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22 四人で一緒に

「うおらぁッ!!」


 まずガシが先走った。

 待てというのに。


 その辺で拾ってきたのだろう木の棒を叩きつけるものの、それが魔獣に触れた瞬間、棒の方が細かい破片になって砕け散る。


「なにいいッ!?」


 大顔猫の全身を覆う体毛が、棘のように硬質化して衝撃に打ち勝ったのだった。

 そのまま全身に鋭さを保ちつつガシに飛び掛かる。


「うおおおおッ!?」


 あのまま押し倒されれば、ガシは無数の棘毛に刺し貫かれて穴だらけとなるだろう。

 その前にもう一人が飛び出しガシを押し飛ばした。


 自身もその勢いのまま魔獣の軌道から逃れようとするが……!


「ぐあッ!?」


 完全にかわしきれなかったのだろう。

 棘の一本が足をかすり、鮮血噴き出す。


 ガシを押し飛ばして助けたのはレイだった。

 しかし代償に、自分自身の足が棘毛に斬り裂かれて負傷する。


「……あれがスパイク・ビッグ・フェイスの名の由来。全身の体毛がスパイクのように硬化し、触れる者すべて斬り刻む」

「解説している場合か!? ……すまん、オレが考えなしに……!?」


 レイの肩を担ぎ、ガシ逃げる。

 自分で歩けないほど足の傷が深いということか?


「硬化した体毛は残忍な凶器になると共に、全身隙間なく覆う最強の鎧。ヤツが強豪と言われる理由だ……!」

「マジかよ……!? そのくせ動きは俊敏だし……!?」


 奇怪な体形とはいえ、元が猫だからな。


 同じ全身装甲系の動物だとサイやらアルマジロやらカメやらハリネズミやらウニやら。

 全部動きが鈍いイメージなので、それらと比較しても脅威。


「カッコつけて乱入したはいいが、考えが足りなかったかな?」

「私も、自分一人の命で支えようという考え自体甘かったようだ。魔獣とはかくも恐ろしい異形なのか?」


 心をへし折られるガシとレイ。

 どんなに才能豊かで戦歴を積んだ人材でも、獣魔術も智聖術も修めていないうちでは中級以上の魔獣は手に負えない。


 そこで俺が……。


「えーい」


 叩き込む。

 その一発で異形の大顔猫は粉々に砕け散って消滅した。


「「ええええええええッッ?」」


 驚愕するガシとレイ。

 ここまでやっつけ気味にされたら仕方ないかもだが。


 智聖術<浸透波>。


『たぬ賢者』の下で覚え修めたスキルの一つで、衝撃を波のように内部へ透過させることで、外側の防御をすり抜け内側から破壊する的な技だ。


 智聖術はスキル枠の扱いなので、こんな直接攻撃も術の中に入る。

 ゲーム的には、敵の防御力を無視して大ダメージを与える技で、覚えるタイミングは大抵ストーリー終盤。

 だから強豪と言えども中盤ザコ敵でしかないスパイク・ビッグ・フェイスぐらい一撃死できる威力を持っていた。


「ジラ……、本当お前は……!? 凄いヤツだとは思ってたが何もそこまで……!?」

「我々の決死の覚悟なんか意味なかったじゃないか……!?」


 いやいやそんなことないですよ。

 皆の頑張りがあったから、その気持ちが伝わって俺の力になった的な?


「しかしジラ。手はなんともないのか? 相手は棘の塊、触れれば自分もダメージは避けられまいぞ?」


 レイの指摘はもっともだが問題ない。


 ヤツは棘のように固い体毛に覆われていた。

 だから毛の生えてないところに触れればよかったのだ。


「鼻っ面を殴った」

「「鼻を!?」」


 哺乳動物の毛が生えていない部分と言えば鼻か目、口内。他にも探せばありそうだが。

 とにかく体毛という鎧も完全に完璧ではなかった。

 俺はその隙間を突いて無傷で勝利できた。


「そ、そんな……!? 無敵の怪物が……!? 我が家が誇る最強魔獣が……!?」


 そして問題のお坊ちゃんは、切り札が破られたことに動転しまくっていた。


「うわああ……!? ぐひゃ!? ふわわあああああッッ!?」


 そしてそのままどこぞへと駆け出していった。

 逃げるように。


「あッ! おいコラ待ちやがれ!」

「いいさガシ、放っておけ」

「でもアイツが一番の悪者だろ!? 落とし前つけさせなくていいのか!?」


 ガシの憤懣もわからないではないが……。


「落とし前ならもうついている。あんなお坊ちゃんが夜の山中を、灯りもなしに駆け回るんだ。確実に遭難する」

「あ……!?」

「それでアイツは最終試験を落第し、一生日の目を見ない人生が確定するんだ。落とし前としては充分だろう?」


 そして下手にヤツを追いかけては俺たちまで遭難し、頂上へたどり着けなくなってしまう。

 俺たちはきっちり最終試験に合格しないと。


「さ、山頂に向かおう。……いい加減出て来いよセキ」

「へいへい! 旦那のお呼びとあらば!」


 どこからかピョンと飛び出す小男。

 隠れていたのは賢明だな。


「本当にお前の案内で山頂に行けるのかあ? 俺も犬どもとの乱戦ですっかり道がわからんのだけど」

「お任せくださいよ! オイラだって合格したいですからね! 必死で元の道を探しまさあ!」


 まあ、信じるしかないか。


「おいジラ、手伝ってくれ!」


 そこへ新たにガシが呼ばわる。


「レイの足のケガが思ったより酷え。応急処置はしたがまともに歩くのは無理そうだ。オレとアンタで担いでいこう」

「その必要はない、置いて行ってくれ」


 諦めたようにレイは言った。


「私には、合格する資格はない。ギリー様のお目付け役を任ぜられながら暴走を防ぐこともできず。キミらに迷惑をかけてしまった。その上でギリー様が遭難して落第するなら私も運命を共にするだろう」

「そう寂しいことを言うな」


 俺はレイの左腕を肩に担いだ。

 ガシが右腕の方を担ぎ上げているからだ。


 二人で両方から支えれば、楽に持ち上げることができる。


「セキ! 先導頼んだぞ! お前がちゃんと道わかるかどうかに命運がかかってるからな!」

「お任せください!!」


 セキのヤツは、闇夜だというのにまるで昼間の平地でも歩くかのように軽快に駆け上る。

 あまりに軽快すぎてついていくのが困難なほど。


「ちょっとー!? 急ぐのはいいけどペース見てもらえませんかね!? こっちは怪我人抱えてるんで!!」


 俺とガシで、間にレイを挟む。


 男が三人横一列に並んで坂を駆け上る。

 なんだか滑稽な光景だった。


「いっちに、いっちに……」

「なあ、なんで上り坂なんだよ? もっと楽な道の方がよくね?」

「そりゃ頂上を目指してるんだから上り坂になるだろう」

「いっちに、いっちに……」

「なるほどたしかに……! ……っていうかジラがさっきから言ってるそれは何なんだよ!?」

「凄く耳に残るんだが!?」

「皆で息を併せて進むための掛け声だよ。皆も言おう。いっちに、いっちに」

「い? いっちに、いっちに……!?」

「いっちに……!?」


 掛け声を合わせると案外動きも一致して、男三人険しい山道をすいすい駆け上っていくことができた。

 元々三人とも体力あるしな。


「いっちにぃ! 思ったより速く行けるじゃないか! これなら頂上にもあっという間に着けるな、いっちに!?」

「セキのヤツが道間違ってなければな、いっちに!」

「キミら私語を挟むなよ! ペースが乱れるじゃないか、いっちに!」


 そして皆で駆け上がった挙句の先に、他の訓練生の出迎えが待ち受けていた。

 本当に頂上に着いたのだ。


「おお、やった……!?」

「マジで到達するとは、セキのヤツやるなあ……!?」


 頂上では、先に到着していた同期の訓練生たちが盛大な歓声を上げる。

 どうやら俺たちの到着を心待ちにしてくれていたらしい。


 彼らの気持ちに応えて、ようやく俺たちもゴールにたどり着くことができた。


「……あ、そうだレイくん足出して。怪我してる方」

「はい?」


 差し出された足に向けて、回復魔法を放つ俺。


「<メホラザン>。……よし、これで完全回復した」

「えええええええッ!?」

「ちょっと待てテメエ! そんなハイレベルの回復魔法使えるのかよ!? なんでもっと早くしなかった!?」


 いやだって。

 皆で息を合わせて山を登るの楽しかったし。


 これならしっかり登り切ったあとで治療してもいいかなと思って。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 主人公以外ただの驚き役
[一言] にくきゅうを殴るだなんてとんでもない!
[良い点] 「この世界に回復魔法はないのかな?」 と思ったらやっぱりあった模様(^^;
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