とある学校の日本史授業風景 1コマ目 ~日本史を学ぶにあたって~
とある高校。
窓の外で桜が咲く中、教室では授業が始まろうとしていた。
「さて、それじゃあ授業を始めようか。まず初めに、改めて名乗っておこう。日本史担当教員の、三上だ」
まだ年若い教師が、黒板に自身の名を書き生徒達を見渡す。
「先生、知ってます」
「俺らの担任なんだし、名乗りとか今更じゃね?」
一方の生徒たちは今更といった感。
事実教師はこのクラスの担任でもあった。
「確かに、今更だが……まあ、形式的にな? とにかくこれから一年間、皆には社会科の内で日本史を学んでもらう」
そこで一旦言葉を区切った教師は、生徒たちの様子を眺めた。
「日本史というのは、世界中から見てもかなり特異な経緯をたどっている。それが何故か判るかな?」
おもむろに教師は一人の生徒を指名する。
生徒は、おずおずと答えた。
「えっと、ダンジョンがあるから?」
その答えに、教師は満足げに頷いた。
「そうだ。日本には、古来から……恐らく、歴史が始まる以前から、妖域や魔穴……現代で言うダンジョンがあった。これが、世界の歴史を見てもかなり特徴的にする要因だ」
説明しながら、教師は大まかな日本地図と、各地の主要なダンジョンを記載していく。
そしてその横に、世界と書きその下に『ダンジョンが無い』と記した。
「実際、現在でもダンジョンのある日本と他の国々とでは、常識や環境が大きく異なる。日本史と並行して皆が学ぶ世界史、つまりダンジョンの無い国々の歴史。これらを知るのも、その辺りの違いを認識しておかないと、国際化が進む現在、一般常識が欠けたまま世に出る事になってしまうからだ」
そう告げるも、今一生徒たちの反応は薄い。
生徒達にとって、ダンジョンはあって当然のものであり、無い環境というのが理解しにくいのだろう。
それを把握した上で、教師は生徒達に告げる。
「だからこそ、日本史を通じて日本の特異性を理解してもらうと考えている。日本史を学ぶ意義はそこにあると言っていいだろう」
さらに教師は、日本史担当としての視点になるが、と前置きして生徒達に語り掛ける。
「これは個人的な感想になるが、そういう知識として以上に、他国にはないダンジョンという特色が、日本と言う国の歴史を面白くしていると思う。だから、これから日本の歴史上の出来事を学んでいく中で、『もし日本にダンジョンが無かったら?』そんな歴史のIFを想定するのも良いかもしれないな」
「えー? ダンジョンが無いなんて、想像できないっす」
簡略化された日本の各地にあるダンジョンにバツを付けながら語る教師に、生徒から声が上がる。
「そこはまあ、想像力の問題だからな」
笑いながら黒板に書かれて居た日本地図などを消すと、教師は今度は幾つかの歴史的出来事と、その横に年代を書いていく。
「あー後は、授業中に出てくる年表についてだ。一応先に前置きしておくが、これらは凡その年代表記になる。例えば、今の京都の前身である平安京の成立だが、790年代頃と言った具合だな」
「へー? 何でですかー?」
生徒達から、疑問の声が上がる。その声に応える教師もやや困り顔だ。
「コレはなあ……教える側としても困るのだが学術研究の成果によって年代が変わる件は頻発してな?そもそもダンジョンの影響か、海外との時間のズレなどが起きていたことも解って、単純に西暦などに置き換えるのが難しいと言う問題もあるんだ。この辺りは専門家同士学会で議論しているような話になる」
事実、教師が言うように、様々な事情で海外と日本とで時系列が合わなかったりすることがある。
日本に満ちる濃密な魔力による影響が大きいとされ、歴史学者たちを悩ませる原因となっていた。
歴史を教える側としては、渋い顔をしたくなるだろう。
「だから、凡その年代表記になる訳だ。もっとも、近代になってくると時間のズレ等が是正されてくるのだが、それは追々の話だから今は気にしなくていい」
「わかりましたー!」
明治維新ごろからはズレがほぼ無くなるのだがなあ等と考える教師は、今度は大まかな日本史の時系列を黒板に書き込んでいく。
「なら、今後の授業の大まかな流れを説明しようか。1学期は氷河期時代の初期人類の流入から、鎌倉時代あたりまで。2学期は室町幕府成立から明治維新のあたりまで。3学期は明治期から令和の現代に至るまで。授業のペースに問題が無ければ、そういう進行スピードになる、はずだ」
さらに、教師は各定期試験の想定ペースも追記していく。
生徒にとっては重要な情報だ。
「まあ、授業の進行具合に寄るから、程々にな。で、次回の授業だが、日本の始まりと言うべき時期について学ぶ予定だ。石器時代に縄文時代、弥生時代あたりだな」
それらを書きとったり教科書にマークを入れる生徒達をひとしきり見渡すと、教師は次の回の授業にも言及した。
「予習もしっかりしておくように。っと、そろそろ時間だな。今回はここまでだ」
授業の終了を告げるチャイムの音が響く。
生徒達の礼を見届け、教師は教室から去っていった。




