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43 兄、参戦

「ジラ……!?」

「おいおいマジかよ……!? 真剣勝負に割って入っちまったぞ!?」


 周囲の仲間が困惑しているがどうしようもない。


 俺が出しゃばらなければグレイリュウガの必殺技は確実にセレンを襲い、妹に大怪我を負わせていたことだろう。


 それを見過ごせば兄失格。


 どんな事情も、妹のピンチを見過ごす正当性にはならない。


「意外に早く出てきたな……!」


 俺の乱入に、帝国最強の男は動じない。


「お前とも今日中にぶつかるつもりではあったが、そちらから飛び込んでくるとはな。何事にも意表を突く男だ」

「…………」

「しかしお前のような男を叩きのめし、屈服させることこそ第一位の務め。どちらが十二使徒最強、誰が帝国最強であるか、この場でハッキリさせようではないか?」

「…………」


 俺は背後を向く。

 そこには妹セレンが。


「おッ、お兄ちゃん……!?」


 恐怖に震えつつも、獣魔気が起こす狂暴性を持て余すセレンの表情は、歪だ。


「ひ、引っ込んでて! アタシはまだ戦える! お兄ちゃんなんか邪魔なんだから!!」

「セレン」


 俺は妹の頭に手を置くと、智の聖なる気を流し込む。


 それだけで脳内に巣食う悪しき獣性は、光に照らされた影のように消え去るのだった。


「……!? あれ? あれッ!?」


 元のあどけない可愛い妹に戻ってよかった。


「ごめんなさいお兄ちゃん! お兄ちゃんに酷いことゆった!!」

「お前が気にしなくていい」


 本当に悪いのは誰なのか知っているからな。


 なあトカゲ野郎?


「妹は降参だ。ってことで試合終了でいいよな?」

「……ヒトの話を無視しおって」


 え?

 何か言ってました?


 ハハハハハ……。


「残念だが降参は認めん。勝負の終わりを決めるのは皇帝陛下であると最初に断った通りだ。あの御方からお声かからぬ以上、相手が気絶しようと、全身の骨が砕けようと勝負は続く」


 当の皇帝は一言も発することなく、こちらを見詰めるのみ。

 口元にはニヤニヤと笑みを浮かべているから、この展開を楽しんでやがるな?


「どうしても、と言うならお前が代わりに戦うことだ。第十二位ジラット。不甲斐ない妹に代わってこのグレイリュウガに挑むか?」

「いや」

「!?」


 俺の返答に、相手は虚を突かれ、落胆するような素振りを見せるが……。


「挑む? 俺がお前に? 身の程知らずも大概にしろ」

「? どういう意味だ?」

「俺はお前を叩きのめす。一方的に。ただそれだけだ。自分を竜だと勘違いしているトカゲに、分際ってヤツを教えてやるのさ」


 思い上がりなど二度とできないように。

 強者に蹂躙される恐ろしさを徹底的に叩き込んでやる。


 圧倒的な力によって。


「……ふッ、大口だけは十二使徒随一のようだな」


 グレイリュウガは空笑いを漏らす。


「いいだろう、その大口に実力が伴っているか、この手でたしかめてやる。皇帝陛下、よろしいですね?」

「うむ」


 ここでやっと皇帝ジジイ。ボケて寝てるのかと思いきややっと口を開く。


「グレイリュウガとセレンタウラの御前試合はこれにて終了とする。……続き、第一位グレイリュウガ、第十二位ジラットの試合を始める」


 俺とヤツの間に、バチリと火花が散る。

 闘気と闘気がぶつかり合って空気が歪む。


「死力を尽くし戦うがいい。帝国は強者を求める。力の出し惜しみなどいらん。この場にてお前たちのすべてを、全能力をさらけ出してみろ!」

「皇帝陛下は、あのようにご所望だ。元よりこのグレイリュウガ、余力を残して渡り合える相手ではないぞ?」


 帝国最強の自信が言わせるのか、傲岸不遜のセリフも中々堂に入っている。


「智聖術と言ったか? なかなか興味深い力だ、それが真に帝国の役に立つか見極めるためにも、お前には全力で戦ってもらわなければならん」

「素直に認めたらどうだ?」

「? 何がだ?」


 惚ける男に、俺はハッキリ突き付けてやる。


「俺にビビってるんだろう? だからさっきからやたら口数が多い。喋り続けることで動揺を隠そうとしている」

「これは、これは……!」


 グレイリュウガはあからさまな嘲りの表情を浮かべて。


「……呆れたヤツだ。ここまで図に乗れるとは。たしかに我が獣魔術<竜砕死>を弾き返したのは驚嘆すべきだ。しかしその程度で私に勝てると思っているようでは……!」

「生まれて初めてなんだろう?」


 あの斬裂爪が、まったく通じなかったというのは。


「お前がどれぐらい前から獣魔気を得ていたのか知らんが、それ以来まったくの無敵状態だったはずだ。あそこまで強力な獣魔術はなかなかない。獣魔気の集約具合は達人の域だし、ビーストピースで竜性を得てから威力も格段に上がったはずだ」


 あの斬裂爪がひとたび放たれれば、空は割れ地は裂かれ、眼前に立つ敵は必ず死傷。少なくとも無傷ではいられないに違いない。


「それが今日初めて破られた」

「……!?」

「ご自慢の必殺技は、俺にかすり傷一つもつけられなかった。そのことが想像以上のショックをお前に与えている。素直にビビっていいんだぞ? 狼狽えたいんだろう? 虚勢など見苦しいだけだ、特に今のように本心を見透かされていればな」

「黙れ……!」


 グレイリュウガが湛えるのは静かなる怒り。


「たかだか一度凌いだぐらいで、我が獣魔術を破ったつもりか? その思い上がりこそ笑止千万!! それが罪深い判断ミスであることを今から即座に証明してやる!!」


 挑発が効いて、グレイリュウガから凄まじい勢いの獣魔気が噴出する。


「うひゃああああーーーッ!?」


 そのけたたましさに妹セレンが恐怖でうずくまった。

 タイミングを失って、まだ俺の背後から動けずにいた。


「セレン、そこを動くな」

「え?」

「そこが一番安全だからな」

「でもお兄ちゃん! アタシがここにいたら攻撃をよけられないよ!」


 さすがに最終選抜を勝ち抜いただけあって、戦いに関して妹はよく思考が回る。


 たしかに。

 この位置関係でグレイリュウガが俺めがけてまた斬裂爪を放ってきたとする。


 俺が回避する。


 すると俺の背後にいるセレンへ直撃コースになってしまうだろう。


 だから俺は回避できない。

 たとえ向かってくるのが核弾頭だろうと、この身を挺して妹の盾にならなければ。


「……でも心配ない」


 これから向かってくる脅威は、核弾頭よりイージーだからな。


「獣魔術<竜砕死>ッ!!」


 最強十二使徒から再び放たれる『飛翔する裂爪』。


 その威力はとりあえず、帝国内で見てきたどんな脅威よりも圧倒的だった。


「ぎゃああああッ!? 死ぬうううッ!?」


 セレンが恐怖でうずくまる。

 そんな妹に危害を及ぼさないためにも……。


「智聖術<回し受け>」


 俺は左右の両腕を円軌道で回す。

 その手に触れた途端、グレイリュウガご自慢の爪撃は軌道を変えてあらぬ方向に飛んでいく。


 左右五指から放たれた十斬撃。

 どれも俺たちを傷つけるには至らなかった。


「なッ……!?」


 それを目の当たりにして竜の獣士、さすがに驚愕の表情を隠しきれない。


「さっきもそうやって我が斬裂爪を防いだのか?」


 たしかにヤツの獣魔術は強力だ。

 <バリアシールド>で単純に防御力を高めても、それを上回ってダメージを与えにくるだろう。


 防いでも防ぎきれないなら、受け流せばいい。


 それが智聖術<回し受け>の効力。


「強固さで耐え抜くのではなく、受け流す。攻撃の軌道を読み、側面から僅かな力を与えることで別方向へと逸らしてしまう……!?」

「二回目でそこまで読み切ったか。大したもんだ」


 さすがに帝国最強は、力任せのゴリ押しだけで得られる称号じゃないな。

 頭もいいし観察力もある。


「だがだからこそ理解したはずだ。お前がどれだけ壮烈な獣の力を振るおうと、我が智聖術は全部いなし、受け流す。お前に俺を倒すことはできない」

「どうかな?」


 グレイリュウガから、ますます壮絶な獣魔気が吹き上がる。


「お前が我が攻撃を受け流してしまうなら! 対処できなくなるほどの物量で飽和させてやればいい! お前の手がどこまで間に合うか実験してみようではないか!!」


 そして放たれる……。


「獣魔術<竜砕死>! 乱れ撃ち!!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 大口(ビッグマウス)と鼠(マウス)を掛けているわけだな! やかましいトカゲ野郎だぜ
[一言] あ、最終奥義(仮)はまだ使ってなかったか ビーストピースを取り込んで獣性が高まったからバランスは取れてるだろうし、もし回し受けが破られたら出てくるかな?
[一言] トカゲとネズミだったらネズミが勝つな
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