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よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~  作者: Mr.ティン
弐章 縄文時代 ~狩猟生活から定住化へ~

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縄文時代の海面は、現代より数メートル高い

目覚めてから幾日か、俺はダンジョン機能を通じてこの時代の状況を観察し続けていた。


(……なるほどな。魔力の拡散は、予想以上に進んでいたか)


俺の意識が宿るダンジョンコアは、九州の山間部に位置している。

かつて破局噴火で吹き飛ばされた本体は、万年単位の修復を経てようやく機能を回復していた。

その長い眠りの間に魔力は十分すぎる程、その範囲を広げたようだ。

既に日本列島の陸地部分のほぼ全域が、魔力の領域に覆われていた。

その為、ダンジョンの機能にはその領域として日本地図が表示されている。


(とはいえ、見慣れた日本地図とはかなり違うな。平野は殆ど海に沈んで居るのか)


縄文海進。

気候変動による海面上昇で、現代の関東平野や大阪平野など日本の主要な平地は、軒並み海に押し込まれていた。

瀬戸内海などもその幅を広げているし、北九州は海面上昇により長崎辺りが分断されて別の島になっているほど。

問題は、それら沈んだ平地にも、俺は魔石の穂先を設置していた事だ。


(海に沈んだコアは……やっぱり駄目か)


そこに設置していた穂先は、コアにまで成長はしていたものの、海水による魔力の劣化で機能不全を起こし、今では沈黙している。


(魔力って、海水と相性悪いんだよな……拡散効率も落ちるし、変質もする)


それでも、山間部や高地に設置されたコアは健在で、魔力の精製と拡散を続けていた。

結果、日本列島の陸地はほぼ全域が魔力に覆われ、動植物の生態系にも大きな変化が生じているようだ。

ダンジョンの外、森の中を駆ける猪の姿が視界に映る。

俺はダンジョンの機能は、その猪を解析し、即座にその名を示してくれた。


(……あれは、ツインランス・ボアか。ダンジョン機能のネーミングセンスは直球だな)


だが、ただの猪ではない。前方に突き出た二本の長い牙が、まるで槍のように地面を抉っていた。


(牙で地面を掘りながら突進するって、どんな生態だよ……)

(アナタ、あれは猪なのですか?)


ハルカの意思が、俺の意識に触れる。


(猪……だったものだな。魔力の影響で、ああなったらしい)

(ふふっ、ちょっと怖いけど、強そうですね。お肉は美味しいかしら?)

(……食べる前提か)


ハルカは、俺のパートナーであり、かつてアバターの番だった女性の意思を宿したダンジョンコアだ。

今では俺と同等の知性を持ち、共にこの世界を観察し、運営している。

しかし元は旧石器時代に生きていただけに、獣を見れば獲物ととらえてしまうようだ。

思い起こしても、ハルカは生前割と食い意地がある方だったな。

そんな事を考えながら、俺は他に見つけた動物をピックアップした。


(他にも居るぞ。アーミー・ラット。群体で行動するネズミ型モンスターだ)


一見すると、大型犬程の大きさのネズミに見える。

しかしよく見ると、ネズミの群れが集まって、その様に振る舞っているのが判る。


(群体……って、たくさんで一つの意志を持つのですか?)

(いや、個々に意思はある。ただ、魔力の影響で、群れの中で役割分担ができるようになっているようだ。他にも一部は別れて偵察したり、攻撃として数匹飛び出したり、それを回収したり……中々に芸達者だな)


先に見かけたツインランス・ボアと対峙し、直線的な猪に対して無数の搦め手で対応するネズミの群れ。

なるほど、こんな魔力で変質した動物ばかりなら、こういう方向性の進化もあり得るのか。


(……これ、ヒトが襲われたら大変じゃないですか?)

(だから、ダンジョンで脅威度は調整しているんだが……どうもコイツらは魔力で生み出したわけでなく、魔力の影響での自然発生だからなあ……)


つまり、ダンジョンの影響下から微妙に外れているのだ。

先にダンジョンが生み出したハンドホーン・ディアも、調べてみれば野生で発生した方が先であるらしい。

森の木々の合間を、その手のような角で枝を掴みつつ移動する姿は、余りにシュールだ。


(あの角で移動している間、何故前足を組んでいるのでしょう?)

(分からん……なんでだ? 何故腕組みしているんだ……? しかも何故かどや顔に見える……)


鹿の表情と言うモノは良く解らないせいで、何故か自信満々に見えてしまうのは気のせいだろうか?

余りのシュールさに、俺は機能から過去の記録を調べて、謎進化の経緯を調べてしまった。


(どれどれ……初めは、魔力で角を動かせるようになったのか。その後肉食動物から逃げる時、咄嗟に高く飛び跳ねて枝を角で掴んで逃れて……?)

(前足を組んでいるのは、枝を掴むとどうしても身体が起きて、急所のお腹を見せてしまうから……? ああ、お腹を守っているんですね)

(この状態で頭上を取って、外敵には強襲キックを見舞う? 待て、何故そのキックのフォームが仮面バイク乗りじみて居るんだ!? というか攻撃に角を使えよ!)


何故だろう? 一応一つ一つ理由があり筋が通って居るのが、逆に腹立たしい。

同時に、縄文人達がハンドホーン・ディアを近寄らずに弓で仕留めていたのも分かった。

記録では、原種に近いクマを、その蹴りで数メートルは吹き飛ばした事例まであったのだ。

洞窟内で頭上を取られ、そんな蹴りで襲われたら魔力の強化があっても流石に脅威だろう。


(ま、まあ、生物に多様性があるのは良い事だな)

(ワタシ、よくわからないけど、良いのかしら……?)


首をかしげる気配のハルカの意思を感じつつ、俺は更に環境を確認していく。

魔力の影響は、確かに動植物の進化を促していた。ハンドホーン・ディアのように、角を手のように動かす鹿もいれば、ツインランス・ボアのように牙が武器化した猪もいる。

だが、海の生き物は違った。


(海水で魔力が劣化するせいか、海の生き物にはほとんど影響がないな。俺の記憶にある生き物ばかりだ)

(だから、漁が盛んなのですね。あの人たち、貝をたくさん採っていました)

(ああ。貝類は採取が手軽だし、保存も効く。各地に貝塚が形成されているな)


遠洋や深海までは魔力の劣化により調査は及ばないものの、沿岸部の様子なら辛うじてわかる。

ダンジョン機能で観察した結果、海の生き物は生前通りだ。

このため沿岸部に住む縄文人たちは、海辺で盛んに漁を行い、貝を中心とした食文化を築いていた。

貝塚はその痕跡であり、魔力の影響を受けない海産物が、彼らの生活を支えているようだ。



ここまで調べた俺は、さらに深く動くことを決めた。


(さて、そろそろ行くか)

(行く……って、どこへ?)


疑問を浮かべるハルカの意思に、俺はダンジョン機能立ち上げ応える。


(アバターを作る。縄文人タイプのな)


俺は、ダンジョン機能を操作し、魔力を集中させた。

生み出されるのは、二つの人影。

目的は、縄文人型のアバターの生成だ。

かつて原始人型のアバターを作ったように、今回は縄文人の生活を調査するための写し身を作る。


(設置:ワイルド・ジェイドマン)


生成されたアバターは、縄文人の特徴を備えていた。

褐色の肌に、縄文土器の文様を模した衣服。

手に磨製石器の槍を持つ、青年風のアバターと、加工された貝殻の首飾りを身に着けた少女型のアバターが、そこに産み出されていた。


(ふふっ、これがアナタの新しいカラダ。それに、ワタシの身体も!)

(気に入ったか?)

(ええ! それに、こっちはいつかのアナタそっくり!)

(……そうか?)


男のアバターは、ハルカ曰くかつて産み出した初代のアバターに似ているらしい。

別にそんな意図はなかったが、一種の手癖のような物だろうか?

自分で見る限りでは……かつてのアバターよりも、生前の自分の雰囲気を残しているように思えた。

縄文人風に、ホリなどは深くなっていて、現代に生きた生前とは違うはずなのだが……無意識の調整なのだろうか?


一方のハルカの身体となる女性体のアバターは、作り上げた自分が言うのも何だが、かなりの出来栄えだと感じている。

まだ現代人と比べ野性味残る縄文人ベースでありながら、現代人基準でも美しい、原初の美の女神とも言うべき美しさを兼ね備えているのだ。

何しろ適当に作った男側とは違い、かなり気合を入れて造形したからな。


(ねえ、アナタ。もうこのカラダに心を繋げていいかしら?)

(ああ、勿論だ。俺も具合を確かめてみよう)


はしゃいだ意識を向けてくるハルカへ了承し、俺達はアバターへと繋がっていく。

およそ数万年ぶりの、生身の感覚。

何処までも無機質な岩でしかないコアの感覚から、熱と柔らかさを持つ肉の身体へ。

世界が一気に色づいたような五感の洪水を浴びながら、俺はアバターの目を開いた。


そこに、女神がいた。


「アナタ……?」

「あ、ああ……」


鈴を鳴らす様な心地よい声で呼ばれるも、俺は陶然と頷く事しか出来なかった。

柔らかく微笑み、化粧などない、あくまでナチュラルな、だが生前の彼女のような、生命力に満ちたハルカのアバター。

周囲に満ちた魔力に馴染んでいるせいか、どこか蠱惑的な魅力まで持ち合わせた彼女の声に、宿ったアバターが背筋を震わせる。

しまった。ハルカ用だからと、少々ガチにアバターの性能を盛り過ぎたかもしれない。

意思を宿した彼女のアバターは、余りに魅力的過ぎた。

そう、目の前にして、生身のアバターの衝動が抑えきれなくなり、大本の俺の意思まで引っ張られるほどに。


「すまん、ハルカ……!」

「キャッ!? え、アナタ? どしたの……って、えええ!?」


衝動のままに、ハルカの身体を抱きしめ、押し倒す。

同時に、ダンジョンの機能で、彼女の背後に柔らかなベッドを出現させる。


要するに、俺の理性は飛んだのだ。

初めは困惑していたハルカの側も、さほど時間を置かず俺の手に指を絡めた。



とあるダンジョンの奥深く。

誰も立ち入らない地下10階のコアルームは、しばらくの間二つのアバターが互いを求めあう声と音だけが響くのだった。


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― 新着の感想 ―
あぁ、ダンジョン神話
そのうち警察に追い回されそうな鹿だなぁ…(w
やっぱり、人間性は人間じゃ無いと出てこないよねぇ。
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