表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/104

86 無償の結集

「お、お前たちは……!?」


 たぬ賢者のゲートをくぐって現れたのは……!?


 フォルテとサラカ。

 俺の愛しき妻二人!?


 それだけじゃなく……、ガシ、セキ、レイ。

 共に苦楽を乗り越えてきた同期の桜たち!?


 そして極めつけに……!


「お兄ちゃん! 私もきたぞー!!」

「セレンまで!?」


 妹セレン!?

 帝国の仲間たちが大挙して駆けつけて来おる!?


「皆どうして!?」

「それは私たちが聞きたいぞジラ! いつだって勝手に動き回るんだから!」


 まず迫ってきたのは人妻になって益々色気が増すフォルテ。


「しばらく帰ってこないというからどこへ出かけるのかと思ったら! あんな巨大な女たちに囲まれおって浮気者!」

「ちょっと待って!?」


 いくら何でも、ここで浮気嫌疑をかけられるのは心外すぎる。


 あんな化身の精霊女どもと、どうやって浮気しろと言うんだよ!? 白玉天狐の分身の水女神とか金女神とか木女神とか!?


「ジラ……、我々はあの獣に導かれてここへきた……!」


 この仲では一番整然と説明できそうなレイが言う。

 ここは彼へ耳を傾けるのが一番すんなりすすむであろう。


「あの獣というのは……、あそこの毛玉のことだな?」


 たぬ賢者を指して言う。


「そうだ。十二使徒の今いるメンバーの中で会議を進めていたら、いきなりあの獣が現れた。ドアを開けて、しばらくセレンがモフりまくって混乱したが。一段落してから獣が言うのだ」


 ―――『お前らの中で、ジラを助けに行きたいヤツはおるたぬ?』


「と」

「師匠何言ってくれとるんですか!?」


 俺は厳重抗議しようとしたが、またセレンによってモフられまくっている、たぬ賢者。

 まず地面に仰向けに寝かせ、その上でお腹を両手で撫でさする蹂躙ぶり。


「それでここにいる全員『応』と答えた」

「えッ? それだけ?」


 もっと詳しく事情を聞いたりしなかったの?

 俺がどこにいるかとか、何をやってるのかとか? 何もわからず突っ込むなんて無謀すぎやしませんか?


「いや充分だ。お前を助けるためならば」

「ジラよ、オレたちを舐めるんじゃねえぞ?」


 さらに会話に加わるのはガシ。


「ここまで一緒にやってきたオレたちじゃねえか。オレたちは仲間だ。ダチが苦労してるんなら駆けつける理由なんてそれ一つで充分だろ?」

「躊躇う理由こそないっすよ!」


 セキまで……!?


「ジラ、私たちは夫婦になった」


 さらにフォルテまで言う。


「夫婦は苦労を分かち合ってこそじゃないか、アナタが戦いに臨むなら、どうか私も連れて行ってくれ。アナタだけで傷つかないでくれ」

「しかし眺めてみたら壮絶な風景だよな。十二使徒の半分以上がこっちきてやがんの」


 サラカが気だるげに言う。


「でもまあ、それだけウチの旦那が人望厚いってことだよな。その人徳がそのままハヌマ族の利になるんだから、ここはオレも一肌脱いどくか!」

「兄ちゃんが頑張る時は、いっつも誰かのためだ」


 最後にセレンが、一番古くから一緒にいる妹が言った。


「自分より先に他人な誰かを大事にするのが兄ちゃんだ。そんな兄ちゃんが必死に頑張ってるなら、きっと大事な誰かのためだ。兄ちゃんの大事な人は、アタシたちにとっても大事な人だ」


 地面に寝かせていたたぬ賢者を拾い上げ、頭の上に乗せるセレン。


「というわけで全員で一丸になって攻めるぞ!!」

『え? ワシこの位置たぬ?』


 セレンの頭の上が定位置になるたぬ賢者だった。


「…………」


 俺は、胸からこみ上げるものを無視することができなかった。


 ずっと自分だけのために戦ってきたつもりだ。

 異世界の悪役に転生した俺が生き残るために試行錯誤した。その途上で出会った多くの人々。

 彼らが俺を助けるために集まってくれたなんて……。


「……それでジラさん? アナタがただ今戦っているあのバケモノどもは何なんすかね?」


 セキの指さす先には、中空に浮かぶ大妖狐と、その分身たる水星、金星、木星、土星の化身たちがいる。

 まあ事前説明なしであんなの目の当たりにされたら、そりゃ困惑するよね。


「……あれは白玉天狐と言って、何千年も生きて、神を超える力を得たキツネだ。帝国に力を与えた獣神ビーストより強くて……、まあ単独で世界を滅ぼせるかな」

「なんでジラはそういうとんでもないのと気軽にぶつかり合ってんのかな!?」


 俺も好きでやってるわけではないんですよホントに。

 でも、望む結果にたどり着くためには避けて通れない道なので。


『……ふむ、感動の団結シーンは終わったかえ?』


 白玉天狐は、こっちの話がまとまるまで待っててくれてたらしい。

 敵キャラの作法を弁えておる。


『試練と言いながら助っ人を大層連れてきたものだわ。しかもものの役に立たんな』

「何をッ!?」


 白玉天狐の挑発めいた口ぶりに噛みついてしまうフォルテ。


「我らをもって役立たずだと!? 十二使徒に選ばれ、帝国最強疑いない我々を!?」

『人の物差しで威張り散らしたいなら、人の領域でするがよい。そなたらより獣神の臭いがプンプンするのはわかっておる。それだけでこの白玉天狐に歯向かおうなどとは無謀の極みよ』


 たしかに……。

 獣魔気と聖獣気を併せ、聖獣気を作り出すことのできた俺ですら、白玉天狐の超越能力に押し込まれる寸前だった。


 いかに人の世界で最強を誇っても、獣魔気片方だけで戦いを挑むには巨大すぎる相手だ。

 あの白玉天狐は。


 心打たれたが彼女たちの助力ではどうにも……。


『この試練は、強さを示すものではないたぬ』


 セレンの頭の上で、たぬ賢者が言った。


『無償の実行、それを示すことが試練たぬ。ジラは無償の動機でアホキツネに挑み、諸君らは無償の絆でジラを助けるために集まったぬ。己を顧みず、他者のために進む。そして進み抜けるかをあのアホキツネに示すがいいたぬ』

「たぬー!」


 セレンが語尾を真似していた。


『だからライガは連れてこなかったぬ』

「えッ? ワータイガさんも? 来ようとしてたんですか!?」


 こっちに!?


「この毛玉、会議中に入ってきたからワータイガ様も当然同席していたぞ? たしかにここ数日様子が変だったが……?」

「この毛玉を見た途端、滅茶苦茶反応してたな。あの人があんな感情豊かなの初めて見たわ」


 今のあの人には過去の記憶が戻ったという重大な変化があったからな。


 前作『ビーストファンタジー3』の主人公でもあるワータイガ=ライガ。

 そんな彼だからこそたぬ賢者との面識は当然ある。

 ライガが智聖術を会得したのもたぬ賢者から教わったのだし、その縁で一人逃れた息子セロをたぬ賢者へ託した。


『いやー、アイツ老けたぬなー! 生きてたってこと自体ビックリたぬけど、それよりオッサン顔になったのに超ビックリたぬよ!』


 とヒトの老いを嘲笑うたぬ賢者。


『ヤツは何が起こったか察したようで、すぐ「行く」と申したぬが許さなかったぬ。ヤツにはこの戦いに、明確に懸ける理由があるたぬ。それでは無償の証明にならないたぬ』

「何かわかりづらい拘りが……!?」

『それにアイツには、街に残ってやるべきことがあるたぬ。息子の世話は父親に任せるたぬよ』


 そうだな……!

 今のワータイガなら、セロが先走ったとしても何とか抑えてくれるだろう。


 その間に俺たちで、こっちの状況をぶち抜く!


『そしてこの試練が無償の実行を示すものだということで、ワシからもう少しだけ助力を加えてやるたぬー』


 その瞬間だった。

 俺の応援のために集ったガシ、セキ、レイ。それにフォルテとサラカ、そしてセレンの体だから青白い霊的エネルギーが噴出した。


「これはまさか……!?」

「ジラと同じ……!?」


 聖獣気!?

 獣魔気を帯びてはいるが、智聖術を学んでいない彼らから何故!?


『ワシから智聖気を限定で貸し出してやったぬ。あっさり獣魔気との融合を果たしているあたり、心が清い証拠たぬなー』


 俺以外の十二使徒は、先にビーストピースを埋め込まれたために、反発を受けて智聖術を修得できない。


 それをこんな形で補うなんて。


『おいコラ、ズルいぞ! 何そんな限界超えるドーピングしとるんじゃ!?』


 さすがの超絶援助に白玉天狐からも物言いが入る。


『力を与えられても、実際戦うのは彼らたぬ。ワシは直接手を出してないからセーフたぬ! さあ皆の衆、無償の戦いを見せてみるたぬ!』


 皆が助けに来てくれて、体中に力が漲る。


「よし皆! やるぞ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] グレイリュウガ(で、出遅れた……だが十二使途が半分以上居なくなるのは不味いか?……まあジラットなら何とかするだろう) とか思ってそうですね
[一言] グレイリュウガ様はどういった反応したんだろうか?
[一言] 俺たちの戦いはこれからだ!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ