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よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~  作者: Mr.ティン
四章 古墳時代 ~巨大古墳と大王の時代 大和政権の成立~

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38/60

各地の豪族は、その権威を示すように巨大な古墳を築き上げた

(そうだ、あの三人がコアの意思になって、色々説明して居たんだった)


俺は大樹になった身で、風に枝をざわめかせながら思い起こす。

木々の感覚と言うのは新鮮だ。大地の鼓動の様なもの、大気のうねりの様なものを、肌身に感じ取れている。

光への感覚は、いっそ鋭敏だ。光合成を行うせいか、目がないのにも関わらず、辺りの光景が脳裏に浮かぶ。


眼下には、勇士が引き連れる軍勢が、新たな尾根を越えた。

まだまだ先は長いものの、きっと彼らは目指す場所にたどり着けるだろう。

何しろ、姫巫女──アマテラスの意思が宿る烏に先導されているのだから。


(……それで、どうだったか。確か、海底でのネットワークの方は、イザナギイザナミの夫婦にこのまま任せるという話で……)


そう、確か。

どうしても俺の仕事を手伝いたいというアマテラスの要望があったのだった。



(何もしないのも苦痛なのです、アキト様)

(……まあ、分からないでもないが)


視線を向ければ、政の王子ことツクヨミと、戦の王子ことスサノオも同様に頷いている。

実際、三姉弟は生前常に仕事に追われていたようなものだ。

急に休み放題と言われても、どうして良いのか分からないかもしれない。


(とはいえ、海底側はあの二人で事足りて居るんだよな……)


三姉弟よりも先に魔力へ意思を宿したイザイザ夫婦は、俺達がヒトの身に意識を移していた際も、ずっと働いてくれている。

海底のコアから海底や海中を移動可能なモンスターを生成して、コアの基となる魔石海底の地脈に沿い進ませる作業。

俺が以前行っていたその作業を、あの夫婦は好んで行ってくれていた。


(……まあ、一度儀式で拗れたが、元は仲の良い夫婦だったからな。それに、ああして共同作業を行い続けていると、それはそれで中は深まるのかもしれない)


実際、こうして見ていると、あの二人は仲睦まじい。

イメージで作り出した肉体は、二人とも最もお熱かった若い頃のものだ。

どうにも作業節目の報告以外は、二人だけの世界を作り出す傾向にある。


(うふふ、私達も負けていられないわ~)


そんな幻聴が聞こえたような気がするが、まあそれは横に置こう。


(海底以外となると、やはり地上か)


俺は、浮かべたままだった地球儀の映像を、日本列島中心に拡大させる。

そこにも、無数の赤い点がある。

南は沖縄、北は北海道。

大陸側には伸びが悪いものの、辛うじて壹岐と対馬には赤い点が灯っている。

太平洋側に伸びているのは、伊豆諸島に配置したコアだ。

その数は数千。

生前の記憶にある日本の市町村数を軽く超える事から、各自治体に1個以上は存在する計算になる。

もちろんその分布は一定ではないし、特に活発な活火山の周辺にコアの数は集中する傾向にあった。

それでも事実上日本中どこでもダンジョンがあると言える。


(実際、俺もこれまでは突出した異常がない限り、細かに管理はしていなかったからな)


この数をまともに管理しようとしていたら、人手は幾らあっても足りない。

実際、火山の噴火などの異変が起きない限りはほぼ成り行きに任せていた。


(まあ、だからこそ時折強力な変異動物が生まれていたのかもしれないが)


ダンジョンで生成するモンスターは、コアで設定したとおりのモノが生まれてくる。

だがダンジョンの領域として広げた範囲内で、野生動物が変異した場合は此方の手を離れている。


(もしかして、俺が退治したあの多頭の大蛇もその類なのか?)

(ああ、アレは完全に想定外の化け物の一つだな)

(なるほど……って、何だこりゃ!? こんな奴まで居るのか?)


スサノオが、とある山の上を拡大すると、そこには巨大な百足がその身体を山肌に巻き付けていた。

その長さがどれ程の物か、目算でも数百メートルはあるように見えた。


(ウチのクニの近くには居なかったが、こんな奴も居るんだな……)

(大きさだけなら、こっちの方が凄いぞ?)

(ん? ……おお、この木は知っているな。高木の神だ)


その巨木は、まさしく天を突くような威容を誇っていた。

その先端は、雲が低い雨の日などなら、そこに届いてしまうほど。

スサノオが言う通り、彼の生前この木を崇めるクニに赴いたことがあった筈だ。

また、同様に育った巨木が、この日本には何本も存在している。

その多くは、ダンジョンにまで根を張ってしまった個体だ。

潤沢な魔力をダンジョンから取り込んでしまったための巨大化──先に見た大百足や、過去におれが退治した大物クマと同じ事例だと言える。


(……おや? これは?)


そんな調子で各地の巨大化生物をスサノオと観察していると、ツクヨミが何かを見つけたらしい。


(いえ、我がクニと縁のあったクニが、姉上の物と同様の墳墓を作っているようでして)

(どれどれ……なるほど)


そこには、各地の豪族が自身の縁者の墓を姫巫女の墓を模した様な形状──前方後円墳として作り上げている光景が映っていた。


(あの墳墓の形状自体は、以前からあったものですが、この共通した様な流れはどう見るべきか……まあ姉上の威光に縋りたいというのは、良い心がけと言えるでしょう)

(……兄上はブレないな)


そんな事を言い合う兄弟を横に、俺はこの光景から生前を思いだす。


(弥生時代の次は、古墳時代だったな。この時代の事は、あまり知らないのだよな……古墳が作られたって事しか覚えていないぞ)


クニがまとまり、各地の豪族が力を持ち、その権威を示す様な巨大墳墓が無数に作られた。

たしか、そんな時代だったはずで、それ以外はうろ覚え。

それでも、明確だったのは、そんな各地豪族の中から突出したのが、後の大和朝廷の基となるクニだったはずだ。


(だが、この世界でもその通りになるのか……?)


俺は、各地の豪族の情報をコアに選別させる。

すると各地の有力な豪族が視覚化された。


(こうして見ると、まだまだクナのクニは脅威ね……もう少し、私達が頑張らないといけなかったかしら?)

(今にして思えば、クコチヒコを取り逃したのは失敗でした。今はクナに戻り、新たな王ナガスネヒコの後見をしているとか)


未だに、強力な勢力を保っているクナのクニ。

アマテラス──姫巫女が長をしていたクニも、後継者のイヨ達が力を尽くしているものの、圧倒するには至っていない。

ただ、そんな各地の豪族の中で、一つの動きがあった。


(うん、なんだ? この船?)

(どうした、弟よ? ……ほう、これは面白い)

(何々、二人とも何を見つけたの? ……あら。アナタ見て見て!)


豪族の様子を端から見ていたスサノオとツクヨミ。その驚き用に興味を持ったハルカに呼ばれ、俺もそちらへと意識を向ける。

するとそこには、穏やかな海面の上をすべるように進む船があった。

そう、海面の上だ。

九州の東側の海を、海岸に沿うように。

比較的凪に近い穏やかな波に当たらないような高さに船が浮き、進んでいた。

船首に立つのは、一人の勇士。

堂々とした、自信にあふれた姿は、否応にも人を引き付ける。

まるで人々を導くのが、息をするように当たり前であるかのような、そんな印象を受けた。

それを示すように、彼が乗る飛ぶ船を先頭にして、船団と言える数の船──こちらは普通の船だ──が、その後に続いている。

興味を引かれたらしいツクヨミが、彼の事を調べて軽く感嘆の声を上げた。


(……なるほど、我が国にも縁のあるあのクニの者か)

(知っているのか? 兄上!?)

(うむ、父神さ……アキト様のいう、九州の島のクニの者だ。あのクニは古い。あそこにいるお二方の血も濃く引いていた筈だ)


ツクヨミが示すのは、この部屋の外で夫婦仲睦まじい二人だ。

なるほど、確かにあのクニは統一王と妃の王子の一人が最終的に治める事になっていた筈。

そう言われてみると、勇士にはイザナギの面影があった。


(あの地は地の底の力も強い。あの浮かぶ船も、地の底の道……いや、ダンジョンの産物なのやも知れぬ)

(へーっ、それは大したものだな! で、こいつらどこに向かっているんだ?)

(どうやら、東へ向かうようだが……)


飛ぶ船を先頭にした船団は、途中何度か沿岸のクニを訪れて歓待などを受けつつ、何時しか瀬戸内海へと侵入していた。

そのまま、東へ。瀬戸内の島々の間を縫うように、船は進む。

だが、そこに立ちふさがる様な船団が現れた。


(アレは……クナに与する豪族の軍か!)

(それもそうだが、弟よよく見ろ。先頭に立つ者を)

(あれは、ナガスネヒコ!?)


そう、勇士に立ちふさがったのは、クナのクニの新たな王、ナガスネヒコだった。


(海のクニにも勢力を広げていたのか、アイツ!)

(その様だな。対して、あの勇士は我が国側と言える。みろ、ぶつかるぞ)


それは、壮絶な海戦だった。

海面の上を飛ぶ勇士の船は機動力に勝るが、根本的な兵力はナガスネヒコ側が勝る。

ナガスネヒコには父親であるヒミクコ、後見であるクコチヒコから受け継いだ武の才と、何より、手にしていた武器に差があった。

勇士の剣もダンジョン産の強力なモノであったようだが、将同士の直接対決でナガスネヒコの魔剣により叩き折られてしまったのだ。

結果、勇士の一団は敗走することになる。

もっとも、対峙していたナガスネヒコの軍も損害は大きく、ナガスネヒコ自身も後方に引いていった。


(痛み分け、と言った所か)

(もどかしいなあ! 俺が戦えていたら……いや、後を任せたアイツラならもう少し何とか出来たはずだ)

(そっちは、ナガスネヒコの弟のアビヒコと剣を交えていたようだ)

(厄介だな!)


戦いの行方を見ていたスサノオは、見ているだけの状況に荒れている。

とは言え、これはいい機会だろう。

どんな状況も、ここにいる以上は見ているしかない。

いや、俺が手を出させない。

少なくとも、ダンジョンの機能として何かをさせる気は一切ないのだ。だから、慣れて貰わなければ、困る。

そんな声を聞きつけたのだろうか?


(あら、アナタたち何を見ている……の?)


先ほどまで元居たクニの様子を見ていたらしいアマテラスもやってきた。

興味深そうに光景を覗き込み、俺達が見ている船団とその先頭に立つ勇士を見て動きを止める。

おや? 何か気になる事でもあっただろうか?


(うん? どうかしたのか、姉上?)

(このヒト……)

(この勇士が、何か? かつて姉上に無礼でも働きましたか? であるなら処さねばなりませんが)

(そうじゃなくて! ……このヒト、イヨの未来のお婿さんだわ)

(((は?)))


思いもよらぬ言葉に、俺達は一斉に思考を止める。

えっと、今何と?


(あの子が言っていた、未来の旦那様の特徴そのものなのよ、このヒト! ああ、もう本当に予言が当たっているじゃない! 約束守らなくちゃいけなくなったわ!!)

(や、約束?)

(そう、イヨから、「未来の旦那様が本当に現れたら、その道には苦難が多いので、助けてあげて」と頼まれたのよ)

(……姉上は、その頼まれごとを、受けたと?)

(本当に、そんな勇士が現れたのなら、って)


呆然とするアマテラス。

もしかすると、勇士が現れずに、イヨが自分と同じ独り身の道を歩むことを期待していたのだろうか?

とはいえ、約束か。それなら、仕方ない。


(手助けは、ダンジョンの機能で直接行うのは禁止だ。もっとも、俺とハルカが為したように、写し身を使ってなら、許そう)


そう言って、まずは手本を見せようと、適当なモンスターへと意識を宿そうとした、その筈だった。



(それがどうしてこんなことに……)


俺は改めて自分を様々な感覚で俯瞰する。

見事なまでの巨木だった。

俺はこの変異した巨木に、意識を囚われてしまったのであった。

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