52 衣装合わせ・男性編
怒られたけど、いきなり目の前で採寸始められたら対応のしようがないじゃない。
こういうナイーブなことをするならちゃんと男女別で分けてほしい。
と思っていたらいつの間にかパーテーションが出来ていた。
「これで男女の領域を区切ってる?」
隙間を通って向こう側の領域に来ると、いつも通りの男性メンバーに出迎えられた。
ガシ、セキ、レイの三人。
「勇者だ……!」
「勇者の帰還だ……!?」
なんか讃えられた。
いや俺むしろ勇者に倒される側なんですがね?
「仕方ないだろ、女性陣と話してたらいつの間にか区切り作られてたんだから。俺は無実だ!」
「逮捕されるヤツは皆そう言うんですよ……」
それでも俺はやっていない。
「念のために聞くが、ここが男性の採寸場でいいんだな?」
「疑い深くなってるなー」
その割にはいつものメンバーしかいないんだが?
俺とガシとセキとレイの四人。
「十二使徒の男性陣ならグレイリュウガやワータイガさんだっているだろう?」
「あの方たちは既に幹部用の装束をお持ちですので、改めて新調する必要はないと仰せつかっています」
「そうですか」
装備課のシモンハルトさんから言われた。
「……え?」
この人今仕切りの向こうでフォルテたちのサイズを測っているんでは?
「え? え? えッ!?」
…………。
深く考えないようにしよう。
残りの十二使徒のうち、俺と面識がないゼリムガイアとクワッサリィなる人たちは女性なのでフォルテらと一緒にサイズを測るようだ。
それで結局こっちはいつも通りの顔ぶれになった。
男のサイズ測定なんて特に面白みもなく淡々と進む。
パーテーションの向こうでは可愛らしい悲鳴やら、嘲りの笑いが壁をまたいで聞こえてくるが。
こっちは静かなものだった。
「はい、全測定終わりました。お疲れさまでした」
ホント速やかに終わった。
仕切りの向こうからは『おいジラー! フォルテの尻の大きさはなー!』『やめろーッ!!』と姦しい言い争いが聞こえてくる。
無視しよう。
「じゃあ今日の用事は終わりか? なんだエライつまんねえことで呼び出されたな?」
「いえいえ、もう少しお付き合いを願います。衣装のイメージですが……」
「イメージ?」
「はい、幹部用の衣装は見た目も厳めしく、威圧的なように仕立てよと皇帝陛下からご注文いただいています」
視覚効果にも拘れと。
やっぱり悪の大幹部だからな。それなりに派手な装いでないと。
「そこで装着なされる皆様からご意見を伺って、飛びきり恐ろしい装いに仕立てたいと思います。皆さまから自身が着られるものですので、ご自分に合った威圧感を挙げていただければ……」
「そんなこといきなり言われてもな……!?」
服装に威圧感なんて求めたことなかったぞ?
俺自身男だから服装に拘ったこと自体ないし、聞かれても凄く返答に困る……!?
「あの、単純に好きな柄とかデザインでもいいですよ……?」
さすがに無茶ぶりだと自分でも気づいたのか、シモンハルトさんローボールを投げてくる。
そこまで漠然としてくれれば俺たちにも返答のしようがあるか。
「……革、だな」
レイがなんか言い出した。
「そうレザー製というのはどうだ? 上も下も革製で統一するのだ」
「出たーッ!? 男の革製品好き!」
何故か好きだよね?
男の子は革ジャンとか大好きだよね!?
そして腰とか手とかに鎖をジャラジャラいわせるんだよね!?
「なるほど革ですね? 参考にさせていただきます。他に何かありませんか?」
「ならオレも考えてることがあるんだがよ……!」
触発されてガシも口が滑らかになる。
「オレら十二使徒は、それぞれ獣が割り当ててるだろ? それをモチーフにしたらいい感じのができるんじゃないか」
個性分けもできそうだな。
やっぱり各自にモチーフが割り当てられてるのはいいキャラ付けが捗る。
「なるほど良意見です。では例えばガシ様に宿る獣性は『羊』とのことですから……!」
「「「…………ッ!?」」」
皆でイメージしてしまった。
羊のようなもこもこウールに包まれるガシの姿を。
「「「ぎゃははははははははッ!?」」」
「笑うなーッ!?」
モチーフ採用も考え物だな。
元となる獣によっては可愛い印象にしかならない。
「それいったらオイラもキツいっすよー。今でさえウサ耳がチグハグな印象なのにー」
でもセキくん。
最近はキミのウサ耳が動くたび周囲に緊張が走るようになったよ。
いったいどんな内緒話を聞き取ったんだろうと……!
「いいえ、それでも参考になります。もっとアイデアをくれませんか! 必ず形にしてみせますので!」
シモンハルトさんがノリだした。
それに感化されて周囲の男どももはしゃぎだす。
「やっぱりなんだ、トゲトゲした感じがいいのかな!? 触るもの皆傷つける感じだぜ!?」
「袖を無理やり引きちぎった感じにギザギザさせるっす!」
「肩パッドも欲しいな! 肩パッドから垂れる背中だけ覆うマント!」
「あれホント何のためにあるのかわからんよな!」
「それがいいんす!」
話が弾んでいる。
「こう襟を、必要以上に大きくしたい! 後頭部を覆い尽くす勢いで!」
「背中から翼を模した何かが出ているのはどうだ? 私たちには使えないかもだけど!」
「やっぱり鎧姿は基本っすね! ワータイガ様もそうだし!」
案百出している。
このままならいかにも悪役幹部といったド派手衣装が出来上がることだろう。
「でもそれ……、着心地はどうなるのかな?」
俺の冷静な意見に、場がハタリと静まり返った。
盛り上がりに水を差すのは申し訳ないが、誰かが正論を示さなければ……。
「襟とか翼とかさ、色々体から出っ張ってると超邪魔そうじゃない? 日常生活にも支障をきたしそう……」
椅子に座るのも一苦労しそうだ。
「俺たちそれ着たら、そのままで終日過ごさなきゃいけないんでしょう? ちゃんと平時の着心地とか利便性も考えないと。トイレするのに全部脱がなきゃいけない服とか作っちゃったら悲惨だよ?」
「それもそうだな……!」
場の冷静さが一気に上がる。
「よく考えたらクソ大きい襟とかバカみたいだし。何事も控えめなのがいいのかな?」
「革もな……、蒸れるし。何より水に弱いのがいかん。雨でも降ったら一発でオダブツだ」
「常日頃から鎧で過ごしてたらおかしくなりそうですわ。グレイリュウガ様もワータイガ様も凄かったんすね。そういうところまで……」
うむ、皆が夢から覚めておる。
たしかに衣食住は生活の基盤なんだから突飛に傾かず地に足つけないとね。
「待って! 待ってください!」
そこへ被服係のシモンハルトさん慌てる。
「ダメですよ所帯じみちゃ! アナタがたは十二使徒、帝国最強の方々なんですよ! 内外から畏怖されるように少しは派手な装いにしないと!」
「たしかにそうかもですが!」
「日常の不便が何ですか! 言うでしょう男のオシャレは我慢だって!」
ついに変なこと言いだした。
まあ派手にしろとは皇帝のご意向だし、そこから外れて怒られるのは彼女だろうから逆らっちゃ意地悪か。
生活の邪魔にならない程度で、派手なデザインを追求してみようではないか。
「……マントとかどう?」
何故か強い人偉い人になると必ず着けてるマント。
四天王も大魔王も帝国元帥だってマントを着けている。黄金色の鎧は大抵マントと一セット。
羽織るだけで強そうに見える謎のアイテム。
それがマント。
「防寒具とか雨具とか実用性もあるし、邪魔な時はすぐ脱げる。どうだろう?」
「とてもよい考えです! そうだ! 実はサンプル用にマントがありますからご試着なされてみますか!?」
おお用意がいいな。
早速サンプルマントを被ってみる。……やっぱりサンプルだからサイズが合わないな。ちと大きい。
ブカブカなのを何とか体に巻き付け、……お、このマントフードまでついているのか?
せっかくだから被ろう。
それで顔以外全部マントに覆われて、浮かび上がった顔から伸びるネズミのようなちょんちょん髭。
この様相は……。
「ますますネ〇ミ男みたいにッ!?」
よりにもよってマントも灰色だし!?




