39 十二使徒考
おっす俺ジラ。
ジラット? 何それ美味しいの?
皇帝陛下より賜った幹部名だけど、一人に二つの名前が混在するのは極めて煩雑だから、どうしても使わなきゃならない場面を除いては基本ジラで通そうと思う。
通そうと思う。
そもそもなんで『ジラット』なのよ? と思うところだが、それは多分『ラット』とかかっているのだろう。
ラット=鼠。
ジラットは鼠を象徴するキャラクターなのだ『ビーストファンタジー4』において。
それは他キャラにも言えることで、既出した人々を見直してみたら。
ワータイガ=虎。
フォルテ=狼。
サラカ=猿。
とイメージの関連が頻出する。
幹部クラスである十二使徒は、それぞれ象徴となる具体的な獣があって、より濃厚なキャラ付けにしているんだろう。
そういうのあると燃えるからなRPG的にも。
それは俺の同期組も同様で、新兵から共に頑張って十二使徒まで登り詰めたアイツらも皇帝から幹部名を貰った。
その幹部名にはどれも具体的な動物が隠れている。
レイナイト→ナイト→馬。
ガシープ→シープ→羊。
セキト→ト→兎。
という感じかな?
レイナイトが馬という連想はやや無理やりっぽいが『ナイト→騎士→馬』ということなのか。
むしろセキトの方が馬を連想させるのは、俺が異世界転生したからなんだろうな。
さて、ここで勘のいい人ならもう気づくかと思われるが、こうしていくつか出てきた動物モチーフを並べてみて、何かを連想することだろう。
俺が鼠、ワータイガが虎、兎、馬、羊、猿、犬もとい狼……!
そう十二支だ。
一年ごとに移り代わるアレ。
この世界は『ビーストファンタジー4』という日本で作られたゲームが元になっているからな。
日本の習俗が元ネタになっていたとしても何ら不思議ではない。
それでも中世ヨーロッパ風の世界観に全力アジアンテイストなモチーフはどうなのよ? と思わないでもないが。
多分ネタ切れしたんだろう。
『ビーストファンタジー』という大作シリーズの四作目がこの世界。
四作も重ねていれば、そりゃネタも多少はやり尽くされる。
過去作にも十二使徒に相当する敵幹部集団は出てきたしな。
たとえば一作目に登場した敵幹部、三獣士はそれぞれ狼、ライオン、馬タイプの敵だった。
これはギリシャ神話の女神ヘカテーが三つの顔を持ち、その顔がそれぞれ獣だったという伝説にちなんでるんだろう。
二作目の幹部集団、獣の数字の六司祭はそれぞれ竜、蛇、狐、熊、豚、山羊がモチーフだった。
これはかの有名な『七つの大罪』が元ネタだってファンの間で言われてたな。
七つの大罪自体がファンタジー好きの間では有名だが、その罪一つ一つに象徴となる動物が関連付けられている。
だがちょっと待て。
六人の司祭に七つの大罪では一人足りなくないか? となるだろう。
余った一罪には、六司祭を率いる獣魔教団の親玉、『ビーストファンタジー2』のセミラスボスであった獣魔司教グライドに充てられた。
ソイツが高慢=グリフォンを担当して全部で七人だ。
三作目の美女幹部集団ナインテールはまた別の内情があるし……。
そんな感じで何度もやってると、さすがに四作目でネタも尽きてきたんだろう。
苦肉の策でアジアンな十二支に手を出したりもするさ。
同じ十二でも、十二星座なんぞは無機物が交ってるから使えないしな。
『ビーストファンタジー』なのだから獣縛りだけは破れない。
まあ、当時プレイしていた俺たちユーザーは受け入れたがね。
世界観が違う? だから何?
的な。
そういう緩さがJRPGのよさとも言える。
ラストダンジョンで拾った最強武器が日本刀でも、職業選択欄の中にしれっとニンジャがいても。
別にいいじゃない。
強ければ。
RPGに出てくる和風装備、和風ジョブ、大抵軒並み強いしな。
……あッ。
もしかして十二使徒が、歴代過去作の敵幹部と比較しても鬼畜のような強さを誇ったのはその系譜?
敵が強くちゃダメだろ、味方が強くなってくれるから多少の無理でも黙認できるんだろ。
アホか。
そんなんだから『ビーストファンタジー4』ってシリーズ中でも微妙って言われるんだよなー。
まあいいや。
大事なのはゲームだった頃の評判よりも、今の現実だ。
ついに面子が揃って『帝国守護獣十二使徒』が発足した。
栄えある帝国最強の顔触れはこんな感じ。
第一位:グレイリュウガ。
第二位:ワータイガ。
第三位:セレンタウラ。
第四位:ウルフォルテ。
第五位:サラカサル。
第六位:ヒバカリ。
第七位:ゼリムガイア。
第八位:クワッサリィ。
第九位:レイナイト。
第十位:ガシープ。
第十一位:セキト。
第十二位:ジラット。
第一位グレイリュウガと第二位ワータイガは最初から就任確定していて、選抜にて妹セレンが獅子奮迅の大活躍を見せて第三位についた。
親衛隊上がりのフォルテ、サラカが続くのもごく真っ当なことだろう。
ただこの並び、異世界転生してゲームだった頃のこの世界を知っている俺としては違和感があった。
顔ぶれ違くね?
と思うんである。
もはや頼れるものが自分の記憶しかないんだが、その記憶が間違っていなければゲーム内での十二使徒の顔触れは……。
第一位:グレイリュウガ。
第二位:ワータイガ。
第三位:サラカサル。
第四位:ウルフォルテ。
第五位:アナコンダ。
第六位:ブラウフェネクス。
第七位:セレンタウラ。
第八位:キースバニー。
第九位:ラッシュボア。
第十位:ギリーホース。
第十一位:ガシープ。
第十二位:ジラット。
こう。
だったはず。
実際に発足した十二使徒と比べると所々変わっている。
入れ替わっている順位もあれば、そもそも名前が違っているのもある。
これはどういうことだ?
俺が体験したゲームと、それを基にしているはずのこの世界の流れが微妙に変わってきている?
ゲームだった頃の『ビーストファンタジー4』と、この世界は同じように見えて、やっぱり違う。
一番違うのは、俺という存在だろうか。
前世での記憶を持ち込んできた俺が、この世界で何かするほどに自分でも意図しない影響が広がっていき、思わぬところから変化が露出しているのかもしれない。
その一端が十二使徒の顔触れ?
バタフライエフェクトってヤツか!?
この意外な変容をどう受け止めればいいのか。
いや、歓迎すべきだろう。
既に十二使徒にまでなってしまった俺。このままゲーム通りに進めば、セロに殺される未来が待っていることになる。
それだけはどうにも避けたい。
こうして十二使徒の微妙なメンバー変更を鑑みれば、そうした最悪の未来も避けられるという好ましい推測が生まれないだろうか。
いや、きっとそうに違いない。
未来は変えられる!
俺はこれからももっと頑張って、皆幸せになれるように世界を変えてみせるぞ!
と決意したところで最後に……。
十二使徒の人員変化をわかりやすくまとめておこう。
何かの参考になるかもしれないし。
第一位:グレイリュウガ(-)
第二位:ワータイガ(-)
第三位:セレンタウラ(↑)
第四位:ウルフォルテ(↑)
第五位:サラカサル(↓)
第六位:ヒバカリ(初)
第七位:ゼリムガイア(初)
第八位:クワッサリィ(初)
第九位:レイナイト(初)
第十位:ガシープ(↑)
第十一位:セキト(初)
第十二位:ジラット(-)
【ランク外】アナコンダ。ブラウフェネクス。キースバニー。ラッシュボア。ギリーホース。
◆
さあ。
考え事はこれくらいにして、次からはいよいよ俺が十二使徒になってから初の騒動が巻き起こるぞ。




