第232話 ついに出航だ!
船で一泊したのだった。
歓迎会みたいなのが開かれ、大いに食べて飲んだ。
なんかリップルがものすごくモテてた。
「船乗りは基本的に航海中は女日照りですからね。身の安全のために異性は乗せないというのが鉄則なんです」
ダイフク氏が説明してくれる。
なるほどなあ。
「では今回リップルを乗せてくれたのは?」
「慈愛神側から男たちの無聊を慰めるグッズが提供されまして。更に休んでいる期間に、船乗りのうちの数人が創作に目覚め、慈愛神の神殿で特訓を受けまして」
「ほうほう。ろくでもない事になってる予感がしてきたぞ」
「船乗りたちのリビドーを解消できる絵や物語を創作できるようにですね」
「うおお自家発電」
感心してしまった。
船乗りたちからリビドーを聞き、創作に励むのだそうだ。
そして創作している間、彼らは労務から解放される。
何よりも尊い、男たちの無聊を慰めるという任務をこなしているからである!!
船乗りが進化している。
もちろん、陸についたらそこで営業しているお姉さんと一晩遊べるお店に突撃するのだが。
自分で消化しておけるに越したことはないのである。
あと、リップルに手を出そうとすると死ぬからな。
船乗りが減るのはいけない。
「ナザルー、助けてくれー」
おお、男たちに囲まれたリップルが救援を要請してきた!
これは凄い。
男たちのリビドーはアーラン最強の魔法使いをも窮地に追い込むほどなのだ。
これは助けに行かねば。
「はいはい皆さん、すみませんねすみませんね。リップルを回収しますからね」
僕がやってきたので、船乗りたちが大人しくなった。
なんだなんだ。
ブーイングくらいしないのか。
「船乗りは勇者を尊敬するもんだ。ナザルさん、あんたはそれだけのすごい男だってみんな分かってる。だから、女を独り占めしたって誰も文句を言わねえ……」
船主にそんな事を言われて、なるほどなあと頷く僕なのだった。
ちなみに、コゲタは別の意味で人気だった。
みんなちょっとずつ撫でたり肉球を触りに来る。
船の上では、カワイイものもモテるんだなあ。
こうして僕らは部屋に戻り、爆睡。
船の揺れがちょうどいい感じで、よく眠れた。
ついに朝となる。
ガンガンと金属の板を叩く音がする。
「ううーんむにゃむにゃ」
リップルはまだ寝ているではないか。
堂々たるものだ。
コゲタはパッと目覚めて、
「ご主人!! なんかおふねでそう! うごいてる!」
と言うのである。
なんだってー!!
僕はコゲタを連れて外に飛び出した。
甲板を登っていくと、船乗りたちがせっせと作業をしている。
「あっ、ナザルさん! コゲタちゃん! おはようございます!」
「おはようございます」
「おはよー!」
コゲタはちゃん付けだな。
すっかり船のアイドルみたいになってしまった。
船はゆっくりと港を離れていくところだ。
別に別れを告げるとかそういうのしないんだな。
ダイフク氏がトコトコやってきた。
「これ、例の南の島に行ってすぐ帰って来ますんで、ちょっと出かけるくらいの感じなんですぞ」
「そうだったのか。だから別に見送りもいないし、早朝にわざわざ出ていくわけね」
「サクッと終わらせる予定なんで」
まあ、早めにやってくれたほうが僕としても助かる。
こうして、海の旅は始まるのだった。
昼近くになってリップルが起きてきた。
寝癖がついている。
「ああ、よく寝た……。あ、そうだ。飲み水補給しとく?」
彼女が魔法で真水を出し始めると、船乗りたちがどよめいた。
アーラン一の魔法使いだからね。
これくらいのことは造作もない。
あっという間に、リップルは船の女神様みたいな地位に祭り上げられてしまった。
食事時だというので、厨房係の人が水をもらいにやって来る。
リップルが大きな桶に真水をたっぷり作る。
ワーッと沸く甲板。
そしてシチューっぽいものが完成して持ってこられた。
魚のシチューだ。
ちょっと生臭さは残ってるが、まあ普通に食べられる。
アーランの食事があまりに美味すぎただけである。
で……。
船乗りたちから、
「あれ? あんまり美味くなくね?」「これ、アーランにつくまえはご馳走だったよな?」「なんていうかよ、塩味と下味が足りない……」
船乗りたちが、長いアーラン生活の中で舌が肥えてしまっている!!
これはいいのか……?
なお、レトリバーのコボルドであるマキシフは文句など言わず、コゲタと一緒に樽に腰掛けて黙々とシチューを食べるのだった。
人間が出来ている。
マキシフはコゲタに、「おいしい?」と尋ね。
コゲタは、「おいしい!」と答えるのだった。
これを聞いた船乗りたちは、雷に打たれたような顔になった。
「俺たちは……何を贅沢を言っていたんだ……!!」「そうだそうだ。コゲタちゃんが美味しいって言ってるんだ」「これは優しい味ってことだよな」「そうそう」「満足できないなら、俺等が厨房係になってあの美食を再現すればいいんだ」
気付いたようだな……。
誰もが美食を生み出すことができるのだ!
僕は彼らに向かって立ち上がり、微笑んだ。
「手を貸そう。船の限られた食材で、美味しいものを作るぞ!」
「えっ、美食の伝道師が俺達に手を貸して!?」「知識神の使徒の実力が見られるぞ!」「油の貴公子、どんなすごい料理を作るんだ……!」
僕の二つ名、増えてないか?
そうして生まれたのは、味をバターで調整した濃厚なシチュー。
船乗りたちには大好評だった。
油だよ。
全ては美味い油が解決するのだ!!
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