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よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~  作者: Mr.ティン
弐章 縄文時代 ~狩猟生活から定住化へ~

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三内丸山は縄文時代の代表的な遺跡である

ダンジョンコアとして過ごしていると、ひとつの問題が判明した。


(時間の感覚が、狂うな)

(そうねえ。外ではずいぶんと時間が経ったみたい)


そう。生身の肉体ではなく、ダンジョンコアに意識だけある状態は、時間の感覚を狂わせるのだ。

少しダンジョンコアの機能の強化を考えていただけなのに、いつの間にか時間が一気に飛んでいる。


(とはいえ、進捗も進んでいないからな……)


結局のところ、ダンジョン機能のアップデートは、当初望んでいた通りにはならなかった。


(駄目だな。どうにも魔力そのものの特性を変えられない)


魔力が海水に触れた際の劣化、この特性を結局変えられなかったのだ。

ただ、幾つかの手掛かりはあった。

旅の途中で見た精霊や呪術。これらを使って、何かできないか?

そう考え、幾つかの手段を実験してみた。

例えば魔力を劣化させる海そのものの精霊化だ。

コレは正直な所失敗に終わったのだが、幾つかの成果もあった。

例えば、海水そのものを精霊化することは可能な点。

土器などに入れた限られた量の海水は、精霊化が可能だったのだ。

だが、その精霊化した海水を海に戻すと、精霊化を及ぼしていた魔力が一気に拡散し、精霊状態を維持できなくなる。


(もしかして、魔力濃度の問題なのか…?)


いわば、砂糖をコップの水に入れれば甘いが、海に幾ら入れても海水が甘くならないような物。

魔力は、海水に触れると劣化するのではなく、むしろ海水に溶けやすくて拡散され希薄され過ぎて、その特性が維持できなくなるのだろう。

事実、列島各地の湖は、ある程度その場に水をたたえたままの為精霊化を確認できた。

俺が行うまでも無く、各地の祭司が水の精霊として使役するのを確認できていたのだ。

一方で、流れのはやい川などの水は、精霊になる間もなく海に注がれてしまう。

これが、魔力が海に弱い現象の正体だった。

そして、魔力そのものの特性は、ダンジョンのシステムでの干渉は不可能。

海は隔てられていないため、もし精霊化や魔力での干渉を成立させようとするなら、それこそ海の水を砂糖で甘くするような作業が待っている。


(……流石にそれは無理だ)

(そうなの? 時間をかけても?)

(……俺が目覚めてから数万年魔力を既に流しているんだぞ?)

(確かにそうだわ!)


既に数万年も魔力は海に触れ続けているのだから、何か起きていてもおかしくない筈だ。

こうして何も起きていない以上、海を魔力でどうこうするのは無理筋だろう。

俺とハルカは、途方もない話にコアのまま天を仰ぎたくなった。


ここまでで、実の所数百年経っている。

何しろ、精霊を意図的に作るのも、魔力が自然現象と馴染み切るのにある程度の時間が必要になるなど、気長な作業が必要なのだ。

だがいろいろと判った事で、やれることも見えてきた。


(逆に考えよう。あくまで海の精霊化はあくまで手段だ。要は本来の目的さえ達成できればいい)

(……目的?)

(先の噴火が、海底起源だったことだ)

(ああ! そういえば!)


推定だが、九州の南の海底にある火山こそが、九州南部を火砕流で襲い大規模な津波を引き起こした原因の筈だ。

つまり、この海底火山をどうにかして地上と同様にダンジョンコアのネットワークに組み込んでしまえば、問題は解決する。


(でも、どうやって?)

(コアの基になる魔石を海底の火山の地脈に接続できれば、コア化は可能な筈だ。つまり、そこまで魔石を運ぶモンスターを生成する)


俺は九州南部のコアにアクセスし、あるモンスターを生み出し始めた。

幸か不幸か、前回の噴火により九州南部はほぼ壊滅していて、多少モンスターを生みだした所で見る者は居ない。


(耐海水、耐水圧を考えるなら、無機物の……そうだな、ゴーレムタイプが良いだろう。魔力の拡散で意識のリンクは困難な以上、自律タイプであるのも必須か)


海底と言う過酷な環境への適応と、海底火山到着のあと、魔石を地脈に接続するため性能。その二つを両立させる。


(生成:『ダイバー・ゴーレム』)


結果現れたのは、体高10mを超えるような、巨大人形だった。

岩の身体を基本に、表面はこの時代に存在しないゴム素材で覆われている。

まるで潜水服を着た巨人の様な見た目に、ハルカは驚きの意思を投げてきた。


(あら、なんて大きさなの!? アナタ、こんなに大きくないといけないの?)

(魔力無補給で動き続けないといけないからな。大型の魔石を組み込む関係上、これ位は必要だった。運ぶコアも内蔵する必要があるしな)


同時に、この1体が終わりではない。

地表は壊滅的な被害を被ったとはいえ、九州は依然活発な火山活動を維持した地下エネルギーの宝庫だ。

それらを元に、俺は次々と同様のゴーレムを生み出していく。


(こんなに!?)

(あてずっぽうになるからな。何とか干渉できる地脈の南端から、少しずつネットワークを広げて問題の海底火山まで到達させたい)


何しろ俺の知識では、海底火山の正確な位置が判らないのだ。

その為、手探りで海底の調査を進めていくことになる。


(長くかかりそうね……)

(ああ。だが、必要な事だ)

(……アナタ、少し休んでも……)

(何、身体が無い以上疲れもしない。問題はないさ)


何より海底火山以外にも、日本の南の海底には、後に被害を引き起こしかねない災害の種が潜んでいるはずだ。

その監視のためにも、ダンジョンコアのネットワークを海底にできるだけ広げておきたい。


(……わかったわ。でも、それが終わったら、また身体を使って羽を伸ばしましょうね?)

(ああ、勿論だ)


こうして、俺はこの後長い期間、海底探査とネットワークの拡張に専念するのだった。



で、あっさり二千年ほど経過した。

そして俺は、北の地で眠らせたアバターに再び宿り……土下座している。


「もう! アナタは幾らなんでも仕事し過ぎよ!」

「……ごめんなさい」


まあ確かに、悪かったとは思う。

何時でも意思を触れ合えるとはいえ、この数百年は拡張したネットワークの安定化に専念しすぎて、ろくに会話が出来ていなかった。

そりゃあ、怒られるのも無理はないと言うモノだ。


「いや、ハルカを放置していたのは、拙かった。本当に済まない」

「そうじゃなくて! アナタはもっと休んでいいのよ!」


謝ったら論点が違うと更に怒られた。

ううむ、休まない事を叱られるのは生前以来か。

どうも心配をかけていたらしい。


「本当に一度熱中すると他に目が向かないヒトね。アナタは」

「……そうだな。ハルカの言う通りだ」


どうも俺は、パートナーに余程心配させてしまったらしい。

これは反省するしかない。


だが、一心不乱にリソースをつぎ込んだおかげで、海底へのダンジョンコアネットワーク拡張は、見事成功したのだ。

俺が作り上げた無数のダイバー・ゴーレムは、目標の海底に沈むと、海底の土を掘り岩盤を掘り当てる。

そこに自身を形成する岩ごと岩盤に一体化し、コアを海底地下へ沈めて行ったのだ。

海底の地脈にアクセスしたコアは、成長し地下エネルギーを魔力に変換するダンジョンコアとなる。

こうして問題の海底火山──恐らく、鬼界カルデラに該当するものや、所謂南海トラフの範囲にまで、ダンジョンコアは広がっていった。

これで恐らく、日本近海での海底火山の災害は防げるはずだ。


「アナタ! 反省していませんね!?」

「はい! ごめんなさい!」


そんな事を考えていたら、内心を察したのか叱られてしまった。

いやまあ、多少休みを挟んでも良かったとは思う。

いっそ、百年単位位で作動するアラームでも設定しておくべきだったか。


「……はあ、しかたないヒトね。この身体の事も、忘れていたでしょう?」

「ああ、いやまあ、な?」


実際に忘れていた。

そして、このアバターで目を覚ましたら驚いた。

アバターを安置していた石棺の周りには様々な装飾品が置かれ、コアの間も何やら様変わりしていた。

呪術的な意味があるらしい、壁画の数々。

叱られていて後回しになっていたが、コレは一体どういう事だろう?


「そのね、驚かないでね、アナタ。多分、アナタが言っていたおおきな集落と言うのが、出口の前に広がっているの」

「……何て?」


ハルカから告げられた状況に、俺はポカンと口を開いた。




「ここは……確かにあのダンジョン付近だが、随分と変わったな」

「凄いでしょう? 段々とヒトが集まって、こんなに大きな集落になったのよ!」


いつかの様にこっそりコアの間から別ルートを作り外へ出た俺達は、遠目からダンジョン出口周辺に広がる大規模な集落を眺めていた。

建物の密度、道路のような動線、そして広い採取区域。

聳え立つのは、巨木の丸太を使用した物見やぐらだろうか?

規模と、明らかに役割分担がされている建物の種類。

これらは立地も相まって、俺は生前のある遺跡を思い起こした。


(これは……三内丸山、だろうな。そうか、ここに来たばかりの頃は、成立前だったのか)


俺のうろ覚えな知識を呼び起こせば、この集落の成立は──およそ紀元前3900年程度からだったはずだ。

そこから1700年ほど存在した末に、歴史の中に消えていく。

今は、その存在期間の只中と言う事になる。


「ワタシは身体の様子が心配で、時折この辺りを見ていたのだけど、辺りの木を色々と手入れしていたわ」

「……ハルカの言う通り、辺りにはドングリが成る木ばかりだな。あとは栗もか」


彼女に促され集落の周囲の森林を見ると、意図的にブナ科の木が優先して植えられているように見える。

ドングリ類が多く、食品としての価値を重視した配列のようだ。

さらに集落付近には、栗を集中的に栽培しているらしい小さな森が存在していた。

それは、農耕までは行かないものの、栽培と言うべきものだ。

原始農業の始まりと言っていい光景だった。


「ほら、見てアナタ! 集落の人達が、木の実を拾っているわ」

「……なるほど、丁度収穫の時期なのか」


実りの時期なのだろう。

数多くの住人が、栗やドングリを収穫している。

ツタなどで編んだらしい籠や、皮などで出来た袋等に次々と実を詰める光景は、もはや単なる狩猟採集ではない。

そこには役割分担と効率化の意志があり、食料確保の技術が進んでいる。


「狩猟採集から原始的な栽培へ移行しているな。これは農耕の前段階だな。中々に面白い」

「皆力を合わせているわね! 素敵だし、いっぱい人が集まった理由もわかるわ!」


ハルカとしても、この規模の集団で物事に当たる様子を見た事はない為か、眼を輝かせている。

もっとも、そんな平和な光景でも、魔力の影響は避けられない。

木々の中には変異した種も混じり、収穫の場面で人々がそれらへの対処を強いられていた。


「見て、あの木。ドングリを連射するみたいに吐き出しているわ」

「どれどれ『マシンガン・ビーチ』、か。凄いな、枝先を振り回して、礫のようにドングリを射出しているぞ!?」


ドングリの勢いと射出速度は、礫どころかその名の通り機関銃のそれに匹敵していた。

別の木は、毬栗を枝先から投げ落とし、落ちた栗は小さな衝撃と共に弾け飛ぶ。


「こっちは、『スロアー・チェスナット』。毬栗は衝撃と同時に弾け飛んで辺りに棘をばらまくみたいだな」

「でも、人達は慣れているみたい。避け方や受け取り方が手慣れているの!」


驚くべきは、集落の住人が巧みにそれらの攻撃を捌き、安全に実を回収していることだ。

魔力に慣れた世代は、生命の危険を防ぎつつ資源を回収する技術を身につけていた。


「飛ばされた木の実を全部つかみ取っているな……超人か?」

「あっちは、飛んできた棘を平手で全部払っちゃった…!? みんなすごいわねえ!」

「魔力による変異があっても、人はそれを利用し、共存しているわけだ。適応能力の高さに脱帽するしかないな、コレは」

「うん。みんなすごく賢いし、つよいわ!」

「こうなると、中の様子も詳しく見たくなるな。行こうか、ハルカ」

「ええ!」


興味をそそられた俺たちは、集落の中へと近づき、いつかの様に交易の民として中に入った。

実りの時期だからだろう。他にも交易の民が居て、怪しまれた様子はない。

そして、実際に足を踏み入れた大集落の様子に、俺達は驚いた。

家屋の列や共有の作業場があり、誰かしらが常に動いている。

役割分担が明確で、子どもを見守る者、道具を研ぐ者、食料を加工する者がそれぞれ忙しげに動いていた。


「……ヒトは、こんなものを作れるようになったのね」


遥か未来の知識がある俺からすると、この時期に対しての発展具合に唸る程度だが、ハルカは違う。

集落の発展具合を機能で観測していた彼女も、こうして実際に見れば驚きを隠せない。

こんな規模でさえ、彼女にとってはまさしく未知の光景だった。


「そうだな。軽く見回しても、労働分配や専門職の始まりの姿がある。加工班、保存班、交易係……これは集落が社会へと拡張していく前兆だな」

「ヒトの生活が広がっていくのね……」


そう、きっとこの先どんどん人の営みは、集団から社会へと発展していく。

魔力と人が互いに影響し合い、やがて神話や信仰、文化を育む土壌ができあがっていく。

この世界が、俺の生前と似通っているなら、同様の道を辿っていくのだろう。

ただ、同時に縄文時代は長く安定した──同時に停滞の時期を迎える事になる。

その先は、寒冷期と新たな時代だ。

それまでどのように過ごすか……。


「この身体が朽ちるまで、しばらくヒトとして過ごすか」

「……それがいいわ。アナタには休息が必要だもの」


そう囁くハルカに、俺は短く微笑んで応え、彼女を抱きしめる。

外は静かだが、どこかで蔦が風と共に小さく唸る音が響いていた。


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― 新着の感想 ―
いや、この説明がこの物語の魅力だと思う。時代ごとに物語の緩急があるので、このままの形で書いて欲しい
凄くよく出来ているけど、淡々と説明ばかりしている。 つまり、冒険をしたり泣いたり笑ったり物語が欲しい。 ダンジョンの機能を使って土台を固める段階なのも分かるが、何かニヤニヤさせてくれるイベントや仕込み…
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