04 最強の十二人
『帝国守護獣十二使徒』。
それは『ビーストファンタジー4』に登場する敵幹部の集団であった。
他のゲームや漫画でなら四天王とかになりそうな、ラスボスの前に立ちはだかる複数人の強敵たち。
ある意味花形と言える。
それが『ビーストファンタジー4』には十二人いる。
十二人。
『ちょっと多すぎない?』とも思うがまあ制作側の都合だ。深く触れずにおこう。
『帝国守護獣十二使徒』。通称十二使徒とは俺にとっても馴染み深い。
ゲームのユーザーとして。
『ビーストファンタジー4』をプレイした俺は、当然ゲーム内で彼らと戦った経験があり、しかも何度となく全滅させられた。
ボスキャラだからな。
しかもゲームバランス無視した鬼畜ボスとしての傾向が高い十二使徒。
その中でももっとも強い第一位グレイリュウガは、ラスボスでもないくせに三段変身を有していて連続戦闘を行わないといけなかったし。
第二位ワータイガは強さもアレだが、イベントでプレイヤーの心をガリガリ削る。
第三位サラカサルは分身戦法の使い手で、毎ターン分身しつつシャッフルして本体を隠すから容易に攻撃が当たらず、ウザいことこの上ない。
そして第四位ウルフォルテは、狼をイメージしたキャラクターだったせいか作中最高の素早さを誇り、戦闘では毎ターン必ず最初に行動し、しかも高確率で即死級の全体攻撃をしてきた。
回復役は毎ターン全体回復魔法をあらかじめ用意しておかねばならない。確実にウルフォルテの方が先に行動してくるので、ダメージを受けてから次のターンで回復では間に合わないのだった。
もし回復にしくじったら次ターン高確率で全滅。
保険で毎ターン全体回復魔法するのだからMP消費が半端ではない。
だから本当は短期決戦で済ませたいのに、相手はスピードタイプのクセにタフさも兼ね備えているから始末が悪い。
HPは下手な中盤ボスの倍以上あるから大体長期戦となる。
回復役を二人体制にして、粘りに粘って何とか倒した思い出の宿敵だった。
第五位以下も、大体そんな感じで鬼畜。
何故そんなことを唐突に思い出したかというと。ついさっき出会ったフォルテという女の子のためだった。
彼女が去り際に言った『青き牙を突き立ててやる!』は間違いなく十二使徒の第四位ウルフォルテの決めゼリフ。
フォルテとウルフォルテ。
名前も一部まったく同じだし、同一人物と見て間違いあるまい。
今日出会った十歳前後の少女がそのままそうとも思えないので、きっと未来の彼女がウルフォルテになるのだと思う。
この世界には幸いに、帝国歴という時間をしっかり示す尺度がついている。
今は帝国歴九十二年。
そして『ビーストファンタジー4』本編はちょうど帝国歴百年に始まるはずだ。
100-92で八年後。
今はない『ウル』の語句がいつどんな形でくっつくかは知らないが、その八年間でフォルテはウルフォルテとなっていくのだろう。
本人も最強の戦士となることを希望していたし、夢を叶えた形だ。
しかしこのような形でゲーム中の登場人物に出会ってしまうとは。
この世界が『ビーストファンタジー4』と同じであり、ゲーム同様の展開をたどるという確信を深める結果となってしまった。
「……やっぱり、この国は勇者に倒されて滅んでしまうのか?」
心のどこかで間違いであってほしいと願う心が潰された気分になる。
問題はまだある。
今回の騒動でもう一つ気づいたことがあるのだ。
前世で『ビーストファンタジー』シリーズをやりこみまくった俺は、ゲームに関わる色んなことを暗記して、諳んじることができる。
そのお陰で十歳にして魔法も会得できたし。
またこの世界の最強者『帝国守護獣十二使徒』の名前も第一位から最下位まで全部言える。
第一位:グレイリュウガ。
第二位:ワータイガ。
第三位:サラカサル。
第四位:ウルフォルテ。
第五位:アナコンダ。
第六位:ブラウフェネクス。
第七位:セレンタウラ。
第八位:キースバニー。
第九位:ラッシュボア。
第十位:ギリーホース。
第十一位:ガシープ。
第十二位:ジラット。
という。
話題のフォルテが四番目にいることも確認できるが、今俺が注目したいところが……。
第十二位:ジラット。
これ。
そして俺がこの世界に転生して、新たに得た名前がジラ。
ジラとジラット。
なんか似たような感じがする。
フォルテに余計なものがついてウルフォルテとなるように、ジラに何かくっついてジラットになるとしたら……。
「これ……、俺か?」
俺は未来の十二使徒。
しかも十二人中の十二番目。
なんということだ。
俺は『ビーストファンタジー4』の悪の帝国に生まれ落ちただけでなく、明確な登場キャラクターとして転生していたのか!?
十二使徒の第十二位と言えば、第一位グレイリュウガや第二位ワータイガとは比べ物にならない木っ端キャラ。
生い立ちも公式になっていないはずだ。
さすがに十二人もいると上位と下位で扱いが別物のように違う。
第十二位ならそれほど重要な役どころでもないし、庶民からの選出もありえなくはなかろう。
でも、それって凄くヤバい。
ゲーム通りならいずれ滅ぼされる悪の帝国に、できるだけ関わりを持たずにいようとしていたのに。
その最高幹部の一人になる予定なの俺!?
今はまだ十歳の俺だから、なるとしたら先のこと。
恐らくは二十歳とかその辺ぐらいのことになるだろう。
さすがに敵幹部でも下位クラスのプロフィールまで詳細に覚えていないから正確なところはわからんけれど。
でも、もし予定通りに俺も十二使徒の一人になったら、巻き添えにならないようにしようどころの話じゃなくなる。
十二使徒はゲーム中で明確に、主人公に殺されるんだから。
そりゃそうよボスキャラなんだから。
主人公がシナリオを進める先々に立ちはだかって、一人ずつ順番に殺されていくのが役割なのだ。
この世界がゲームの通り進めば、俺も殺される一人ということになる。
俺は甘く見ていたのかもしれない。
ただ関りを避ければ……、危険域の外にさえいれば無事と考えていたが、そんなに簡単なことではないのかもしれない。
考え方を改めなければ。
消極的な回避方針ではなく、積極的な方法をとっていかなければ、この世界で生き抜くことは難しいに違いない。
それに俺が逃げて逃げて逃げまくった果てに十二使徒入りを回避できたとしても、あのフォルテなどは進んで十二使徒に入ることだろう。
その先に待っているのは……。
「…………」
……腹を括らなければならないようだ。
◆
サラカ撃退、フォルテとの衝撃的な出会いを果たしたあと……。
俺は妹セレンの手を引っ張って普通に帰宅した。
……サラカとフォルテのイザコザは、帝国の悪行の発露といえた。
他国を侵略し、制圧し、そこに住む人々を支配する。
植民地となれば、服従の証として人質を差し出すのは常のことだった。
それがあの二人。
自分自身が屈服の証として、恥辱に満ちた捕虜生活。
ギリギリのプライドを保つため人質同士でも張り合わないわけにはいかないんだろう。
それこそが帝国。
ゲームの悪役の国内情勢なのだなと思った。
しかし他人事とタカを括ってはいられない。
帝国の情勢は、年端もいかぬ俺のところにもじわじわ迫りつつあった。




