた者よ! この地を統べるは我らなり! お前はここで命運尽きよ!」

「父祖の御霊の意思よ! 我らに加護を!」


ナガスネヒコとの決戦は、天をも揺らした。

暗雲立ち込め、雹が降り注ぐ中、我とナガスネヒコは幾度となく刃を切り結んだ。

かつての海戦では、わが剣はかの魔剣に折られたが、今我が手の内にある神剣は、その魔剣を逆に断ち切った。

それでも諦めぬナガスネヒコとその軍に我らが攻めあぐねていると、再び神の加護が後押しした。

日輪の如く輝く鶏、金鶏が我が弓のはずへと降り留まり、眩い輝きにてナガスネヒコの兵の目をくらませたのだ。


「これが神意なり! ナガスネヒコよ、我を認めよ!」

「神意ならば我の元にもある!」


自軍が崩れる中、それでもナガスネヒコは我に剣を向け続けた。

それ故、我は古のこの地全てを統べた王の血を引く正当性を叫び、帰順を迫った。

しかし、かの者は叫んだ。

古よりの古き血、かつての王の血を引く者は、あちらにもあると。

事実、ナガスネヒコの妹婿は、我と同じく古の王の血を引く者であった。

しかし、その者ニギハヤヒは、金鶏の威光を目にしたが為に、我に降ったのだ。


「神意は、かの者を選んだのです、義兄上」

「な、何たる……無念なり!」


味方であったはずのニギハヤヒに討たれ、ナガスネヒコは地に斃れた。

これにより、我が軍勢は、幾度となく苦しめられてきたナガスネヒコの軍を打ち破ったのである。


そして、その時我は、ある者と巡り合った。

かつての偉大なる巫女王の後を継ぎし者。

今代の姫巫女──イヨなる者と。


長らくこの地でナガスネヒコと争っていたというイヨは、我らの訪れを待っていたのだという。


我もまた、イヨを見た時悟った。我がこの地に来た意味を。

……我らは結ばれた。

その後に、我らはこの地カシハラに統治の証にして祭祀の場たる宮を開いたのだ。


此処に、故郷での神託より始まった東征は成ったのである。




【アキト】


大樹の感覚が、遠くの地で人々が歓声を上げているのを伝えてくる。

奈良盆地の南側、橿原の辺りだろう。

イワレヒコ──いや、今は尊称が付いて、神倭磐余彦カミヤマトイワレヒコノミコト、もしくは──神武天皇と言うべきだろうか。

俺達の後押しで、西からやって来た古の王の血を引く者が、この地に政権を打ち立てる。

後々まで続く、日本の王統が誕生したのだ。

俺が宿る、この大樹に宿った意思の望み通りに。


(……これで、満足したか? ……イザナギ、イザナミ)

(ご温情、感謝致す)

(伏して、お詫び申し上げます……)


俺の意思をこの大樹に縛ることで、この一件──神武東征へと関わらせようとしたのは、この夫婦の意思だった。


(随分と回りくどい手を使ったものだな? アマテラスが関わった以上、おれも様子を見るつもりだったのに)

(こうでもしなければ、御身は眺めるだけであった事でしょう)

(……否定はしない)


そもそもからして、俺の意思を縛るというのは、多少変異した程度の動植物や精霊上がりのカミでは不可能だ。

ダンジョンコアネットワークのに宿った意思である俺は、誰よりも膨大な魔力を宿しているのに等しい。

これを意のままにしようとするのは、それこそ同じような魔力に宿った意思でしか無理だろう。

大樹に宿ってしまったのは単純なミスからだったが、今思えばそのミスを誘発した突風もまた、この夫婦の意思だったに違いない。


(海での作業の合間に、自分の子孫をこの地の王にしようと動いていた訳だ)

(我らも、貴男の記憶を知りましたからな。この地が後々まで安定する為には、王がやはり必要。であるなら、我が血を引く者をと)


その手回しによって俺はこの大樹に縛られ、そしてしばらく後に事情を説明されたのだ。

俺の生前に伝わっていた伝説の通りに、この地に再び統一の王を生み出すのだと。


(こうまでして、一番気に入っていた王子の子孫を王にしたかったのか……)


ただ、俺もその思惑に乗ることにした以上、あまり強く否定できない。

この世界の日本が、生前の歴史を完全に沿う必要はないけれども、起きるべき事が起きないのもまた問題かもしれないのだ。

魔力による影響が大きいこの世界では、俺達の後押しが無かった場合、あのナガスネヒコが天下に覇を唱えていた可能性もあったのだろう。


(それはそれで、未来が予想でき無さ過ぎるか)


あまり武辺に傾きすぎても、戦乱が広がるばかり。

ならばここで統一の王朝──生前の歴史通りに、奈良の地に成立する政権、大和政権の成立を後押しするのは、一つの道だろう。

ただ、それでも一つこの夫婦には言いたいことがある。


(俺、木に縛られる必要があったか?)

(そこは我も想定外で)

(……えっ、あの突風は?)

(身に覚えがなく)


……俺が木に宿ったのは、完全に事故だったらしい。

とはいえ、ある意味一番の特等席で、俺は初代天皇の偉業を観戦できた事になるのだろう。

そう言う意味では、この事故にも感謝していいかもしれない。


(で、そろそろこの木から意思を離しても構わないか?)

(……出来ないので? 我らは既に縛ってはおらず……)

(えっ)


改めて、俺は自分の状況を確認する。

未だに、この木に意思が縛られている、いや吸い上げられているような感覚が続いていた。


(いやまて、どうなってるんだ……うん?)

(如何為された)

(この木の根、コアの一つに突き刺さっている)

(……何と)


この巨木は、ダンジョンにまで根を張った為にそこから魔力を吸い上げ、これほどに巨大化した。

さらにその根の一本は、コアである巨石に絡みつき、根を突き立てていたのだ。


(……この根だけ、切ってくれないか)

(しばしお待ちを……かくのごときに)


生前の姿に近い写し身を顕現させたイザナギが、剣でその根の先端を断ち切った。

その瞬間、俺は再び魔力の源へと意識が解放された。


(アナタ! ようやく戻れたのね!)

(あ、ああ……ただいま、ハルカ)


俺の帰還を喜ぶハルカに、俺は呆然と頷いた。

植物、恐るべし、という意識に囚われながら。

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