表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~  作者: Mr.ティン
間章 ~時代の間のこぼれ話~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/60

神仙に至り、その先へ

コレは、弥生時代の話になる。


海底火山とそこからの地脈に沿う形でダンジョンコアの領域を海底に広げている際。

ふと気分転換にあちこちの集落を見て回っていると、奇妙な者に気が付いた。


(……何やってるんだ、このヒト)

(あら、アナタ。何かあったの?)

(いやな……なんか、溶けてるヒトが居る)

(………溶けてる?)


コアのネットワークの中、肉体のイメージで、首をかしげるハルカ。

いやまあ、首をかしげるのもわかる。

溶けてるって何だよと、そう思ってしまうのも無理はない。


(ほら、コレだ)

(あら、ほんとう。溶けてるわね、このヒト)


だが、実際に目にすると、そうとしか言いようが無いのである。

とある集落の近く。

岩に穿たれた洞窟で、一人の男が静かに座していた。

その輪郭が、うっすらと虚空に溶けているのだ。

まるで水彩の絵の具に水を混ぜたような、ぼんやりとした溶け方だ。


(どういう現象なんだ、コレは……?)

(……あら? このヒト、大陸のヒトじゃないかしら?)

(うん? そう言えばそうだな)


ハルカに言われ改めて観察してみる。

当初は身体が溶けている事に意識が引っ張られていたが、改めて見ると顔立ちや服装は大陸のそれだ。


(……ああ、思いだした。西から来た船に乗っていた、一人か)


一度ヒントが判れば、後は幾らでも情報を辿れる。

そう言えば、来て早々に術らしきものを発現していた男が居た。

この溶けている男は、まさしくその当人だ。


(いやでも、アレから100年近くたっているのに、変わらなさすぎないか?)


当時でも壮年程度の年齢であった筈だ。

それが百年経ってもそう変わらないように見えるのは、術を使える様な者とは言え流石に異常だ。


(少し、じっくり調べてみるか)


俺は、彼について詳細を調べるため、コアの機能を立ち上げた。

すると、そこには驚くべき情報が示されていた。


(徐福!? このおっさんが徐福だと? えっ、となるとあの時矢を放ってたのは、もしかして始皇帝か!?)


秦の始皇帝に命じられ、東方の蓬莱山に至るため、船出した方士。

この時、俺はようやくヒュージ・メガロドンを攻撃していた相手を知ったのだった。

更に、驚きは続く。


(……凄いな。このおっさん、本当に仙人に至ってる)

(えっ、それはどういう事?)

(もう、肉体の殆どを魔力に置き換えているんだ、このおっさんは)


仙人とは、道教などで様々な修行の果てに天然自然の気を取り込み、不老長寿や仙術などの超常の力を得た存在だと言える。

そして、この日本では、天然自然の気を取り込むとは魔力をその身に宿すのに等しい。

魔力を取り込み続ければ、ヒトからは外れていく。

後の姫巫女達がいい例だろう。

彼女達は、俺達の意思つまりダンジョンコアの魔力流そのものに触れてしまったために、一気に人の枠を超えた。

それに対してこのおっさんは、魔力を何らかの形で取り込み、同時に肉体を魔力に置き換えていったのだろう。


(多分、所謂仙人になるという、肉体を天然自然の気と一体化する為の修行が、モロに効果があった形になるんだろうな)

(ふええ……凄いのねえ)


体系化した技術で、実際に不老長寿に至れる。これはこれでとんでもない事だ。


(そうなると、もしかしてワタシ達みたいになってしまうのかしら?)

(……いや、そうはならないだろう)

(そうなの?)

(ああ、この溶けている姿がその答えだ)


俺は、コアの解析の結果に目を通す。

そこには、このおっさんの行く末が予想されていた。


(こうして、身体が溶けているだろう?)

(ええ、そうね)

(つまり、このおっさんは今まさに、魔力を取り込む段階から天然自然の気と一体化する段階に進んでいるんだ)

(……そうなるとどうなるの?)

(このおっさんも、自然の一部になる)


俺の言葉の意味がピンとこなかったのか、ハルカの困惑が伝わって来た。


(……どういうこと?)

(一言でいえば、このまま溶けて消えるって事だ)

(えええええっ!?)


そう、天然自然の気と一体になるという事は、身体を魔力に置き換えた上で、その魔力を自然に返すのに等しい。

理論や現象で言えば、ダンジョン機能で様々な物質を魔力に還元するのと同じ事。

それを、自分の意思で行っているのだから、恐れ入る。


(でも、なんでそんな事を? 消えちゃうんでしょう?)

(ああ、だが同時に永遠に消滅しない。自然の気と同化したからな。これも、形を変えた不死だ。仙人としての不死を望んだからこその境地なのだろう)

(……ふええええ!?)


おそらくこのおっさん──徐福は、修行が余りに上手く行き過ぎたのだ。

そして、そのまま仙人として更なる高みを求めてしまった。

その結果が、今こうして溶け始めている状態だ。


最早、その意思も肉体と同じく、自然に溶け始めているだろう。

それは輪廻の枠からも外れ、永遠に至る道。

徐福はそれを望み、そして至った。


(ただ魔力に還元されるなら、そこに意志は宿る。だがここまで極まっていると、自然化の要素が強すぎて、魔力に意志の残滓すら残るかどうか)

(……と、止めないの?)

(本人が望んで、そしてダンジョンの機能に影響がある訳でもない……好きにさせよう)


一応、ダンジョンコアの機能に介入するようなら、止めに入るつもりだった。

しかし、解析でもコアの感覚でも、徐福は只自然に消えているだけのように見える。

ただ、ある種の感嘆は感じずにはいられない。

そこまでするのか、と。


そのまま徐福は、その後ゆっくりと時間をかけて溶けて行った。

残滓すら残さず、まるで誰も居なかったかのように。

ただ、彼が連れて来た集団は、集落としてこの後も残り続け、この国へ少なからず影響を及ぼしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ