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宝くじで40億当たったんだけど異世界に移住する  作者: すずの木くろ


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86話:資源調査

「このくらいの速さで行きますか?」


「はい……この程度なら……いけそうです」


 乾いた大地を遠目に見える山に向かって猛然と走りながら、バレッタとロズルーは言葉を交わす。

 100メートル走世界記録の平均時速を若干上回る速度で走っている2人だが、特に無理をしているといった様子は見られない。


 普段あまり走り慣れていないバレッタはペースと呼吸を乱さないように注意しながら走っているが、ロズルーはまだまだ余裕がありそうだ。


「そういえば、以前山に行った時に放置されている坑道を見つけたことがあるんですよ。もしかしたら、その周囲にも先ほど見た写真の鉱石があるかもしれないですね」


「坑道……ですか?」


 普段と変わらない様子でスラスラと話すロズルーに対し、バレッタは呼吸を気にして途切れがちに返事をした。


「ええ、恐らくだいぶ昔に掘られた物かと……あ、無理して返事しなくていいですよ。聞き流してもらっていいですから」


 ロズルーの言葉にバレッタは頷くと、真っ直ぐ前を見て走ることに集中した。

 普通に黙って走っている分には問題ないのだが、話しながらこの速度を維持するとなると、途端に難易度が急上昇する。

 話す余裕が全くないというわけではないのだが、ロズルーのようにスラスラと話しながら山に到着するまで走るというのは、今のバレッタにはかなり厳しい。

 最初の数分はよくても、その内呼吸が乱れて一気に体力を消耗してしまうはずだ。


「鉱脈を掘りつくして放棄された坑道だと思うんですが、その周囲には捨てられた石が山積みになっていたんですよ。写真に載っていた赤い石があったかは覚えていませんが、一度寄ってみる価値はありそうですね」


 バレッタは呼吸を乱さないように慎重に走りながらも、ロズルーからもたらされた情報に歓喜していた。

 すでに採掘を終えた坑道からゴミとして出た岩石の中には、もしかしたら鉄鉱石もいくらか混じっているかもしれない。

 もし鉄鉱石がまとめて捨てられているような場所が見つかれば、わざわざ採掘作業を行わなくても簡単に鉄鉱石を手に入れることができるはずだ。


「で、その坑道を見つけた時に大雨に降られましてね。雨宿りをしようと思って中に入ったんですが、中はコウモリの大群の巣になっていたんですよ。足元はコウモリの糞が山ほど積もっているし、かといって外に出れば雨でずぶ濡れになるしで……結局、足を糞まみれにしながら雨が上がるまで坑道内で立ちっぱなしでした。あれは辛かったなあ」


 しみじみと言うロズルーの思い出話に、バレッタは思わずくすりと笑みを漏らした。

 そうしてペラペラと話すロズルーの思い出話をちょこちょこ聞きながら走ること1時間。

 途中1度も休憩を挟まずに、2人は山のふもとの開けた原っぱに到着した。

 この山はイステリアの北西にある山岳地帯の一部であり、グリセア村の北に位置する山だ。


 2人の前にはうっそうと木々が茂る雑木林が広がっている。

 あまりにも木や草が生い茂っているため、雑木林の先がどうなっているのかこの場所からはうかがい知ることができない。


「ふう。ようやく着きましたね……大丈夫ですか?」


 膝に両手をついて息を切らせているバレッタに、ロズルーは心配そうに声をかける。


「はあっ、はあっ……だ、大丈夫、です……少し、休めば……」


 バレッタは荒い息を吐きながら、鼻先と顎からぽたぽたと汗をたらしている。

 それに引き換え、ロズルーは額に汗を浮かべて多少呼吸が速くなってはいるものの、バレッタのように大きく息を乱したり大汗をかいたりはしていない。

 身体能力の強化だけでは補えない基礎体力の差が、ここにきて如実に現れていた。


 ロズルーに座って休むように勧められ、バレッタはその場に座り込んで持参した布タオルで汗を拭きながら身体を休めた。

 その間にロズルーはひょいひょいと木々の生い茂る山の中に入っていくと、すぐに大人の腕ほどの太さの枝を一本持って戻ってきた。

 その枝は鉈で切り落としてきたらしく、斜めに切断された断面は綺麗な楕円形になっている。

 枝の断面からは、ぽたぽたと水が零れ落ちていた。


「はい、バレッタさん。この枝を傾けると水が出てきますよ。あんまり飲みすぎるとお腹を下すことがあるんで……って、今の私たちならいくら飲んでも平気かもしれませんけどね」


「あ、ありがとうございます……」


 バレッタはロズルーから枝を受け取ると、切り口を口に添えて枝を上に傾けた。

 それと同時に、枝の中から沢山の水が一気に溢れ出てきた。

 少し渋いような変わった味がするが、飲用としては全く問題ないようだ。


 バレッタはごくごくと喉を鳴らして水を飲むと、枝をロズルーに差し出した。


「ふう……生き返りました。ロズルーさんも飲みますか?」


「ん……いや、私は平気ですよ。それに、それを受け取ったらカズラ様に怒られてしまいますし」


「え? ……あ……う……」


 自分が口をつけた枝を渡そうとしていたことに気づき、バレッタはロズルーの台詞もあって顔を赤くしてうつむいた。

 ロズルーはそんなバレッタに声を上げて笑うと、再び山へと入っていった。


 そのまま待つこと5分。

 すっかり体力が回復したバレッタが、立ち上がって服に付いた葉や砂を払い落としていると、山の中からロズルーが戻ってきた。

 背のズタ袋が少し膨れていることから、山で何かを採ってきたらしい。


「ロズルーさん、もう大丈夫です。鉱石を探しに行きましょう」


「わかりました。では、まずは河原に行きましょうか」


 バレッタの言葉にロズルーは頷くと、背中から鉈を抜いて再び木々の間へと入っていく。

 時々鉈を振るって行く手を阻むツタを切り落としていくロズルーの邪魔にならないよう、バレッタは少し離れて後を追いかけた。


「さっきは何を採ってきたんですか? 袋に何か入っているみたいですけど」


の枝を採ってきたんです。最近家の引き戸の滑りが悪くなってしまって、妻に頼まれていたんですよ」


 ロズルーの言っている砥の粉の枝とは、白い粉をふく表面の滑らかな木の枝のことである。

 長年使っていて滑りが悪くなってしまった扉の敷居にこの粉を塗ると、一気に滑りがよくなるのだ。

 蝋を塗るよりもはるかに効果的なので、この枝を持って帰ると大変重宝する。

 枝は地面に突き刺しておけばしばらくの間は粉を出し続けるので、村のみんなで使うことができるだろう。


「あ、私も使わせてもらいたいです。納屋の戸の滑りが最近悪くて……」


「じゃあ、村に戻ったら何本か渡しますね。沢山採ってきたんで、村のみんなにも分けてまわろうと思っていたんです」


 そんな話をしながら山中を歩くこと20分。

 身体能力の高さを利用して、2人はかなり強引に山中を分け入りながら、ほぼ直線で移動して目的の河原に到着した。

 河原は雨季の大雨や鉄砲水で地面の土が洗い流されるためか、地面のほとんどは岩盤がむき出しだった。

 河原の両脇にそびえ立つ崖沿いには、大小さまざまな岩が掃き溜められたかのように重なり合っている場所もある。


「わあ、綺麗なところですね!」


 目の前に広がる美しい光景に、バレッタは瞳を輝かせて感嘆の声を上げた。


 河原は大部分が石畳で、両脇にそびえ立つ崖と石畳の間には、この先の山からつながる太い川が1本流れている。

 さらさらと流れる水の音と、森からこだまする鳥の声や木々のせせらぎが、実にすがすがしい雰囲気を醸し出していた。


「でしょう? 山に狩りに来たときは、この場所で焚き火をして夜を明かすんです。その辺にちょうどいい大きさの甌穴おうけつがいくつもあるので水浴びもできますし、たまに甌穴の中にいる魚も取れるんですよ。私のお気に入りの場所です」


 ロズルーが指差す方向にバレッタが進むと、ちょうど腰ほどの深さの穴が川にくっついた形で空いていた。

 穴の幅は3メートルほどもあり、川の水がゆるやかに穴の中に流れ込んでいる。

 常に水が入れ替わっているためか、水はとても澄んでいて穴の底まで透き通って見えた。

 穴の中の岩肌はとても滑らかで、これならば中に入っても岩で肌を傷つけることはなさそうだ。


 ちなみに、甌穴とは、長い年月をかけて水流によって岩に空けられた穴のことである。


「水が澄んでいて気持ち良さそうですね……あ、結構冷たい」


 バレッタは穴の傍でしゃがみ込むと、そっと水に手をつけてみた。

 山から流れてくる雪解け水はひんやりと冷たく、山中を歩いて火照った肌に気持ちいい。

 水源である山頂に近い分、グリセア村の近くを流れる川よりも若干水温が低いようだ。 


「それで、さっき見せてもらった写真の石もこの辺でよく見かけるんですよ。ほら、あそこに」


 ロズルーの言葉にバレッタは顔を上げ、ロズルーの視線を追う。


「あ、ほんとだ。赤い石がありますね」


 崖のそばにごっちゃりと積み重なっている岩の中には、赤く変色した赤鉄鉱せきてっこうと思われる鉄鉱石が混じっているのが見てとれた。

 バレッタは立ち上がると、その鉱石の元へと石畳の上を駆けていく。


 足を滑らせないように気をつけながら石畳の上を走り、大量に積み重なっている岩のそばにたどり着く。

 バレッタはその場にしゃがみこんでズタ袋から本を取り出すと、しおりを挟んでおいたページを開いた。

 本に載っているカラー写真と目の前にある鉱石の色を見比べてみる。

 表面の具合や色からして、どうやら赤鉄鉱で間違いないようだ。


「どうです? その石で大丈夫そうですか?」


「はい、これが鉄鉱石で間違いなさそうです。結構ありますね」


 大量の岩の中には、赤鉄鉱だけではなく磁鉄鉱じてっこうも混じっているように見えた。

 ざっとみただけでもかなりの量が見て取れるので、これらの岩をきちんと選別すれば、かなりの量の鉄鉱石を手に入れることができるだろう。


「ロズルーさん、この川って、村のそばに流れている川と同じ川ですか?」


「同じ川ですよ。途中で何本か別の川が合流したり別れたりしますけどね」


 ロズルーの説明に、バレッタは嬉しそうに頷いた。

 村の近くの川にまでこの川が繋がっているのなら、ここで入手した鉱石はいかだを使って村まで楽に輸送することができる。


 筏の材料となる木材は周囲の山からいくらでも取れる上に、川を下った後の筏は乾燥させた後で村で使う薪にしてしまえば無駄も出ない。

 この場所に来るのに少し手間がかかることが難点だが、これだけ山深い場所ならば、他の人間の邪魔が入ることもないだろう。

 その上、当分の間は採掘作業をしなくてもよいとあっては、まさに至れり尽くせりの理想的な立地だった。


 製鉄に使う木炭は、この場所か村のどちらかに炭焼き小屋を建設してしまえば補えるだろう。

 村の周辺でも木材は沢山手に入るので、燃料の心配はしなくて済みそうだ。

 炭焼きの知識や製鉄に用いる炉の作り方は、全て一良が持ってきてくれた専門書や民族史に詳しく記載されている。

 先人の知恵をまるごと拝借できるので、大きな失敗もせずに作業を進めることができるだろう。


「放棄された坑道の方にも行ってみますか?」


「はい、せっかくなのでそちらも見ておきたいです。どこにどれだけ鉱石があるのか、知っておきたいので」


 バレッタは本をズタ袋にしまって立ち上がると、河原の周囲を見渡した。

 すると、ふと目に付いた崖の壁面が赤と黒の縞模様になっていることに気がついた。


「どうしました?」


 壁面を見て動きを止めたバレッタに、ロズルーが小首を傾げて声をかける。

 バレッタは慌てた様子でズタ袋を再び開くと、中から本を取り出してぱらぱらとめくった。

 そして、目的のカラー写真を見つけると、今しがた見た崖へともう一度目を向ける。


「……縞状しまじょう……鉄鉱床てっこうしょう……」


 そうつぶやき、崖の壁面を目で追って川の上流へと視線を向ける。

 崖の壁面にみられる縞模様は、延々と途切れることなく続いているようだ。


 バレッタが反対側の崖へと目を向けると、そこにも同じような縞模様が壁面に描かれていた。


「え……じゃあ、これ全部……」


 呆然とつぶやくバレッタが持つ本のページには、この河原の崖の壁面と同様の模様の写真が載っていた。

 バレッタの目にしているものは、一般的に縞状鉄鉱床と呼ばれる鉄鉱脈の地層の断面だ。

 この場所こそ、鉄鉱石の大鉱脈だったのだ。




 その後、バレッタとロズルーは再び山登りを再開し、昔ロズルーが見つけたという放棄された坑道へとやってきていた。

 この坑道は、先ほどの河原の上流に位置している。

 川に沿って30分ほど上流に登った場所から、100メートルほど離れた場所に掘られていた。


 坑道の入り口は草木でうっそうとしており、中は真っ暗で不気味な雰囲気が漂っている。

 入り口は木材で補強がされているのだが、かなり長い期間放置されていたように見え、そのほとんどがぼろぼろに腐ってしまっていた。

 まるで亡霊でも出そうな酷い有様だ。


「ここがその坑道です。以前来たときは、入ってすぐのところにもコウモリの糞が積もっていたので、中には入らないほうがいいですよ」


「真っ暗で何も見えないですね……」


 バレッタは坑道の入り口に手をかけて中を覗いてみるが、中は真っ暗で何も見えない。

 坑道内の壁面に何かの鉱脈でも見つけられないかと考えていたが、無理して進んで怪我でもしたら大変なので、今日のところは入らないでおいたほうがいいだろう。


「捨てられた石も相変わらずそのままですね。これはかなりの量があるなあ」


 ロズルーが見ている方向にバレッタが目を向けると、そこには大量の岩石が山積みになっていた。

 風雨で運ばれてきた土が石の隙間には詰まっており、そこから草やツタがにょろにょろと伸びている。

 多少手間はかかるが、表面の草やツタを引き剥がしてしまえば、鉱石を掘り出すことができるだろう。


 バレッタは岩石の山に歩み寄ると、表面に見える岩石を観察してみた。


「あ、褐鉄鉱かってっこうだ。少しですけどありますね」


 それらの石の中には、褐鉄鉱と思われる浅黒い黄色の鉄鉱石がごく少量ながら混じっていた。

 捨てられた岩石に混じっているということは、坑道の中を探してみれば鉱脈が見つかるかもしれない。


 バレッタはもう一度坑道の入り口に戻ると、入り口の壁面に手をかけて中の壁を覗いてみた。

 だが、入り口に近い壁には特に鉱脈は見られず、ごく普通の岩肌である。

 その場にしゃがみこみ、近くに落ちていた木の枝で地面を少し払ってみる。

 すると、コウモリの糞と思われるこげ茶色のものが枝の動きに合わせてぱらぱらと散った。


「……あっ」


「村に戻ったら革靴を作りましょうか。入り口付近はまだ大したことはないんですが、少し入るとコウモリの糞で大変なことになっていますよ。この草履のままで中に入るのは、ちょっと勘弁願いたいですね」


 払った地面をじっと見つめていたバレッタだったが、ロズルーの言葉に頷くとすぐに立ち上がった。

 今すぐ坑道を調べないといけないわけでもないので、続きはまた後日ということにしたほうがよさそうだ。


 バレッタが枝で払った地面の隙間からは、薄っすらと白いものが顔を覗かせていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 鉄に火薬の材料が揃ってしまいました
[気になる点] 白いものって…ミスリルかな?
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