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よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~  作者: Mr.ティン
参章 弥生時代 ~農耕の始まりとクニの興り~

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19/61

後漢史 東夷伝に曰く、その王の名は、帥升といった

多くのクニが統合されていく戦乱の中、やがて一つのクニが抜きん出た。

幾つもの小競り合いと交易、そして婚姻などで勢力を増し、周辺のクニを糾合していく。

それは規模と指導力、祭祀の権威、カミの強さが噛み合った結果だった。

傍観していて意外だったのは、婚姻関係による繋がりが、カミの後押しを引き出しやすいという事だ。

カミとなった意思としては、己の血が混じるという事を、殊の外重視するものらしい。


こうして外見的には連合体の様相を呈し、中心に立ったのは豪腕と俊敏な才覚を兼ね備えた長だった。

周辺のクニは次々と服属や婚姻を選び、統一が進む。

人々はその統一体を崇め、やがて名を与える。

そうして『倭国』は統一され、『王』が生まれた。


(……倭、ヤマトかあ……邪馬台国でなく?)

(どうしたの、アナタ?)

(いや、この場合生まれるのは『女王』じゃないかと思うわけだ)

(……???)


いや、ヤマトって語感が似ているのもあって、つまり邪馬台国じゃないのか?

そう思ってしまうのも無理は無い筈だ。


(いや、邪馬台国はあくまで、大陸側の当て字と考えるべきで、ヤマトは邪馬台国じゃないのか……? いや、それまでも倭の呼称はあった筈で……ううむ)


だったら女王であるべきだろう。

俺は君臨する『王』を改めて見た。

……めちゃくちゃゴリッゴリのフィジカル強者なマッチョダンディだった。


(何だろうな、この納得のいかなさ)

(……アナタは時々不思議になるわね)


まあ、俺の感想はどうでも良い。

重要なのは、ここに大まかとは言え多くのクニが統一された事だ。


(ヤマトか……まとまりやすい環境と、魔力とカミが噛み合ったわけだ)

(長をまとめるのが、王なのね……)


こうして、多くのクニがまとめられ、統一された。

ヤマトの長は多くの地を統べ、それらから多くの妃を娶り、栄光の象徴となった。

争いは消え、平和が訪れたかのように思えたのだ。


だが、王が得たものは同時に失われるものでもあった。

ある夜、悲劇が起きる。

もっとも長く連れ添い、最愛だった妃が難産で命を落としたのだ。

王は嘆き、理性を失ったように見えた。

王の悲嘆は政治的空白を生み、民心は不安定になる。


(……気持ちはわかる。俺も、ハルカを失った時は後を追ったからな)

(アナタ……)

(だが、それも子供達が成長していて後を託せたからだ。今のあの王は、危うい)


クニの統一には、王という重しが不可欠だ。

この状況で、王が妃の後を追うなどできるはずもない。

だが、後を追いかねないほど嘆く王の在り様は、統一したクニを揺るがしかねない。


(ワタシ、悲しいわ……あの二人は、とても仲良かったもの。でも、どうしようもないわね……)

(……うん? いやまて、あの王、何をしようとしている……?)


王は妻を取り戻そうとした。

古来、死者を蘇らせるという願いは禁忌と希望を同時に帯びる。

王はダンジョンの最奥、コアの間に妻の遺体を運び、そこで復活を願ったのだ。

人々も、不思議な力の源──魔力が、ダンジョンコアから発生していることを感じ取っていたのだろう。

奇跡を起こすために、最も神秘が濃いダンジョンの最奥での儀式に賭けたわけだ。


確かに、ダンジョンは人間の誓いを聞く器にもなりうる。

魔力が意志に影響を受けるなら、何らかの事象が起きても不思議ではない。

王の膨大な魔力と切なる願いが、ダンジョンのコアの間、そこに揺蕩う濃密な魔力に注がれた。


(王の気持ちは解る。だが、無理だ。こればかりは……)

(でも、信じたいのがヒトなのよね……)


魔力は生命の働きを強化することはできる。

身体の動きを強化し、傷を修復する生命本来の動きを強化して癒すことはできる。

もしくは、魔力で傷口の肉体を『新たに作る』事も可能だろう。

モンスターが魔力により生成できるように、生命をうみだすことも可能なのだから。


だが、今回は無理があった。

時期もあったのだろう。既に妃の肉体は腐敗が始まっていた。

王の願いで、魂と言うべき妃の意思が混じった魔力がその遺体に宿る。


結果として起きたのは、遺体に残留した妻の魔力と祭祀的残滓が結びつき、外見上は動く『生ける屍』だった。

動くが、朽ちている。

言葉を発すれば、ソレは王の名を口にした。

腐敗した身体に走る痛みと苦しみを訴えながら。

王は一瞬の希望の後、恐怖に顔を歪めて逃げだした。


(……およそ最悪の結末、か)

(王は逃げたのね……でも妃は王を追ったわ)


王は恐怖のあまり、ダンジョンを一気に駆け抜けた。

一方の妃も後を追うが、腐敗した身体では走ることもままならない。

何とか王は出口までくると、その剛力で巨石を動かし、ダンジョンを封鎖してしまった。

通路の遠くで光が閉ざされる様を見て、妃の躯は嘆きを叫んだ。


(こんなの、哀しいわ。妃はもう、ずっとこのままなの?)

(復活を願った王がにげてしまっては、な)


俺はしばらく傍観した。介入する理由は無かった。

だが、コレは流石にあんまりだ。

このままだと、妃はこのままだ。

既に屍である以上、死ぬことも出来ずに永遠に闇に封じられることになる。


(いや、既にヤバいな。嘆きが魔力に混ざり始めている)

(ええっ!?)


出口を封じられたダンジョン内は、急激に魔力濃度が増している。

そこに嘆きに満ちた妃が居るのだ。

このままでは、その嘆きを宿したカミが生まれかねない。


(やむを得ない。妃を、祓おう)

(……そうね、終わらせてあげないと)


俺は、ダンジョンのある機能を立ち上げる。

物質の魔力への還元。

元はダンジョン内で放置されるモンスターの骸などを処理する機能だが、極論を言えばその効果範囲はダンジョン内のあらゆる物質に適用できる。

嘆く妃の躯を、俺は魔力にかえした。

ダンジョンの出口を塞ぐ岩の裏で、妃の骸が消える。

後に残されたのは、妃が纏っていた所属と装飾品だけ。

それも、何時かは朽ち果てるのだろう。

同時に、国も。


(……また、争いが起きるな)

(ワタシたちに、何かできることはあったのかしら……)


妃の嘆きは、あと一歩間違えば負の感情を宿したカミとなっていただろう。

俺の生前の知識で言うなら、怨霊と言える存在に。

怨霊となれば、夜に呻き、農地を荒らし、家畜を病ませていたかもしれない。

その最悪の事態だけは防げたわけだが、一方で既にヤマトの崩壊は始まりかけていた。


ヤマトの王は内面の傷を抱えながらも、国の秩序を保とうと努めるも、一度見せた醜態に人心は揺れてしまった。

後を継ぐべき王の子たちは、妃の出であるクニを優遇しようと動き始めている。

最愛の妃の子らも例外ではなかった。

妃を失うきっかけ、難産で誕生した王子は、父の悲嘆を無意識の忌避を受け続けたが為に、端緒に権力欲を露わにしていく。

彼らは父の衰えを補うどころか、クニを荒らす元凶になった。

やがてヤマトのまとまりは完全に崩れ、支配体制は細分化し、元の百を超えるクニへと逆戻りしていったのだ。


その全てを、ハルカと俺は見続けていた。

人の歴史は人に任せる。

手を出せば、余計に荒れるだけだからだ。


ただ、希望はある。

いや、知っている。

この乱れた百を超える国々を、まとめる存在が現れる。

それは確信だった。




【王の述懐】


王は王である前に、一人の老いた男になっていた。

玉座の重みは骨の隙間に食い込み、朝の儀式の太鼓の振動が腹にも胸にも響く。

外面には威厳があるべきだが、内面は常にあの夜の影を引きずっている。


(この痛みは、臣下の知るところではないだろう)

(だが王の体は公器だ。私情は抑えて見せねばならぬ)


王の思考は単純に折り合いがつかない。

統治の技と、夫としての喪失感が互いにぶつかり合う。

妃を失った後、民衆の前に立つたびに、彼は自分が王として演じるべき輪郭にすら疑問を抱いた。

だが、国家は疑問で治められはしない。


王はあの時、出来るともわからぬ復活に賭けた。

王は他のどの妃よりも、最愛の一人の女と共にあった日々を取り戻したかった。

地の底への道、その最奥の石室に、遺体を安置した。

その後はひたすらに願を捧げ、歌を重ねた。

用意した護符は、外つクニよりやってきた者達の系譜からもたらされたものだった。

王にはわからぬ、外つクニの文様が記されたそれは、死を司るカミの力を宿すという。

それらを掲げながら、王は嘆きを連ね、死と司るカミへと訴えた。


かくして、願いはかなえられた。

王の願わぬ形で。

妃は確かに蘇った。骸のままに。


(妃の顔を見たかった。だが、真に願うべきは妃の平穏であったのだ! あのような……あのような……っ!)


悔恨が胸に湧き上がる。

腐り始めた身体を起し、王の名を呼ぶ妃。

その様は、王の不遜な願いを糾弾するかのようだった。

王は逃げ、地の底への入口を封じた。

衝撃的な行為だった。

彼の手は巨石を動かすほど強かったが、それは絶望に駆られてのことだ。


(あの時より、かの道は封じたままだ。その内は如何なる様であろうな)


地の底への道からは、民の糧となる獣が湧く。

長らく封じたあの道には、多くの獣が溢れている事だろう。

妃の躯は、それら溢れた獣に呑まれてしまったのだろうか。

だが、岩の封印を解くことはできない。

そのことで、民が不満を募らせ、人心が乱れても。


王はまた、後継者選びで過ちを犯した。

各妃は、元のクニの優位を為さんと、後継者争いを繰り広げた。

喪った妃はもっとも序列が高かった。

本来その子らが優位に立てていただろうが、かの女が居ない為に後ろ盾に欠けた。

何より王自身が、妻の死の原因となった王子への感情を抑えられず、結果他の王子も優位に立てない。


結果、クニは割れつつある。

王も、様々な手を打った。

外つ国、遥かなる帝国。かの漢の帝へ使者を送り、貢ぎ物を捧げたのも、その一つだ。

クニを平定する際に生じた、百を超える生口(奴隷)を捧げ、権威と後ろ盾を得ようとした。

だが、大国と言えど漢は異国。

血気に逸る者達の目には入らず、威はこの地に及ばぬ。


何より、王自身も最早長くない。

その身を蝕んでいるのは、己自身への絶望だった。

今更誰を後継者に指名しようとも、世は再び戦乱に戻るだろう。


だが、最後の役目として、それを為さなけらばならなかった。



翌日、王は一人の王子を指名すると、一人姿を消した。

その後の王の行方は誰も知らない。

ただ、かつて王が封じた地の底へと続く道に異変があった。

封印の岩が動かされ、また閉じられた形跡が残されていたのだ。


民は、王は地の底へと姿を消したのだと語り合ったという。


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