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80 3の世界

 RPGの1、2、3と連作を重ねる場合。続編に前後の繋がりがあるかどうかはシリーズによって異なる。


 続編が前作の十年後であったり、百年後であったり、あるいはまったく違う世界に見せかけて実は何千年後ですとかあったりする。


 その点『ビーストファンタジー』はわりかし前後の繋がりがあるようで、『ビーストファンタジー2』は『1』の百年後の世界。『2』と『3』の繋がりは明確にされていないが『4』は『3』のエンディングからたった十年後とめちゃくちゃ近い。


 前作の登場人物が、そのまま新作に登場してもいいぐらいの空きだ。


 しかし、それが必ずしもいいこととは限らない。


 実際『ビーストファンタジー4』には、『3』に登場したキャラクターのうち二人が明確に登場している。


 主人公ライガと、ヒロインのクズハ。


 二人は『3』で大恋愛の果てに結ばれ、大団円を迎えた。

 二人は世界を救いながらも隠遁し、田舎の貧しい村で静かに、幸せに暮らす。

 子宝にも恵まれ一児を設けた。


 その子をセロと名付けた。


 やがてその子は新しい運命に飲み込まれることとなり、その先駆けとして獣神ビーストの手による帝国兵が村を襲い、焼き払う。


 新しい主人公としてセロは生き延びなければならない。


 彼を生かすための代償として支払われたのが前作の、いわば『用済み』となった者たちの命だった。


 前作で幾多の危機をも乗り越えたライガは、主人公の座から降りた途端あっさりと殺され、ヒロイン、クズハもラスボス戦にまで同行した回復魔法と智聖術の使い手でありながら、息子を庇ってあっさり死んだ。


 当時『ビーストファンタジー4』をプレイしたファンの大半が怒り狂ったのは言うまでもない。


 そもそも『ビーストファンタジー3』は全シリーズを通じても最高傑作の呼び声が高い。

 1、2から受け継いだシステムが完成の域に達し、ストーリーも本格的になってシリーズの人気を不動にしたのが『3』。


 ファンからも『一番好きなタイトルは?』と聞かれて、三作目を挙げる者は多い。

 実は俺も一ユーザーとして『3』が一番好きだ。


『ビーストファンタジー3』のストーリー面における最大の特徴が、主人公が徹頭徹尾恋愛のために戦っていること。


 とある田舎村に育った平凡な少年ライガは、幼馴染の少女クズハに恋していた。


 ある日決意して想いを伝えようとするも、その瞬間謀ったように魔獣が現れて告白相手を連れ去ってしまう。


 愛する人を取り戻すためライガは旅立ち、その先で世界の危機に巻き込まれる。


 結局、恋人と結ばれるためにはラスボスを倒さなきゃいけないってことで、本当にラスボス粉砕してしまった驚異の男。

 色恋沙汰のついでに世界を救う。

 そんなJRPGの典型主人公がライガなのであった。


 しかしまあ、そんなコッテコテのストーリーが大きくウケた。

『ビーストファンタジー3』の売り上げは過去二作を大きく上回り社会現象になる。


 だからこそ続編の反動は大きかった。


 結ばれ幸せになったはずの前作主人公&ヒロインが、次作の開始早々死んだりしたらどうなるだろうか。

 当然のように荒れた。


 ハッピーエンドで結ばれたはずの物語を無理やりバッドで再開させてどうするのかと、非難の嵐で大混乱。

 制作会社に脅迫文まで送られて警察沙汰になったという。


 ファンの間ではこの一事だけで『4』を『シリーズ最低最悪の駄作』と断じる者までいる。


 制作側としては『3』でほぼ固まったシリーズのマンネリ化を避けようと衝撃を用意したんであろうが。

 驚きゃ何でもいいってわけじゃないぞ。


『予想を裏切ること』と『期待を裏切ること』は似ているようでまったく違う。

 それを理解できずやらかしてしまった典型例が『ビーストファンタジー4』であった。


 まあ、ゲームに関する愚痴はこれくらいにしていくとして……。


 要するに、色恋沙汰で世界も救えてしまう男というのが、今目の前にいる前作主人公ライガ=今は敵幹部の重鎮ワータイガなのだった。


 以上のことも踏まえて今の彼を分析してみるとしよう。


 彼にとっては愛する女性こそがすべてだった。

 彼女と結ばれるためだったらラスボスだって倒してみせらあ、と言って実行しちゃう男。


 そんな男が、愛する女性自体を失えばどうなるか。


 今の彼は、この世に意味を見いだせていない。

 彼女のいない世界なんて何の価値があろうか、とか言っちゃう人。


 まあ、それでトチ狂って世界滅ぼす系のラスボスっぽいことしないだけマシかもしれないが……。


 ビーストピースによる洗脳も解け、今は愛する女性との間に授かったセロだけがかろうじて彼をこの世に結びつける寄す処なのだろう。


 しかしそれでも、この濃厚に漂う世を儚む気配。

 平和を保つためなら息子に討たれてもいいという、どこか投遣りな感じは、愛する人に先立たれた喪失感からくるものに違いない。


 彼はそういう人だ。

 十二使徒ワータイガというだけでなく、前作『ビーストファンタジー3』の主人公ライガとして見るならば。


 そして、この問題は息子セロの方にも当てはまる。


『3』の主人公をゲームクリアまで導いた動機が『恋愛』ならば、『4』の主人公セロを突き動かす動機は『復讐』。


 両親を殺された恨みで一国滅ぼす息子の方も、大概なような気がしてきた。

 この父親にしてこの息子ありというか。


 今現在父親の生存が判明し、復讐の動機の半分が消失したことになる。


 しかし。それでもセロの復讐は終わらない。

 動機のもう半分、母親の死は覆しようがない事実なのだから。


 父と子。

 ライガとセロ。


 二人の引き返せない破滅への道は同じく、妻にして母親の死が起点となっている。


 これを何とかしないことには問題を解決するのは不可能なんじゃないか。

 ゲームと同じように最悪の結末は避けられない。


 ……俺はこれまで、この世界に悪役として生まれ落ちて様々にあがいてきた。

 この世界のモデルとなったゲーム同様の破滅の未来を避けるために。

 力をつけ、正しい対処を心掛けてきた。


 その陰で危険因子はどんどん消化されていき、今日レジスタンスの解体にまでこぎつけた。

 平和な未来はすぐそこだ。


 帝国を滅ぼす張本人、主人公セロとその父親、前作主人公ライガの存在は最後にて最大の障害になるだろう。


 この二人の気持ちを和らげ、何とか矛を収めてもらうにはどうしたらいいか?


 一番の問題は二人の心の奥底に引っかかっている一人の女性。


 彼女の死が取り返しつかないからこそ難しい。


 取り返しがつかないから二人とも意志が固く、覆しようもないものになっているのだから。


 死者は甦らない。

 それはいかなるRPGにおいても共通する絶対の原理(戦闘中の死亡除く)。


 それを覆すことは容易ではないが、今回はその難業に挑むこともできる。


 セロの母親にしてライガの奥さん……、クズハを甦らせる方法は、実はないこともない。


 そのことを説明するために今一度『ビーストファンタジー3』のストーリーをより詳しく語ろう。


『ビーストファンタジー3』の敵にしてラスボスは、白玉天狐(はくぎょくてんこ)という妖怪狐。

 多くの類例通り九本の尾を持っている。


 何千年も生きてきたという超越者で、長生きしたせいか獣でありながら知性までも備えて、要は獣魔気と智聖気の両方を兼ね備えている。


 併用の最強型は後発シリーズでどんどん量産されていくが、元祖は多分この白玉天狐。

 それだけに強さは絶大で、シリーズ最強のラスボスとまで謳われた。

 獣神ビーストより強いことになっている。


 自分の尾の一本一本を分身に変えて、自分に従う忠実な部下としたのが『3』の幹部キャラ、ナインテール。


 妖狐の眷属だけに全員例外なく美女という、シリーズ中でも特異な存在だが、このナインテールが問題になる。


 ラスボス白玉天狐の分身にして忠実な部下、ナインテールの一人こそが『3』のヒロイン、クズハなのだから。


 前述したが、『3』のプレイ開始でヒロインが魔獣に連れ去られるのも、実は各地に放って普通の人間として潜伏させていたナインテールを招集しただけのことだった。


 以降、人類滅亡のために活動開始した白玉天狐の手先として働くクズハ。

 人類の敵から恋人を取り戻すつもりで戦っていた主人公ライガは敵味方としてヒロインと再会する衝撃的な展開。


 ……そこからシリーズ屈指の強ラスボスをボコボコにしてヒロインさらっていく辺り『3』の主人公はマジモンであったが。


 そんな剛の者たちが次回作にて一般兵に囲まれるだけで倒されるのも納得がいかない。


 それはともかく、ヒロインもそんな風に個性たっぷりの怪人であるのだから、一回死んだぐらいで終わりにならない望みは残されている。


 何しろ世界を滅ぼしうる天獣の一部であるのだから。


 そうなればセロとライガの問題を一挙解決するために。

 二人の大切な人クズハを現世に呼び戻すために。


 行かねばなるまいよ。


『ビーストファンタジー3』のラスボス、白玉天狐の下へ……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 実際、前作主人公の葬式から始まる某恋愛ゲーとか非難の嵐だったもんな。
[一言] 無双してええんやで
[良い点] ハァー続きが気になる~
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