25 集う強者たち
「……まさか帝城の中でやるとはな選抜会!?」
そこまで気合の入ったイベントだったとは!?
帝城と言えば、まず皇帝の住まい。政庁。
ベヘモット帝国のもっとも重要な施設であり誰彼おいそれとは入れる場所じゃない。
ゲーム的な側面から見れば、ここは『ビーストファンタジー4』のラストダンジョン。
とにかく特別な場所だった。
「……俺、帝城に入ったの初めてだよ」
「オレも」「私も」「オイラも」
皆なかった。
一般庶民が普通に暮らしていたら一生縁のないところなんだよつまり!
「そんな場所で選抜を行うってことは本気ぶりが窺えるな。皇帝陛下は心底、十二使徒を帝国最強の精鋭として創始したいのだろう」
実際ゲームでもそうだったしな。
『ビーストファンタジー』で十二使徒は、主人公セロの前に立ちはだかるもっとも手ごわく、そして明確な障害。
この手の敵幹部集団は、あるとバトルに華が出るから、大体どのシリーズでも似たようなのがいるんだよなあ。
第一作目『ビーストファンタジー』では獣魔王の忠実な部下たる三獣士がいたし。
『ビーストファンタジー2』では獣の数字をモチーフにした六人の獣魔司祭がいた。
『ビーストファンタジー3』の敵幹部はナインテールという九人の妖艶な美女たち。
そして『4』の十二使徒。
……。
シリーズが進むごとに三の倍数で増えていくのは何故なんだろう? 制作側に何か拘りがあったのかな?
でもさすがに十二人は多すぎる。
プレイ当時は倒さなきゃならない敵多すぎて困るわ! と閉口したものだが。
今となっては採用枠が広いということで逆にありがたい。
今は力を得ることで、この新しい世界で生き抜こうとしている俺だ。
他にも望むことはある。
肩書きの力も遠慮なく狙っていくとしよう。
◆
案内されて進んだ先には、大きな広場があった。
城の中にここまでしっかりした広場があるとは、それだけ帝城自体が広大ということでもあろう。
「集まってる人数も凄えもんだぜ!?」
ガシが戸惑い交じりに言う。
たしかに。
今の時点でも広場に集った集団は、ざっと見でも数百人。
俺たちがつい最近まで過ごした練兵所の人数より多い。
「ここまでたくさん集まってくるとは……! どいつも凄まじい面がまえだ」
「間違いで来たんじゃないってことだな。皆狙ってるんだ。帝国最強の十二人に入ることを……」
狙っている人数が多いということは、それだけ競争率も高いということで……。
激戦になることが予想された。
枠が増えてラッキーとか言ってる場合じゃないな。
ここまで競争相手が多いと三人でも六人でも九人でも十二人でも関係なさそう。
「全力を尽くすまでのことだ!」
とりあえずそう言っといて誤魔化した。
自分を。
選抜会は、始まるまでにまだ時間があるという。
それまであの数百人同様会場でお待ちくださいと案内の人から言われた。
「あ、お兄ちゃんだ! お兄ちゃーん!!」
会場の入るとすぐさま俺のことを発見し、飛びついてくる妹。
「ぐおほうッ!?」
相変わらずのタックル力だ。
「……ぐほッ、……ははははははセレンは先に来てたのか? 今度は一緒で兄ちゃん嬉しいぞ」
「アタシも嬉しいー! お兄ちゃん、やっと一緒だね!」
そう、今回の選抜会には妹セレンも参加する。
俺の知らない間に帝国の精鋭候補生になっていた妹だからな。
帝国最強に連なる資格がある。
何でも精鋭候補生は全員無条件で選抜会に参加資格があるらしい。
妹セレンはそっちの枠から出場するというので、家から分かれて出発したのだった。
本当は一緒に行きたかったんだが。
「……妹ちゃんのタックル毎度すげえなあ……?」
「なんでジラは、あれを受けて平然としていられるんだ?」
「オイラなら腹のもの全部ぶちまける自信があるっす……!?」
おいおい我が友らよ、セレンのことをバケモノっぽく言うなや。
妹だぜ。
「お兄ちゃんと一緒に戦えるー! やっと戦えるー! ずっと待ってた嬉しいなー!」
そこまで待ち望んでいたの?
バーサーカー?
そして広場に集う顔見知りはセレンだけでなく……。
他にもいた
「やはり来たなジラ。予想通りだ」
そう言って艶やかな女体を揺らして現れる。
ロボス族の姫君フォルテ。
相変わらず色っぽい腰つきだな!
「お前がいなくては帝国最強を揃えるという今日の催しも虚しい。お前ならきっとこの場に来ると思っていた。そしてきっと正式に十二使徒入りするだろう」
「いやいや、そんな……!?」
最初から勝ったつもりで慢心などできませんよ。
それはそうとフォルテ美しい。
「お前ならグレイリュウガ様とワータイガ様に続き、第三位の座に就けるかもしれないな。しかし忘れないでくれ。私も必ず実力を示し、十二使徒の一人に入ってみせる」
切実に言うフォルテ。
「それが自族のためとなるからだ。私が帝国で不動の地位につけば、私の生まれたロボス族も丁重な扱いを受けることができる。もはや帝国の一部となって余所者扱いもされぬ……!」
フォルテは遠い草原の生まれで、そこに住む部族は帝国の侵攻に敗れ、服従した。
服従の証として送られた人質がフォルテであり、彼女は何年も、辛い人質生活を帝都で過ごしてきたのだろう。
彼女が帝国で高い地位につけば、彼女の出身部族の評価も上がり、帝国の下でも誇りをもって生きることができる。
幸い帝国は極度の実力主義。
余所者でも敗者でも、強さを示せば正当に評価される。
フォルテもそれを知っていて強者の頂点、十二使徒を目指すのだろう。
「頑張ってくれ。俺もキミができるだけ高い順位に入れるよう応援するよ」
「ありがたいが、同じ戦いに臨む以上はキミとて私のライバルだ。甘いことを言っていたら喉笛を噛み千切るぞ?」
「あははははは……!」
「選抜会の内容は私もまだ知らないが、もし競う状況になればアナタも容赦なく私と戦ってくれ。その……!」
「ん? なに?」
フォルテさんの口調が急にゴニョゴニョしだしたので、耳を寄せると……。
「私の故郷では略奪婚の風習がある」
「はあ?」
「戦士の女だけに対し、正面から挑んでボコボコに叩きのめし、自分の家に連れ去って無理やり妻にする風習だ。それぐらい激しく私を叩きのめしてみろと言ってるんだ!」
「はい!」
「えッ? ホントにッ!?」
フォルテの表情がキラキラ輝きだした。
ボコボコにしてやるぞと言ってるのに何で?
「おいジラー? ジラくーん?」
友人たちが呼んでいるので、フォルテにひとまず断りを入れて戻る。
すると途端、友人たちから揉みくちゃにされた。
「どういうことだ? あれ有名なフォルテ姫だろ? 何とかいう戦闘部族の?」
「ロボス族っす。先年帝国に敗れて属領化したけど、最強格の戦闘部族として有名なんすよ。フォルテ姫も族長の娘として精強、現役の親衛隊員です」
「そんな凄い方とお近づきとは……! どれだけお前は主人公体質なんだ!?」
ガシにヘッドロックを掛けられ、レイに脇腹を小突かれ、セキに足を踏まれている。
なんですかキミたち選抜会前にライバルの抹殺ですか?
それに俺は主人公じゃないです。この世界の主人公はセロくんですよ。
「あの……、ジラの友人だろうか? あまり彼を苛めないでやってくれ」
「はいッ! 苛めてなどおりません姫!」
フォルテがおずおず話しかけると、野郎ども三人は一斉に俺から離れて、横一列に並んだ。
「えーあー! ……ジラ殿とは同じ錬兵所で訓練しまして、同じ釜の飯を食った仲であります! こたび幸運にも、ジラ殿と共に選抜を受けることとなりました」
「ジラは、友人に恵まれているようだな。本戦ではともにベストを尽くそうではないか」
フォルテは甲斐甲斐しく、三人と順番に握手するのであった。
あと何故かセレンとも握手していた。
「セレンも一緒に頑張ろうな」
「うん! アタシとお兄ちゃんとお姉ちゃんで十二使徒になるよ!」
戦いの場であるのに和気藹々している。
「握手してもらえた……!」
「異族の姫君で親衛隊員でもあるのに、我々ごときになんと気さくな……!」
「女神っすよ……!」
友人三人も感動に打ち震えてるし。
「なんだよここは? 今から帝国最強を決める修羅の巷に、ピクニック気分で来てやがるのか? 腑抜けてやがるなあ?」
まったくその通りですよ。
……ん?
今言ったの誰?




