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05 強さは徳

 騒ぎを経て、混乱が俺を襲うことになった。


 力を見せつけてしまった。

 それも不特定多数の多くの人に。


 帝都大通りにて、年端もいかぬ子どもが大人数人を叩きのめしたという話はすぐさま広まった。

 その子どもの名前も含めて。


「ジラちゃんがそのように腕自慢だったとは!」

「さすが帝国男子じゃ!」

「末はあの子も兵士となって帝国のために活躍するものよのう!」

「いや、手柄を挙げて将軍に取り立てられるかもしれんぞ!」


 とかなんとか。

 近所も評判でもちきりとなっていた。


 非常によろしくない。

 厄介だ。


 ……と内心で思う。


 忘れてはならない俺が生まれたのは悪の帝国。

 侵略国家であることを。


 それゆえに国の成り立ちには武力が最優先させる。

 強い兵を何より求める。


 そんなお国柄で強さなど見せつけたらどうなるか?


 当然のように兵士に取り立てられるだろう。

 帝国のために力を振るえ、と。


 本人の意思も関係ない。

 帝国は専制国家なので個人を尊重などしない。


 この国では、国のために戦ってたくさん敵を殺せる者が誰より偉いんだ。

 そういう価値観の国もあるということだ。


 仕事を終えて慌てて帰ってきた父さんが興奮していた。


「聞いたぞジラ! 凄いことをしてのけたそうじゃないか! 戦闘民族のハヌマ族にケンカで勝ったんだって!?」


 なんか感動しておられる。


「大人しくて、虫も殺さぬような顔つきの息子が、こんなにも優れた強者だったとは……!」


 帝国だしね。

 弱者に存在価値はない。


 そんなお国柄で、ものの役に立ちそうにないひ弱な子どもを持つことが、どれだけ肩身の狭いことか。


 俺は、破滅の未来を回避するため軍隊部入りを避けてきた。

 帝国軍に入れば将来『ビーストファンタジー4』の主人公と戦うことになるだろうから。


 そのためにも極力おとなしい子どもであろうとした。

 近所の子とケンカ一つしなかったし、将来兵士にはなりたくないとハッキリ言ったこともある。


 帝国民の中にはそうした、か弱い子どもを家の恥と捨てて、孤児にしてしまうこともあるそうだから、父さんは期待外れの俺をよく育ててくれたものだと思う。


「ジラよ、お前はやればできる子だと思っていたぞ。お前はオレの息子だからな。いつかきっとやってくれると思っていたぞ!」


 マジかよ?


 というわけで我が家は緊急のパーティが開かれるほどになっていた。

 俺、祝勝パーティである。


 この日のために母さんが用意してくれた御馳走が、テーブルの上に所狭しと並ぶ。

 その一つである鳥の丸焼きを妹セレンが丸齧りしていた。


「セレン、美味しいか?」

「おいしいーッ!」


 妹が喜んでくれたなら宴もいいものだと思った。


「ジラの活躍はもう帝国軍部にまで聞こえているようだ。募兵官から打診を受けてな! その気があれば明日にでも見てくださるそうだ!」

「やったわねアナタ! 上手くいけば精鋭候補生に推薦してくださるかもでしょう!?」


 夫婦で浮かれ上がる。

 ただ両親の浮かれっぷりはそこまで奇異なものではなく、武力こそが出世栄達のマストである帝国ではごく自然なことだった。


 周囲を侵略しまくっているベヘモット帝国は、戦いでの優秀な人材を常に求めている。

 少しでも才能があれば、街角のガキ大将ですらスカウトし、将来帝国軍の精鋭とするため大事に育て上げる。


 だからこそ俺は、今日まで自分の実力を隠してきた。

 何故って?


 帝国軍に入らされたら次に来るのは帝国最強十二使徒入り、その次は『ビーストファンタジー4』の主人公との激闘、果ての壮烈な戦死だからだ。


 この世界が、ゲームの通りに進んでいくとすればそうなる。


 そんなバッドエンドを回避するためにも、俺は意地でも軍には入りたくなかった。


 それも今日までのことだ。


「……セレン、カエルの丸焼き美味いか?」

「あいーッ!!」

「何でも好き嫌いせずに食べるな?」


 御馳走にご満悦の妹。

 その笑顔を見て一度呼吸を整える。


「……父さん、母さん」


 俺はできる限り真剣な口調で言った。

 その甲斐あって浮かれた夫婦は俺へ向き直る。


「俺は兵士になります。将来帝国のために戦います」

「そうか、よく決心した。それでこそベヘモット帝国の民だ!」


 父さんも母さんも、俺の決断に満足してくれたらしい。

 それは帝国に住む者ならごく当然の反応であったろう。


 しかし、俺の選択はここまでで終わらない。


「だから、旅に出たい」

「え? なんで!?」

「修行のためです。どうせ兵士となるなら俺は、誰にも負けない最強の兵になりたい。そのために旅で自分を鍛えたい」


 押してもダメなら引いてみろ的な発想で。

 戦いが避けられないならいっそ最強クラスにまで力を高めて生き残りを図ろう。


 いくら前世の記憶があって有効活用できるとしても、今のところは初歩的な魔法を他の子より一足早く覚える程度がせいぜいだ。


 ここでもっと頑張らないと、せっかく生まれ持ったアドバンテージを無駄に消費してしまう。


 しかし前世で培った知識経験を活用すれば、ここからさらに強くなることができるはずだ。


「でも、アナタ……!」


 それを聞いてまず、母さんが不安の声を上げた。


 俺は新たな生を受けて、まだ十歳。


 女親から見たらまだまだ可愛い盛りだろう。

 そんな子を手放して旅に出すなど絶対嫌に違いない。


「何も今すぐでなくてもいいんじゃありません? ジラはまだ十歳なのよ? 修行なんて早すぎるわ。まして旅なんて……」

「そうかもしれん……」


 母さんの親心もわかってか、父さんも戸惑いがちに言う。


「しかし帝国では、男子なら誰であろうと十五歳になったら兵役に就かねばならん。まず錬兵所に入れられて厳しい訓練を受け、付いていけない者は容赦なく弾かれる。そうなったら人生終わりだ」


 帝国で戦えない男は無価値。

 錬兵所で『兵士不適格』の烙印を押された男は以後まともな職にも就けず、結婚もできない。

 人間並みの扱いを受けられないということだ。


 俺の父さんだって若い頃に軍へ入り、しっかり兵役を務め上げたからこそ母さんと結婚して、俺たちを養えている。


 何度も言うが、ここはそういう国なのだ。


「ジラが『兵士になる』と言った以上、その目標は無難に兵役を務め上げることじゃあるまい。生涯兵士としてあり続け、末は将軍か英雄……と志あっての言葉だろう。だとすれば十歳から鍛え始めても遅いかもしれん」


 いや、そこまで野心的じゃないですけども。

 しかし父さんが気分に浸れるならそのままにしておこう。


「たしかに旅は、己を鍛えるにはいいかもしれない。しかしジラ。さっきも言ったように帝国の男には兵役が課せられる。十五歳になれば誰でも否応なく軍に入らねばならん」

「はい」

「それまでには帰ってきなさい。お前の帝国軍人としての未来が拓けるか、修行の成果があるかどうか。その時に決まるのだ」


 俺は今十歳で、リミットは十五歳。


 つまりは五年の猶予期間を修行に充てる。

 長いようで短い。


 それでも生き抜くためにはやらねばなるまい。


 すべては俺の、この世界での幸福のため。


 破滅を回避できないなら、打ち砕け!

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― 新着の感想 ―
[一言] 悪の帝国ねえ。第二次世界大戦あたりでは帝国ばっかまともで悪の帝国っぽい事してんの民主あるいは共産国家ばっかだったし割と変な固定概念だよな
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