70 本部訪問
レジスタンスにまつわる独自行動を許可してもらえたので、早速行動に移す。
用が済んだらフォルテ、サラカとの時間もしっかり作ると確約してから。
まず帝都から出た俺は、記憶だけを頼りにただひたすら進む。
目的地はまだ秘密。
「北がこっちだから……南東はあっちか……」
目的地がどんなに遠くても、ビーストピースを得て身体強化された俺には大した負担ではなかった。
人間離れした脚力でどんどん進んでいく。
すべては自分の記憶だけが頼りだった。
生まれる前のことだから記憶以外こっちに持ち込みようがない。
前世では何十回と繰り返しプレイして目を瞑っても浮かんでくるマップだが、やはりゲーム画面のドット絵と、実際に歩いていくのでは勝手も違うし様相も違う。
たぬ賢者の庵を探した時も何度か道間違えたしな。
慎重に進んでいかねば。
「着いた」
その甲斐あってか大して迷いもせず目的地に到着できた。
とある街からずっと離れた荒野の中。
草もまばらで土肌剥き出し、荒涼とした風に交じって砂が舞う。
見渡す限りそんな風景が広がる、文字通りの化外の地。
『こんなところに人なんて住まねーだろ!?』と思うからこそ却って怪しくないですか?
「ここからは特に目印なんかないから見つけにくそうだな……!?」
そもそも見つけやすかったら秘密基地としては失格だ。
だが見つけた。
荒野に刻まれた深い谷間、その底まで下りる。
すると側面の絶壁に洞窟があった。
自然にできたとは思えない。人の手で掘り進んだ洞穴。
中に入るとすぐさま数人に取り囲まれた。
「何者だッ!?」
彼らは武装しており、鋭い槍の切っ先が俺に向けて突き付けられる。
一言でも対応を誤ろうなら刺し殺されそうな見幕だった。
俺は落ち着いて、ここで言うべきことを呟く。
「『ベヘモット帝国は世界の災い』……」
「!?」
それを聞いた男たちはすぐさま表情を変え。
「『世界を救うのは』?」
「『熱き血潮の反逆魂』」
「合言葉通りだ。ようこそレジスタンス本部へ」
到着しましたレジスタンス本部。
そうここが帝国に反抗する地下組織の中枢なのだ。
前世のゲーム知識で俺は本部の場所を容易に特定できたし、かつ内部に入るための合言葉まであらかじめ知っていた。
なのでレジスタンス関係者でもないのに本部に入れる。
あまりに簡単すぎて申し訳ないくらいだ。
「同志よ、レジスタンス本部へようこそ!」
「うむ、ご苦労様」
堂々としていれば部外者なんて案外バレないものだ。
彼らが打倒せんとする帝国関係者、しかも大幹部が潜り込んでいるなんて、ここまですれ違った人たちは夢にも思わんだろうな。
「さってさて……? 俺の記憶によれば……?」
レジスタンス本部の内部構造もしっかり前世から引き継いでいる。
だからどこが重要区画かも調べるまでもなく把握している俺だった。
レジスタンス本部とされた洞窟は、内部に入ってみれば以外にしっかりした造りで、レンガの壁や天井が設えられてありどこぞの立派な建物内のようだ。
魔法によるものか灯りもあって充分明るい。
「たしかこの階段を上って……?」
洞窟内に階段まであるというのも凄まじい。ゲームでのドットマップでは少しも気にしなかったのに。
階段上った先に……あった。
ここがレジスタンスリーダーの部屋だ。
「失礼しまーす」
「うむ?」
突然の入室者に、眉根を上げる程度のリアクションを起こした男性。
優しげなハンサム顔だが、ところどころにやつれた印象があり、どことなくくたびれていた。
俺の記憶がたしかなら、彼こそレジスタンスのリーダー、ジャンゴ。
このやつれ具合はレジスタンスを取りまとめる重責ゆえなのだろうな。
「誰だキミは? 見かけん顔だが……!?」
俺が押しかけてきた時リーダー・ジャンゴは執務机に向かって書類と睨めっこしていた。眉間に皺寄せて。
皇帝もよく政務中ああやってるわ。
立場は違えど結局責任者のすることって大体同じなんだな。
「……」
しかしここまで簡単にレジスタンスリーダーのところまで辿りつけてしまうとは……。
俺は単刀直入に言った。
「セロの古い友人だ」
「何ッ! セロくんの!?」
セロの名を出した途端の大きなリアクション。
こういう反応をするってことは、彼はもうセロとの接触を済ませているってことだな。
予測していたことだが……。
もうとっくにたぬ賢者の下を旅立ったんだなセロは。
「彼の友人というならアジトの場所を知っていても不思議ではない! 合言葉もな! ……いや一瞬ヒヤリとしたぞ、見たこともない人物が来たから帝国に突き止められたんじゃないかと!」
すみませんその通りです。
しかし俺は、自分の所属身分などおくびにも出さず、落ち着き払って言う。
「ここに来ればアイツに会えると思ってな。もし居場所を知っているなら教えてもらえないか?」
「それならいいタイミングだったな! セロくんなら今ここにいるぞ! おい誰か! 誰かセロくんを呼んできてくれ!!」
……。
今更ながらの感想ですが。
セキュリティ、ザル。
ザルすぎる!
いかに合言葉を知っているとはいえ、それだけで見ず知らずの男を秘密のアジトへ迎え入れるし。
友人を名乗るだけで簡単にセロと会わせてくれるし。
まあ、昔のRPGなんてそんなもんだったけど。それくらい大らかじゃないとストーリーが進まないしな!
そもそもRPGの主人公といえば、代表的な行為が『勝手に民家に入ってタンスを漁っていく』ということなのに警察も呼ばれないんだから。
RPGの世界にセキュリティという概念自体がないのだろう。
しかし俺が転生したこの世界は立派な現実でもあるし『それでいいの!?』という困惑がないでもない。
とか物思いに耽っていたら、どこぞからタタタッと軽快な足音が。
「兄ちゃんッ!?」
ドアを蹴破り飛び込むように入室してきたのは、たしかに見覚えのある顔だった。
懐かしい顔。
「セロか!」
「本当に兄ちゃんだああああああああ! 兄ちゃあああああああんッッ!?」
「ぐぼほぉッ!?」
感動のままにセロが、突進気味に抱きついてきた。
激突の衝撃で空気が漏れる。
なんで俺の妹も弟(のような存在)も突進抱きつきを仕掛けてくるの!?
「まさかこんなところで兄ちゃんに会えるなんて! どうしてわかったの!? 俺がここにいるって!?」
「あはははは、それが兄貴の偉大さなのさ」
しかしセロも成長したな。
見た目的にも。
最後に会ったのは三年前だったか、その頃から比べて随分逞しくなったように見受けられる。
背も伸びたし表情も精悍になった。
これだったら悪の帝国と戦うヒーローとしての貫禄は充分ある。
「セロくんがこのように慕うとは……!? よほど親しい間柄のようだな?」
ひとしきり再会を喜び合ったあとレジスタンスのリーダーさんが口を挟んできた。
「しかしセロくん、ヒトにこのアジトのことを話す時はもっと慎重になってもらいたい。ここの存在が帝国にバレることは絶対あってはならないんだ。誰かに教えるにしても、前もって私に一言……」
「俺誰にも話してませんけど?」
「えッ?」
リーダー困惑の体。
「セロくんから聞いてない? ではどうやって彼はここまで?」
「自力ですかね」
「自力!?」
実際そうなのでそうとしか答えようがない。
「ウチの兄ちゃんはそういうところありますから、無理に理解しない方がいいですよ」
「俺をどういう存在だと思っているのかな? この弟弟子は……?」
「あははははははッ」
頭をユサユサしても笑って誤魔化すセロは胆力もついたな。
きっと俺と別れてのち、様々な困難を乗り切ってきたのだろう。
こんなに立派になって俺は嬉しいぞ。




