60 天下に轟く十二使徒
んで。
ついに始まった。
我ら十二使徒のお披露目会が。
帝国全土に飽き足らず、国外の王族まで招待して披露する十二使徒の勇姿。
それはあからさまな恫喝でもあった。
帝国は新たにこのような力を手に入れた。
帝国に敵対するなら、この恐ろしい力がお前たちを襲うだろうと。
それは抑止力にも繋がるために、よく考えられたイベントだと思う。
皇帝ってこういう手管が案外マジに上手いんだよな。
さすが皇帝。
「そんな皇帝の意に沿うためにも、今日は雛人形の役割を徹しきりますか」
イルンヌの街に関わる任務を成し遂げて、やっと他の十二使徒のメンバーに合流したのがお披露目会開始の直前だった。
皆々、十二使徒用の衣装をまとって抜群に物々しい印象だ。
半月前に発注しているのが、もう完成してたんだな。
「あ、お兄ちゃん!」
妹セレンも今日はおめかし。
小柄ながらも真っ赤な革マントを羽織り、重鎮の威厳を称えている。
第三位だからな。
そりゃ威圧的な雰囲気は必要だろうが……。
「ねえねえ、お兄ちゃん! アタシの新しいお洋服似合う!?」
「おう、とっても可愛いぞ」
実際ウチの妹は何を着ても可愛い。
これは素材が究極なんであって、もう妹が着ればなんであろうとパリコレ作品になってしまうな。
「むぅー! 可愛いじゃないの! 強そうなの!」
「え? そうなのごめんごめん……!」
セレンも背伸びしたいお年頃なのか。
「やっと帰ってきたなジラ」
新たにそう言うのはフォルテ。
彼女と再会するのも任務に出かける直前以来だ。
十二使徒の第四位として戦闘服を着こなし、獰猛かつ艶やかな印象。
「おお、何というかフォルテの服も……、その……」
「な、なんだ?」
色っぽいな?
レザー素材を主体に肌にピッチリ張り付いているから体のラインがくっきり。
彼女元来の艶めかしいS字曲線に誇示しつつ、大胆なところは大胆に開いて素肌を見せつけているところもエロイ。
襟元はファーと見紛う派手な毛皮で覆われていた。
それに野性味さえ伴う。
「えっと、その、強そうだね……!?」
セレンの時と同じ間違いはしない。
帝国軍幹部としての武辺ぶりを褒め称えようとしたが……。
「ジラを悩殺できると思ってこんな恥ずかしい格好をしたのに……!?」
そうなの。
女の子を褒めるの難しすぎる。
「そんなことより、あっち見ろよ。ついに始まったぜ?」
そういうのは第五位になったサラカ。
彼女の衣装も豪華になっていたが、胸元と脇の不用意ぶりは以前と変わりない。
よいところを残し他を変える。
いいデザイナーが手掛けたようだな。
「始まったって……、ああお披露目が」
かつて俺たちが選抜会を繰り広げた帝城内の広場は、今日各地の権力者を招いたお披露目の場と変わっている。
偉そうな人々が数百人、モブとなって蠢いているのを俺たちは舞台袖から確認した。
そして広場の中央。
この日のためにしつらえられた舞台には既に二人の男が立っている。
第一位グレイリュウガと……。
第二位ワータイガ。
帝国の脅威そのものというべきツートップが向かい合って、何をするのかというと……。
「獣魔術<竜砕死>」
「獣魔術<惨月軌>」
双方同時に爪から斬撃を放つ。
それが互いの間でぶつかり合って弾け散る。
「おおおおおッ!?」
激突の衝撃が四方八方に散り、空気を伝って頬肉を震わせる。ビリビリと。その振動の激しさに誰もが耐えきれず声を上げた。
しかも二人はたった一撃に飽き足らず、二撃三撃と次々ぶつけ合う。
それゆえ衝撃も連続的に起こって、周囲の見物客に心休まる暇も与えない。
「ぐいいいいいいいッッ!?」
「やめて、やめてくれええええッ!?」
修羅場に慣れない者にとっては拷問にも等しいだろう。
『帝国守護獣十二使徒』そのワンツーによる共演武は、お披露目のために招待された参列者の度肝を充分に抜いた。
つかみとしては最良であろう。
「やっぱりあの二人は凄いなあ、別格と言っていいな」
舞台袖で出番を待つ他の十二使徒メンバーも感嘆が絶えない。
「でもグレイリュウガ様は何で頬が腫れてるんだ?」
「晴れの舞台に締まらないな……?」
……。
興奮してぶん殴ったあとに回復魔法をかけたんだがな。
しっかり治したつもりだったのに治し切れていなかったか。
「さあ、見惚れている場合じゃないぞ。今日は我々も披露する側だ、見惚れる側ではない」
フォルテが第四位として率いる。
「我らも舞台に立つぞ。そして各地からの客に見せつけるのだ。我ら十二使徒の姿を。恐怖と衝撃によって二度と忘れられぬぐらい記憶に刻み付けてやるのだ」
そして入場。
既に舞台に立つ一位二位だけでなく三位セレン、四位フォルテ、五位サラカと、次々登壇。
この辺りはキレイどころなのでグレイリュウガたちの作った空気も和らぎ息つくかと思いきや、そんなこともなかった。
セレンのヤツが、何故か大岩を持ち上げて舞台に立った。
「大岩?」
それこそセレン自身の何倍もの体積を持った大岩だった。
目の当たりにし、居並ぶ参列者たちは誰一人として度肝を抜かれないことはない。
「あんな小さな女の子が、片手で大岩を持ち上げて……!?」
「そんなバカな!? 大の男だってあんなものを背負わされたら潰れるぞ!?」
と。
しかもセレンはいつもの巨大鉄棒も携えているので、大岩にはもう片方の手しか使ってないのだ。
「じゃあ、お姉ちゃんいくよー!」
セレン、大岩を軽々投げ放つ。
いやいや待って、そんなことしたら周囲の詰めかけるVIPたちが大岩の下敷きになり潰れたトマトになる。
と思いきやならなかった。
続くフォルテとサラカが、大岩を跡形もなく打ち砕いたからだ。
「獣魔術<餓狼電刹>」
「獣魔術<放身猿戯>」
まずフォルテがグレイリュウガ、ワータイガ両雄に迫る爪撃で大岩を砕く。
細かい破片を、獣魔術によって出現したサラカの分身が一々叩き落し、観客席には欠片一つも落とさなかった。
「実体あるんだあの分身……!?」
第六位ヒバカリ、第七位ゼリムガイア、第八位クワッサリィもそれぞれ空恐ろしいデモンストレーションをしながら登場。
続く我が級友たちも同様だった。
「ぐおおおおッ!!」
「らあああああああッ!!」
ガシとレイが、なんか綱引きしていた。
使われているのは女性の腕ほどの太さがある大綱。繊維も鋼線を織り込んであるようで強度も凄まじいが……。
ガシとレイの引っ張り合いに耐え切れずに、中央から引きちぎれた。
度重なる強さ自慢に、招待された観客はお腹いっぱいという様子。
十二使徒の恐ろしさは充分に伝わっただろう。
「どうだセキト、観客たちは我が十二使徒の強さに満足してくれたかな?」
「はい概ね。しかし右後方四列目の紳士様が『この程度なら我が配下にもできる』とおっしゃっています」
第十一位セキトことセキが、そのウサ耳で聞き取ったことを正確に皇帝へ伝える。
百人以上いて、しかも十二使徒たちのデモンストレーションに充分以上ざわめき騒いでいる中から、減らず口を言う者を的確に聞き分けたのである。
「ほう、それはレーテル領主のことじゃの? お前の主張、この十一位セキトの地獄耳を通してしかと余に伝わったぞ。ならば実際試してみるか?」
「申し訳ありません皇帝陛下!?」
陰口を聞き咎められたオッサンはすぐさま平伏するしかなかった。
「これが我が新たなる精鋭『帝国守護獣十二使徒』の力よ」
いつの間にか皇帝自身まで舞台上に?
「この十二人は帝国最強どころか、地上最強と自負しよう。この世の誰もこの者どもに対抗できず、この世すべてがこの者たちの獲物にすぎん。帝国に従う者たちを守る盾。帝国に抗う者たちを滅ぼす剣」
皇帝の傲慢とも思える演説に、しかし反発を覚える者はいなかった。
その驕り極まる発言も事実であると、さっきまでのデモンストレーションが示していたから。
「……であるなジラット?」
「はあ?」
なんで最後に俺を呼ぶ?
この順番、ひょっとして俺が大トリ?
「最後に紹介しよう。この者こそ十二使徒第十二位ジラット。同時に余がもっとも目をかける最高の曲者じゃ」
皆に交じって舞台に上がって、何事もなくやり過ごそうとしたのに無理なようだ。
皇帝から火花散るよなアイサイン。
なんかやれってことですかね?
「仕方ないな……」
実はもう仕込みはしてあった。
観客一人一人の肩に、霊体ネズミがのっかっていたのだ。
「ひいッ!?」
「なんだこの、ネズミ!? いつの間に!?」
「しかも青白く光ってる!?」
聖獣気で生み出し、ひそかに観客百人以上の肩へ這い上らせていたので、さぞやびっくりしたことだろう。
俺の合図一つで観客一人につき一匹、計百匹以上いるネズミは一斉に駆け下り、俺の下へとはせ参じる。
「皇帝」
「うむ」
俺の意図を察して皇帝が合図を送ると、どこからかゴトリと重い音を鳴らして落ちてくるもの。
銅像か。
ちょうどいいな。
霊体ネズミたちは一斉に群がって、硬い金属でできているはずの像を齧り尽くしてしまった。
すべて跡形もなくなるのに十秒かからなかった。
「金属製の像を……!?」
「跡形もなく……!?」
周囲の息飲む気配が伝わってくる。
上手い具合にビビらせられたようだ。
大トリの大役は果たせたようでよかった。
申し訳ありませんが、次回から更新のペースを落として二日に一回の更新になります。
次回2/25(火)の更新をお待ちください。




