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よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~  作者: Mr.ティン
弐章 縄文時代 ~狩猟生活から定住化へ~

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とある学校の日本史授業風景 3コマ目 縄文時代

教室はまだ朝の静けさを残していた。

黒板には大きく描かれた日本地図と、『縄文時代』の文字が書かれている。

教師の三上は、教壇に立ち、生徒達を見回した。


「今日は旧石器時代から縄文へ、どうして人々が動き回る生活から同じ場所に住むようになったのかを話そう」


教師は古い地球儀を指さすように空中に手をかざした。


「旧石器時代、人は氷河に囲まれた世界を生き延びていた。獲物とともに移動することが前提の生活だ。ところが約一万年前、地球が温暖化を始める。氷床が後退し、海面は上昇する」


黒板に書かれた日本地図。そこへ、教師は簡単な線を引いていく。

各地で海岸線から大きく内陸へ食い込んだそれが、氷河縮小に伴う海面上昇を示していた。

それらの横に『縄文海進』の文字が書かれ、生徒達はノートを取る。


「海岸線が変われば、動植物の分布も変わる。寒冷帯だった場所は森へと変わり、水辺の資源が豊富になる。気候の安定化が、人びとの生活の基盤を変えていったわけだ」


同時に、教師は『獲物の変化』の文字を追加する。


「気候の変動にともない、寒冷に適応していた大型の動物は姿を消し、代わりに中型の鹿や猪などが狩りの対象になった。狩猟集団は、獲物を追い移動する。だが森が広がり、水産資源や木の実が手に入りやすくなると、移動の必要が減る」


教師は生徒の反応を見回す。


「採集や漁労が安定的な食料源になれば、同じ居住地で暮らしを続けられる。道具や住居に手をかけ、集団が拡大する。これが縄文時代の定住化の鍵だ」


さらにここで、教師は一文を加える。

書かれた『ダンジョンによる定住化の促進』に、生徒達がざわめく。


「ダンジョンが関わって居たんですか?」

「その通りだ。古くから存在するダンジョンの傍には、多くの場合の集落の遺跡や痕跡が存在している。モンスターと言う獲物を、古くから狩りの対象として見ていた証拠だ」


教師は、教科書のとあるページを告げる。

生徒達がページを開く音が響く中、教師も資料と地図を広げる。


「定住の証拠は、まず一つに貝塚だ。食べた貝殻が積み重なった場所で、食成分や季節の利用、食べ方、さらには病気や寿命の手がかりまで与えてくれる。貝塚からは骨角器、土器、時には人骨や動物骨が出る。これらはその場所で生活が継続していたことの物証だ」


教科書には、貝塚やそこから発掘された品々の写真などが示されていた。


「もう一つの証拠が、その横の写真にあるような『魔石塚』だ。その名の通り、モンスターの体内にある魔石を、当時の人々は食用に適さないと廃棄していた証拠となる」

「マジで?」

「換金できそう」


魔石の存在に、一部の生徒が目を輝かせる。

各種エネルギーに利用可能な魔力を蓄えられる魔石が大量に埋まって居る様は、見方を変えれば宝の山にも見えるだろう。

しかし、教師は告げる。


「流石に長く放置され魔力は抜けきっているため、個々の魔石は金銭的価値が薄いぞ」

「なーんだ」

「そもそも、歴史遺産を金目的で換金するなと言う話だ」


同時に、そもそもここの魔石は小ぶりなものが殆どで、仮に魔力が残っていてもやはり価値は低いだろう、と教師は続けた。

他にもある時期に、別用途で魔石が掘られたこともあり、現存する魔石塚の数は少ないのだとも。


「これら出土物の種類や層位を見れば、何がいつどのように使われたかがわかる。例えば木の実を保存した痕跡、漁労用の網を編む道具、石器の使い分けなどだ」


他の出土品についても、教師は語る。


「縄文の土偶や祭祀跡は、単なる装飾品ではない可能性が高い」


教師が開いた資料に映っているのは、独特な形状の土偶や、女性型の像。祭祀跡などの痕跡だ。


「このような形状の土偶を、見聞きしたことはあるだろうか?」

「見た事あるっすよ」

「だろうな。このタイプは、遮光器土偶と呼ばれている。目の付近の形状が、寒冷地に住む人々が使った遮光器に似ているからつけられた名称だ」


土偶と聞いて多くの人々が思い浮かべる独特の形状の人形。

資料には、それらの写真が示されている。


「この写真では破損はないが、多くの場合出土した土偶はいずれかの部分が意図的に破壊されている痕跡がある。これは原始的呪術儀式に使用されていたというのが有力な説だ」


他にも資料に映っているのは、独特な形状をした像だ。『縄文の女神像』『縄文のビーナス』そんな名を付けられた像は、デフォルメされつつも女性がモチーフであることを示している。


「このように出土品は女性像が多いこと、胎児や豊穣を彷彿とさせる形態、割り当てられた出土状況から、生命や土地、獲物に“霊性”を見出す考え方、すなわち原始的アニミズムがあったと推定される。自然と人間を分けず、森や水や石にも力を感じる世界観と言うわけだ。原始宗教の萌芽ともいえるだろう」


そして教師は、おもむろに指先に炎を灯した。

魔法系のスキルだろう。

習得もし易い系統だけに、生徒達も驚いた様子はない。


「これら魔法スキルの始まりも、この時期だったとされている。アニミズムを元にした魔力と自然との融合が、始まりは精霊として、その後は様々な術師系統へと発展していった訳だな」


指先を振って火を消した教師は、ひとしきり資料での説明を終えると、黒板に書かれた地図に、幾つかの丸を示した。

追加で、それらに地名を記載していく。


「日本各地に有名な縄文の遺跡がある。関東の加曽利貝塚や野川中洲北遺跡、長野県の床尾中央遺跡、そして北海道・北東北の縄文遺跡群の一つであり、重要拠点が青森の三内丸山だ」


教師は地図に大きく青森の位置を指した。


「三内丸山遺跡は縄文の大規模集落。多数の竪穴住居跡、掘立柱列の痕跡、大きな広場、そして膨大な貯蔵や加工の痕跡が見つかっている。樹木資源や海産資源を利用した高度な生活の痕跡で、定住・集住・社会的な役割分担があったことがうかがえる。ここから、当時の人びとが単なる『狩りと採集』の域を超え、生活の拠点を計画的に築いていたことが読み取れるわけだ」


採集されていたとされる、ドングリや栗。

それらを使用し縄文時代の料理を再現した様子などが、資料に描かれていた。


「このような採集生活は長く続く。冒頭で説明した温暖期が終わり、寒冷期による環境の変化が訪れる数千年もの間、人々は同様の暮らしを続けていた訳だ。だが、何事も変化はある」


教師は、九州の北部に丸を付けた。


「また縄文後期になると、北九州の一部で既に稲作が始まっていた痕跡が残っている。佐賀県の菜畑遺跡などだな。恐らく日本最古の水田跡であるこれらを鑑みるに、稲作が朝鮮半島から伝わった可能性は高いと見られている」


次の時代へと移る予兆があったと見るべきだろう。そう教師は続け、黒板へと授業のまとめを記していく。


「これらの内容は、当然テスト範囲だ。主要な内容はしっかりと覚えておくように」


告げ終わるころ、チャイムの音が遠くで鳴る。

教師の三上は本を閉じ、生徒達を見渡した。


「次回は、弥生時代に入る。気候の変動による海外線の後退が生んだ平地と湿地の拡大。そこに現れる最適な穀物がテーマになる。予習しておくように」


そう告げると、教師は教室を去って行く。

生徒の声は小さく、でも確かに次の授業への期待でざわめいていた。

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― 新着の感想 ―
ここからどれだけ実際の日本史とかけ離れるのかが気になる。 史実だと今の弥生系日本人は元々住んでいた縄文系日本人とは別の血統だから魔力に適応出来ずに魔法が弱くなったりするのかな? あれ、と言うことは魔法…
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