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よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~  作者: Mr.ティン
弐章 縄文時代 ~狩猟生活から定住化へ~

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爆発オチなんて最低だけれど、起きてしまったからには仕方ない

俺とハルカは、偽装したアバターの身で北へと歩を進めていた

再び後の関門海峡を越え、山や平地、集落を幾つか越える。


それら途中の集落で、俺達は今まで見過ごしていた祭司たちの様子を調べていた。

九州で見かけた祭司のように精霊を呼び出せるような者が居ないか、気になったのだ。

実際、精霊を顕現させ使役するレベルの者は少なかったが、違うアプローチで魔力を活用している様子を、俺達は目にすることになる。

ある集落の一角で、俺たちはちょっとした祭祀と治療の場面に出くわしたのだ。


負傷者が寝かされ、周囲には遮光器土偶に類する形状の土偶が置かれている。

祭司らしい壮年の男が穏やかな声で念を唱え、手をかざすと負傷者の傷が徐々に癒えていく。

同時に、土偶の一部が崩れ落ち、亀裂が入っていくのが見て取れた。


「アナタ、アレは何? 傷が癒えたわ……」

「そう見える。呪術的な代償の作用か……? 土偶に怪我を負わせることで、代償として人の傷を軽減する。魔力の概念的な作用というべきか……?」


俺は生前の記憶を繋ぎ合わせる。

確か出土する土偶の多くは、破損していたらしい。学者は、それらが呪術的意味を持つ可能性を指摘していた。

今ここで眼前にあるのは、その実用例だ。

魔力の無かった生前では、目に見える様な傷の治療は無かっただろうが、魔力のあるこの世界では、こうして奇跡と言うべき現象が実際に起きてしまう。


「つまり土偶は、治癒や呪術の「器」として使われている。使い捨ての外形を持つことで、痛みや悪運の移し替えを行っているのだろうな」

「それはすごいけれど、何か、怖いわね」

「そうだな。これも使い様だ」


この技術を発展させていけば、何れ誰かを呪い殺す、などと言ったことも出来るようになるのだろう。

呪術、そういった魔力の方向性だ。

同時に、人の知恵の可能性を感じてしまう。

ある意味で科学的なそれ。

観察→利用→制度化という流れができている。


「そうだな。魔力――いや、精確には魔力が顕在化した社会的技術が、ここで文化になりつつある」

「なんだか不思議。アナタが生み出した魔力が、アナタも知らない力を発揮しているのね……」


傷が癒えて喜ぶ住人と、厳かに頷く祭司を見ながら、俺達は人々の可能性を見せつけられるのだった。




その様にして旅は続いた。

季節は巡っていたが全体として感じるのは生前の記憶よりも明らかな暖かさだった。


「……気温が高い。想定していたよりも、ずっと暖かいな。魔力の影響なのか……?」

「本当にね。空気が重いというか、柔らかいの。ちょっと不思議ね」


縄文期は、確かに海面が高くなる縄文海進があり、その原因に気候の温暖化が関わっているという記憶があった。

だが、目の前で実感する暖かさは想像を超えている。

魔力の拡散は大地や生物だけでなく、実際の体感気温にも影響を及ぼしているように思えた。


(太陽の活動の活発化が、気温上昇を及ぼしたって説があった気がするな。流石に、魔力が太陽にまで影響するとは思えないが……)


それは、北の地である東北に入っても続く。


「魔力による熱容量の変化か、あるいは生態系のフィードバックか? いずれにせよ、東北だという実感が薄いな」

「寒いはずの北なのに、草木が青々していて春のようね。こっちの人達にとってはいいことなんじゃない?」


そんな会話を交わしながら、森の縁を進むと、不意に異様な光景が目に入った。

蔦が絡み合って獣のような形を作り、四つ足でぬるりと動いている。

次いで、猿のような動きをする蔦の群れが、森の奥のシカを追い回していた。


「な、何だこれは……ツタが、動いている?」

「ううっ……気持ち悪い。でも、なんだか凄いわ」


森の一角では、狼形の蔦が鋭く吠え、猿形の蔦が木々の間を飛び回り、集団で獲物の周りを取り囲む。

追い詰められたシカは逃げ場を失い、蔦たちが体に絡みついて動きを奪い、そのままじわじわと植物の茎に取り込まれていく。

皮膚が緑色の繊維に変わるわけではないが、生命を剥ぎ取り、養分として吸収する光景は如何にも生々しい。


「植物がここまで動くのか。蔦が四肢を擬態し、獲物を縛る――まるで生きた網だ」


狼型が『アイヴィー・ウルフ』で、猿型が『アイヴィー・エイプ』。

コア機能で解析した結果、そんな名前が示された。

相変わらずダンジョンの命名は直球だ。

だが名称は別として、目の前の現象は恐ろしく、どこか背筋を凍らせる。


「動く植物。魔力で活性化し、感覚をもって狩りをする植物群――これが長年の魔力拡散の現実とはいえ……とんでもないな」


これらは、将来的には、妖怪や魑魅魍魎と呼ばれる存在、もしくはその起源にあたるのかもしれない。

確かに、動く蔦や姿を変える木々を見れば後世の語りは「人ならざるもの」として膨らむだろう。

さらに森を進むと、今度はキノコ類の異形種が現れた。

柄に節のような関節が生え、三本の細い足で歩くもの。

傘の縁が唇のように開閉し、小さな昆虫を吸い込んで内部に取り込み、ゆっくりと消化している。

掴まれた昆虫は動きを止め、繊維のような菌糸に絡め取られて溶かされていった。


「キノコも運動器官を獲得している。肉食菌の活性化だと……?」

「……アナタ、アレって食べられるのかしら?」

「いやまて、食う気か!?」


思わぬパートナーの食欲に、俺は驚きを隠せない。

いやまあ、彼女は生前俺が解析して毒が無いと判別したキノコを喜んで食べていたが……。


「……毒があるぞ。やめておいた方が良い」

「それは残念ね」


俺達のアバターは大概の毒に対処できるし、アバターを作り直す覚悟もあるなら猛毒のキノコだろうと食べられるが、止めた方が良いだろう。

残念そうな彼女の様子に内心苦笑しながら、同時にその逞しさを頼もしく思う。


目の前の光景は、魔力ある世界の正当な食物連鎖だ。

魔力を生み出している俺達は、この先この有様を受け入れて行かなければいけない。

そんな想いを抱きながら、俺はダンジョン機能を通じてその生態を解析し、情報を記録した。



「随分と北までやってきたが……目立った集落は無いな?」

「そうなの、アナタ?」


旅は続き、本州の北の果てに差し掛かる頃、俺は困惑していた。

想像した大規模集落が見つからないのだ。

生前の記憶にある、大規模集落遺跡、それが確かにあると踏んだのだが……。


「見込み違いか? 世界が違うせいで同じ様な集落が発展しなかったのか……?」


各ダンジョンコアの前には、集落が形成されているものの、あくまで今まで見て来た程度でしかない。

疑問に首を傾げる俺に、予期せぬ異常がダンジョン機能から通告された。


「……何だ? 異常!? 遠隔地域で大規模な火山活動と海洋衝撃を検出、だと!?」

「アナタ、何かあったの?」


ダンジョンネットワークが、九州南部で大量の火山性堆積物と異常潮位の観測を伝えてくる。

地脈の反応が乱れ、遠距離の振動と黒煙の流動が南の海から押し寄せてくる様子が、ダンジョンコアとしての感覚に押し寄せて来た。

だというのに詳細は断片的で、原因の特定はできない。

だが、それがもたらす被害の甚大さは、容易に想像がつく。


「九州の南部が、南方からの火砕流に覆われている!?」

「そんなに遠くで……一体何が起きたの?」

「判らない。が、状況から推測するなら、海底起源の巨大噴火の可能性が高いな」


俺は、ダンジョンコアとなり世界が原始時代だと認識してから、生前の記憶をできる限りデータベース化していた。

あやふやな記憶であっても、些細な知識が大きな武器になり得ると判断したからだ。

幸い、ダンジョンの機能は俺の記憶を俺が忘れている部分まで──それこそ、一瞬見ただけの光景などさえも読み取り、明確化して記録してくれた。

だが、データベースとして中々に有用なそれも、全く見聞きしたことが無い事柄には及ばない。

今回もそうだ。

俺の知識体系には、そうした規模の海底火山の破局噴火は載っていなかった。

だがダンジョンが拾う地脈の変動と津波の伝播の痕跡は明瞭だ。

担当仏の直接的介入は依然無く、被害の全容はダンジョンネットワークの再構築とともにしか明らかにならない。

幸いなのは、以前と比べ殆どのダンジョンコアはダンジョンの奥に移設されているため、以前のようなコアへの直接的な被害はない事か。

しかし、地表の被害は甚大で、九州南部はほぼ壊滅的な被害を受けている。

そこでふと、噴火の記録ではなく、活火山としての海底火山の存在を思いだした。


「鬼界カルデラの噴火かもしれない。確か、九州の南の海に位置していた筈だ」

「凄い被害ね……ああもう、このカラダだと、ダンジョンの機能も全部使いこなせない」


次々入ってくる被害と乱れる地脈に、俺達は手いっぱいになる。

こうなると、アバターを動かしていることが足かせになっていた。

仕方ない。方針転換だ。


「ハルカ、一旦この身体は封印して、コアとしての働きに専念するぞ。近くの、出来るだけ深めのダンジョンのコアに接触する」

「わかったわ、アナタ!」


俺達は、付近のダンジョンへと足を踏み入れた。

緊急であるため、別通路を作る余裕はない。だが、このアバターは特別製だ。

印象を暈す偽装を最大限にして、集落を突っ切ってダンジョンへと突入していく。

集落の住人は、何か風が吹いたとしか解らなかった筈だ。

だが、それを確かめている暇はない。

5階層ほどに成長していたダンジョンを踏破し、俺達はコアの間へとたどり着く。

そして、手早く石棺を機能で出現させると、俺達は二人一緒にその中で身を横たえた。


「被害への対応と復旧にどれくらいの時間がかかるか判らない。この身体は長く休眠することになるかもしれないが……良いか?」

「もちろんよ。それがアナタの務め、そしてそれをさせるのが、ワタシの望みだもの」

「……そうだな。ありがとう」


こうして、俺達はアバターへのリンクを切り、意識だけの存在へと戻る。

意識だけになった事で、各地の状況と、更に今後続くであろう被害が読み取れた。


海底火山の噴火が大気や潮位に与える影響は甚大だ。

現状の我々のシステムは海水に弱い。そこへ、津波が押し寄せてきているのが、はっきりと判った。

仮に津波でダンジョンにまで海水が押し寄せれば、その被害は深刻なものになる。

南方のコア群が直撃を受け、機能停止や破損が続出することになるだろう。

魔力の供給源が断たれれば、周辺地脈の安定は損なわれる。俺たちは決断を迫られた。


(南方と各地沿岸部のダンジョンのコアの間を早急に封鎖。津波への対処を優先するぞ)

(集落の人達はどうするの?)

(……魔力の影響下にある動物たちを高台に動かそう。その動きを見て、避難するかもしれない)

(ダンジョンに避難してきた時は?)

(……津波が到達する直前に入り口を封鎖するなら、それまでに逃げ込んだ者は助かるかもしれないな)


俺の務めは、ダンジョンの運営に寄る魔力の拡散と地下エネルギーによる破局の回避だけだ。

人々を救う責任や義務など、一切ない。

だが、ダンジョンの保護の延長線上で人々が助かるのを拒否するほど狭量でも無かった。


そして、津波が押し寄せる。

列島の南側に位置する沿岸部に、多大な被害を及ぼしたそれは、避難出来たものと、そうで無かったもの、それら含め大きな傷跡を残すことになった。

同時にそれにより、俺は一つの決断をする。

システムのアップデート。

海水に弱い魔力と、ダンジョンコアのシステム、その根本的な改修作業だ。


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