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27話 迷推理

 現場に着けば。

 既にラオスとクレアが対峙していた。

 セバスの死体を見たクレアが驚愕の表情をしている。

 クレアの方はラオスを全く疑っていないようだ。


 だが騎士団長のラオスはすでに剣に手を添えていた。

 私が到着するのがあと少し遅ければクレアは殺されていたかもしれない。


 クレアが助かったのはこの世界には死んだ人間が最後に見たものを映す事のできる魔道具があるからだろう。

 クレアが騎士団長から目を離していればすぐさま殺されていた。


「クレアっ!!!!」


 私が叫べば、ラオスとクレアがはっとこちらに振り返った。


「リンゼ!!閉じ込められていたんじゃなかったの?」


「塔に謹慎にはなったけれど、城の中なら自由に歩いてもいいって言われてるわ。

 どうしたのこんなところに?」


 まるで何事もなかったかのように、私が言えば


「そうなの!!大変!!!セバス様が!!!」


 言って指さした先にはセバスの死体が転がっている。


「私が来たときにはこの状態だった。

 恐らく自殺だろう。

 悪いが二人とも警備兵を呼んできてくれないか」


 ラオスに言われて私は口篭る。

 警備兵など呼びにいけば、少し進んだところで背後ばっさり切られて終わりだろう。

 魔道具が映し出せる時間などほんの数秒だ。

 数秒、目を離せばラオスは間違いなく私たちを殺しにくる。

 セバスが実は生きていて二人を殺しました☆てへ☆

 で、すんでしまう話なのである。


 今頃ジャミル達がラオスの動きを封じる魔道具をセットしているはず。

 私はもう少し時間を稼がないと。


「……その死体。本当に自殺でしょうか」


「どういう事だ?」


「もし自殺だとしたらあの塔から飛び降りた事になりますよね?」


「ああ、そうだが」


「だとしたらおかしいです」


「……何がだ?」


 騎士団長の声が一瞬低くなる。

 うっし食いついた。

 とりあえず騎士団長が視界に入る位置で話を進めないと。

 残りたぶん4分ちょっと。

 魔道具発動まで私が注意を引きつける。


「血痕です」


「血痕?」


 私の言葉にクレアが疑問符を浮かべた。


「そう、セバス様の周囲にある血痕はどれも滴下血痕ばかりなの。

 もしあの高さから落下したのなら飛沫血痕がなければおかしい」


「えーっと?」


 クレアがよくわからないような顔をするので、


「いい、滴下血痕っていうのはこういう丸い血痕の事。

 こういう血痕は上からぽとって落としたからこういう形なの。

 飛沫血痕っていうのは線みたいな形の血痕。

 飛び散った血がつくと線のようになるの。


 わかる?」


挿絵(By みてみん)


「う、うん!たぶん!」


 クレアがニッコリ頷いたが。これはたぶんわかってない。


「では、誰かが自殺に見せかけて殺したということか?」


 騎士団長のラオスが事もなげに言う。

 よく言う。お前が犯人のくせに。


「いえ、そうとも限りません」


 私は騎士団長の言葉に首を振った。


 はい。そうです!なんて言えばそこで話が終わってしまう。


 そうだよ!俺が犯人だからお前ら死ねよ!なんて展開になってしまっては、とても困る。

 とてつもなく困る。


「え?どういう事?」


 クレアがゴクリとつばを飲んだ。


「他殺に見せかけた自殺ということです」


 キラーンと目を光らせ胸を張る私。

 もちろん間違った推理なのだが時間をつぶさないとやばい。

 とてつもなくやばい。


「どういうことだ?」


 騎士団長に言われて私は怪しく微笑む。

 ぶっちゃけ私こそ、どういう事だと問い返したい。

 思いっきり心の底から問い返したい。


 どういう事だってばよ!っと。


 いま適当に話をつないだよ。続きなんて考えちゃいないよ。

 とりあえず大げさにオーバーになるべくゆっくり身振り手振りを交えて話を進めねば。


 探偵物大好きだった私にそれなりのタメっぽい動作など容易い事!

 なんとなくそれっぽく振舞うよ!

 

「あからさますぎるのですよ。

 これでは国の検死官が来れば飛び降り自殺でないのはすぐわかってしまいます。

 セバス様をこんな人気のない場所にまで呼び出せる人物がそのようなミスを犯すとは思えません。


 つまりこれはセバス様の自作自演です」


 シャキーンと胸を張る私。


「で、でもなんでセバス様が?」


「それは私にもわかりません。


 ですがもし、死んで償わないといけないような罪を犯して……

 その罪を暴かれそうになったとしたら?


 セバス様は家族思いです。

 セバス様の裏に誰か本当の黒幕がいる。そう思わせて罪を軽くしようとしたら?

 

 他殺に見せかけて自殺することによって自分は本当の犯人ではない。

 そう見せかけるのが目的なのかもしれません」


 某名探偵の漫画のようにオーバーリアクションで、間違った推理を披露する。

 めちゃくちゃ恥ずかしいが、こちらは命がかかってる。

 恥ずかしいとか言っている場合じゃない。


 強引な推理に騎士団長はどう反応するか、内心ドキドキしていれば


「心当たりがないこともない」


 と、話に乗ってくれた。

 やったーーー!!!適当にでも言ってみるもんだ。


「心当たり?」


 私が聞き返せば


 騎士団長が私に視線をむけこちらに歩いてくる。


 ……やばい。

 バレたの!?適当推理してることがバレたの!?


 怖くて逃げ出したくなるが、でも視線をそらしたら負けだ。

 背を向けたが最後、後ろからばっさり切られて殺される。


 騎士団長があと一歩のところまで来たその瞬間。


 ぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!


 物凄い光に私たちは包まれ――


 かきいぃぃぃぃぃん!!!


 騎士団長とクレアが一気にクリスタル化する。


「え!?ちょ!?何!?」


「魔道具ですよ」


 言って後ろから現れた鬼畜とジャミル。


「しっかしまぁ、よくもあんな適当推理で時間を稼げたもんだな」


 ジャミルが面白そうに私を茶化し


「なかなか興味深い推理でしたよ」


 と、言うマルク。


「……仕方ないじゃないですか……」


 言いながら、私はポロポロと自分が涙を流していることを自覚する。

 今になって手も足も震えてきた。


「え!?いや、褒めたんだぞ!?何で泣くんだよ!?」


 ジャミルが慌てて


「はい。時間を稼いでくれた御陰で助かりました」


 と、鬼畜まで柄になく慌て出した。


 いい歳した大人なんだから泣いてはダメ。

 わかってる。わかってるけれど。


 今まではどこかこの世界の出来事は物語の事で。

 自分とは関係ないものだと他人事で見ていた部分がある。


 でも今。騎士団長が近づいてきたとき。

 急にこの世界が現実になった。

 死ぬかもしれない恐怖。


 マルクが剣をつきつけた時だってどうせ本気ではないと思っていたから何ともなかったのに。

 今になって急に怖い。


 騎士団長が近寄って来たとき。

 物語の世界が急に現実になった気がした。


 そう私は物語を読んでるんじゃない。

 物語の一員なのだと。


 身体が震える。涙が溢れて止められない。


「リンゼ?」

「おい、大丈夫か?」


「怖かったあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 私は不安をまき散らすかのように思わず大声で叫ぶのだった。

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