表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/104

58 三問芝居

 とりあえずここなら誰も聞かれないか。


 屋敷の外に出て、人気のない裏手までやってきてから俺は、グレイリュウガに注進する。


「この件、できるだけ穏便に済ませるべきです。特に処刑は絶対ノー」


 人命尊重でお願いします。


「何を言い出す?」


 グレイリュウガからアホを見るような目で言われた。


「人の命は尊いとでも言うつもりか? それなら私だって心得ている。血を流さずに済むならそれが一番いい」

「さすが皇子殿下! わかっていらっしゃる!」

「しかしそのためにも最低限の犠牲は必要だ。ここで中途半端な処置をすれば帝国は侮られる。最低でも街長の首だけは持って帰らなければ……」


 他に示しがつかない。

 それもまたもっともだが……。


「今回の場合、逆にそれが帝国の害となるやも」

「何?」


 グレイリュウガの瞳に意外の光が宿る。


「よく考えてみてください。この騒ぎは何者かの暗躍によって引き起こされたものです。でもソイツは、何故この街の長を操り、反乱を起こさせようとしたんでしょう?」

「それは……!?」

「帝国の転覆を狙ってなら、こんな小さな辺境の街一つ反旗を翻しても何の意味もありません。瞬く間に鎮圧されて終わりです」


 もし本気で帝国を滅ぼしたいなら、もっと大きく軍事力を持った都市を陰から操るか……。

 もっとたくさんの町村に潜入し、同時多発的に反乱勃発させた方がいい。


「それなのにこの一ケ所だけ。さあ鎮圧しろと言わんばかりだ。この一見無意味な行いに隠された意図は?」

「な、なんだ……!?」


 答えを丸聞きかよ。

 少しは考えろ皇子様。


 ……仕方ないな。


「思うに更なる反乱の呼び水にするためでしょう」

「……ッ!? だからこそ断固たる処断が必要と言っているのだ。回りくどい話し方をするな」

「断固たる処断をしても、反乱を誘発させるとしたら?」

「!?」


 厳しい残酷な処遇。

 それを実行させるために黒幕は、このイルンヌの街で反乱を引き起こさせようとしたのかもしれない。


 もし相手が帝国に害を及ぼそうと本気でいるなら、その手はここ以外の各所に伸びているはずだ。


 ここと同じように実力者へ取り入り、帝国を裏切るよう仕向けようとしているかも。


「その説得材料として、イルンヌの街を大いに利用しようとしているのかも」


 イルンヌの街はほんの少し逆らう素振りを見せただけでも厳罰に処された。

 次はお前たちの番だ、殺されたくなければ先に殺すしかないぞ、と。


「イルンヌの街長には反乱の意志はなかった。それなのに処刑された。と言い触らすかもしれませんね。実際、本当に反乱の意志なんてないんですから」

「うむ……!?」


 扇動というのはウソでもホントでもいいんだが、それでも真実を元に扇動する方が効果が高い。


「帝国から各領地の心を引き離すためのきっかけとしてイルンヌの街は利用されたんです。ここで街の人を処刑するのは思う壺です」

「なるほど、ジラットお前の言うことにも一理ある」


 わかってくれましたか。


「しかしそれでも無罪放免にはできない。反乱は帝国に対する最大の重罪だ。これをなあなあにしては、やはり帝国が侮られることになる!」


 恐れられてもダメ。舐められてもダメ。

 実に難しい匙加減だ。


 実際、黒幕が各地への反乱連鎖を狙っているならどっちを利用してもいい。

 帝国のとった判断に合わせて対応を変えればいいだけだ。


 ――『帝国は逆らう者を皆殺しにした! お前たちもいずれ殺されるぞ!』

 ――『帝国は反乱者をお咎めなしにした。あんな弱腰の連中に従い続けるのか?』


「どっちをとってもこっちの損。いやらしい搦め手だ」

「どうすればいい? 不利になるしかないなら、せめて帝国の断固たる姿勢を見せつけた方が……」


 まあ落ち着きなさい。

 難しい匙加減でも、その難しさをクリアできたら不利にはならない。


 挑戦する価値のある舵取りだ。


「では、俺に一つ案があります。これから俺の言うとおりに振舞ってくれませんか?」

「う、うむ……!?」



 打ち合わせが終わり、俺たちは再び街長たちの前へ現れた。


「帝国に逆らうヤツは皆殺しだぁーッ!!」


 と言うのは俺。

 先ほどまでと打って変わった態度に、街の皆さん震えあがる。


「事情なんか知るかぁ! 帝国に逆らえば処刑! それが守るべき規定! 罪は絶対許さぬ皇帝! 女子供も死ぬこと確定!」

「そんなッ!?」


 予想通り街長、真っ青になって動揺する。

 脅しは聞いているようだ。


「どうかそれだけはご勘弁を! 私はどうなってもかまいませんので住人だけは!?」

「聞き入れられぬその嘆願! 何故なら皇帝はカンカン!」


 さて、俺がここまで脅しつけてやっているのだ。


 そろそろ救いの手を差し伸べてくるのはグレイリュウガさん……。


「…………」

「おらぁーッ! 皆殺しじゃああッ! 特別惨たらしい方法で皆殺しじゃああッ!!」

「………………」

「市中引き回しの上打ち首じゃあーッ! さらに磔じゃあーッ!」

「……………………」

「早く止めろよ!!」


 何さっきからぼうっと眺めてるだけなの!?

 打ち合わせ通りに動いてッ!


「す、すまん、さっきからお前が無理やり悪役を演じているのが滑稽でな。しばらく見てたい気分になってしまった……!」

「アナタが介入してくれないと進まないでしょう! 役割分担ちゃんとしてッ!」


 俺の脅しで人々も震え上がったことだし、次に慈悲の出番だ。


「えーと、そこまでにしておけジラット」

「グレイリュウガ様! 十二使徒第一位のグレイリュウガ様! 帝国最強の!」

「お前の言うことにも一理あるが、厳正さだけで国家の運営は成り立たぬ。特に今回イルンヌの街は何者かによって利用されたからには、酌量の余地がある」

「いけませんグレイリュウガ様! 逆らう者は厳罰に処さねば帝国の権威が保てません」

「うむ、そうだな」

「はい、カットぉーッ!?」


 肯定すんな!

 したら話が終わっちゃうでしょう!?


「そうだったすまん。……いやダメだ。このように複雑な状況となったからには、その裁定は皇帝陛下によって下してもらうのが最良。……イルンヌの街長よ」

「ははッ!!」


 街長さん、展開がまったくわからず苦慮しているようだが、とにかく呼びかけられたら即、平伏。


「そういうことなので早速帝都へとまかりこし、皇帝陛下直々の裁可を得よ。お前が心を尽くして許しを請えば、いくらか罪を減じられるかもな」

「か、かしこまりました。至急帝都へと向かいます!!」


 これでよし。

 元々は帝都への招聘を無視したことから始まった騒動。彼が帝都へ登ればとりあえず失点は一つ減る。


 その上で、あとの決断は皇帝に丸投げしてしまおう。

 あの人だって数十年国家元首やってるんだから、こういう狭いストライクゾーンにも容易く投げ入れられるだろうさ。


 しかし念には念を入れとく。

 帝国は本当は怖いんだぞ? 舐めるなよ? ということを示すために……。


「グレイリュウガ様ぁ! 俺ぁ納得いきませんぜ! 街のヤツらを皆殺しにしましょう!」


 俺が悪役を演じることで住人をビビらせ、けっして無条件に許されたのではないことをアピールする。

 そんな俺を止めるのがグレイリュウガの役割だ。

 帝国の慈悲を仮託することで、彼自身の徳も高める一石二鳥。


「俺は血が見れれば何でもいいんだ! 止めても無駄ですぜぇー!!」

「控えよジラット。序列は私の方が上、私の判断が優先される。それに従えないなら私がお前を処刑するぞ?」

「へへぇーッ!? 申し訳ありません! 俺が間違っておりました! 殺さないでぇーッ!!」


 ついでにこれぐらいグレイリュウガを持ち上げとけば彼個人への尊敬も集まるだろう。

 彼の出自が公になった時には必ずポジティブに働くはずだ。こういう小さい積み重ねが大事。


「ありがとうございます! ありがとうございます!」


 街の人々も喜び、お礼の言葉を投げかける。

 俺に。


「なんで!?」

「みずからが汚れ役になってまで助けてくださる慈悲の心感じ入りました! アナタがいてくれれば私たちは安心して帝国に従えます!」


 やめろ!

 せっかく一芝居打ったのに裏の意図を見透かすな。

 そういう勘の良さはいらん!


 どうせならあっちのグレイリュウガさんを尊敬してやってくれよ!

 皇子様だぞ!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 表題間違えてるぞ ×3文芝居 〇大根役者
[一言] 唐突にラップ刻むのずるい、こんなん笑うわ。 登場当初の傑物感醸し出してたのが嘘みたいにポンコツ皇子だな。口振りから皇帝とは離れて暮らしながらもしっかり教育受けてたイメージだったけど、さては脳…
[気になる点] ・・・三文芝居では?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ