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68 ゲームスタート

 二年が経った。


 この間ベヘモット帝国は隣国ブレズデンとの全面戦争に明け暮れていた。

 奮闘の甲斐あって連戦連勝し、ブレズデン王国は首都まで制圧されて全面降伏。帝国に併呑されることになった。


 戦端が開かれた経緯については両国民に広く知れ渡り、同国は『ロリコンとシスコンによって滅び去った国』と歴史に名を留めることになるであろう。


 ……。

 いやちょっと待て、シスコンって誰のことやねん?


 まあとにかくブレズデン王国は、帝国以外で大陸に最後に残った大国であったため、これを併呑したことは事実上帝国が大陸の覇者になったことと同意であった。


 残りは木っ端程度の小国か、大国はあるにしても海を越えた別の大陸だ。

 それらの国も帝国に従うか、不可侵を表明して敵対することはない。


 帝国はここに覇業を成し遂げた。


 それは『ビーストファンタジー4』が本格スタートを始める素地が完成したということでもある。

 俺が転生したこの世界は、かつて前世でプレイしていたゲームと同じものだ。


 それはその世界で、よりにもよって悪役に転生しいずれはゲームの主人公に倒される運命にある。

 そうしたバッドエンドを回避せんとこれまで様々な対策を打ってきたが、ただ新しい人生を謳歌することでもあったような気がする。


 実際充実しているからな毎日。


『帝国守護獣十二使徒』に就任してから約二年。

 それ以前の錬兵所での訓練生活も含めたら帝国に戻ってより大体三年程度。


 今年ついに、帝国歴百年。

 元はベヘモット帝国が小さな王国だった時から使用している暦であり、ヘロデ王が皇帝として即位し、帝国に改まってからも引き続き使用してきたんだとか。


 今年はベヘモット帝国の前身ベヘモット王国の建国より百周年。

 大陸統一を成し遂げたことも併せて、いつも以上に盛大な祝いが催される予定だ。


 しかし転生した俺にとっては、それとは別に重要な意味を持った年になる。


 帝国歴百年。

 このゲーム内時間から『ビーストファンタジー4』は本格的にスタートするのだから。


『ビーストファンタジー4』の主人公であるセロが、あらゆる予定通りに第一歩を踏み出しているはずだ。


 俺とセロはこちらの世界でもう既に、聖なる智の力を扱う賢者の下で出会っている。

 共に修行し智聖術を学び、兄弟子の俺が先に巣立った。


 弟弟子となるセロも、俺より遅れて三年後に旅立つことになっている。

 今年がその三年後。


 ゲームと同じようにこの年彼の冒険が幕を開ける。


 彼はこれからどのような道を歩くのか?

 ゲーム通りに進んでいくならいずれ俺は彼に殺されることとなる。


 それは嫌だなあ……。


 ということで俺からも破滅を回避するための何らかの行動が必要だなと感じた。



 その前に一旦、二年後の俺がどういう状況にあるか説明しておこう。


「はいアナタ、マントだぞ」

「う、うむ……!?」


 フォルテが差し出すマントを羽織る。


「ああ、よく似合うぞ旦那様。これこそまさに帝国最凶の姿に相応しい!」

「いやいや……!」


 かつての誓いの通り俺は結婚していた。


 一人目の妻はフォルテ。


 籍を入れて人妻となった今でも十二使徒の一人であり、第四位ウルフォルテとして敵味方から恐れられている。


 先のブレズデン戦争の時も率先して戦い、最前線にて大活躍した。

 その勇猛さから『修羅場の貪狼』というあだ名までついたが、そこまで必死になって戦うのは早いとこ戦争終結させて俺との子作りに励みたかったからだ……、というのはあまり知られていない。


 あんまり知られたくないし。


 活躍の甲斐あって戦争も終わり、現在のところ帝国はどこの国とも対立状態にない。

 これでやっと俺の子を産むことができるとルンルンの彼女なのであった。


 …………。

 夕べも朝方近くまで頑張らされた……。


「ふぇーい、おあよー……」

「サラカ! 何がおはようだ!? 出仕の時間まで間がないぞ!?」


 もう一人の妻であるサラカが今寝所から起き出した。


 ブレズデン戦争ではフォルテ同様に奮闘し『人喰い魔猿』などと呼ばれるようになった彼女。

 しかし今は気が抜けて朝起きられないこともしばしば。


「お前ら先に行って遅刻するって伝えといてくれよ。旦那と側室が同僚にいると便利でいいよなー」

「お前がだらしがないと夫であるジラの評判に響くんだぞ! あと誰が側室だ!?」


 結婚後もこんな感じであった。


 ブレズデン戦争終結してから本国へ帰還してのち、俺は帝都に大きなお屋敷を貰った。

 戦争で活躍したことに対する褒美の一つということか、めっちゃ大きなお屋敷なので二人の妻だけでなく、家族全員でここへ引っ越してきた。


「おはよう皆さん、朝ご飯ができていますよ」

「すみませんお義母さま! お手伝いもせず!」


 俺の両親も今はこの屋敷で同居している。

 俺だけでなく妹のセレンまで十二使徒入りしたことから『育児の天才』などと呼ばれるようになったウチの父母。

『帝国の最有用な人材を育てた功』ということから多額の褒賞を貰い、父さんは職務を免除されて働かなくても暮らしていけるようになった。


 それでも『体が自由に動く間は帝国に貢献しなければいかん!』などと言って外を歩き回っている。

 最近はガシが主宰する孤児院で子どもたちに勉強を教えているらしい。

 既に悠々とした老後だ。


「お兄ちゃんおはよう!」

「おはー。……ぐほッ!?」


 そして妹のセレン。

 家族であるからにはコイツとも同居している。


 そして挨拶がてら突進してくるというのも相変わらず。

 腹にドキツいのを一発食らって後退する俺。


「セレン! 家の中で突進するのやめなさい! 家具が壊れたらどうするの!?」

「ごめんなさーい」


 突進自体を禁止してくれませんか母さん……。


 本当にセレンは何年経っても落ち着きを備えない子だ。


 今年で十六歳。帝国では大人の年齢になるというのに背格好も大して変わらず昔とちっとも変わらない。


 ただ、さすがは十二使徒のメンバーということで嫁とりの申し込みがひっきりなしにやってきて、俺も苦慮しているところだ。


 セレンを嫁にしようなどという男どもを合法的に薙ぎ払うのに。


「ママさん、また朝飯自分で作ったの? そんなことしなくてもウチの家人が代わりにやるぜ?」

「そうです、アナタの愛娘は帝国最強の十二使徒第三位、それに息子は裏一位なれば、家事に煩わせるなど恐れ多い」


 裏一位言うな。


「いいんですよ。私たちは元々平民なんだし、ここまでいい身分にしてくれたのは私たち自身じゃなく子どもたちの功績なんですもの。これでいい気になっていたら罰が当たるし、息子たちの迷惑になるかもしれないわ」

「素晴らしいお考えです! さすがお義母さま!」


 フォルテの嫁ムーブが躊躇ない。


 そんな感じで家族六人。

 父、母、妹に嫁二人で賑やかに暮らしております。


 ほどなく増殖する予定。


「しかし、一つの家に十二使徒の三分の一が暮らしてるってちょっと尋常じゃないな……」


 実に満ち足りた家庭。

 この日常を失わないためにも、この世界をゲームの通りに進めるわけにはいかない。


 今、ベヘモット帝国は非常に安定している。


 大陸統一し敵がいなくなったことで国力を内政へ向けるようになった。

 犯罪を取り締まり、設備を充実させ、住民の一人一人が平穏に暮らせるような社会へと向かっている。


 皇帝ヘロデが名君ぶりを発揮しているからだ。


 本来のゲームであれば、この頃にはもう皇帝は獣魔気に支配されて正気を失い、残忍な暴君へと変わり果てているはずだった。


 しかし俺が智聖術による治療を施すことで獣魔気の浸食は遅延している。

 このペースなら、これから五年後も十年後も名君でいられるだろう。


 帝国側の問題を排除できたとすれば、あとに不安があるのはもう一方。


 ゲームの主人公セロがどのような行動をとるかだな。

 彼自身のことも心配であるし、こっちから率先して様子を見に行くべきだろうか。

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― 新着の感想 ―
[一言] セロ君に妹を嫁にやって恨みを鎮めて貰えば良いんじゃね? 本人も主人公と戦わないと言ってたし。 其れに妹が行かず後家に成らず済むし。
[良い点] 帝国が安定してしまうとセロが狂ってしまっているのではと心配に。 バランスとり的に
[一言] 唐突にジラに殺意が沸いた。
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