33 智聖術の進撃
「オレたちは! 皇帝陛下直属の親衛隊!」
「その中でも特に魔法の扱いに長けていると言われている三人衆!」
「人呼んで『三属士』!」
なんか来た。
俺の目前に、いかにも綺麗な身なりの三人組が並んで名乗る。
「見たところ何かの手違いで選抜会に紛れ込んだ下級兵士だな? しかも子どものようなあどけなさ……!」
「ろくな実戦経験もない新兵と見た! 格好の獲物だな!」
「親衛隊の恐ろしさを見せてやろう!」
わざわざ一番弱そうなのを見繕って、それを相手に得意ぶろうとは。やってることがいかにも卑小。
「……ふっ、しかしお前も哀れなヤツだ、こんな場違いなところへ迷い込むとは……!」
「ここは、お前のような素人が来ていい場所じゃない。真の強者だけがいることを許される場所!」
「お前は運よく辿りつけたと思っているだろうが、すぐに不運だったと思い直すだろうよ……!」
そうしてよくわからん三人組は、俺を取り囲むように布陣する。
さらに全員、銃口でも向けるように俺に向かって手をかざす。
……いや、実際狙いをつけているんだろうな。
魔力の流れを感じる。
「オレたちが、どうして親衛隊に入ることを許されたか? その理由を教えてやろう」
「魔法だ! オレたちこそ帝国随一と言っていい魔法の使い手!」
「魔法が実現する殲滅力を買われて、オレたちは親衛隊に取り立てられた!」
俺が転生したこの世界。
RPGである『ビーストファンタジー』を基礎にしてあるから魔法も当然のように存在する。
魔法がないRPGなんて考えられんからな。
別ゲーでいかにも現代舞台スチームパンク風の世界観であったとしても何故か魔法だけは必ず存在したりするし。
だからこの世界にも魔法はある。
のだが……。
「まず自己紹介だ! オレは親衛隊のブラウ! 火炎魔法<リアマ>を極めし者だ!」
「同じく親衛隊のサーナンザ! 氷結魔法<イエロ>を極めし者!」
「そしてこのヒュウも親衛隊の一員だ! 烈風魔法<アイレ>を極めし者!」
火、氷、風……。
三つの属性魔法をそれぞれ担当しているわけか。
氷≒水だとして、四属性のうち火水風が揃って……。
何故『地』が入ってない?
こういう時いっつも地属性を仲間外れにする……!
「フフフ……、何故戦いの前にわざわざ名乗るか、不思議か?」
何も聞いてませんが。
「憐みのためよ。自分を打ちのめした強者の名、せめて土産話のタネに知っておきたかろうてな」
「我らを相手にすれば、冥途の土産話になるかもしれんがな。しかし恨むなよ。選抜会での人死には皇帝陛下によって許容されている!」
「恨むなら、そんな危険にうかうか踏み込んだ自分の迂闊さを恨め!」
三魔導士の手に魔力が集中する。
あそこから攻撃魔法を放つ手筈なんだろう。
コイツら俺のことを取り囲みながら、同士討ちはしないよう互いに微妙に射線をずらしている。
親衛隊に取り立てられるだけあって、そこまでバカじゃないということか。
「消えろ弱者め! <リアマ>!」
「食らえ<イエロ>!」
「これで終わりだ<アイレ>!」
三方から飛んでくる火炎と、氷と、真空の刃。
いずれも必殺の威力を持っていて、命中したらただでは済まない。
必死になって回避すべきだろうが、俺はそういうこともせず全部その身に受けた。
「よし勝った!」
「あのバカまともに食らったぞ! よけることすらしなかった!」
「足がすくんで動かなかったのさ! オレたちの魔力に威圧されたんだ!」
口々勝手に言うが、俺がよけようとすらしなかったのは事実。
しかし、間違ってもあんなヤツらに威圧されたからじゃない。
何故回避行動をとらなかったのか。
それは、避ける必要自体がなかったからだ。
「……は?」
「えッ!?」
ヤツらは思い切り魂消たようだ。
自慢の攻撃魔法が命中したのに、何の変化もない俺を見て。
「むッ、無傷!? ノーダメージ!?」
「バカなッ! オレたちの攻撃魔法はたしかに命中した!」
「当たったのに! 火傷も凍傷も、真空刃による切り傷もない!?」
智聖術<絶対魔法遮断>。
智の聖気が構成する対魔法のバリアで、魔法による効果を完全遮断する。
その効果でヤツらの魔法を無効化した。
対物理の<バリアシールド>は、より高い攻撃力で突破すればダメージを与えられるのに対し、<絶対魔法遮断>は魔法ならばどんな超高威力であっても完全に無効化してしまう。
味方からの回復や補助魔法まで無効化してしまうのがデメリットだが、魔法特化の相手にはこれを使っただけで勝ち確定してしまうほど凶悪なスキル。
まあ、効果があるのは一ターン中だけなんだけどね。
そのゲーム中の設定に準じるかのように、今俺を包み込む魔法障壁もほどなく消滅した。
「あの輝く気は……!?」
「今のでオレたちの魔法を防いだのか?」
「く……ッ!?」
腐っても親衛隊。
俺の張った<絶対魔法遮断>に感づいたな。
教官アテコロは<バリアシールド>の存在に最後まで気づけなかったのに。
「というわけだ。アンタらに俺は倒せん」
警告の意味で告げた。
「合格したいなら、とっとと逃げて別の敵を見つけた方がいいぜ。強敵を苦労して倒しても、たくさんポイントが入る仕組みじゃないだろ? このイベントは?」
だから困難は避けた方が賢い選択だと言いたかったが……。
「なんだと貴様ああああッ!?」
「ザコ風情が俺たちをザコ扱いするかあああああッ!?」
「親衛隊のオレたちを! 許さんぞおおおおッッ!!」
逆に挑発と受け取ってしまったようだ。
的確に気持ちを伝えられない言葉の限界を感じた。
「ならばこっちも全力だ! 我が奥義<リアマ>系最強魔法<エクスリアマ>で黒焦げにしてやる!!」
「オレたちが各属性魔法を極めし者と名乗ったのは伊達じゃないぞ! オレだって<イエロ>系最強、絶対零度の<エクスイエロ>は修得している!」
「さっきは万に一つも生き延びる道を残してやろうと初歩魔法を撃ってやったんだ! しかしもう手加減しない! <エクスアイレ>だ! 死んで後悔するがいい!」
三人から凄まじい烈気の高揚を感じる。
「……この気、魔力だけじゃないな」
獣魔気か。
アイツらも親衛隊なら不思議じゃないが。
「最強魔法に親衛隊クラスの獣魔気の複合! さっきの妙な防御技も通じんぞ覚悟しろ!」
「いや防げますけれども……」
しかしアホだなー。
よりにもよって魔法と獣魔気を併用するとは。
獣魔気の源たる獣神ビーストは、獣性と本能を司る神。
自然、知性理性とは対極の存在。
そんな神様から皇帝経由で与えられた獣魔気が、魔法と相性いいと思うのか?
大抵どんなゲームでも、魔法と深く関わりあるパラメータは『魔力』と『賢さ』。
特に『賢さ』は完全に獣神ビースト及び獣魔気と相反しているというのに。
それしかやりようがないのもわかるが、互いのよさを打ち消し合う組み合わせをしてどうする。
「親衛隊としては決定的に知恵が足らんな」
対して俺の智聖術は違うぜ。
智神ソフィアから『たぬ賢者』経由で授けられた智聖術こそ、『知』と『賢さ』。魔法との相性は物凄くいい。
互いの長所を潰し合わず、むしろ高め合う。
魔法使用を補助する専用の智聖術だってあるくらいだ。
こんな風に。
「智聖術<れんぞくま>」
一ターン中に魔法を連続して唱えることができる智聖術。
数ある智聖術の中でももっとも便利で強力なスキル。やっぱり連続行動系はどの局面でも強い。
ここではもう少し力を入れて……。
「智聖術<三れんぞくま>」
これで一ターン中三回連続の魔法使用が可能だ。
ゲームじゃないこの世界だと、ほぼ一瞬の同時魔法運用ってところか。
「死ねえ! <エクスリアマ>!!」
「<エクスイエロ>!!」
「<エクスアイレ>!! 死ねえ!!」
三方から放たれる各属性最強魔法。
大炎と、猛吹雪と、真空刃交じりの竜巻が俺を襲う。
しかし慌てない慌てない。
「<エクスリアマ><エクスイエロ><エクスアイレ>」
智聖術で三つの魔法を同時発射。
それぞれ敵の放った同魔法とぶつかり合って相殺した。
「げえええええッ!?」
「ウソだッ! オレたちと同じ最強魔法を、しかも三つ同時に!?」
驚く親衛隊魔術師たち。
でも驚いてる場合じゃないぞ。
相殺じゃなかった。俺の方の魔法が押し勝った。
「「「んぎゃああああああッ!?」」」
押し勝った分の魔法がそれぞれを直撃。
「獣魔気を合わせた分だけ、魔法の威力が下がったんだな」
逆に俺の魔法は聖気と合わせて活性化。
相性は考えましょうってことだ。




