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よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~  作者: Mr.ティン
間章 ~時代の間のこぼれ話~

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武を求めた者

【戦の王子】


まるで意味が解らなかった。


「……は?」


姉上が側役にしたという男。そいつをちょっと撫でてクニから追い出そうとしたら、俺は空を舞っていた。

そして、再び地に足がついた。


「な、にが?」


何が、何が起きた?

今起きたのは、何だ?

思い起こせ。俺は何をされた?


初めは……そう、俺は、男の顔を撫でようとしたら、掠めただけで避けられた。

そこはいい。まだわかる。

その後に、男が伸ばしたオレの腕に触れた。

そこからだ。

グン! と腕が引かれた。

いや、引かれていない? 俺の腕がそっちに自分から動いている?

それだけじゃない。

力の向きが変わった。

ギュっと回る感覚。

目に入る光景も回り、岩の床が上から降ってくる。


(あ、これ、死ぬ)


この勢い。この力。

このまま岩の床が上から落ちてきたら、俺は死ぬ。ソレが判る。

だが、そうはならなかった。


クン!と腕が引かれたと思ったら、もう一度光景が変わった。

力が勢いを消して、フワリとする。


スタン。


地に、足がついた。


起きたのは、それだけだ。

だが、まるで意味が解らない。



姉上の祈りから、俺の力はすごい事になった。

あの精強な筈のクナの兵をまとめて吹き飛ばせるほどになったのだ。

父上の仇の魔剣を持ったあいつ──ヒミクコやクコチヒコも取り逃がしたが、もう負けはしないのもわかった。

ヒトだけじゃあない。木々をなぎ倒す様な大猪や、ヒトを呑む様な怪鳥など、どんなケモノも狩れるようになったのだ。


だが、この男。こいつのやった事は、なんだ?

強いってのは、力が強い事だと思っていた。

力があれば、姉上も、兄上も、皆も、クニも、全部守れると思っていた。

だってそうだろう?

父上の力は足りなかったから、俺達のクニは滅びかけた。

俺達の力が足りなかったから、姉上をせめて逃がそうとした。

そして、力を得たから、俺達はクナの軍勢に、勝った。

全部力だ。

力があれば、強ければ。全部はそれで決まる。


だけど、そうじゃない強さがあるのか?

この男が見せたような……。


そう思ったら、男に詰め寄っていた。


「お、お前凄いな!? 何だ今の!? グッと来てギュッと回って、フワッとなったぞ!?」

「あ、ええ今のは、ちょっとした戦の技で……」


俺を簡単にあしらった男は、のけぞりながらそんな事を言った。

戦の技?

……技!?


「戦の技!? そんなものがあるのか!? 俺も出来るようになるのか!?」


俺は男に更に詰め寄った。

力がある俺を、あんな風にあしらえる、そんな力とは別の強さ。

もし、そんな強さが有るのなら、俺も身に着けたい!

そして、その強さでもっと姉上達を、皆を守れるようになる


「え、ええ、多分……」

「よし、教えろ! それなら姉上の側役になるのも許す!」


こうして、俺はこの男に戦の技を学ぶようになったのだった。




(……そういえば、俺って、師匠を追い出す気で居たんだっけ)


呼び方を男から師匠に変えた後、そんな事を思いだしたが、その頃にはそんな気は完全になくなっていた。

今も稽古の最中だ。

師匠は兄上の政の手伝いもしていて忙しい。

俺も他のクニの救援や狩りなどで忙しいから、何時も稽古をしてもらえるわけじゃない。

その分、出来る時はしっかりと教えを受けている。


改めて教えを受けていると、否応にも判る。

師匠は、とんでもなく強かった。

戦の技ってのは、奥が深い。

俺がやられたように、あんな風に人を投げ飛ばすとかだけじゃなかったのだ。

槍、剣、弓。どんな武器にも、ただ力を込めて振るうだけじゃない、技──理合いがあった。


「とはいえ、純粋な力で押すのも、また合理ですから、そこは状況次第と言えるでしょう」


師匠は、そんな事も言う。

まあ、それは俺でもわかる。

雑兵を相手するのに、いちいち個別に技を当てていくよりも、纏めて薙ぎ払う方が良い。

ただでさえ数が多いのだから、個別に相手などしていられない。

大物のケモノを相手するのも、相応の力が無ければ毛皮一枚突き通せないだろう。


「あとは、間合いです。攻撃は届かなければ意味が無い。当たらなければ意味が無い。理合いとは攻撃を当てる為の工夫と言えます」


俺が放った突きを、師匠は下がって避ける。

全ての力で踏み込み、伸ばした手。

完全に伸びきった先の更に指一本向こうで、師匠は涼しい顔をする。


「本当は、もっと大きく避けた方がいいのですけどね」

「そうなのか?」

「ある種のカミの加護を得ていたりすると、この伸ばした手から何か飛んできたりもしますから」


なるほど、言われてみればそうだ。

クナのクニそのものは、兵もクコチヒコの様な将も、そんな力は使ってこない。

だが、傘下のクニの中には、火や水を操ってくる奴らも居た。

他にも石礫をすごい勢いで投げてきたり、腕に纏わせて殴ってくる奴なんて奴とも戦ったことがある。


「そういう意味で、相手の見極めは必要と言う話です」

「……そうだな」


相手の見極めか。

それを考えると、師匠をいきなり追い出そうとしたのは、俺の相手を見る目がまるで駄目だった証拠だな。

同時に、俺達が気付かなかった師匠の強さを、姉上はわかってこのクニに迎え入れていた。

やはり、姉上はすごいな。



「……そういえば、イズモの姫とはその後どうなのです?」

「ん? ああ……それか」


不意に師匠が投げかけてきた言葉に、俺は思わず言葉を選ぶ。

先日の事だ。

俺はイズモというクニの救援に向かった。

山のヌシともいえる多頭の大蛇に苦しめらられたイズモから助けを求められたのだ。

その際は師匠に心配されたが、兄上の授けてくれた策で、簡単に倒すことが出来た。

大物も、酒には弱かったらしい。

供物として出された酒に飛びついた多頭の大蛇はあっさりと酔いつぶれて、俺は横たわる蛇の首をどんどん斬っていっただけ。

あんなに拍子抜けしたのは、初めてだった。


(そいうえば、あの時見つけた剣は、いいものだったな)


多分、地の底への道から出て来た獲物も、多頭の大蛇は食っていたのだろう。

その獲物が携えていたらしい剣が、多頭の大蛇の腹の中から出て来たのだ。

腹を捌くのに使っていた剣が欠ける程、その剣の切れ味は鋭かった。

だから、元々使っていた剣に加え、愛用している。


(この話を師匠にしたら、妙な顔になって居たな……?)


そんな事を思いだす。


で、だ。

その時、大蛇の生贄にされそうになっていた、長の最後の姫に、俺はどうも気に入られてしまったらしい。

俺を追ってこのクニにやってきて、俺の妻だと収まってしまった。


「いや、なあ。姉上も兄上もまだ相手がいないのに、俺だけ嫁を娶るのも、なあ」

「……あの二人は、もう無理では?」

「言ってやるなよ……」


巫女であり長である姉上は、巫女と言う立場と、その力を失わない為にも独り身である、とされている。

だが、俺は知っている。

姉上も相手が欲しいと思っていることを。

力や巫女の立場が邪魔しているから、必死に次代の巫女を育てようとしていることを。

でも、なあ。姉上ほどの力となると、早々育つものでもない。

当面は見つからないだろう。


兄上の方は……多分、本人にその気がない。

兄上は、俺以上に姉上に傾倒しているからな……。

姉上以外の女は、多分瓢箪程度にしか見えていないのではないかな?


その点で、俺はまだ人並みか。

イズモの姫は、まあ、良い娘だ。

添い遂げるのも、まあいいと思っている。


「……なるほど、なるほど」

「何だよ師匠……何を納得したんだよ」

「いえなに……次代にも期待できそうだなと」

「……何言って!?」

「はっはっは」


この師匠、腕も知見も申し分ないが、ヒトをこうして揶揄う事があるのが質悪い。

俺は師匠を追い回すが、師匠の動きは軽く、霞のようにとらえ切れない。

くそっ厄介な!


腹立たしさと共に、俺は内心で誓った。

いつか思いっきり一撃を入れてやる、と。


その願いが叶うのはかなり先になることを、俺はまだ知らない。

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― 新着の感想 ―
全然言及しないから神話のない平行日本から転生してきたのかと考えてましたけれど、天叢雲に心当たりがあるならそうでもない? ……それにしてもこの次男が後に娘の求婚者を追い回す小姑ムーヴをすると思うと面白い…
まさか、影の薄い月読命ポジションな長男を、「シスコンすぎて、姉以外の女は路傍の石として認識している」というキャラにしてくるとは...( ゜д゜)...ポカーン
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