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83 神も震え上がる強さ

 白玉天狐。

 歴代最強ラスボスの呼び名は伊達ではない。


『ビーストファンタジー4』も鬼畜難易度で有名であるが『3』では、あの白玉天狐一体で鬼畜難易度の九割をまかなっている。


 プレイヤーによる自力撃破は不可能。


 主人公&ヒロインによる特別イベントで弱体化させたあと、サブシナリオで入手できるアイテムで封印するしかない。

 しかもそのサブシナリオが一定期間越えたら消滅し、取り逃したら最初からやり直すしかないという鬼畜そのものだった。


 この世界におけるライガとクズハは首尾よく封印アイテムをゲットできたようだな。

 俺が解き放っちゃったけど。


『このわらわが何故……、白玉天狐と呼ばれるのか承知かえ?』


 彼女の尻から伸びる九つの尾が、災厄の化身のごとく蠢く。


『野狐とは妖力を備えしもの。獣の中で人どものみが知性ありなどと驕るなかれ。我らキツネもまた知に入る資格を持った高尚な獣である』


 どっかの伝説によれば、野性のキツネは五十年生きることで変化の術を会得し、百年生きると美女となって人間と交わるという。

 さらに修行を経て仙人のキツネ……仙狐となり、そのまま千年生きながらえれば仙狐の究極……天狐へと昇る。


『天狐には、その証として白き面、黄金の毛皮、そして九本の尾が与えられる。九とは陽数(奇数)の最大。もっとも光り輝く数字。そのカズタマに則りわらわはみずからの尾に燦然なる象徴を与えた。即ち……』


 九曜。


『「曜」とは「光り輝く」の意。輝く星のこと。わらわは、みずからの尾一本一本を通して九つの星を支配する極術を完成させた。天空に輝く九つの星を……』


 水星、金星、火星、木星、土星、日月。

 それから……。


『……支配する。烈白に輝く玉星を司る天狐。それがこの白玉天狐。わらわと戦うは即ち星と戦うことと同意。その意味をこれから骨の髄まで思い知るであろう。そなたがな!』


 尾の一本が振り上げられ、襲い来る。

 単純に大蛇のように巨大であり、叩かれただけでも圧し潰されそうな勢いだ。


 しかし白玉天狐の攻撃は、そんなチャチな段階では終わらない。


 ヤツの一挙手一投足は、いちいち神に匹敵するのだ。


『まずは小手調べよ。一の尾、火星<マンガラ>』


 ヤツの尾の一本がたちまち炎をまとい、火炎の旋風となって俺を襲う。


「くっそ!? ……聖獣モード!!』


 寸前で聖獣気をまとい凌いだが、一瞬でも遅かったら丸焦げになっていたぞ!?

 この火勢……『3』の時点ではまだ実装されていない火炎系の最々上級魔法<リアマヘスティア>に匹敵するじゃないか。


『まだ全然本気じゃない……戦闘形態を解放しただけでこの高熱……!?』

『ほう、まだ生きておるか? 当然基底状態にしただけで死なれては味気ない。第一幕は上がったばかりぞ!』


 大火炎の奔流はうねりながら、俺を飲み込まんと殺到する。


 飲み込まれても聖獣気がある限り焼け死ぬことはないが、ダメージは確実に食らうな。

 無造作に食らうのは得策ではないと回避する俺。


『すばしっこいのう? やはりただの自然の暴威では智者を捉えきることは難しいか?』


 まったく余裕の白玉天狐。


『天災もまた獣性の一つよ。天地が見せる獣のごとき荒ぶり。それに品が加わってこそ天災は天罰となり、人どもは山を、海を、天を崇め奉る。……さてわらわも神に等しきモノとして、自然の暴威に「品」を加えてやるとしよう。ただ……』


 巨尾の変化した大炎が……。

 ……またさらなる変化を?


『本性ゆえかの……? わらわの加える「品」は、どうしても色っぽくなる』


 炎が集合したと思ったら、うねうねと粘土をこねるような動きで……。

 形が整った。


 炎が形成するその形は……。


『……女?』


 一糸まとわぬ全裸の女性。

 ……の形をした炎。


 まるで炎の精霊。

 ただし巨人と思えるほどに図体がデカい。


『さあ、仕合うがよい。これでも我が力を分け与えし分身ぞ? 必ずやそなたを満足させる器量を備えておろう』


 そんなこと見ただけでわかる!

 単なる分身であるのに、今まで戦ってきたどんな敵よりも最強最悪だとわかる!


『一応言っておくが、「仕合う」といっても「まぐわう」という意味ではないからな。見た目が色っぽくても結局は火を司る星の化身。突っ込めばイチモツが焼け木杭になるゆえ、お勧めせんぞ?』

「するかそんなことおおおッ!?」


 女の形に整えられた大炎はまさしく炎の女神。

 その火女神は、どこからか火炎の剣を引き抜き、俺めがけて振り下ろす。


「ちぃッ!?」


 こんな戦い方『ビーストファンタジー3』のラストバトルではやってこなかった。


 ゲームと転生世界との違いか?

 今目の前にいる白玉天狐はすべてのリミッターを外した本気モードに思える。

 今こそ獣神ビーストすら超えるという天獣の、その真の力が遺憾なく発揮されている?

 ゲームで発揮したらプレイヤー誰も勝てなくなっちゃうもんな!?


 ともかく炎が変化した巨大なる女神に襲われ中の俺。


『<紅蓮爆火葬>ッ!!』

『何ッ!?』


 火女神が、なんか技名を口走った?

 それと共に、振り下ろされる火炎剣が広げる大爆発!?


『この技……、まさか……ッ!?』


 あの火女神に見覚えはなかったが、今の技には見覚えがある。


 白玉天狐の忠実な部下にして分身、『ビーストファンタジー3』の敵幹部役を担う九人の美女集団ナインテールの一人……。


 火星クリアランタの必殺技じゃないか。

<紅蓮爆火葬>は!?


『まさかあの炎女……、いや九本の尾一本一本に……!?』


 ナインテールのメンバー一人一人が宿っている?

 元々ナインテールは、白玉天狐の九本の尾が、その尻から離れて変化した分身という設定だった。

 そうして世界各地に散って、人間社会に溶け込みながら、美貌と知謀で権力に取り入りながら世を乱す。

 傾城傾国の美女集団。


 それがナインテール。


 その一人クリアランタは九曜のうち火星を司る天狐の分身。

 とある軍事国家に潜入してから女将軍にまで出世し、些細な理由で他国に攻め入っては戦禍を拡大させる戦争マニア。


『ビーストファンタジー3』では、恋人クズハを探し求める途中の主人公ライガに正体を見破られて滅ぼされた。


『まさかこんな形で再会するとは……!?』


 無論『ビーストファンタジー3』もプレイ経験のある俺は、これが彼女との初戦じゃない。


『悪いが今更お前に手こずってる場合じゃない! 最初から全力全開だ! 聖獣智式<鉄鉄奔鼠神蔵かなてほんちゅうしんぐら>!!』


 我が聖獣気で形作られた霊体ネズミ。

 ネズミという形をとっているものの聖獣気という霊的エネルギーで構成された疑似生命だ。


 ある意味目の前にいる火女神と同じかも。


『行け! 視界にあるものすべてを喰らい尽くしてしまえ!!』


 我が聖獣気で作り出された霊体ネズミは、だからこそ死ぬことがない。

 叩かれても砕かれても、その断片それぞれが新たな霊体ネズミとなって復活する。

 砕かれなくても二十秒に一回のペースで分裂し、無限に増殖しながら敵を襲う、最悪の数の暴力。


『向こうも集団戦がお好みらしいからな。今更手抜きなんてしない!』


 白玉天狐が一本目の尾をナインテールに変化させてけしかけたからには、二本目三本目も来るという流れは目に見えている。

 ならば初っ端から霊体ネズミを出して、最大限数を増やしながら一気に畳みかける!!


『<紅蓮爆火葬>ッ!!』


 火女神が再び必殺技を仕掛ける。

 粉々に砕け散った霊体ネズミの断片は数十数百。そのすべてが新たな霊体ネズミとなって復活した!


『威力がハデだと分裂も捗るな!』


 既に津波の大群れとなって火女神に次々まとわりつく。

 俺の霊体ネズミは炎にだって負けない。焼かれながら敵を齧り、丸焼けになって力尽きても分裂しながら復活し、二匹がかりで齧り続ける。


 その連続だ。

 究極存在、白玉天狐の分身だって恐れるに足らず。


『ネズミの獣性か……。なかなか通なチョイスじゃのう』


 既に火女神は、一部の隙間もないほど霊体ネズミに覆い尽くされ沈もうとしていた。

 その様を見てなお、本体の白玉天狐は余裕たっぷり。


『無限に殖え、無限に生き続けることもまた究極の力。そういう意味ではネズミもまた、もっとも凶悪な百獣の王と言えよう。しかしそなたは大事なことを忘れておるな……?』


 白玉天狐は、ペロリと舌先を出してみずからの唇を舐める。


『ネズミはな、我らキツネの大好物じゃぞ?』

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― 新着の感想 ―
[一言] 遠回しな告白じゃん
[一言] 食ったら胃の中で分裂しそう
[一言] 窮鼠猫を噛む、と言うが。 神をも超える究極の狐を噛み裂くことができるか!?
感想一覧
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