40 延長戦
晴れて十二使徒第十二位ジラットとなった俺。
俺もまたビーストピースを埋め込まれた作用によって体外に獣的特徴が表れていた。
それは……。
「「「がはははははははははッ!?」」」
皆から大笑いされる類のものだった。
俺に付加された獣的要素は……。
髭。
俺の象徴獣であるネズミに沿ってか、ちょんちょんと長い髭が左右に向かって広く伸びている。
その様相は、それこそね〇み男みたい。
絵面があまりに滑稽なようで、さっきから同期の仲間たちを爆笑の渦に落とし込んでいる。
「髭ッ!? 髭かよそれ!? そんなちょぼちょぼとッ!? 可愛いッ!? ヒヒヒヒヒヒッ!?」
「だッ、ダメだぞ笑っては……、仲間を笑いものにしてはッ!? プクク……!?」
「旦那もオイラと同じ側っすねえ……。よかったぁ……!?」
ネタ枠ってことかい。
まあ、これで獣魔の力を得てまた一つの種類の力を得た。
強さの代償と思えば、変なパーツを取り付けられることぐらいは受け入れよう。
晴れて俺は、智神ソフィアの智聖術に加え、獣神ビーストの獣魔力を併せ持った。
本来相反するはずの二種類を一つの体に共存させる者は、少なくとも『ビーストファンタジー4』の段階では一人もいない。
……。
いやいるか、『たぬ賢者』とか。
そんなにいない。
そのことがどんな意味を持つのか、披露するタイミングがいつ頃訪れることかな。
「晴れて十二使徒は完成した」
ここで皇帝からお言葉を賜る。
「これよりお前たち十二人は、帝国最高の武力として名を轟かせることとなろう。誰もがお前たちの名を聞くだけでおびえ、実際に手を振るえば千の屍が積まれる。帝国の脅威、帝国の不動、帝国の力そのもの。それがお前たちなのだ」
その言葉に、当の十二使徒たちは震える。
自分たちがそこまでの帝国の柱石として認められたことに誇りを刺激させられたんだろう。
「近日中に大々的なお披露目を行い。お前たちの勇姿を近隣各国に見せつけてやるとしよう。それまでは各自自由に、選抜会で奮闘した疲れを癒すがよい」
よかった休みだ。
せっかく大出世したんだから余裕のある勤務形態を心掛けたいところだぜ。
「ただし」
と思ったのに。
まだなんかあるみたい。
「お前たちに不満はないか? たとえば、余はお前たちにそれぞれ序列を与えた。第一位から第十二位まで。自分に割り当てられた位階に不満はないか」
「ありまぁす!」
弾けるように答えたのは第五位のサラカ。
「皇帝陛下の決定には何であろうと従うつもりですが、この女より下なのだけは我慢できません! 皇帝陛下、今すぐオレに命令してください! どんな困難な任務もやり遂げて、オレがコイツより上だってことを証明してやります」
「煩いなお前は」
指さされたフォルテは迷惑顔。
「その意気やよし。上昇志向が強いのは非常によいことじゃ。サラカの他におらんか? 自分はもっと上に置かれるべきだと思うのは?」
「それならば皇帝陛下」
ガシが進み出る。
「オレたちだって大いに不満です。親衛隊の連中があらかじめ獣魔気を込められてたのに対し、オレたちは何もなしで挑戦させられたんだ。最後まで残れただけでも大健闘だ!」
「でも、そのお陰でオイラたち軒並み下位序列です!」
セキまで進み出て……!?
「ビーストピースを得た今なら、獣魔気における条件は五分! 今こそ本当の意味で実力を比べ合える! そうすればオレたちだって上位に食い込める! そこのジラも!!」
「俺はいいっつの」
同期の友だち想いが身に染みる。
皇帝は満足げに頷き……。
「お前たちの言うこと一々もっとも。そこでじゃ。もし望むなら御前試合をしてみぬか?」
「「御前試合?」」
なんか雲行きが……。
怪しくなってきた。
「余も、懐刀となる十二使徒の実力をもっとよくたしかめておきたい。望む者あれば、余の目前で十二使徒同士手合わせしてみるがいい。親睦試合じゃ。その結果によっては序列を再考してやっともいいがの」
「よっしゃ! フォルテ勝負だ! テメエをぶっ倒して早速順番チェンジしてやるぜ」
順位入れ替えにもっとも前向きなサラカが一番騒がしかった。
しかし……。
「ダメだ」
そんな彼女は一瞬にて静められることになる。
十二使徒第五位のサラカをして一言で黙らせる。
そんな覇気を持つ者……。
第一位グレイリュウガ。
これまで皇帝の背後に控えていた強豪が、前へと進み出ていた。
漆黒の鎧を身にまとい、強者のオーラを全身から噴き出している。
「第一試合の闘者は、まず私ともう決まっている。第五位サラカサル、どうしても真っ先に戦いたいというなら相手は私だ。異存ないか?」
「遠慮しておきます!」
逃げた。
まあ、それも仕方ないか。
グレイリュウガの覇気は、ただ突っ立っているだけでも強烈だ。
十二使徒の頂点に君臨するだけのことはあって、強者ばかりを選りすぐった中でもさらに別格だということが外見だけでもわかる。
ボコボコにされるとわかっていて突っ込んでいくバカはいるまい。
「御前試合に諸君らの不満を解消する意味合いもあるのだとしたら、この私こそ不満の種ではないかな?」
グレイリュウガ、鷹揚に語りだす。
強者の余裕を示して。
「諸君らが厳しい選抜を潜り抜け、晴れて十二使徒となったというのに。この私は段階すべてを飛び越えて十二使徒入り、しかも第一位を取った。不公平だ、依怙贔屓だと思う輩もいることだろう」
そんなことないです。
皆納得しています。
「そこでこの機会に、改めて私の実力を皆に確認してもらおうと思う。皆が選抜で味わった以上の苦しさを我が身に浴びようではないか。私はこれから……」
右へ、左へ視線を配り……。
「ここにいる自分以外の十二使徒全員と試合する」
「!?」
「そして十一人全員に勝って、真実私が第一位であることを証明しよう。さあ、最初は誰が挑む? 私を倒せると意気込みある者は遠慮なく名乗り上げるがいい」
しかし当然というか、誰も立候補しない。
わざわざ証明してもらわなくてもグレイリュウガの強さは誰もが実感している。
俺だってそうだ。
というか俺はゲームで既にアイツの強さを嫌と言うほど実感していると言っていい。
『ビーストファンタジー4』のラスボス前、最後の難関というべきグレイリュウガに挑んで全滅させられた回数は何回だと思う?
三十四回だ!
それほどのクソデタラメなボスキャラ、グレイリュウガは多くのプレイヤーのトラウマとなったことは言うまでもない。
そんなトラウマへ、転生してまで再戦したくない!
「どうした? 誰も挑まないのか? ワータイガ、キミはどうだ?」
「ご容赦を」
振られた第二位が首を垂れる。
「私ごときグレイリュウガ様に挑むなど恐れ多きこと。棄権させていただきます」
「どうせ戯れの場だ。少しは羽目を外してもいいと思うがな。……しかし困った。キミが退くと、皆怖気づいてしまうではないか」
その通り。
第二位ですら直接対決を避けるんだから、三位以下がどう頑張っても挑もうなんて気になれない。
重苦しい沈黙に包まれるだけだった。
「仕方ない。では私の方から指名するとしよう。この中で一番面白そうな相手は……」
まさかの指名制。
やめて!
指さされたヤツが泣いて詫び入れる未来しか思い浮かばない!
と思ったが……。
「待つのだ!」
群衆の中から可愛い声が上がった。
「アタシが挑戦するのだ! じゅーに使徒の三番め! セレンタウラが!」
まさかの妹だった。




