88 聖竜豪来
ガシ、セキ、レイの三人がかりで水星を。
サラカが残り全敵弱らせつつ金星を撃破。
さらにフォルテが圧倒的奥義で木星を完全粉砕した。
この場に出ている化身はもう土星の化身。
『ビーストファンタジー3』ではアーズという名で、巫女として振舞い農民を扇動し、各地で一揆を起こさせるカルト教祖的な立ち位置にあった。
ナインテールの中でも一際硬く、物理防御力はぶっちぎりのナンバーワン。
サラカの秘術で力を吸い取られはしたが、衰えなどまったく感じさせない威圧感。
そんな彼女に立ち向かうのは、晴れて十二使徒の第三位……。
『アタシの出番だー!!』
我が妹のセレンが立つ。
その頭の上にたぬ賢者を載せて。
『ちょっと待つたぬ!? ワシを搭載したまま戦うつもりたぬか!?』
『いーじゃん! 妹は可愛い! どーぶつも可愛い! 可愛いに可愛いを掛け合わせたら無敵なのだ!!』
謎の理屈で力を上げるセレン。
本当に無敵だなあの子は。
『行くぞーッ!! せいじゅー智式<牛烈・当たろう>ッ!!』
何の小細工もない、シンプル極まりない聖獣気のこもった鉄棒の一撃がアーズを打ち砕いた。
木っ端のごとき細かさで砕け散り、いかに大妖狐の化身と言えど再生不可能であろう。
『うわ、強えぇ……!?』
ウチの妹、なんであんなに理由も抜きにストロングなのかな?
可愛いからか?
本当に可愛いは無敵なのか?
『さあ、これで全員倒したな……!』
『そこの空中に偉そうに浮かんでる女! テメエが親玉なんだろ! 怖気づいてなきゃ降りてきて戦いやがれ!!』
フォルテとサラカが白玉天狐を挑発するが……。
いけない。
皆は知らないだろうが彼女の力はまだまだ底をついていない。
『六の尾、月星<チャンドラ>、七の尾、日星<スーリヤ>』
『『どええええええッッ!?』』
ほら次なる化身を投入してきた!
また二体同時!
『なんだと!? アイツまだ使役できる精霊を残していたのか!?』
『しかも今まで倒したヤツらより強そうじゃね!?』
サラカの指摘通り、日月の星を司るヤツらは他のナインテールより一段格上の敵。
月の力を司る化身は、『ビーストファンタジー3』ではソーマという名の錬金術師。『不老不死の霊薬』なるものを権力者に配り歩いていた。
しかし霊薬の正体は、全身の細胞を魔癌化させる毒薬であり、脳まで魔癌化したらソーマの意のままに動く操り人形となって世を乱す。
そして太陽の化身アポロニアはみずから洗脳効果のある光を発して老若男女関わらず精神を支配し、その場で殺し合わせる残忍無比の聖女だった。
双方、恐ろしさ悍ましさでこれまでの四姫を凌駕する。
『ここでさらなる新手の投入とは……!?』
『オイラたち、ここまででもけっこう消耗してるんすけど……!?』
その通りだ。
終始圧倒しているかのように見えたが、それは皆が常に全力で戦っていたからに他ならない。
そうしなければ倒せないと即座に判断した、百戦錬磨の彼らならではの判断だった。
その判断は、初出の四星を打ち倒すには有効であったが、追加の二星が出てくると話が違ってくる。
『皆は下がって休め! ヤツらの相手は俺がする!』
『無茶言うなよジラ! お前が一番長く戦ってるんだろ!?』
とは言うが、ヤツらに有効な攻撃手段がやっぱり俺の霊体ネズミであるからには下がるわけにはいかない。
本当に水以外には万能なんだよね俺の霊体ネズミ。
『それならば……』
必死の覚悟を決めた矢先に。
天空から声が降ってきた。
『そいつらは私が引き受けよう。格下たちを守ることも第一位の務めだ』
『その声は……!』
天を見上げ、そこに浮かぶ有翼の剛人を見る。
十二使徒第一位グレイリュウガ。
『アイツまで来てたの!?』
帝国最強十二使徒の中で、さらなる最強を誇る第一位。
『竜』のビーストピースを保持するアイツもちゃっかり智聖気を借り受けて聖獣モードに入っている。
しかも部分的にビーストモードまで併発し、背中から翼竜の翼を広げることで空中に留まっている。
相変わらず器用なことするなアイツ。
『っていうか一緒に来てるなら何で最初から一緒に出てこないの!? 満を持しての登場みたいな雰囲気作ってるの!?』
『遅れた分の働きはしてやる。あの新手二体は私が引き受けよう』
獣魔気に加えて智聖気も借りまとい、聖竜と化したグレイリュウガ。
そもそも何でもできる天才タイプのアイツ。
他の連中以上に聖獣気を使いこなせるはずだ。
『我が身で操って、その凄さが実感できるな、聖獣気とは。獣魔気単体では荒ぶる災禍でしかないものが。智を交えることで気高き法力となる』
ほらもう聖獣気の本質を見抜いた。
『しかし融合するには大きな反発が起こり。それを超えて聖獣気を完成させるには極めて繊細な操作で抵抗を抑えるか、力づくで抑え込むか……!』
何ブツブツ言ってるんだグレイリュウガのヤツ?
その間も日月の輝きを背負った二姫は怪物の悍ましさで、俺たちを飲み込まんとしている。
助けるなら早くして!
『ならばこういう使い方もできるできるわけだ。……右手に獣魔気、左手に智聖気……!?』
グレイリュウガのヤツ何してるんだ!?
完成された聖獣気をわざわざまた獣魔気と智聖気に分けて、それぞれ両手に集めている。
『それを再び融合! ……聖獣気は、融合の瞬間にこそもっとも強い反発を生む。その反発力をも取り込んで、放つ……ッ!』
グレイリュウガの合わさった両手から、凄まじい荒々しさの聖獣気が放たれる!
『……聖獣智式<猛き龍勢>!!』
ヤツの放った聖獣気の激しさ、巨大さは、元から修行して聖獣気を得た俺ですら驚くほどだった。
『なんて威力……!?』
巨大竜巻のごとき聖獣気の乱流は、月女神と日女神を飲み込んでもみくちゃにし、ついには粉々に引きちぎる。
『オレたちが全力尽くしてやっと倒したバケモノを……!?』
『二体同時に倒してしまった……!?』
俺だけでなく共に並ぶ仲間たちも、あまりの凄まじさに呆然とする。
そうか……!
獣魔気と智聖気は、対極の力であるために融合には反発を伴う。
その反発力を何とか解決してこそ聖獣気は完成するのだが、グレイリュウガは逆にそれを利用した。
聖獣気の反発力は、獣智双方の力を融合させたその瞬間にこそもっとも強い。
だからこそグレイリュウガは聖獣気を一旦分解するという手間をとってもっとも強力な反発力を発生させ、それを技の威力に上乗せした。
だからあんな滅茶苦茶なパワーが生まれたんだ。
聖獣気でありながら天の怒りように荒ぶる。
それはまさに聖竜気と呼んでいいエネルギーだ。
『今日身に帯びたばかりの聖獣気を即座に、そこまで理解して応用するなんて、さすが第一位……!』
『ようやく帝国最強らしいことができた気がする……!』
グレイリュウガが上空から降りながら、なんか安堵したような表情をしておられた。
なんかすみませんね……!
とにかく彼の助勢は、九死に一生だ。
お陰でナインテールの中でも上位クラスの日星月星を蹴散らせたのだから。
『……さあ、これで今度こそ矢玉は尽きたであろう女怪め……!』
グレイリュウガも仲間たちと共に白玉天狐を見上げる。
みずからの牙城『無限の迷い館』の最深部に鎮座するかのごとく空中に漂う大妖狐。
『さあどうする? そこから降りてきてみずから戦うか? それとも降参するか?』
『どこぞの貴公子か知らぬが、その整った顔つきに相応しい傲慢ぶりじゃな。たかだか七尾まで倒したぐらいでもう勝った気か?』
『何……?』
余裕たっぷりの白玉天狐。
それはそうだろう、彼女が慌てる必要などまだなに一つない。
『あとからワラワラと現れて煩わしいのう。最初のヤツ、何と言ったかのう? ジラか。説明しておあげ』
『く……ッ!?』
ご指名されたからには、言わなきゃダメか。
『白玉天狐の忠実な部下ナインテールは、ヤツの尻尾から生み出された分身だ。九尾の狐であるアイツは、自分の尾の一本一本を星に見立て、それらの属性を付加して化身にする』
『おい待て、今なんと言った……!?』
『九尾の狐』
『そうそこ』
さすがグレイリュウガ、一番重要なところに気づいてくれる。
『ということは何か? ヤツの尻尾は全部で九本あって、その一本一本があのバケモノ女に変わるとして……、今までに倒したのは六体……!?』
『いや、皆が駆けつける前に俺も一体倒したので七体』
その証拠に、宙に浮かぶ白玉天狐の尻にはまだ二つの尾が残っているでしょう?
その二尾こそ問題。
白玉天狐がもっとも頼みとする最強の分身。もっとも妖しく、もっとも邪悪な星の息吹があの尻尾には宿っているんだから。
『さて説明が終わったところで続きと行こうではないか』
『いや待て終わらないの!? まだ終わらないというのか!?』
『出でよ八の尾、羅睺星<ラーフ>』




