104・シャザクの家の赤ちゃん 第317話 もう生まれてた
カルをベビーカーに乗せ、シャザクの家まで挨拶に行く。
今日はリップルも歩く気分らしく、ついてきた。
コゲタは冒険者ギルドで、アゲパンが何故かついていっている。
冒険者でもないのに何をするつもりなのだ。
さて、ここは貴族街。
シャザクとは最近没交渉だったが、子どもが許嫁同士である。
何をしてるかなー、という様子見なのだ。
「ばうば、だうだうだー」
「おっ、カルが赤ちゃん語絶好調だな」
「最近ずっとお喋りしてるからねえ。だが言葉の中身はさっぱりだ」
「心を読む魔法とか使わないの?」
「そんなものを作ってしまったら、育児の醍醐味が失われてしまうじゃないか……! この百年ぶりのままならなさが楽しい……」
「楽しんでたのか!!」
どうやらリップルにとって、育児は最高の趣味らしい。
道理で、カルとべったりな時は何か話しかけたり、ゆらゆら動かしていると思った。
「カルは寝返りをマスターした」
「なにっ! もうか」
「私が特訓しているからな。同じ年頃の赤ちゃんと比べても、身体能力は高いはずだ。私と君の子だからな。いろいろな点で常識離れしていて然るべきだろう」
「別に意識的に卓越した人を作らなくてもいいのではないか……?」
「何を言うんだ。今後、アーランは平和になる。そうなったら個人能力の時代だぞ。地位と能力が高ければ怖いものが無くなる。そのためにはカルをきちんと育てねばな……」
「リップルが教育ママになってしまった!」
「カルを産んでから、冒険者ギルドに行って前みたいに安楽椅子冒険者をやってもみたが……満たされない。こうね、自分の命を受け継ぐ存在が生まれたということはそれくらい大きなことなんだ。うおー、私はカルのために生きるぞー!」
「ハーフエルフの寿命的に、カルの方が先におじいさんになるのではないか」
「ところが、ギフトを得た人間の老化はかなり遅くなるらしい……」
「なんだって」
そんな話をしながら、シャザクの家の前についた。
今日も今日とて、庭師が庭木をチョキチョキやっている。
「うおーい」
僕が呼びかけると、庭師がハッとした。
「この無遠慮な呼びかけは……美食伯! ちょっとまっててください」
庭師がバタバタと家の中に駆け込んでいった。
「奥様ー! 奥様ー!」
少しして、エリィが出てくる。
すっかり体型も務めていた頃のものに戻っており、かなり体を絞ったのだなあと分る。
リップルはちょっとふっくらしたままだと言うのに。
「今、私に関して何か失礼な事を考えた?」
「やっぱり心を読む魔法を使ってるんじゃないのか!?」
「門の前で喧嘩しないで! さあどうぞ、美食伯と美食伯夫人。そしてご令息」
「だう」
何やら、鷹揚に返事をするカルなのだった。
「それにしても、貴族がお供も連れずに夫婦で歩いてやってくるなんて前代未聞だわ。いえ、美食伯はいつもそうだったけど」
「歩くのは健康にいいからね。最近はランニングしながら訪ねるようにしてる」
「走ってる貴族なんか見たこともないわ! あ、いえ、主人も普通に走るわね……」
案内された先では、シャザクとエリィの子がすやすや寝ていた。
まだちっちゃいちっちゃい、赤ちゃんである。
女の子だな。
パッと見はよく分からんけど。
「ご安心なさって? 女の子です。リップル様の性別判断魔法は正確でしたわ」
「ギルドにいた頃みたいに、もっとざっくばらんに話してくれてもいいんだけど。私はエリィに他人行儀にされると、こう、ムズムズしてくるなあ」
「じゃあ素の喋りに戻すけど、リップルは一応、伯爵夫人扱いなのよ? なんでずっと砕けた口調で喋ってるのよー」
「これが私だからね!」
「うちの奥さんは美食伯夫人である以前に英雄だからな。何もかも不問になる」
「強い……」
エリィは呻いた後、ちょっと先輩のママであるリップルにいろいろな質問を始めるのだった。
シャザク家のお嬢さんは、名をセーラと言う。
シャザクの髪色に似て、褐色に近いブロンドの真っ白な肌の赤ちゃんだ。
この子が母乳の飲みがイマイチだと言う。
そのせいで、あまり大きくなってないらしいのだ。
これがエリィの悩みらしい。
この世界、乳幼児死亡率は高いからな。
それはもう心配だろう。
金と人員を割ける貴族なら、乳幼児の死亡はそれなりに防ぐことが可能だ。
「どれどれ?」
ちょうどセーラが目覚めたところだったので、リップルが抱っこした。
セーラがほわほわ泣き出す。
ふむ……。
カルと比べるとパワーが足りないな。
「どーれ」
ここで実際に母乳をあげる辺りがリップルである。
おっ、飲むじゃないか。
「あれっ、飲んでる!?」
「いい飲みっぷりだ。これはどうやら……姿勢が原因だね。いつもはどういう風に抱っこして飲ませているんだい?」
リップルの安楽椅子冒険者としてのスキルが炸裂しているぞ!
エリィの抱っこの姿勢が、セーラの好みとマッチしていなかったのが原因だったらしい。
なるほど、ちょっとしたところに解決方法はあるものなのだ。
僕はうんうんと頷き、ごくごく母乳を飲むセーラを眺めるのだった。
ちなみにカルはポカーンと口を開け、母親が別の赤ちゃんに授乳するのを見つめていた。
嫉妬とか独占欲とか無いっぽいな。
もうちょっと執着心を見せてもいいんだぞ?




