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36 選抜終了

「そこまでだ!」


 制止の掛け声をもって、戦いが止まる。


「ただいまの脱落者をもって規定数十人が決定したと判断。二次選抜は終了とする!」


 と声を張り上げたのは第一位グレイリュウガ。

 彼が審査側の大声担当か。


「同時に、選抜会そのものも最終段階に達した! 今! 会場に踏みとどまり両の足で立っている十人こそ帝国最強の十人であろう! お前たちには……!」

「……我が至宝となる資格がある」


 あとを引き継ぎ皇帝が言った。


「帝国最強の十二人として、我が直近に仕える資格がな。我が帝国の宝は、強者そのもの。帝国全土から選りすぐって集められ、度重なる篩にも落とされず踏みとどまったお前たちは、最高の宝と呼ぶに値する」


 どうやら本決まりのようだ。


「その宝の名は、『帝国守護獣十二使徒』!!」


 ついに、敵幹部の一人に名を連ねてしまった。


 最後の選考にも耐え抜いた十人の中には、俺の他にも妹のセレン、フォルテとサラカのお姫様、ガシセキレイの同期組も残っていた。


 計七人。


 本採用の半数以上が知り合いという恐ろしさ。


 あとの三人は知らん初対面だ。


「やった……! やった……! やったぞ!!」


 まず喜びをあらわにしたのはガシ。

 彼は、一番明確なモチベーションを持ってたから目的達成の感動もひとしおだろう。


「まさかこんなに早く帝国の上位に食い込めるなんて! これで給料たくさん! スラムの兄弟たちをたくさん食わせられる!」

「やったなガシ!」

「やったぜレイ!」


 そして同期のレイと抱き合って喜ぶのだった。

 仲いいねキミら。


「では、本儀式に移るとしようかのう」


 そう呟く皇帝。

 俺たちのいる地上より遥か高みのテラスから俺たちの悪戦苦闘を見下ろしていた。


 まさに特等席で天上の神様気取りであるが、ついに俺たちと同じ目線へと降りてきてくださるようだ。

 しかも凄いダイレクトな方法で。


 テラスの前の柵を飛び越え、そのまま自由落下。


「えええええッ!?」


 あのテラス、地上から高度十メートルはありそうだというのに!?

 そこから飛び降りた!?


 皇帝に付き従うグレイリュウガ、ワータイガも続いてアイキャンフライ。

 重力に引っ張られて地表へと落下。

 しかし着地の衝撃は思ったより軽やかで、擬音にすると『フワリ』といった感じだった。


「うっお……!?」


 皆、皇帝の意外極まる身のこなしに息を呑んだ。


 高度十メートルからの自由落下。

 普通であれば命を失ってもおかしくない所業を皇帝みずからやってのけるとは。


 後ろに控えるグレイリュウガ、ワータイガならまだしも、皇帝本人も高い身体能力を見せつけられて圧倒される他ない。


「改めて言おう、お前たちは今日より十二使徒だ。我が帝国にてもっとも強く、もっとも忠誠厚き者として、帝国に仕える意志はあるか?」

「もちろんにございます!」


 最初にリアクションしたのは意外にもレイだった。


「このレイ、帝国貴族として生まれた時から帝国のために働くことを祈念しておりました! 今、その最高の資格を得られると感動にて奮い立っております!」

「よい返事だ。さすが生え抜きの帝国人は違うの。ただ……」


 皇帝は、自分が選び抜いた者たちを見渡しながら言う。


「この強者たちの中には、帝国出身でない者すらおる。当然思惑とて千差万別に違おう。何のために戦い、何のために勝利栄光を望むのか。理由は人それぞれ」


 たとえば……。

 ガシやセキは、みずからが育ったスラムの環境をよくするために。協力しながら生きてきた仲間のために出世栄達を望んだ。

 フォルテやサラカも、帝国に従属した自族の立場を高めるため帝国に尽くしている。


 皆それぞれに生きる理由と目的があり、一様に帝国への忠節を第一に置くことはできない。


「それもいい。元より十二使徒の選抜基準は強さのみ。最強として集めた十二人全員が無私の忠誠まで併せ持てというのも無理な注文よ」

「はあ……!?」

「戦う理由など人それぞれでよい。お前たち各々が求めるもののために培った強さを、帝国に役立てるならその報酬として余は、お前たち各々の望むものを必ず与えるであろう。奮い、戦え、帝国のために!」

「「「「「ははッ!!」」」」」


 皇帝の声からにじむ覇気に、最強を基準に集められた十人のほぼ全員が一斉に跪き、首を垂れた。


 げに恐ろしき皇帝の威厳よ。


 俺も一応左右に倣って跪いておく。


「それでは早速、お前たちにさらなる力を与えよう。帝国のために戦い、各々の欲望を満たすための力をな」


 脇に控えるワータイガから差し出される箱。

 その箱の中より取り出される、まがまがしき光を放つ宝石。


 ビーストピース……!


「ビーストピースは獣魔気の結晶。形を帯びて安定するほどに濃厚な獣魔気の塊じゃ。これまで親衛隊以下に与えてきた獣魔気とは質も量も桁違い。これをその身に取り込んだ時、お前たちは最強最悪の獣闘士に成り果てる」


 それをここにいる十人にそれぞれ与える。

 既にビーストピースを与えられたグレイリュウガ、ワータイガに続き、最強の十二使徒となる証となるのだ。


「まずはセレン、進み出よ」

「はーい!!」


 えッ!? なんでまず妹!?

 俺の戸惑いも知らず、妹セレンは皇帝の前に飛び出て……。


「こーてーへいか! よろしくお願いします!」


 そんな、こーちょーせんせい、みたいな語感で!?


「ほっほ……、元気のよい子じゃな。選抜の最終段階となった乱戦で、お前がもっとも多くの競争相手を撃破した」


 あっ、そういうこと?

 ただ決まった数になるまで殺し合わせるイベントなだけかと思ったが、ちゃんとカウントとったりもしてたんだ。


「妹ちゃん、めっちゃ殴り飛ばしてましたもんね……!?」

「半分以上あの子一人で倒したんじゃないか?」


 セキとガシも小声で言い合う。

 うう、妹のキルスコアがトップ?


「それは、本選抜にてもっとも強さを示したのがお前だと言っていい。よってお前に、第一位グレイリュウガ、第二位ワータイガに続き十二使徒の第三位を名乗ることを許す」


 なんと!?

 ウチの妹が三番目に!?


「ビーストピースを賜るがよい」


 皇帝が宝石一滴、掌からこぼす。


 しかし、禍々しい輝きの宝石は地面に落ちることなく、空気の流れに乗るようにふわふわ流れていき、自分の主とすべき少女へと行き着いた。


 宝石は、まるで水の中に入っていくかのようにスッと、セレンの体内に潜り込んでいった。


「ふぁああああああああッッ!?」


 同時にセレン、凄まじい雄たけびを上げる。

 宝石が放っていた禍々しい輝きが、今度は妹の体全体から発せられる。


「セレン……ッ!!」


 さすがにびっくりして駆け寄ろうとしたのを、誰かが背後から引き留める。


「押さえろジラ! 皇帝陛下の御前だぞ!」

「フォルテ!? でもセレンが……!?」

「問題ない。セレンに危険はない。何の儀式か改めて思い出せ……!」


 それは……!


 十二使徒の正式な就任儀式。

 あくまで力を与えるためのもの。


 ビーストピースという結晶化するほど膨大な獣魔気によって……。


「おおー!? なんかすげーの出たー!?」


 光が収まり、力が安定したセレンには一つ大きな変化が起きていた。

 頭から角が生えていた。

 大きく湾曲した、先端の鋭い角が左右一対……。


「猛牛のごとき荒々しさ、力強さこそお前には相応しい。セレン、これよりお前は『帝国守護獣十二使徒』の第三位、セレンタウラと名乗るがいい」


 もっとも濃厚な獣魔の力を得たセレンは、その体に獣の部位そのものまで得てしまった。

 そして新しい名前。


 状況が、どんどん俺の知る『ビーストファンタジー4』に近づいていく。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なるほど12位になる運命でしたが、理由は省エネ戦法と選抜妨害でスコアが最低だからということですか
[一言] ジラはビリかな?
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