87 『4』ヴィランvs『3』ヴィラン
思えば凄まじい光景だ。
俺を助けにここへ来てくれた者たちは、俺の同僚だけに皆ベヘモット帝国を代表する最強戦士十二使徒。
そんな俺たちが立ち向かうのは、白玉天狐の傀儡として再構成されているとはいえ、かつてはその忠実な部下だったナインテール。
要するにこれは……。
『ビーストファンタジー4』の敵幹部と『ビーストファンタジー3』の敵幹部が全面衝突する構造ではないか!
なんか夢の対決みたくなってきた!?
『皆!!』
俺自身も聖獣モードを発動しながら呼びかける。
『あの現状四人いるデカバケモノ女の中に、水の塊みたいなヤツがいるだろう!? アイツを真っ先に倒してくれ!』
『え? なんで!?』
『俺の聖獣気は水に溶けるんだよ! あっちもそれを承知でガンガンマークしてくる!』
アイツを何とかしない限り俺の聖獣智式は使えない……!
『マジかよ……!? アイツそんな単純な弱点があったんだな?』
『欠点の一つもあった方が親しみ持てるっすよ』
『まッ、早速のリクエストなら応えてやろうぜ! それでこそ助太刀に来た甲斐があるってヤツだ!』
『合点承知!』
要望を受けて早速ガシとセキが水星の化身リッシュワーカへと向かって疾走。
『えッ!? ちょっと性急すぎやしませんか!?』
何の援護もなしに突貫なんて。
見ろ! 向こうも金木土総勢で迎撃してくる! 遠隔飛び道具攻撃の雨あられ!?
『セキ! お前の出番だ頼むぜ!』
『合点承知の助!!』
なんだ?
十二使徒十一位、『兎』のビーストピースを得たセキが、相棒のガシを抱えて……。
『……すげえっすよ、この聖獣モードってのは。感覚の鋭さ微細さ範囲の広さ、比べ物にならねえ。しかも時間が遅くなったようにも感じます。全部がスローに目耳に入ってくる』
逃げ場もないほど隙間なく……、敵の飛び道具が雨あられと降り注ぐ中。
『……聖獣智式<兎早日機>』
セキは凄まじいスピードで動き回り、すべての攻撃を回避する。
しかも雨のように降り注ぐ遠隔攻撃の、その僅かな隙間を潜り抜けて複雑にかわしている。
何百とある攻撃すべての軌道を把握し、高速移動でなければ実現しない芸当。
ウサギの鋭敏な感覚と、素早い健脚を併せ持つセキの聖獣気でなければできない。
しかもアイツはそれを……ガシを抱えながらやってのけた。
十二使徒最大の体格を持つガシを。
俺の要望に従って、水星リッシュワーカの直前まで来て……。
『こっからは兄貴の出番です! お任せしましたよ!』
『合点承知の守だぜ!』
まるでロケットの切り離しのようにセキは、ガシのことを前方へ放り出した。
『最高のタイミングだ! オレもジラのヤツ見て一回でいいからやってみたかったんだよ! 行くぜ! 聖獣モード!!』
既に聖獣気はまとっているがさらに全開に発するガシ。
『羊』のビーストピースを持つアイツの聖獣気は、これまた独特だ。
『<ウェイブスプラッシュ>ッ!!』
敵を面前に置いて水星リッシュワーカも黙っていない。
大津波に似た水属性攻撃を、目と鼻の先にいたガシは丸被りしてしまった!?
『ガシーッ!?』
『アイツ、直前でカッコつけるから……!?』
しかし、引いた波から現れる彼の巨体は……。
『効かねえ』
『!?』
何の変哲もなかった。
噴き出す聖獣気の勢いも衰えない。
『オレの持つ獣性は「羊」だぜ? 当然オレの聖獣気もその特徴を受け継いでいる。羊の毛っていうのは水を弾き、それでいて燃えにくくもある。だからオレには火も水も通じないんだよ。……オレの聖獣気に弱点はねえ!!』
世界中で愛用される動物性繊維ウール。その特徴でガシは無敵の防御力を得ていた。
マジかよ?
ウール最強?
『届いたぜ! 食らえ聖獣智式<大羊弐吠>ッ!!』
充分な射程距離に入って繰り出される必殺技。
パワー全開の力技をまともに浴びて、吹っ飛ばされる水女神。
しかしまだ足りない、ヤツはダメージを受けながらも攻勢を保っていた。
『くっそ! あれ当てても残りやがんのかよ!?』
『大丈夫だガシ、あとは任せろ』
敵の背後を襲うように現れたのは、駿馬ならざる十二使徒第九位レイ。
『お前たちがハデに正面突入してくれたおかげで注意が集まり、簡単に背後を突くことができた。「馬」のビーストピースに智聖気を併せ得た今の私は、迂回して回り込むにも瞬時に完遂できる』
超スピードの獣性を得たレイ。
その速度をそのまま足に乗せて……。
『聖獣智式<馬上翔念過ぐ>』
聖獣気最集約の蹴り技で、水女神の首はサッカーボールのように胴体から離れて飛んで行った。
それが致命傷となったのか、水女神は即座に蒸発して消滅していく。
『やった! 一人目撃破だ!!』
ガシとセキとレイ、帝国軍入隊からの同期の桜たちが、そのコンビネーションを最大限に発揮してナインテールの一角を崩した。
『チッ』と舌打ちを上げる白玉天狐。
『今だッ!! 聖獣智式<鉄鉄奔鼠神蔵>!!』
リッシュワーカの水さえなければ気兼ねなく俺も聖獣智式を使える。
再び猛威を振るえ霊体ネズミども!
全開の俺は、最初に一体などとケチなことは言わず、最初から数十体の霊体ネズミを発生させる。
さらに……。
『セレン頼む!』
『合点承知の姫!』
それ流行ってるの?
振り回される巨大鉄棒。セレンに攻撃させることで霊体ネズミは打ち砕かれ、数を増やしながら復活する。
十秒と経たぬうちに数百体にまで膨らんだネズミの群れ。
容赦なく残った化身たちへ押し寄せる。
その様は軍隊アリが獲物を襲うかのようだった。
『何度見てもあの技はエグいな……!?』
『そりゃ水に溶ける程度の弱点ないとやってらんねーよ……!?』
霊体ネズミにたかられて大混乱の化身たち。
絶好の攻撃チャンスであることはたしかだ。
『なら次はオレの出番だな。……聖獣智式<放身猿戯>!!』
俺の妻の一方サラカ。
みずからの分身を生み出す幻影技は聖獣モードとなっても変わらない。
『しかし! 聖獣化したオレの真価はこっからだぜ! 聖獣智式コンボを見よ!』
聖獣智式コンボ!?
『そうまずは! 聖獣智式<珊獄糸猿戯>ッ!!』
分身したサラカ一人一人から……糸状の聖獣気が伸びて互いを繋ぎ、敵ナインテールたちを縛り付けた!?
『続いて聖獣智式<吸呼伝>ッ!』
そして聖獣気の糸に触れた部分から……、相手の生命エネルギーを吸い取っている!?
吸収したエネルギーは分身たちが受け取り、相手を充分に弱らせてから……!?
『最後にとどめだ! 聖獣智式<砕勇騎>!!』
サラカ自身が直接攻撃の聖獣智式でもって化身の一人に突貫した!?
直撃を受けたのは金星の化身。サラカの極大攻撃に耐え切れず粉々に砕け散る。
そうなったのは当然、前もって力を吸い取られて弱っていたこともあるのだろう。
『おっしゃぁ!! 残りのヤツらもオレ一人で片付けてもいいが、あまり欲張るといジラの嫁として慎ましくないからな! 手柄を譲ってやるぜ!』
『何を言う……』
あとを担って登場するのは、もう一人の俺の妻フォルテ。
聖獣気をまとった艶やかなる女体は、もはや月下の白狼のごとく輝かしい。
『お前のコンボは、気の糸を通して相手の力を吸い取り、充分弱らせて一網打尽にするのが真意。しかし今日の相手は膨大すぎて力を吸い取りきれず、受け持つ分身どもがキャパシティオーバーで崩壊してしまった』
『うッ!?』
『お陰で気糸も消滅し、敵も拘束から逃れたために一網打尽にしたくてもできなかったんだろう。討ち漏らしのフォローを、あたかも手柄を譲ってやったように騙るな』
『うっせえよ! オレのおかげで残りのヤツが弱ってるのもたしかだ!』
『そうだな……、そもそもサラカの術で吸い尽くせない気の量というのも凄まじい。聖獣気で強化までされているのに。それだけジラは強大な敵と戦っていたということか……!?』
フォルテの両手に聖獣気が集まる。
『私は、こういう戦いを待ち望んでいた。夫を助ける妻の戦いを。戦闘民族ロボス族に生まれ、戦いしか得意のない私なれば、その戦いで夫の役に立つことこそ本望』
眼前には、木星の化身たるエリザクがいた。
『ビーストファンタジー3』では一国の女王にまで成り上がり、暴政と放蕩で国を荒らした正真正銘の傾国。
その大悪女に対して、ウチの良妻フォルテは……。
『ブレズデン戦争を通して編み出した新たなる必殺技を今こそ使おう。<餓狼電刹>を超える。聖獣気を得た今こそ炸裂させる絶好の機会!』
フォルテは、右手と左手を上下に合わせる。そのまま指を大きく広げる形は、まるで狼のあぎとを模すかのようだった。
そんな手の形から……。
放たれる……。
『聖獣智式<皇神>』
ただの一撃で、木星の化身は噛み砕かれて消滅した。




