34 人目に触れる智聖術
んでもって。
終わったと思ったが魔術師たちまだ立ってた。
しぶといな。
曲がりなりにも親衛隊ってことか。
「熱ぅ……!?」
「さぶッ!? 寒い……!?」
「なんてことだ……!」
全員かなりのダメージを受けているが、生死にかかわるどころか行動不能にも至っていない。
俺の魔法も押し勝ったとはいえ、威力の大部分を敵の魔法に相殺されたからな。
そうして弱った最強魔法、さらに相手は咄嗟の防御も講じたようだ。
だからこそああして立っていられる。
「お前……いったい何者なのだ?」
「ん?」
三人組の一人が、火傷に引き攣る口で言う。
「三属性の最強魔法をすべて使える……? しかも同時に撃てる? どうすればそんなデタラメなことができるんだ……!」
「オレたち三人が、それぞれ一つずつしか極められなかった魔法系統。それぞれ一つだけしか修得できなかった最強魔法を。一人で全部覚えているだと……!」
「一つの魔法系統を極めるのがどれだけ難しいか、オレたち自身がよく知っている。不可能と言っていい。それを何故お前は……、しかも三つ全部同時に発動する……!?」
皆さん驚く箇所が多いということはわかった。
主にコイツら、俺が修得者として<リアマ><イエロ><アイレ>三つの魔法系統全部を極めていることに驚きらしい。
そしてそれらの最強魔法を全部同時いっぺんに放てることが、もっと驚きらしい。
どれも特に大したことではない。
連続魔法は智聖術によるものだし。
智聖術をきっちり覚えていれば、魔法の修得はぐんぐん早くなる。
一生のうちに一般的な魔法すべてを使えるようになることも容易い。
コイツらがこの程度のことで度肝を抜かれているのは、智聖術を覚えていないことも加えて、獣魔気を帯びているからだ。
前にも言ったように魔法と、獣魔の力の相性は凄く悪い。
獣魔気を帯びながら新たな魔法を習得しようとするなら、普通の倍の修練が必要だ。
そりゃ一生のうちに一つの魔法系統を極めるだけで精いっぱいだろう。
獣魔の力に頼るなら魔法はすっぱり諦めた方がいい。
しかし彼らは無知ゆえか獣魔の力を帯びながら魔法の道を歩んでしまった。
努力と時間を空費した。
「強いて言うなら、お前たちは頑張り方を間違えたんだ」
「何? どういうことだ……!?」
「それを一から教えてやるほど親切じゃない」
どうにか立ってはいるものの、一人は全身火傷が酷く、一人は寒さに凍えている。もう一人は真空刃の嵐でズタズタになっていた。
「勝負はついたな」
俺はそう判断し、踵を返す。
「待て! どこへ行く!? 勝負はまだ終わってないぞ!?」
「終わったよ。どの道その怪我じゃ最後まで戦い抜くなんて無理だろ」
キミらの選抜会は、ゲームオーバーだ。
「さっさと会場から出て治療を受けるんだな。獣魔気を帯びてるんだから自然回復力も高いだろうし」
生命力を全体的に高めるのも獣魔気の効力だからな。
獣魔気のおかげで体が頑健だからこそ怪我もあの程度で済んでるだろうし、何事も一長一短だ。
「この……、このおおおおおおおッッ!!」
しかし当人には受け入れがたかったらしい。
背後から激しい殺気を感じた。恐らく三人のうちの誰かがヤケクソで魔法攻撃を仕掛けてこようとしたんだろうが。
仕方なく俺は再び<絶対魔法遮断>を敷いて迎え受けるも。
「あぐッ!?」
「おげッ!?」
「びめけッ!?」
届いたのは三人の悲鳴だけだった?
何かと思って振り向けば、倒れた魔術師たちの傍に例の三人がそれぞれ立っていた。
ガシとセキとレイ。
我が友三人。
「お前らが止めてくれたのか」
「無防備すぎるんだよお前、大らかというか……!?」
魔法に疎いコイツらでは<絶対魔法遮断>に気づくのは難しかったか。
お陰で余計な手間をかけさせてしまった。
「おかげでとどめはオレらが刺しちまったじゃねえかクソッ。まるで手柄を横取りしたみたいだぜ!」
望まざる勝ち星に不満のガシ。
それでも俺は助けてもらった形だから譲るのに何の不満もないよ。
「……ジラ、教えてくれないか」
もう一人の友だちレイから神妙な顔で尋ねられた。
彼も氷の魔術師を後頭部から一撃して無事倒していた。
ちなみにセキも魔術師の一人を担当し、背後から頸動脈をキュッと絞めて落としていた。
力がないなりのやりようを心得ている。
「で、教えてくれって何を?」
「キミのその不思議な力のことだ。錬兵所で見た時から、キミが得体の知れない不思議な力を使っているのはわかっていた。それが具体的に何なのかは全然わからなかったが……」
戸惑いがちに問うレイ。
まあ智聖術のことを聞いているだろうが、たしかに予備知識がないと何のことや全然わからんだろうがな。
智聖術及び獣魔術、智神ソフィア及び獣神ビーストの扱いは『ビーストファンタジー』各作によって微妙に異なる。
世界的に有名なこともあれば誰も知らないこともある。
俺が生まれ落ちた『4』の世界では超マイナーなようだ。
獣神ビーストは、皇帝と契約したことで初めてその名が知られるようになり。智神ソフィアにいたっては誰も知らない。
だからこその周囲の反応であろうが、まあ強いて隠し通すようなことでもあるまい。
俺は開けっぴろげに説明してあげることにした。
「これは智聖術という……まあ、特別な力みたいなものだよ」
でも一から説明するのが面倒で色々はしょった。
「獣魔の力に対抗しうる、この世で唯一のものだ。使いこなせると色々できて便利なんだよ」
「獣魔の力に対抗できる……ッ!?」
周囲がザワザワとざわめいた。
気づけば、広場にいる皆が俺に注目しているではないか。
何故?
今バトルロワイヤル中だろうに皆手が止まっているではないか頑張って戦いましょうよ?
「皆アナタの戦いぶりの凄まじさに目を奪われているのではないか!?」
「おおう!?」
詰め寄ってくるフォルテにビビる俺。
「これなのか!? アナタが帝都から離れたのは、この技を会得するためだったのか!? そのために五年も……!?」
「そう、俺が旅に出たのは、すべて智聖術のため」
包み隠さず話す。
「俺の五年間は、智聖術を会得するために費やされた」
「お兄ちゃん凄おおおおッ!!」
「ごぶふぉッ!?」
妹セレンに凄い勢いで抱き着かれた。
「お兄ちゃんすげえ! こんなに凄くなって帰ってきたんだね! だったらずっといなくなってたのも許してあげるのだ!!」
「今まで許してなかったのか……ッ? ぐぶ……ッ!?」
相変わらずのタックル抱き着きで内臓吐きそう。
この一撃だけで敗退しそうだ。
動揺が波及するように周囲も騒ぎ出す。
「ちせいじゅつ……!?」
「獣魔の力に対抗する力……!?」
「そんなものがこの世にあったのか……!?」
と。
いやそれより皆、戦え。
と言いたいところだが衝撃を受けるのもわかる。
少なくとも『ビーストファンタジー』の『4』において獣魔の力は唯一無二。
誰も対抗できない最強の力だからこそ帝国は獣神ビーストを後ろ盾に侵略支配を繰り返し、ここまで大きくなってきた。
そんな獣魔の力に対抗手段があるとしたら。
誰が、どんなリアクションを見せることだろうか。
自分の持ち札を大衆に晒した俺は、クイと顔を上げ、遥か上方を見上げた。
テラスから、皇帝の煌々とした眼光がたしかに俺のことを捉えていた。




