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よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~  作者: Mr.ティン
序章

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転生したらダンジョンコアだった上に、侵入者がおかしい

ふと気が付くと、俺は岩になっていた。


(……どういう事だ?)


俺は確かに人間としての生を終えた。

善行も悪行も、そこそこに積んだ人生だったように思う。

完全な善人ではないが、外道でもない。

だから、死後のことは判らないが、極楽には行けないだろうけど、地獄にも落ちないだろうな、などと考えながら死んだ記憶がある。

だが、生物ですらない無機物に生まれ変わるとは想像もつかなかった。


困ったことに、閻魔大王の前で沙汰を言い渡された記憶はある。

所謂六道輪廻。仏教における生死の循環。天道、人間道、修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄道。

その行き先を確かに告げられ、他の死者と共に生まれ変わりの列に並んでいた、筈だ。

だが、告げられた行き先が何だったのか、思い出せない。


(……どうしろって言うんだ)


意識はある。思考もある。だが、体がない。

いや、あるにはある。岩に包まれた空間の壁に埋め込まれた、ほぼ球体と言っていい岩。

地獄の亡者だって足掻く手足はあると言うのに、俺はそれ以下だ。


それに、俺が岩だとしたら、『終わり』はいつ来るのやら。

生命なら命に限りはあるだろう。

だが、岩の寿命は何処までだ?

この岩になった体が割れでもしたら死ねるのか?

死ねないなら、岩のまま下手すると何億年単位で意識を持ち続ける事になりかねない。

そんなの、いっそ地獄に落とされる方がマシでは無いだろうか?


そしてもう一つ、気付いたことがある。


(周りの様子が、分かる? ……視覚、では無いよな?)


俺は岩だ。だから目などないのだが、周囲の様子がはっきりと判る。

光などないのに、辺りの様子が鮮明に判るのだ。


(壁も床も岩だが、妙に平らだな? 浸食で出来た訳でもないのか? それに、横穴が先にまで続いて、これは『外』か?)


自然に出来たものとは思えない、それでいて加工の跡もない壁や床。

俺の周りだけやや広がって『部屋』となっているが、そこから『通路』が伸びているのが判る。

その先に、光が差し込む『出口』らしきものがあった。

だが、俺の感覚が判るのはそこまでだ。


(……『外』の事は判らないのか)


視覚ではない為か、光が出口から射し込んでいることは判っても、その先がどうなっているのか認識できない。

一応、風の流れなども感じ取れるから、恐らくは『外』なのだろう。


(岩の身体に、洞窟の中だけ判る感覚か。まるでダンジョンコアだな)


生き物ですらない身の上に、前世で溢れていた様々な作品を思い出した。

ダンジョンの心臓部。魔物を生み出し、罠を張り、冒険者を迎え撃つ、あれ。


(いや、まさかな……うん? 何だコレは)


そこまで考えて、ふと認識の片隅に、奇妙なものがあるのに気が付いた。

四角くひっそりと存在するそれには、ご丁寧な事に『メニューボタン』と書いてある。


(……ちょっと待て。大分胡乱な事になってきたぞ?)


まるでPCやスマホの画面端にあるようなアイコンが、自分の意識にそのまま主張していると言う事実に、何とも言えない気分になって来た。


(……これに意識を向けたら、ろくでもない事になるんだろうな)


そんな嫌な予感めいたこのがあるものの、手も足も無い岩の身体では、他にすることも無い。

何か起きるにしても早めに済ませた方が良いだろう。

俺は催促するように光を強めだした『メニューボタン』に意識を向けた。

そして、


(やっぱり、俺はダンジョンコアかよ!!)


意識に広がった『ダンジョン運営機能』の数々を目にした俺は、声にならない叫びを上げる事になったのだ。



整理しよう。

俺はやはりダンジョンコアになったらしい。


(分類するとしたら、修羅道かな?)


俺はそう結論付けた。

まず、ここは俺が生きていた世界とは違うようだ。

何しろ、俺が生きていた現実にはダンジョンなんて存在しなかった。

だが、今世では話が違う。

現実へ様々な干渉を行える魔力という謎エネルギーがあり、その精製元であるダンジョンコアが存在する世界だ。


(ただ、その第一号が俺とはね)


メニューボタンを押してまず表示されたのは、この世界の担当仏からのメッセージだ。

いっそ素っ気無いほど簡潔なそれから読み取ると、この世界を担当する仏は、随分酔狂らしい。

創作物等のダンジョンに興味を持ち、ダンジョンを世界の枠に組み込もうとするのだから。

ただ、前世のゲームなどのUIを参考に、ダンジョン運営をしやすくしてくれたことには感謝すべきなのだろう。


(どれどれ……今の俺が出来るのは、自分の領域であるダンジョンの拡張と構造の変更、領域内の認識とモンスターの生成やドロップアイテムの設定か)


次々に表示されるダンジョン機能を流し見ながら、俺はこれからすべきことを考える。

仏が俺に期待しているのは、以下三つだ。

魔力を精製し、世界にいきわたらせること。

モンスターという試練と、ドロップアイテムというカンフル剤で世界を活性化させること。

地脈を安定させ、破局噴火などの災害を防ぐこと。


(後は……やっぱりドンドン蓄積されてるな。地下のエネルギーは)


この中で一番重要なのは三つ目だ。

俺の世界でも、地球の生命の大絶滅が何度も起きていた。

その中の幾つかの直接的な原因になったと言われているのが、大規模な火山の噴火とそれに伴う急激な気候変動。

約7万年前に起きたとされるトバ・カタストロフと言わる破局噴火などもその一つだろう。

地球の平均気温を一気に5度下げ、6千年にも及ぶ寒冷期をもたらしたと言われるそれによって、人類も総数一万人以下に激減したと言われている。


そんな破局噴火を防ぐため、地下のエネルギーを別のものに変換するのが、俺の一番の仕事であるらしい。

実のところ、魔力の精製もモンスターやドロップアイテムの生成もその、地下のエネルギーの消費先という面が大きいのだ。


(まだ俺が成長できていないから、溜まるエネルギーに対して消費先が少ないな。さて、どうしたものか)


地下のエネルギーを消費するにしても、俺自身がダンジョンコアになりたてで、一気に大量のエネルギーを扱えない。

モンスターもアイテムも、その大元になる魔力を精製しないと作り出せないのだ。

だから、まずこつこつ魔力を精製するところから始めないといけない訳だが……。


(うん? 『出口』に何か……まさか、侵入者か!?)


まずは魔力を精製しようとしたところで、俺は『出口』に異常を感じた。

何者かが、まだろくに稼働もしていない俺の領域に侵入しようとしているのだ。


(いきなりか!? いや、待て。落ち着け、俺)


まだ全くダンジョンとしての体裁も整えられていない状況での侵入者に、俺は一瞬混乱するも冷静になる。


(まだモンスター一匹もいないここは、只の洞窟……いや、明らかに自然のそれじゃないが、侵入者も暴れる理由はない)


壁や床など岩でできているが平らな為、自然洞窟というには無理があるかもしれない。

同時にただ俺の身体である岩があるだけなのだ。

更に言うなら、俺というダンジョンコアはこの世界で初めての存在であるらしい。

つまり、侵入者が俺を破壊に来ようとする情報すらないはずだ。


(……いや、待て。そもそも、この洞窟の、『外』はどういう状況だ?)


ダンジョンの機能も領域内の事しか解らないし、仏からのメッセージも概要程度でしかなかった。

つまり、外がどんな存在が居て、そもそもそれが人間であるかどうかも分からない訳で……。


(やばい!? それこそ、岩と見れば破壊したくなるような狂人が世界に溢れてる可能性すらあるのか!?)


そんな想像に至って、今まさに俺の領域であるダンジョンに入り込もうとしている存在に恐怖を抱く。


(くそっ! とにかく今作ったばかりの魔力で迎撃するモンスターを生み出すべきか!? だがそれで侵入者を刺激したらより拙い状況になりかねない!?)


精製したばかりの魔力で生み出せるのは、精々弱いモンスター程度だ。

その程度を呼び出して侵入者を刺激したら余計に暴れかねない。

だが、何もしないのも無防備に過ぎないか。


そんな無数の考えが過って俺が混乱する中、侵入者はお構いなしにダンジョンに押し入って来た。


「……ウホ?」

(……はい?)


侵入者は、人型だった。

体には、毛皮を繋ぎ合わせ造られた服を纏い、手には石の穂先の槍や、斧。

顔立ちは毛深く、野性味に溢れている。


つまり、彼らは……


(原始人じゃねえかーーーっ!?)


珍しそうに何もない洞窟──ダンジョン内を見回す侵入者。


どうやら俺は、原始時代でダンジョンを運営する羽目になったらしい。

……やっぱり、コレある種の地獄道じゃないかな?

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― 新着の感想 ―
あらすじを読んだだけで超絶面白いコンセプトだと分かる、発想の勝利って感じの作品ですね。楽しく読ませていただきます。
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